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腐女子の私は異世界で何故だか百合百合しています  作者: 街田和馬
第2章「醜悪」
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第15話「第二の報」

お久しぶりですなにわろ

『パートナーって言葉はね、百合音が今思っている意味だけを持っているわけじゃないんだよ』


 美樹から投げかけられたその言葉を、私は宿の廊下を歩きながら脳内で何度も反芻していた。

 美樹にそれを言われてから私は無言で美樹の部屋を後にし、オルタ先生を呼びに行くためにロビーに向かっていた。


 オルタ先生が魔王について教えてくれるらしく、私は美樹と聞きたいと思っていた。

 しかし、美樹は大樹と化したことによる魔力の枯渇で動くことができないため、オルタ先生に美樹の部屋に来てもらうことに決めた。



 ちなみに、美樹の許可は取っていない。



 私にはそんなことよりも美樹の言葉の意味を考える方が重要だった。


 この言葉を理解するにあたって、もっとも重要なことは「パートナー」という言葉の定義だ。それがこの問いの主題となっている。



 パートナーとはなんだ?



 私は、戦いにおいてお互いをサポートし協力し合う関係だと思っていたのだが、何か間違いがあっただろうか?


 いや、この認識に間違いはないはずだ。

『兜合戦隊コスレンジャー』や『MOM⭐︎CHIN *2』でも、主人公とその友人がお互いをパートナーと呼び合って協力してラスボスを倒していた。

 倒すべき相手を倒すための手段として、パートナーという存在は必須ということだ。


 では何が間違っているのだろうか?


 もう一度、美樹の言葉を脳内で唱えた。


 そして私は気づいた。

 パートナーという言葉の意味はこれだけではない?


 私の知らないパートナーがあるというの?


 そんなのわかるわけない。

 この世界には日本語の辞典もスマホもない。

 知らない語義を調べる方法はない。

 それなのに、どうやって知れというの?


