1話 セカンドライフの始まり
そよ風が吹き草原が揺れる国「セルバ国」、その城で城主であり国王に一人の女性エルフが謁見をしていた。
「―ラートリーよ、騎士団長ラートリーよ……」
馬の尻尾のように長く蓄えた白いひげを擦りながら目の前のエルフを見据える。
「はっラートリー・エールここに」
答えた女性は美しい黄金色の髪を靡かせ膝まつき胸に手を当てる。
「あぁラートリーいつどんな時もそなたは美しい、私が生まれてからずっとだ」
「国王様もったいないお言葉を国王様もご立派になられて、初めてその王冠を被ったあの日……昨日のことのように感じます」
ほっほっほっと国王が朗らかに笑いつつひげを擦る、彼女もその姿を見てふふっと微笑んだ。
少し落ち着いた後国王がゆっくりと口を開く。
「200年お前が騎士団長になってからそれだけの時間がたった……もう十分ではないか?」
「いえ私は―」
彼女がその先を言おうとしたその時国王がゆっくりと立ち上がる、ラートリーはそのまま国王に近づき手を取り歩き出す。
「ラートリー良いのだ其方は十分に使命を全うした、この先は自分の好きなように生きるといい」
「……私には今の生き方しかわかりません、この国のために生きこの国のために死ぬただそれだけだと」
「ほほっやはり其方は戦いに生きる女なのかもしれぬな、だがそれに身を捨ててしまうのには其方は些か若すぎる」
「国王様……」
そのまま玉座の間を離れ王都が一望できる中庭へと出た。
「ラトーリーこの王都も十分に広いが世界はもっと広い、それに其方は言っていたではないか『偶には旅がしたい』と」
「あ、あれはそういうことではなくてですね!?」
慌てるラートリーを尻目にほっほっほっと笑い飛ばし国王は彼女の方に向き直る。
「ラートリー・エール騎士団長よ今この場で騎士団長の任を解き”エンド・ストーム”の称号を授ける!」
意気揚々と輝かしい勲章を取り出しラートリーに手渡した、彼女はその勲章を見て複雑な表情をしている。
「国王その何と言ったらいいのか、でも私はまだその……騎士団長を辞めるとは」
「ラートリー君は十分にいや十分すぎるほどこの国のために働いてくれた、危機を幾度となく救い迫る敵をなぎ倒し巨大な魔物の討伐まで!……そろそろ君は自分のための人生を歩んでもらいたい、国王であり親友である私のお願い聞いてもらえないかの?」
国王の瞳を見てラートリーは動揺し理解した、国王の思いは本気であると。
「わ、私は……う……」
国王はじっとこちらを見てくるこれは―
「……わかりました貴方のお願いならば」
断れない、そう観念して彼女は勲章を受け取った。
「ほほほ!これで受け取ってもらえなかったらどうしようかと!」
「光栄です国王閣下……」
「生活については私からもできる限りの援助をしよう隊長、私のお願いを聞いてくれて本当にありがとう」
「あの半ば強制だったような気がするんですが……」
「ホホホ!一生に一度のお願いというやつじゃ!ホホホ!」
こうして騎士団長ラートリー・エールは第二の人生を始めることになった、とんでもない人生になることもしらずに。
・ ・ ・
騎士団長を解任になった次の日ラートリーは自分の屋敷にいた、今まで一日中戦っているか自分の執務室にいるかのどちらかだった、褒賞として貰った屋敷に一度も帰ったこともない今日初めてここで寝泊まりしたのだ。
(確かに昔旅がしたいと言ったが……どうしたものか)
何年も前に自分の言葉を思い返す、ただ今はソファーに座ってただ外を見ている。
(……こんな所でぼっとしている場合じゃないな、とにかく今は外の空気でも吸いに行こう)
ソファーから立ち上がり上着を手に取り玄関を開ける、豪華な建物が立ち並ぶ貴族街の景色が広がっていた。
「いつもここは無駄に奇麗だな」
一言つぶやき道沿いにおいてあるポストを開け中身を取り出す。
(……騎士団を辞めたことは広まっているようだなやたら勧誘のチラシが多い、騎士団に届けさせていたころは一回も無かったのに)
一枚一枚めくり全部見終わると全部まとめて丸めて火の魔法で燃やしてしまった。
(はぁ興味ないものばかりだな中に戻るか)
そう思い屋敷に戻ろうとするとポストから取りそこなった紙が一枚落ちてきた。
「これは……冒険者の集い?聞いたことがないな、何々……”未知の領域に踏み出そう!””依頼をこなして一儲け!””戦闘経験ありのかた大歓迎!”……ふむ未知の領域か……」
