第7話 信じてあげたい
俺と閑谷は吉田の尾行を開始した。
ミッションは吉田の無実の証明または浮気の証拠を掴むこと。
どうにかして証拠を掴まないと・・・・
吉田は最寄りの駅に向かっている。
どうやら、電車に乗るようだ。
「吉田君、電車に乗るみたいだね」
「あぁ、どこに行くんだろうな」
彼女とのデートを断ってまで行く場所・・・・
1番最悪なのは、違う女と会っていることだが。
俺と閑谷は吉田の乗っている車両の1つ後ろの車両に乗った。
「この方向ってなにかあるのか?」
「ショッピングモールとかかな! 結構いろんなもの揃ってるし、私もよく行くよ!」
「ショッピングモールか・・・・ますます怪しいな」
「どうして?」
閑谷は不思議そうに首を傾げた。
「男同士でショッピングモールなんか、なかなか行かないだろ」
俺は男友達が正真しかいないから正しいかどうかはわからないけど・・・・
完全に偏見だ。
「どうだろ? 私も女子だから男子の気持ちはわからないや、えへへ~」
閑谷は右手を頭の後ろに回して、少し照れた表情を見せた。
「まぁ、ショッピングモール行くとも限らないしな」
そして、電車に揺られること10分程度。
そのショッピングモールが近くにある駅に到着した。
吉田がジャケットのポケットから定期を手に取り、電車から降りる。
それを見て、俺と閑谷も慌てて電車を飛び降りた。
「あ! 降りたよ!」
「よし、俺たちも降りよう」
結局ショッピングモールか・・・・
俺達は吉田と適度に距離をとりながら後をつけた。
ピィーー!
「あ、あれ!? 金額不足!? ご、ごめん! 信人君! ちょっとお金入れてくる!」
「お、おう!」
閑谷はそう言うと小走りで交通電子マネーに金を入れに向かった。
しっかりしてくれ・・・・!
このままだと吉田を見失っちまう!
しかし、俺の焦りは杞憂に終わった。
吉田は改札の前で携帯をいじり始めたのだ。
「ご、ごめ~ん! こないだ入金したはずなんだけど・・・・ってあれ? 吉田君あそこで何してるの?」
「多分、人を待っている・・・・」
「お、女の子かな・・・・?」
閑谷は自分の持っていたバックをギュッと抱きかかえた。
「わからないけど、その可能性は高い・・・・」
ここで女子が来たら浮気確定じゃないか。
吉田が見えるところで様子を伺うこと5分。
ついにその時はやってきた。
「おまたせ~」
吉田のもとに現れたのは、やはり女子だった。
確定だ。こいつは浮気している。
写真も撮りたいが、さすがにやめておこう。
「よし、帰るぞ。証拠は十分・・・・って。ん? どうした?」
俺が改札に向かって歩こうとすると閑谷が俺の袖を掴んできた。
「もうちょっと尾行しよ・・・・!」
「けど、もう十分だろ・・・・」
「ダメ! もしかしたら違うかもしれないし・・・・」
閑谷は食い気味でそう言ってきた。
袖もいつもまにか両手で引っ張っぱられている。
なんでそんな真剣な眼差しで俺を見るんだ・・・・
「最後まで信じてあげないと・・・・!!」
またこの顔だ・・・・
必死で何かを訴えるような目。
まっすぐな目だ。
こいつだけだな・・・・ちゃんと目を合わせられるのは。
「わかったよ! だからこれ以上袖を引っ張るな。伸びちゃうだろ」
「ごめん・・・・」
「いいよ、別に・・・・それより追いかけるぞ。吉田の無実を証明したいんだろ?」
「うん・・・・!ありがとう!!」
俺がそういうと閑谷はヒマワリを想像させるような、満面の笑みを浮かべた。
こいつは本当に理解不能だ・・・・
吉田達は駅内から出た後、予想通りショッピングモールに入っていった。
「何するんだろ?」
「買い物だろ、普通。それとも買い物以外にやることあるのかここ?」
「いや、ないよ」
「ないのかよ」
じゃあ、何するんだろとか言うなよ・・・・
吉田達はショッピングモールに入った後、いろんな店を回っていた。
それから2人は昼飯を食べて、最後にアクセサリーショップへと向かった。
俺と閑谷は尾行していることがばれないように、吉田と距離を取りつつ様子を伺っていた。
「ねぇ、信人君。ホントに吉田君が浮気してたらどうしよ・・・」
「ホントも何も彼女以外の女と出かけてるんだから、浮気だろ、これ」
「うん、そうだね。ごめんね、わかりきっているのに無理言って付き合わせて・・・・」
閑谷は申し訳なさそうな、しんみりした顔をした。
俺はそんな閑谷が・・・・なんというか好ましくないと思った。
いつも明るい奴がおとなしいのはなんというか・・・・似合わない。
「気にすんな。どうせ家に帰っても暇だし・・・・」
「うん、ありがとう。優しいね・・・・信人君」
閑谷は手を後ろで組みながら、笑みを浮かべた。
「褒めても何も出ないぞ」
「うふふ! 知っている!」
吉田達を見張って少したった頃、ほんの少しだけ俺は違和感を覚えた。
それは浮気しているとはいえ、デートだと言うのにどこか2人の顔には篤実さがあったのだ。
なんで、あんなイチャイチャもせずアクセサリーを選んでるんだ?
閑谷も不思議そうに2人のことを見ていた。
「ねぇ、信人君。あの2人なんか変じゃない?」
「あぁ俺もそう思う・・・・なんかただの友達みたいな・・・・いや、家族、みたいな?」
「家族・・・・あ! 待って!」
閑谷は何かを思い出したようにそう言うと、自分のカバンからスマホを取り出した。
「どうした、急に?」
「吉田君は4つ上の大学生のお姉ちゃんがいるんだよ!! ほら見て! 赤柳さんが送ってくれた吉田君の家族情報!」
俺と閑谷は何かの役に立つと思い、赤柳に朝連絡した際に吉田の家族情報を聞いていた。
そして、そこには吉田は3人兄弟で姉がいることが記載されていた。
「また、赤柳に電話して姉の写真もらえるか?」
「うん! かけてみる・・・・!」
そう言うと閑谷はすぐさま電話を掛けた。
赤柳はすぐに電話に出た。
「あ! もしもし赤柳さん? 吉田君のお姉ちゃんの写真って持ってる?・・・・うん。あ、わかった。ありがとう・・・・ううん! なんでもない! じゃあね・・・・」
この様子を見ると持ってなさそうだな・・・・
「どうだ? 持ってたか??」
「持ってないって・・・・」
「やっぱりそうか・・・・」
さすがに持ってないか。
クソ、どうしたらいい・・・・
力を使えたらいいがどうやって使えばいいんだ・・・・
何がこの力を利用するだ! 何も役立てられてないじゃないか!
どうする・・・・どうする・・・・
「信人君、信人君!」
「は! ど、どうした閑谷・・・・?」
俺は閑谷の呼びかけにも応じることができないほどに焦燥していた。
「私、いい考えが思いついたの!」
閑谷はそう言うと親指を立て、前に突き出してきた。
「あの2人の関係性がわかるのか!?」
「まぁ、見ててよ!ぐへへ~」
閑谷は自信満々にそう答えると、何か良からぬことを考えている顔をした。
ホントに大丈夫だろうか??
すると、なんと閑谷はなんの躊躇もなしに2人に向かって歩いて行く。
おいおい、まじかよ。
そんなことしたらバレちまうぞ・・・・!
俺の思いとは関係なしに閑谷はズカズカと進む。
そして、とうとう2人の前にたどり着いた・・・・