 私が頭を抱えているうちに、宿のロビーに到着した。

 オルタ先生は、さっきと同じ場所で優雅に絵本を読みながらオレンジジュースを飲んでいた。

 その姿は容貌の美しさも相まって大人の女性という感じだが、やってることは完全に子どもだ。


 私はオルタ先生背中にそっと忍び寄って、手が届くくらいまで近づいたところでその肩に手をフワッと置いて耳元で囁いた。


「……お待たせ、センセ」

「ふわあっ!」


 オルタ先生はいつものクールさはどこへやら、可愛い声を上げてバッと立ち上がった。

 オレンジジュースの入ったグラスと絵本は、手から滑り落ち、パリーンという音の後に辛い沈黙が訪れた。


「何を……しているんですか……?」

「す、すみません。ちょっと悪戯したくなって……」

「歯……食いしばってください」

「いや……あの…………はい」


 明らかにピクピクしている眉間の皺と震えた声に、私は言い訳することを諦めた。

 口を閉じて歯を食いしばり目をぎゅっと瞑って、無抵抗になる。

 次の瞬間ーー


「ラプレッション・デラコリレ!」


 突然の超重力によって私は窓を突き破って宿の外へと勢いよく放り出された。

 その衝撃で私の前でグラスの破片とオレンジジュース溜まりもフルフルと揺れていた。

 窓ガラスの破片がパラパラと落ちる部屋の中、オルタ先生は頬を膨らませ顔を真っ赤に染め上げ自らの肩を抱き震えていた。



  ○●○●○



「さてーーでは、魔王についての情報をお話ししましょう」


 ついに私と美樹とハルとオルタ先生が集った部屋で、魔王に関する情報の公開が始まろうとしていた。

 そんな重要な時間が始まるというのに、私の髪は乱れ服は汚れ実にだらしない格好であった。


「それどしたん?」


 美樹がベッドに座ったまま体を傾けて私に耳打ちしてきた。

 私はため息を吐いて同じように美樹に囁き返した。


「あの人、クールぶってるけどセクハラへの抵抗がないんだ……」

「……なるほど?」


 言葉では理解を示しているが、本当は一ミリも理解してないような返事が返ってきたが、説明するのも面倒なので放っておく。

 しかし、まさかオルタ先生を呼びに行くだけなのに、美樹の部屋を出てから帰ってくるまで一時間もかかるとは思わなんだ。

 ちょっと悪戯しただけで町のちょっと外まで飛ばさないでいただきたい。本当に体が砕けるかと思った。


 私が再びため息を吐き顔を上げると、オルタ先生が私の方をじっと見つめていた。


「なにか?」

「いいえ、なんでも。それでは話し始めますね」

「よろしくお願いします」



  ○●○●○



 この町ーースミルナの周辺には三つの有名スポットがあります。


 ひとつは西側に、かつて世界最大級の工業技術を持ち世界全体の産業の中心地であった旧都コロフォン。


 ひとつは北側に、かつて原初天使〈パイエル〉がこの世界を統治するために管理していたが、魔物の軍勢に強襲され陥落してしまった古城レモンステ。


 もうひとつは南側に、古代から百メートル級の怪物が大勢巣食うと伝承が残されている海底洞窟アバイム。


 私はそれらの土地にそれぞれひとり魔王がいると推測しています。


 残念ながらアバイムに関しては、現時点で何の情報も得られていません。調査方法について実現できる可能性のある案が浮かびすらしないというのが現状です。


 私が今回お伝えするのは、北の古城レモンステについてです。

 この町から北に五十キロメートルほど歩いて、地獄の花園ヘルエデンや人喰い川プレバーを乗り越えた先に、それはあります。


 外観はさほど人間の王が住まうような城と相違ありません。しかし、不浄の加護によってその城は汚れることも壊れることもありません。建てた当時の陽光を反射して輝く純白の壁がそのまま残っています。


 城自体に防衛システムは搭載されていません。天使は強いので、その必要はないと判断したからです。

 しかしその驕りによって、天使はまんまと城を魔の者たちに奪われてしまったのです。


 城の奪取が成されたのは千五百年前の話です。それ以来、城を管理しているのは〈強欲の魔王〉妖狐ニュートです。


 妖しげな魔法を使うため実に厄介ですが、ニュートを倒すことができれば、城の奪還はもう目の前でしょう。



  ○●○●○



「ーーという感じです。…………なんですか、その顔は?」

「ん?……ぁあ、すみません」


 オルタ先生は話し終えると、私の表情にややご不満をお持ちになったようだ。

 どうやら思っていたことが顔に出てしまっていたようだ。


「いやー、オルタ先生って天使なのにその原初の天使って存在を随分と悪く言うんだなって思ってしまって、ちょっと不思議に思っただけです」


 私が答えると、オルタ先生は怪訝な顔をした。


「私、自分が天使だってあなたに言いましたか?」

「いやっ、あの。そう、あれですよ! あれ! 私と初めて会った時、背中に羽が生えていたじゃないですか! それで実はオルタ先生って天使なんじゃないかなって思って! ただそれだけです。あはは」


 なにかオルタ先生の琴線に触れた気がして、私は必死の弁明を披露した。

 その焦りようと必死さに周りの人間は……


「あはは……ちょっと必死すぎて逆に怪しいよ」

「……惨めですね」


 呆れていた。


「あぁ、そういうことですか。それなら完全に私のミスですね。仕方ありません。では改めて自己紹介をしましょうか」


 一方でその言い訳じみた回答に納得したオルタ先生は、すっと立ち上がり、純白のワンピースの裾を上品に持ち上げて言った。


「私の名前はオルタ。オルタ・プリモーダル。エヘソスにある学校で先生をしながら魔王軍の情報を収集する、ただの天使です。これからも末永くよろしくお願いします」


 衣服の効果もあってか、すごく輝いて見えた。その優雅さに私は呆気にとられていたが、普段から見慣れているのであろうハルは拍手を送っていた。

 それで正気を取り戻した私は、バッと立ち上がった。

 あちらが自己紹介をしてくれたのなら、こちらもしなければ無作法というもの。


「私はアリス。〈百合昇華〉の能力者にして全ての魔王を打ち倒す者! 約束された平穏を邪魔する者はもれなくぶっ殺します。よろしく!」


 ーーふふん、どうだ! かなり強気に言ってやったぞ。これはかなり心に響くものがあったのではないかなないかな?