チラシに書かれている言葉に興味を惹かれる、建物はここからそう遠くないようだ。
「とりあえず行ってみよう何もしないよりかはマシだな」
チラシを握りしめ冒険者の集いへと歩き出した。
・ ・ ・
「ここが冒険者の集いか立派な建物だな」
建物のドアを開けると中は活気があり人で溢れているその中をかき分けなんとか受付のところまでたどり着いた、カウンターの中で女性がせわしく書類を書いている。
「これは終わり、これは提出してもらわないと他にはこれと……」
「あのすまないいいだろうか?」
「ほあっ!?あぁすみません集中して気づきませんでしたって騎士団長さん?」
受付嬢の言葉を聞いて集会場内がどよめくラートリーはそれを気にすることなく話を続ける。
「元だがな」
「そうですか……やっぱりあの話本当だったんですね騎士団を辞めたって、それで今日はどのような要件ですか?」
「そうだな軽くここの事を教えて欲しい」
「はい!ではご説明します!」
ぱっと表情が明るくなった受付嬢は書類を取り出し意気揚々と語りだす。
「冒険者の集いは王都などからの依頼をこなすのが主な業務になっています、猫探しから人類未踏の秘境の調査まで!騎士団に頼みにくいことやそこまで大事では無い依頼が大半ですね」
「秘境の調査は大事ではないのか?」
「なんでも学者の人たちが『騎士団はやり方が手荒で秘境調査なんかやらせたら遺物が壊される!』との事です」
「……否定はできないな」
気まずそうに顔をそらす、受付嬢はそれを見て「すみません」と一言いい書類をめくる。
「概要はこんな所ですね、それで他には?」
「誰でも集いに参加できるのか?」
「はい、実技試験をパスできれば誰でも参加できます、それと少々の書類を書いて貰います」
そうかと一言つぶやきラートリーは少し考え込み受付に向き直る。
「私も参加しよう」
「わかりました、それではこちらに……えっ?参加?」
受付嬢の言葉を聞いて集会場内に衝撃が走る。
「あぁ騎士団を辞めた今でも戦いがしたいそれと秘境探査も、参加できるか?」
「え、えぇ!もちろん!元騎士団長が参加したとなればうちの評判も鰻登りです!それでは実技試験を始めます、そちらの扉からどうぞ!」
受付嬢が案内したドアを開ける、集会場内はあの騎士団長が冒険者の集いに参加する事で大盛り上がりだ。
・ ・ ・
ドアの先は様々な器具が置いてある訓練場になっており、少し開けた場所に試験官と思われる男が立っている。
「貴方が試験官か?私は―」
「ラートリー・エール!君のことを知らない王都民なんかいないだろう!試験官のタギだ早速始めようそこの棚から好きな武器を選んでくれ」
棚には木製の様々な武器が並んでいた。ラートリーはその中から長剣とナイフを数本取る。
「これが一番慣れている試験内容は?」
「うーむそれがないつもは私が課題を出すのだがどの課題も君には楽勝すぎるだろう!なので特別難しいのを今即興で出そうとしたのだが……全く思いつかぬ!ワハハハハ!……うーむ」
タギがまた考え込むと集会所の扉が勢いよく開きそこから冒険者たちがぞろぞろと入ってくる。
「試験官彼らは?」
「あぁ見学者だ別に珍しい事じゃない、試験を見てはいけないって規則はないしどんな新人なのか見定める奴もいるただこの量は……初めて見るなワハハハ!……はっ!思いついたぞ試験内容!おーい皆ー!」
二人を囲んでいる数十名の冒険者たちに向かってタギは突然呼びかけた、ラートリーはそれを不思議そうな表情で見ている。
「ここにいるのはあの騎士団長ラートリー・エール!百戦錬磨!古今無双!横に並ぶものなし!その彼女が今冒険者の集いに参加すべく実技試験を受けようとしている!そうだな!」
おおー!と歓声が冒険者たちから一斉にあがる。それを見てタギは満足そうに頷き話を続ける。
「それをお前たち見てるだけでいいのか?あの騎士団長だぞ?戦ってみたくはないか?」
「お、おい?」
「全員武器をとれ!訓練用のな!この騎士団長に一太刀浴びせようではないか!」
うおおお!と大歓声が冒険者たちから溢れ返り次々と武器を装備し始める。
「試験官!?」
「ラートリー・エール!君の実技試験を始める!君の実力をいかんなく発揮できる最高の試験だ!」
冒険者たちがラートリーの正面に達武器を構える、それをみてラートリーも武器を構え正面を見据える。
「ここにいる冒険者全員を倒して見せろ!全員かかれ!」
数人の冒険者が突撃してくる、それを長剣で全員殴り倒し集団の中に突っ込んだ!
