第9話 ロックビースト
岩のような表皮が特徴的な四足獣、岩石魔獣『ロックビースト』。見た目は岩で出来たブラキオサウルスって感じだ。
数百年前に大陸で暴れ回ったその魔獣は、大陸を襲った大寒波の影響で絶滅し姿を消した。
しかし今でも寒波から逃れるために地中で休眠していたものが時たま目を覚まし、地上で暴れる事件が起きるとデス爺に教えてもらったことがある。
目の前のこいつもきっと地震の影響で目を覚ましてしまったんだろう。
『グルルルルァ!』
山が揺れる程の咆哮を放つロックビースト。
すごい迫力だ、さすがモンスターの中でもかなり上位に当たるAランクに格付けされてるだけはある。
「術式展開、天舞う光刃!」
五本の光の剣を出し、ロックビーストめがけ射出する。
頑強な岩も切り裂くことの出来る天舞う光刃。当然ロックビーストのことも斬り裂けると思ったのだけど、表面を薄く斬るだけで突き刺さりはしなかった。
「硬い……!」
想像以上の硬さに驚く。
だがこの程度で諦めたりしない、この硬い装甲を突破するには……あれをそうして、これをそうして……
頭の中で術式を構築する。今まで考えた術式を組み替え、追加し、いらない要素を除外する。
だがロックビーストはそれを許さなかった。
『ガアッ!』
俺目掛けてロックビーストは太い腕を振るう。
ものすごい速さだ、とても避けられない。急いで守護者を展開しようとするが間に合わない。
「しまっ……!」
油断した。
いや、過信か。こっちの世界に来て、たくさんの人に甘やかされて自分のことを過信してたんだ。いくら強くなっても俺は所詮ひとりの人間に過ぎない。
そんな事を忘れていた。
ごめん、みんな。俺はここで――――
「させま……せんっ!」
剣を抜き放ったシルヴィアがロックビーストの腕を斬り裂く。そのおかげでロックビーストの腕の勢いを僅かに弱めることに成功したが、代償として剣を折ってしまう。
だけど彼女の心はまだ折れてなかった。
「まだ、まだ――――ッ!」
なんとシルヴィアはロックビーストの腕にしがみつき、足を地面に突き刺すことでその勢いを止めてみせた。当然そんなことをすれば体はボロボロになる。身体中にすり傷と切り傷を負い、見るからに満身創痍だ。
痛いだろう、苦しいだろう。
しかし彼女はそんな感情を出すどころか、いつものように柔らかい笑みを浮かべながら俺を見て、言う。
「あなたに仕えることができて幸せでした。ご達者で」
そう言ってシルヴィアはロックビーストの腕を掴んだまま、近くにあった岩の切れ目に飛び込み……消えていった。
「あいつ……!」
俺なんかを救うために犠牲になるなんて。
俺がもっとしっかりしてればこんなことにはならなかったのに……!
「逃げようアルデウス! 勝てないよあんな怪物!」
ビスケが泣きそうな顔で俺の袖を掴む。
怖いよな。わかるよ。
……でも、ここで引くわけにはいかない。シルヴィアは俺の大事な家族なんだから。
「考えろ、考えるんだ……」
今ここで切れ目に飛び込んでもロックビーストには勝てない。
だったら考えろ、あいつに対抗する牙を。
いくつもの案を出しては却下したその先で、俺はひとつの方法に辿り着くのだった。
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