 自信満々で見渡すと、全員が目を瞑っていた。


「いたい」

「いたいですね」

「やる気があるのはいいことですよね。うん……んふっ」


「?????」


 こーれは、なかなか滑ったのでは?

 もうこういう啖呵切るのは時代遅れなのかぁ?


 結構自信満々だっただけに、悲しくなった。


「私は美樹。植物操れます。よろしく」

「ハルです。アリスさんのお手伝いしてます。よろしくお願いします」


 私以外の二人は、簡単に紹介を済ませた。


「ねぇ! 私あんなに気合い入れたじゃん! 天使のあとに自己紹介だったから、インパクト負けないように頑張ったんだよ! なのにさぁ……私だけバカみたいじゃん…………」

「そんなことより、ゆり……アリス。具体的な場所はわかったけどいつ出発する?」

「そんなこと…………まぁいいや。明日の朝にしようと思う。聞いた感じ、なかなか道中でも苦労させられそうだし、行動は早く取るのがいいかなと」

「そうだね。城に篭ってるような魔王が今すぐ何かしてくるとは思えないけど、行動は早い方がいいよね。でも、ハルちゃんは……」

「私は大丈夫です。体もかなり楽になってきたし、もう少し寝れば明日までには快復できると思います」


 確かに、ハルの顔色は随分よくなった。ハルは自己管理能力も高いし、もう心配は無用だろう。明日までには良くなっているというのも、信じていい。


「それじゃあ、明日に向けて各々行動開始しよう。私と美樹は買い出ししてから寝るハルは今すぐ寝る! 以上、解散ッ!」



 その後、私は美樹と一緒に市場に出た。

 保存の効く食料と使えそうな魔道具を買い揃え、野宿のための道具をいくつか新調して、宿に戻った。

 いつかの二人で行ったショッピングを思い出して、とても楽しかった。

 少しの間だけ昔に戻れたような気がして、普段の張り詰めた心が弛緩して、いい安らぎのひとときを送れた。


 しかし、明日からは再び試練の日々が始まるのだ。気を引き締め直さなければ。


 美樹と別れた私は、自室で気合いを入れ直してから布団に潜り、疲れていたのか一瞬で眠りへと落ちた。



 翌日ーー


「みんな、準備はいい?」


「もちろん。忘れ物ないはず」

「大丈夫です! すっかり元気になりました!」

「そう、よかった。でも、それよりーー」


 私は美樹とハルから視線を逸らし後ろを向いた。


「なんでオルタ先生もいるんですか? あなた学校の方に戻るんじゃなくて?!」


 さも当然のように、オルタ先生はいつもの純白のワンピースを着て、パンパンのバックパックを背負っていた。いかにも出撃準備完了と言わんばかりだ。


「気が変わったの。私も行きます」

「はぁ?」

「もともと、レモンステに攻め込むアテがなかったから戻ろうとしていただけで、光が差し込んできたなら話は別なのです」

「あぁ、そうですか。いいでしょう。戦力は多いに越したことありませんし」


 不満があるわけではないが、一緒に来るなら事前に行ってほしいものだ。

 いやこれ不満やないかーい。


「全員、覚悟はできた?」


「もちろん」

「はい!」

「覚悟なんて、とうの昔に決めてます」


「よし。じゃあ、行こうか!」


 こうして今、百合と樹とロリと天使というわけわからんパーティーが、狐を倒すために街を発った。

 目指すは古城レモンステーー魔王が玉座に居座る天使の城だ。

いやーまじ待たせました。

もう謝罪してもしきれないので謝罪はしません(すみませんでした)

Q.間が空きすぎて失踪したと思った人も多いのでは?

A.しかけてました。


でもまぁやる気が出たら書くんで、少なくともこの作品だけは失踪させません。(全部書けや)


それじゃまたいつか(すぐ続き書けよ)


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