集団の中で彼女は踊るように冒険者たちを蹴散らしていく!的確に急所を叩き、突き、矢が飛んでくればそれを避けナイフを眉間に投げ返し、自分の武器が折れ使い物にならなくなると拳で殴り飛ばし、魔法を唱える者には奪い取った武器を投げ妨害させ、巨漢に対しては突撃をいなし地面に叩き落として喉を突く!そうして次々となぎ倒していき数分後には─
「……」
両手の埃を叩いて落としているラートリーただ一人だけがそこに立っていた。
「そこまで!流石だな騎士団長!手練れの冒険者もいたのに!」
「試験官結果は?」
軽く呼吸を整えタギに向き直る。
「合格である!まあわかりきっていた事だかな!ワハハハ!」
タギの高笑いを背にラートリーはそのまま集会場に戻っていった。
「ハハハ……木製だよなこの武器……しかもこれだけの人数相手にして汗一つかいていないとは……ハハハ……」
・ ・ ・
集会場に戻ったラートリーはそのまま書類を書き上げ受付嬢へと渡した。
「ふむふむ、はい以上で参加手続きは終了ですお疲れさまでした!明日にでも来ていただければ冒険者手帳を発行いたします」
「あぁこれからよろしく頼む」
「いやぁ皆さん訓練場の方に一斉に行ってしまったので何かと思いましたよ、私も見たかったなぁ」
「見ていて面白いものじゃ無いと思うが……」
「いやーそんなこと無いと思います!」
「そうか?私にはよくわからないな」
「またまた~そういえばラートリーさんはグループを組むんですか?」
「グループ?」
受付嬢の言葉にラートリーは首を傾げる。
「はい冒険者の集いは依頼の成功率を上げるため複数人の冒険者でグループを組むことを推奨しています、親友同士で一生続くグループや1つの依頼を達成するためだけにその場だけで組むグループなど色々あるんです!……まあラートリーさんは組まなくても楽勝ですよ」
そんな事を話していると集会場の入口が開き三人組が入ってきた。
「ただいまー終わったわよー」
「また森を吹っ飛ばす所だったな」
「もうちょっと抑えられないんですか……?」
話をしながら受付に向かって来る三人組をラートリーは見ている、そしてあることに気が付いた。
「……あれは三人ともエルフか?耳の形が私と同じだ」
「はい冒険者の集いだと有名なんですよあの三人組、いい意味でも悪い意味でもですけど」
「ちょっとデカブツ!どいて!」
「おっとすまない」
ラートリーが横に避けると三人組は話始める、依頼の終了報告をしているようだ。
魔女帽子、ウォーハンマー、見慣れない何か……横目で見ていると魔女帽子以外の二人が見ていることに気が付いた。
「あ、あの?何か……?」
「……あぁー!これはこれは騎士団長どの!ページャ式典で見たことあるでしょあの人!」
「え、あ、ホントだでもなんでこんな所に?」
「二人とも何話してるのよ……誰こいつ?」
「騎士団長だよ!われらが騎士団長!」
「へぇ騎士団長、騎士団長ねぇ……」
魔女帽子が少し考え込んだ後ビシッと指さす。
「よし騎士団長明日私達と一緒に来なさい!時間は朝9時!」
「えっ?あ、あぁ……」
「よーし言質取ったからね!」
ウキウキと魔女帽子達が去っていくのをポカンと見届けた。
「あのよろしいんですか?生返事でしたけど」
「あ、あぁあいうのは初めてだったからちょっとな……また明日来るよ」
そうしてラートリーもその場を後にした。
エルフの四人組が暴れだすまでそう遠くはない―そよ風が吹き草原が揺れる国「セルバ国」、その城で城主であり国王に一人の女性エルフが謁見をしていた。
「―ラートリーよ、騎士団長ラートリーよ……」
馬の尻尾のように長く蓄えた白いひげを擦りながら目の前のエルフを見据える。
「はっラートリー・エールここに」
答えた女性は美しい黄金色の髪を靡かせ膝まつき胸に手を当てる。
「あぁラートリーいつどんな時もそなたは美しい、私が生まれてからずっとだ」
「国王様もったいないお言葉を国王様もご立派になられて、初めてその王冠を被ったあの日……昨日のことのように感じます」
ほっほっほっと国王が朗らかに笑いつつひげを擦る、彼女もその姿を見てふふっと微笑んだ。
