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腐女子の私は異世界で何故だか百合百合しています  作者: 街田和馬
第2章「醜悪」
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第14話「第2の序」

「ひとまず、名乗っていただいてもよろしいでしょうか? 名前を聞けばもしかしたら思い出せるかもしれないので」


 戦いが終わって少し落ち着いてきた私は、オルタ先生の問いにゆっくり答えた。


「私は、アリスといいます。エヘソスの学校であなたの代わりの臨時教師を二日間務めていたので、私があなたのことを一方的に知っていました。お会いできて光栄です」


 途中で仕事を投げ出してきたことは、絶対に言えない。


「なるほど、そうでしたか。それにしても、私はまだ休職中なのですけど、あなたがここにいるということは今はどなたが私の代わりを?」

「……っあー。そ、それはですねぇ…………」


 折角隠そうとしていたのに、いきなりピンポイントで問われてしまった。これには流石に動揺を隠せない。


「い、今は、リアさんに代わってもらってます。私は短期バイトみたいなものですよ」

「ばい、と……? それはよくわかりませんが、ちゃんと授業はしていただけているのですね。それならよかった」


 バイトはこの世界では通じないらしい。

 仕事を放り出したことは深く問題として掘り下げられなさそうでひとまず安心した。

 とはいえ、この人は勘がいい。話を逸らして、私の愚行がバレないようにしなければ。


「そ、そういえば、オルタ先生はなぜここに? 私は、体調不良で休職中と聞いていたのですが」

「それは少し難しいですね。そうですね。…………とりあえず、世界を守っていると思っていただければよろしいかと」

「……はぁ、そうですか」


 この人は、何を言っているのだ? 世界を守るなんて恥ずかしいセリフ、よく言えたものだ。


「それで、あなたのようなまだまだお若い方が、なぜエヘソスからこんな遠くまで?」

「あー、それはですね。ちょっとやらなければならないことがあってですね」

「やらなければならないこと? 私のクラスの子たちを放ってまでやらなければいけないことがあるのですか?」

「ひっ」


 私は思わず、悲鳴を零してしまった。ありえないぐらい声の調子が平坦で、真顔なのだ。まるで激情を抑え込んでいるみたいに。なりふり構わず、何か納得のできる理由をつけなければ。そうしないと、殺されるっ!


「じっ、実は私も、世界を救うために」

「世界を、救う?」


 ヒィィ。なんでそんな理解不能みたいな顔してんですか。あんたも言ってたでしょうが。


「エヘソスに魔王の手下が送り込まれてたんですよ。だから私がパートナーと一緒にその主である魔王討伐に来たんですよ」

「魔王討伐? あなたが?」

「は、はいっ」

「それで、結果は?」

「私が未だ健在であることが、なによりの証拠です」

「……逃げてきたのね」

「違いますよ! ちゃんと倒してきましたから!」

「ふーん…………そう。あなた、なかなか強いじゃない。それに、間接的にエヘソスを守ってくれたってことなのよね。感謝するわ」


 私が、言い訳らしくなってしまったが、魔王を倒したことを言うと、オルタ先生の表情が柔らかくなり、声にも温かさと優しさが戻ってきた。


「そういうことなら、ますますわからないですね。魔王を倒すような実力をもつあなたが、どうしてこんな木偶の棒ごときに苦戦しているのか」

「それは、私の能力に発動条件があるからです」

「それは、どんな?」


 落ち着いた声で興味津々にオルタ先生が訊いてきたので、私は躊躇しながらも一切の誤魔化しなく答えた。


「私の能力は、女の子同士で戯れているのをみたり、自分で戯れたりすることで、エネルギーを生み出し力に換える能力なんです」

「なるほど。つまり、百合を力にするということですね」

「そういうことです」


 意外だった。こんなに清廉潔白で可憐な見た目のオルタ先生から、百合という言葉が出てくるとは思いもしなかった。


「でも、今は相手の女の子が体調不良なんです。訳あってちょっと力が溜まってしまって、日常生活に支障をきたすので発散させようとその子と戦っていたら、途中でエネルギー切れになってしまったんです」

