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腐女子の私は異世界で何故だか百合百合しています  作者: 街田和馬
第2章「醜悪」
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第11話「看病」

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 私は、美樹とハルがあまりにも険悪なムードを放ち過ぎていたのが見るに耐えかねたのと、ハルの体調が心配なのがあって、二人を一旦分かれさせることにした。

 美樹には分かれる前に部屋を聞いておいた。夜に弱いハルが寝静まった後に、少し話に行こうかなと思ったからだ。そこまで部屋数の多い宿ではないから、迷うことはなさそうだ。

 ハルとは二人で朝食を取る予定だった。しかし、ハルは体調が悪すぎて何かしら口に入れたとしてもすぐに酸性の分泌液が添付されて返送されてくる気しかしなかったので、水だけ持たせて部屋に寝かせた。その後私は、最低限腹を満たせる分だけ注文して素早く食事を済ませ、急いで部屋に戻った。


「ハル、大丈夫なの?」

「…………だいじょうぶなわけ、ないじゃないですか」

「ま、そうよね」


 ハルがベッドに寝たまま返してきた言葉は、いつもと変わらない。しかし、普段はもっとドスの効いている声の調子も今ばかりは虫の息だ。

 こんな言い方をすると楽観的に聞こえるかもしれないが、内心はヒヤヒヤしている。


 顔色は、さらに悪化することこそなかれども、依然としてペールブルーのままだ。まだ朝だというのに、憔悴しきったためか目の下に隈が目立つ。

 全身から冷や汗がとめどなく流れ出して、前髪が額に、衣服が肌に張り付いて、肌は透け、寝かせていたベッドのシーツもびしょ濡れになっている。気分が悪いのか、肩で息をしているし、部屋のトイレに向かって汗によって何度か往復したハルの足跡が続いている。汗のせいで体が冷えきっているのか、弱々しく肩を抱き体を小刻みに震わせている。朝食を食べにいく前に渡した水も半分以上なくなっている。そこまで

 〈陰鬱〉の魔王シュピネーから私を守ろうと彼女に立ち塞がった勇ましくたくましいハルからは想像もつかないほど、か弱くて気の毒な姿だった。

 何度同じ質問をしたとしても、ハルの性格的から考えると同じ答えしか返ってこないと思う。そうはいっても、このまま放っておくわけにもいくまい。とにかく、まずは汗を何とかしなければ。


「ハル、脱いで」

「はい。………………は?」

「肯定したわね。じゃあ、脱がすわよ」

「ちょっ、ちょちょちょっと待ってください。いきなり何ですか? 何でそうなるんですか?」

「そのままだと寒いでしょ。体調が悪いなら、体を温めないと。だから、早く脱いで。汗拭いてあげるから」

「い、いいですよ。自分で脱ぐし、汗も拭きますから!」

「できるの? わかってるのよ。手に力が入らないことくらい」

「…………」


 図星を突かれたのか、ハルは黙り込んでしまった。それを黙認と捉えた私は、ハルのシャツに手を伸ばした。


 いちばん上のものからひとつずつ、両手を使って丁寧にボタンを外していく。

 ひとつ、またひとつとボタンを外していくが、素肌が顕になることはない。汗で服が張り付いているからだ。

 下のボタンを外すために前屈みになると、霧のように儚く一瞬で空気に溶け込んでしまいそうなハルの吐息が額に当たった。

 ボタンを全て外し終え、前を開こうとプラケットに手をかけた。ハルは無抵抗で、寝たまま腕を広げた。

 私がプラケットを開くと、ついにハルの素肌が顕になった。前に雨の洞窟で見たきめ細やかさより、汗で濡れたことによる艶やかさが、ハルの肌の美麗さを妖艶さに塗り替えている。しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。

 ハルの背とベッドの間に右手を潜り込ませ、ゆっくりとハルの上半身を起こした。あまり起こしすぎてもハルが辛いので、三十度くらい起こしたら、左手でまず右袖からハルの腕を抜いた。

 脱ぎかけのシャツをハルの下をくぐらせて、一度ハルの上半身を慎重に戻した。次にハルの左半身を持ち上げて、シャツの左袖から腕を抜いた。

 とうとうハルの上半身を覆うものはなくなった。体力も気力もなく、かつてないほどに無防備な状態のハルが目の前にいる。その事実に、私は理性を乱されそうになるもすぐに我に返って、ハルの上半身をもう一度優しく起こしタオルで拭き始めた。