少し落ち着いた後国王がゆっくりと口を開く。
「200年お前が騎士団長になってからそれだけの時間がたった……もう十分ではないか?」
「いえ私は―」
彼女がその先を言おうとしたその時国王がゆっくりと立ち上がる、ラートリーはそのまま国王に近づき手を取り歩き出す。
「ラートリー良いのだ其方は十分に使命を全うした、この先は自分の好きなように生きるといい」
「……私には今の生き方しかわかりません、この国のために生きこの国のために死ぬただそれだけだと」
「ほほっやはり其方は戦いに生きる女なのかもしれぬな、だがそれに身を捨ててしまうのには其方は些か若すぎる」
「国王様……」
そのまま玉座の間を離れ王都が一望できる中庭へと出た。
「ラトーリーこの王都も十分に広いが世界はもっと広い、それに其方は言っていたではないか『偶には旅がしたい』と」
「あ、あれはそういうことではなくてですね!?」
慌てるラートリーを尻目にほっほっほっと笑い飛ばし国王は彼女の方に向き直る。
「ラートリー・エール騎士団長よ今この場で騎士団長の任を解き”エンド・ストーム”の称号を授ける!」
意気揚々と輝かしい勲章を取り出しラートリーに手渡した、彼女はその勲章を見て複雑な表情をしている。
「国王その何と言ったらいいのか、でも私はまだその……騎士団長を辞めるとは」
「ラートリー君は十分にいや十分すぎるほどこの国のために働いてくれた、危機を幾度となく救い迫る敵をなぎ倒し巨大な魔物の討伐まで!……そろそろ君は自分のための人生を歩んでもらいたい、国王であり親友である私のお願い聞いてもらえないかの?」
国王の瞳を見てラートリーは動揺し理解した、国王の思いは本気であると。
「わ、私は……う……」
国王はじっとこちらを見てくるこれは―
「……わかりました貴方のお願いならば」
断れない、そう観念して彼女は勲章を受け取った。
「ほほほ!これで受け取ってもらえなかったらどうしようかと!」
「光栄です国王閣下……」
「生活については私からもできる限りの援助をしよう隊長、私のお願いを聞いてくれて本当にありがとう」
「あの半ば強制だったような気がするんですが……」
「ホホホ!一生に一度のお願いというやつじゃ!ホホホ!」
こうして騎士団長ラートリー・エールは第二の人生を始めることになった、とんでもない人生になることもしらずに。
・ ・ ・
騎士団長を解任になった次の日ラートリーは自分の屋敷にいた、今まで一日中戦っているか自分の執務室にいるかのどちらかだった、褒賞として貰った屋敷に一度も帰ったこともない今日初めてここで寝泊まりしたのだ。
(確かに昔旅がしたいと言ったが……どうしたものか)
何年も前に自分の言葉を思い返す、ただ今はソファーに座ってただ外を見ている。
(……こんな所でぼっとしている場合じゃないな、とにかく今は外の空気でも吸いに行こう)
ソファーから立ち上がり上着を手に取り玄関を開ける、豪華な建物が立ち並ぶ貴族街の景色が広がっていた。
「いつもここは無駄に奇麗だな」
一言つぶやき道沿いにおいてあるポストを開け中身を取り出す。
(……騎士団を辞めたことは広まっているようだなやたら勧誘のチラシが多い、騎士団に届けさせていたころは一回も無かったのに)
一枚一枚めくり全部見終わると全部まとめて丸めて火の魔法で燃やしてしまった。
(はぁ興味ないものばかりだな中に戻るか)
そう思い屋敷に戻ろうとするとポストから取りそこなった紙が一枚落ちてきた。
「これは……冒険者の集い?聞いたことがないな、何々……”未知の領域に踏み出そう!””依頼をこなして一儲け!””戦闘経験ありのかた大歓迎!”……ふむ未知の領域か……」
チラシに書かれている言葉に興味を惹かれる、建物はここからそう遠くないようだ。
「とりあえず行ってみよう何もしないよりかはマシだな」
チラシを握りしめ冒険者の集いへと歩き出した。
・ ・ ・
「ここが冒険者の集いか立派な建物だな」
建物のドアを開けると中は活気があり人で溢れているその中をかき分けなんとか受付のところまでたどり着いた、カウンターの中で女性がせわしく書類を書いている。
