第5話 第1相談者
「はぁ~やるとは言ったけど本当に俺にできるのだろうか・・・・」
本間や正真はあんな風に言ってくれたけど、閑谷は本音がわからないし・・・・
本当はこき使われるだけなんじゃないか?
まぁ、やると決めたからにはやるしかないか・・・・
そんなことを考えているうちに家に着いた
「ん? 車があるな・・・・」
ということは父さんが帰ってきているってことか。
会うのは正月に帰って来た時以来か。
玄関を開け、リビングに行くと、そこには日菜と一緒に夕飯の支度をしている父の姿があった。
「あ、ノブお帰り」
「ただいま、父さんもお帰り」
「信人・・・・ただいま、そしてお帰り」
父は昔から寡黙な人だ。
1人息子との久しぶりの再会でもちょっと微笑む程度で、抱き着いたりしては来ない。
まぁ、俺はその方が気楽でいいが。
「ノブ、もうできるからお箸とか持って行って」
「おう」
夕飯ができると、3人とも物静かな性格なのでほとんど会話もせずに黙々と食べていた。
すると、滅多に話さない父が珍しく学校のことを聞いてきた。
「信人、新しいクラスはどうだ? 楽しくやっていけそうか?」
「え? う、うん。日菜もいるし正真もいるし・・・・なんとかやっていけるよ」
「そうか・・・・」
急に父親らしいこと聞いてきたな・・・・
喋り出した時は何事かと思ってびっくりしたわ。
「そういえば、ノブ。学級委員は結局やるの?」
「うん、やるけど・・・・日菜にはやめたいみたいな話してないよな?」
「そうだけど・・・・閑谷さん、ノブの事、急に指名してたし、ノブはやりたくないだろうなって思ったから・・・・」
よくわかったなこいつ・・・・
流石小さいころから一緒に生活しているだけのことはあるな。
「俺もそう思ってたけど、先生に言ったら俺にやってほしいんだと」
「ふ、ふーん・・・・そうなんだ・・・・てっきり閑谷さんが可愛いからやるんだって思った・・・・」
「ん? なんて言ったんだ?」
「な、なんでもない! じゃあ、私食べ終わったから帰る・・・・!」
「お、おう・・・・」
日菜はそういうとせっせと自分の食器を片付けて自分の家に帰っていった。
「信人、お前学級委員をやるのか」
「そうだけど」
「そうか・・・・」
この人同じリアクションしかできないのか・・・・
でも、またちょっと微笑んだような・・・・
日菜もそうだがこの人も何考えてるかわからん・・・・
食器を片付け、風呂に入った後、配信サイトの動画を見ていた。
俺は結構動画を見る方だ。
動画なら力が発動することもないし。
眠いけど、もう一本見る、か・・・・
「う、う~~ん・・・・ん? え、朝やん・・・・」
動画をみていたら寝落ちてしまったようで朝になっていた。
陽光が部屋の窓から差し込み、外では鳥が騒がしく鳴いている。
俺は慌てて準備をし、学級委員として初めての学校に向かった。
昼休み、正真と昼飯を食べていると、本間が俺と閑谷を廊下に呼び出した。
そういえば、仕事内容をまとめておくとか言ってたな・・・・
「お昼ご飯中にすいません。これが相談室の仕事内容です。特質したことをやる必要はないので名前の通り、相談しに来た人の悩みを聞いて、できれば解決してあげてください。クラスの皆さんには宣伝用の紙を配るので、今日からお願いします。」
まぁ、特に変なところはないか・・・・
唯一気になるとしたら
「「解決できそうなときは何日でもかけて大丈夫です」」
この部分なんだよな・・・・
そんな時間のかかる相談しに来るか?
せいぜい、恋愛相談くらいだろ。
そしたら、俺が力を使って相手の本音を聞けばいい話だし・・・・
「先生! 1日どのくらい活動するんですか??」
閑谷はまるでカメレオンがハエを取るように、勢い良く手を上げた。
「日が暮れるまでにしましょう」
いや、アバウトだな・・・・
「わかりました!!」
受け入れ早。
わかりずらいと思ってるの俺だけか?
本当に閑谷は何考えているかわからない・・・・
俺の周り、何考えてるかわからない奴が多いな。
家族には力を使いたくないし、閑谷に至っては使えないし・・・・
「信人・・・・もう食を堪能する時が終わるぞ・・・・はよ、貴様の弁当を食せ・・・・」
わかりやすい奴1人いたわ。
午後の授業も終わり、放課後の時間。
俺と閑谷はドアのところに看板を掛け、相談者を待っていた。
「田神君の事、信人君って呼んでもいい!?」
「え!? まぁいいけど・・・・」
「私のことも下の名前で呼んでよ!」
「そ、それは・・・・無理・・・・」
「え!? なんでよーーー!!」
俺と閑谷は待っている間、そんな他愛のない話をしていた。
女子を下の名前で呼ぶなんてそんな危ないことできるわけないだろ。
周りからなんて思われるかわからないし・・・・
ガラガラガラ・・・・
「そ、相談室ってやってる??」
俺が閑谷の要望に困惑していたところにさっそく第1村人・・・・じゃなくて第1相談者がやってきた。
本当に俺らに相談しに来る奴なんているんだ・・・・
たぶん、恋愛相談だろうけど。
・・・・告白の相談だったら、あえて俺が力使って失敗させてやろうかな。
「はい! やっています!! 信人君!! さっそく相談者の人だよ! よし頑張ろうー!」
そんなハイテンションで来られても困るな・・・・
俺は相談にきた女と目を合わせた。
(閑谷さん、やっぱめっちゃ可愛いな~ほんと、なんでこんな地味な男を指名したんだろ・・・・)
ほらな、これだ・・・・
まぁ、仕方ない。
とりあえずやってみよう。
信じてくれてる人のためにも。
「じゃあ、とりあえずここに座って!」
相談室と言っても教室だから、机を迎え合わせにしただけのものだ。
特別な飾りや施設はない。
「とりあえず、同じクラスだけど出会ったばかりだから名前を言ってください!」
「私は出席番号1番、赤柳瑞奈!」
「赤柳さん! これから1年間よろしくね!」
「うん! よろしく!」
赤柳と閑谷はそんな会話を交わすと、お互いの両手を合わした。
「じゃあ、さっそく相談内容聞いてもいいかな?」
「う、うん・・・・」
まぁ、恋愛相談だろうなこの感じ。
もじもじしてるし。
結構軽めの感じで、好きな人が自分の事どう思っているか知りたいとか、告白したいとかだろ。
「じ、実は・・・・」
もったいぶらずに早く言え。
どうせ、付き合えた後に俺らに惚気話を言いに来るんだろ。
あーやだやだ。
相談者はようやく覚悟を決めたのか、俺達の顔を神妙な面持ちで見て、一度息を吐くと、はっきりとした口調で悩みを打ち明けた。
「実は、彼氏が浮気しているみたいなの」
結構重かった・・・・