 髪の生え際がこちらを蠱惑してくるうなじが、片手でとってもう片方のタオルを持った手でなぞる腕が、そこに溜まった汗が色気を醸している鎖骨が、弱々しく丸められた背中から出っ張る肩甲骨が、発達途上で既に私と同じくらいある双丘が、すべすべのお腹が、ハルの上半身が全霊を傾けて私を誘惑してくる。

 私もそれに対抗して全力で煩悩を打ち払い、丁寧に、しかし素早くハルの上半身を拭った。


 さて、ここからが大問題だ。上半身だけなら辛うじてではあるが理性を保つことができた。しかし、汗でびしょ濡れになっているのは上半身だけではない。無論、下半身もだ。

 別に少女趣味があるわけではない。私は腐女子なのだから。しかし、それを加味したとしても、今のハルは全身で色気を体現していて、それが同性の私からしてもそそられるものだ。

 果たして、私はまともな心を保ったままハルの体を拭いきることができるだろうか。


「ハル、下も脱がすよ」

「……え、待ってください」

「いや、そのままだと冷たいでしょ。今の状態でさらに風邪まで引いたら本当に大変なことになるから」


 ハルが拒むのを意に介さず、ハルが無力な手で掴んでいるパンツを、するっと脱がした。

 するとーー


「〜〜ッッ!」


 ハルは一瞬で顔を耳まで真っ赤にして、両手で顔を覆い隠した。ふにゃふにゃに開かれた口がはみ出していた。


「ちょっ、や、やめてよ。そんな反応されたら」

「だ……だってぇ」


 ハルの照れた様子を見ていたら、ますます私が平静を保つのが困難になった。だが、瀕死のハルに邪な行為を働くわけにもいかないし、かといって拭かないというのもハルのためにならないし。

 思考の極限状態のなかで煩悩と使命感の狭間を反復横跳びして、私が出した結論はーー


「悟りを開こう」



  ○●○●○



「あれ、終わってる?」

「何言ってるんですか? 植物状態みたいな真顔で私のことを隅から隅まで拭いておいて。正直、恥ずかしいを通り越して怖かったんですけど」

「それは、申し訳なかったわね」


 気がつけば、私はハルの体を拭き終わっていて、新しい服まで着せていたようだ。

 私にはその記憶が全くないのだが。どうやら、上手く感情を殺して淡々と作業をこなせたようだ。


「でも、ありがとうございます。おかげで、少し楽になりました」

「そう。それならよかったわ」


 確かに、さっきまでよりハルの顔色は良くなっている。心を殺してまでハルの体を拭いたのは大正解だったようだ。

 しかし、全快というわけではないだろう。今は落ち着いているが、いつまた波が訪れるかはわからない。水分をしっかり摂りながら、寝続けるのが賢明だろう。


「とりあえず、今日一日はゆっくり休みなさい」

「はい。そうさせてもらいます」


 ハルは返事をして、瞼を閉じた。しばらく側に椅子を持ってきて様子を見ていると、十分ほどで寝息を立て始めた。

 お昼ご飯までは時間があるし、特にすることもないので、気晴らしに今から美樹の部屋に向かうことにした。

 足音でハルを起こさないように忍足で部屋を後にし、美樹の部屋に向かおうと廊下を歩いていると。


「あれ、もしかして百合音?」

「いやデジャブ!」


 背後から美樹が声をかけてきた。


「ハルちゃんは大丈夫な感じ?」

「うん。だいぶ落ち着いたけど、今はまだ寝かせてる」

「それがいい。それにしても、あんなに重症な人は初めて見たよ」

「私もだよ。何も聞かされてなかったら、酷い病気じゃないかって焦るレベル」

「間違いない。それで、どうしたの?」

「いやー、暇だから美樹とお話ししようと思って」

「あっちは放っておいていいの?」

「だいじょぶだいじょぶ。……多分」

「雑だなぁ」


 私の適当さに、美樹は苦笑している。

 しかしよく考えてみれば、この適当さを表面上に出すのはかなり久しぶりではないだろうか。あちらの世界にいた頃は、整理整頓などせず、買った同人誌やエロ本を適当に積んでいたので部屋は荒れたい放題だった。

 ふとしたきっかけで昔を思い出すと、なんだか懐かしくなって郷愁にかられてしまう。まだこちらに来てから二週間も経っていないというのに。


「ところで、話があるって言ってたけどどういう要件?」

「ああ、それね。忘れてた」


 私は美樹に言われて部屋から出てきた理由を思い出した。


「ねぇ、美樹。私と戦ってくれない?」

「いや何で?」

今回は割と早めの更新!

筆が乗ってきたわよ!

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