「これは終わり、これは提出してもらわないと他にはこれと……」
「あのすまないいいだろうか?」
「ほあっ!?あぁすみません集中して気づきませんでしたって騎士団長さん?」
受付嬢の言葉を聞いて集会場内がどよめくラートリーはそれを気にすることなく話を続ける。
「元だがな」
「そうですか……やっぱりあの話本当だったんですね騎士団を辞めたって、それで今日はどのような要件ですか?」
「そうだな軽くここの事を教えて欲しい」
「はい!ではご説明します!」
ぱっと表情が明るくなった受付嬢は書類を取り出し意気揚々と語りだす。
「冒険者の集いは王都などからの依頼をこなすのが主な業務になっています、猫探しから人類未踏の秘境の調査まで!騎士団に頼みにくいことやそこまで大事では無い依頼が大半ですね」
「秘境の調査は大事ではないのか?」
「なんでも学者の人たちが『騎士団はやり方が手荒で秘境調査なんかやらせたら遺物が壊される!』との事です」
「……否定はできないな」
気まずそうに顔をそらす、受付嬢はそれを見て「すみません」と一言いい書類をめくる。
「概要はこんな所ですね、それで他には?」
「誰でも集いに参加できるのか?」
「はい、実技試験をパスできれば誰でも参加できます、それと少々の書類を書いて貰います」
そうかと一言つぶやきラートリーは少し考え込み受付に向き直る。
「私も参加しよう」
「わかりました、それではこちらに……えっ?参加?」
受付嬢の言葉を聞いて集会場内に衝撃が走る。
「あぁ騎士団を辞めた今でも戦いがしたいそれと秘境探査も、参加できるか?」
「え、えぇ!もちろん!元騎士団長が参加したとなればうちの評判も鰻登りです!それでは実技試験を始めます、そちらの扉からどうぞ!」
受付嬢が案内したドアを開ける、集会場内はあの騎士団長が冒険者の集いに参加する事で大盛り上がりだ。
・ ・ ・
ドアの先は様々な器具が置いてある訓練場になっており、少し開けた場所に試験官と思われる男が立っている。
「貴方が試験官か?私は―」
「ラートリー・エール!君のことを知らない王都民なんかいないだろう!試験官のタギだ早速始めようそこの棚から好きな武器を選んでくれ」
棚には木製の様々な武器が並んでいた。ラートリーはその中から長剣とナイフを数本取る。
「これが一番慣れている試験内容は?」
「うーむそれがないつもは私が課題を出すのだがどの課題も君には楽勝すぎるだろう!なので特別難しいのを今即興で出そうとしたのだが……全く思いつかぬ!ワハハハハ!……うーむ」
タギがまた考え込むと集会所の扉が勢いよく開きそこから冒険者たちがぞろぞろと入ってくる。
「試験官彼らは?」
「あぁ見学者だ別に珍しい事じゃない、試験を見てはいけないって規則はないしどんな新人なのか見定める奴もいるただこの量は……初めて見るなワハハハ!……はっ!思いついたぞ試験内容!おーい皆ー!」
二人を囲んでいる数十名の冒険者たちに向かってタギは突然呼びかけた、ラートリーはそれを不思議そうな表情で見ている。
「ここにいるのはあの騎士団長ラートリー・エール!百戦錬磨!古今無双!横に並ぶものなし!その彼女が今冒険者の集いに参加すべく実技試験を受けようとしている!そうだな!」
おおー!と歓声が冒険者たちから一斉にあがる。それを見てタギは満足そうに頷き話を続ける。
「それをお前たち見てるだけでいいのか?あの騎士団長だぞ?戦ってみたくはないか?」
「お、おい?」
「全員武器をとれ!訓練用のな!この騎士団長に一太刀浴びせようではないか!」
うおおお!と大歓声が冒険者たちから溢れ返り次々と武器を装備し始める。
「試験官!?」
「ラートリー・エール!君の実技試験を始める!君の実力をいかんなく発揮できる最高の試験だ!」
冒険者たちがラートリーの正面に達武器を構える、それをみてラートリーも武器を構え正面を見据える。
「ここにいる冒険者全員を倒して見せろ!全員かかれ!」
数人の冒険者が突撃してくる、それを長剣で全員殴り倒し集団の中に突っ込んだ!