「そうだったのですね。何はともあれ、無事でよかったです」

「はい。美樹も助けていただいてありがとうございました!」

「構いませんよ。中途までとはいえ、私の児童たちを指導してくれたのですから、このくらいはしなければというものです」


 オルタ先生は私の感謝に対して言葉のままの天使の笑みで応えた。

 続けてオルタ先生は表情を真剣に戻すと、不思議な質問をしてきた。


「ところであなたは、これからも魔王を討伐する予定なのかしら?」

「えぇ。私の邪魔をする魔王たちはもれなく滅ぼし尽くします」


 私の横暴な宣言を聞いて、オルタ先生はふっと笑った。

 私がその反応が不思議で首を傾げると、未だ美樹を横抱きにしたままの私の顔を覗き込んで囁いた。


「この近くの魔王について、教えてあげましょうか?」

「…………ん?」


 一瞬、何を言われたのかわからなかった。あまりにも目視外の方面からの提案に、正常な反応が出なかった。


「それは……どういう……?」

「そのままですよ。私が知っている、ここから最も近くにいる魔王の情報をお教えしましょうと言っているのです。私が休職していたのは、この調査のためなんですから」

「そうなんですか?」

「はい。わざわざ休みを取ってまで仕入れた情報なんですから、活かしてくれますよね?」


 答えは決まっていた。可能な限り早く魔王を倒したい。その願望を叶えるために、これはまたとない絶好の機会だ。


「ぜひ、教えてください」

「了解です」


 私がお願いすると、オルタ先生は表情は変えることなく声だけ少し高くして答えた。まるで高揚する心を抑えているように。


  ○●○●○


 その後私は気を失ったままの美樹をおぶって、オルタ先生と共に宿まで戻った。

 戻ると、少し顔色が良くなって歩けるようになったハルがロビーで出迎えてくれていた。

 そのままオルタ先生はロビーに腰掛けて説明を始めようとしたのだが、私は美樹が目を覚ますまで待ってほしいと静止した。私には次の魔王討伐に関して企てていることがあり、その実現のためにオルタ先生の話を美樹に聞いて欲しかったのだ。もちろん、ハルにもだ。


 ロビーのソファーは寝心地が良さそうだったが周りの目もあるので、美樹はとりあえず私のベッドに寝かせた。

 私はそのすぐ横に椅子を持ってきて座り、美樹が目覚めるのを待つことにした。するとハルも同じように私のすぐ横に椅子を持ってきて座った。


「さっきよりはマシになったけど、まだ顔色悪いわよ。寝ておいたら?」


 私は心配して、ハルに優しく問いかけたがーー


「この程度、何ということもありません。それに、もう眠り疲れました」


 と、冷たくあしらわれてしまった。


 その後、私たちの間には沈黙が流れ続けた。


 ハルはああは言ったもののやはり体調が悪そうだし、それが隠しきれていない。普段、その純粋で清廉潔白な性格を体現している背筋が前に曲がっている。俯いたその顔は垂れた横髪で目元が隠されているが、歯を食いしばっているのがちらりと覗く口の端から見て取れた。

 だから、ハルから私に語りかけることはない。

 では、私はどうか。

 私は、そんなハルにどのような言葉をかければいいのかわからず、声をかけようにもかけられずにいた。

 どのような言葉を、どのような口調で、どのような表情で、どのような身振りを併せて話せば、ハルの機嫌を悪くさせないのかわからなかった。

 私は、思春期真っ只中のこの年頃の女の子に対する正しい接し方をいまいち理解していない。なんせ、中学時代の行事ごとでは孤高のリーダーだった私だ。高校ではもう殆どの女子が心の成長を果たしているので、媚の売り方、注目・人気・信頼の集め方、距離感を大方把握していた。というか、想像だけでなんとかなった。しかし、それ以下の年齢、殊に中学生辺りは予測がしにくいのだ。