集団の中で彼女は踊るように冒険者たちを蹴散らしていく!的確に急所を叩き、突き、矢が飛んでくればそれを避けナイフを眉間に投げ返し、自分の武器が折れ使い物にならなくなると拳で殴り飛ばし、魔法を唱える者には奪い取った武器を投げ妨害させ、巨漢に対しては突撃をいなし地面に叩き落として喉を突く!そうして次々となぎ倒していき数分後には─
「……」
両手の埃を叩いて落としているラートリーただ一人だけがそこに立っていた。
「そこまで!流石だな騎士団長!手練れの冒険者もいたのに!」
「試験官結果は?」
軽く呼吸を整えタギに向き直る。
「合格である!まあわかりきっていた事だかな!ワハハハ!」
タギの高笑いを背にラートリーはそのまま集会場に戻っていった。
「ハハハ……木製だよなこの武器……しかもこれだけの人数相手にして汗一つかいていないとは……ハハハ……」
・ ・ ・
集会場に戻ったラートリーはそのまま書類を書き上げ受付嬢へと渡した。
「ふむふむ、はい以上で参加手続きは終了ですお疲れさまでした!明日にでも来ていただければ冒険者手帳を発行いたします」
「あぁこれからよろしく頼む」
「いやぁ皆さん訓練場の方に一斉に行ってしまったので何かと思いましたよ、私も見たかったなぁ」
「見ていて面白いものじゃ無いと思うが……」
「いやーそんなこと無いと思います!」
「そうか?私にはよくわからないな」
「またまた~そういえばラートリーさんはグループを組むんですか?」
「グループ?」
受付嬢の言葉にラートリーは首を傾げる。
「はい冒険者の集いは依頼の成功率を上げるため複数人の冒険者でグループを組むことを推奨しています、親友同士で一生続くグループや1つの依頼を達成するためだけにその場だけで組むグループなど色々あるんです!……まあラートリーさんは組まなくても楽勝ですよ」
そんな事を話していると集会場の入口が開き三人組が入ってきた。
「ただいまー終わったわよー」
「また森を吹っ飛ばす所だったな」
「もうちょっと抑えられないんですか……?」
話をしながら受付に向かって来る三人組をラートリーは見ている、そしてあることに気が付いた。
「……あれは三人ともエルフか?耳の形が私と同じだ」
「はい冒険者の集いだと有名なんですよあの三人組、いい意味でも悪い意味でもですけど」
「ちょっとデカブツ!どいて!」
「おっとすまない」
ラートリーが横に避けると三人組は話始める、依頼の終了報告をしているようだ。
魔女帽子、ウォーハンマー、見慣れない何か……横目で見ていると魔女帽子以外の二人が見ていることに気が付いた。
「あ、あの?何か……?」
「……あぁー!これはこれは騎士団長どの!ページャ式典で見たことあるでしょあの人!」
「え、あ、ホントだでもなんでこんな所に?」
「二人とも何話してるのよ……誰こいつ?」
「騎士団長だよ!われらが騎士団長!」
「へぇ騎士団長、騎士団長ねぇ……」
魔女帽子が少し考え込んだ後ビシッと指さす。
「よし騎士団長明日私達と一緒に来なさい!時間は朝9時!」
「えっ?あ、あぁ……」
「よーし言質取ったからね!」
ウキウキと魔女帽子達が去っていくのをポカンと見届けた。
「あのよろしいんですか?生返事でしたけど」
「あ、あぁあいうのは初めてだったからちょっとな……また明日来るよ」
そうしてラートリーもその場を後にした。
エルフの四人組が暴れだすまでそう遠くはない―