 唯一の友達である美樹の思考回路は、お世辞にも中学生の頃から女子っぽいとは言い難かった。

 残念ながら腐女子である私は、二次元からも女子の像を掴めない。というか、二次元の女子はそもそも現実とはかけ離れていて、悲しい連中の理想像であり偶像に過ぎないので、現実の女子に照らし合わせるのは御法度だ。それはきっと男もそうなのだろうなと考えると、無性に虚しくなるので、このことを考えるのはやめよう。


 結局、苦しんでいるハルには無干渉を貫き、他愛もないことを考えることにした。

 今日の晩御飯は何にするかとか、明日は何をしようとか、魔王を全部殺したらどうするかとか、そんなことをぼーとしながら思い浮かべた。

 女子は行為中に晩御飯のことを考えていると聞くことがあるが、こんな感覚なのだろうか。私は雄雌の行為には興味がないので、もちろん経験もなく、その真偽を知る由もないのだが。


 どれほど経ったかわからないが、しばらく考えていると、ガサゴソと音がした。感覚を現実に引き戻すと、目の前で美樹が上体を起こした。


「おはよ」

「……うん。あれ? 今何時?」

「午後三時くらいかな。思ったより早いお目覚めだね。気分はどう?」

「サイアク。魔力がほぼ無くなってて体は重いし、頭は痛いし、お腹減って背中とくっつきそうだし」

「そうかそうか。君はそういう状態なんだな。というわけでハル」

「な、なんですか?」


 急に呼びかけられてビクッと顔を上げたハルに私はひとつ頼んだ。


「こういうわけだから、美樹に何か軽めのものを作ってあげて」

「え、なんでこの人に私が?」

「ハル? ん? どしたん? 何か不都合がある?」

「…………いえ。持ってきます。無難にリンゴでもいいですか?」

「いいよー。それじゃあ、よろしくね〜」


 私は椅子から立ち上がって部屋から出て行くハルをひらひらと手を振って見送った。

 前に向き直ると、美樹が私をジト目で見つめていた。


「……なにか?」

「いやさ、百合音がやってること結構えげつないなって思っただけ」

「……そんなことしてた?」


 美樹は私を虫に向けるような目で見つめてくるが、私はそのような視線を向けられる原因になるようなことに心当たりはない。


「自覚なしか。じゃあ訊くけど、百合音にとってハルちゃんって何なの?」

「ん? そんなのパートナーに決まってるじゃん」

「そのパートナーってどういう意味で?」


 美樹の質問に対する答えの選択肢として私は、その言葉のそのままの意味以外に何も思いつかなかった。だから、私はまじめに答えることをやめた。


「言うまでもなくない?」

「…………はぁぁぁぁぁ。百合音ってたまにぶっ飛んでるよね」

「…………どういう意味?」

「気にしないで。ただハルちゃんが気の毒だなって思っただけだから」

「待って。本当に意味分からん」


 私が今の質問に対してこの答えを出しただけで、なぜハルが気の毒なのだろうか。私には本当に理由が分からず、私は半分パニックになっていた。


「気にしなくていいよ。少なくとも今は。でも、多分遅かれ早かれ、何かの拍子で影響は出ると思うよ」

「本当にどういう意味? 教えて」

「いやだね。これは百合音が百合音自身で気づかないと意味がない。それに、シンプルにこれは私が答えを教えたとしても百合音には言葉の意味が理解できないと思う」

「なにそれ? じゃあ、分からなくてもいいからとりあえず教えて!」


 私は懇願した。きっとこれは、私が気づくべきことなんだ。私が自力で気づくことのできない、私に欠けた何かに美樹は気づいている。


 美樹はしばらく悩んだ後、渋々という様子でこう答えた。


「パートナーって言葉はね、百合音が今思っている意味だけを持っているわけじゃないんだよ」



2ヶ月以上間が空いてしまいました。

本当にすみません。

大学が夏休み入ったので、またしばらく頑張ります。

毎回謝罪してますね笑(自己責任)

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