第2話 名前、そしてご指名
(心の声が聞こえない・・・・)
この力が目覚めてから今までの間、こんなことは1度もなかった。
「あのー私に何か用?」
俺は心が読めないことに動揺しすぎて、彼女のことを凝視していた。
「い、いやー綺麗な人だなーって思って・・・・」
俺は何を言ってるんだ。アホなのか? 絶対引かれてんじゃん。
力を使えば、どう思っているかまるわかりなんだけど、この人の心は読むことできないし。
「はは・・・そ、それは嬉しいなぁ・・・・!」
いや、これは力を使わなくてもわかる。引かれてるわ。だって顔がひきつってる・・・・
とりあえず弁明しなければ・・・・!
「いやいや、ごめん! これから隣同士だし、こんな感じの方が仲良くしやすいかなって・・・・」
よし! 結構うまく弁明できたんじゃないか?
「それは私も仲良くしたいけど、君の席多分1個後ろだよ」
「え?」
俺は急いで座席表を確認しに黒板の前へと向かった。
「ホントじゃん・・・・」
めちゃくちゃ恥ずかしい・・・・
絶対キモがられてる・・・・
「あ、ノブ。 同じクラスだね・・・・」
俺が羞恥心で押しつぶされているところに日菜が入ってきた。
まさか同じクラスだったとは・・・・
「日菜・・・・学校でその呼び方はやめてくれ」
「いいじゃん、別に・・・・」
日菜は俺から顔を背けて、自分の席に向かってしまった。
そうして、いつも通り日菜を不機嫌にさせていると、続々とクラスの人達が入ってきた。
とりあえず、席に戻るか。
担任が教室に来るまで、ガヤガヤとみんな席に座りながら新しいクラスメイトと談笑していた。
そうして、皆が友達作りを始めている中、俺はさっきの出来事が気になってしょうがなかった。
(俺の力が消えたのか? いや、そんな前触れもなく消えるか?)
そんなことを考えていると、正真が俺の方を向いていることに気が付いた。
正真はなぜか・・・・そう、ウインクをしていた。
なんでウインクなんかしているんだ?
俺はその理由を知るためと、自分の力があるかどうか確かめるために正真と目を合わせた。
(皆、俺のことかっこいいって!)
・・・・くたばれ。
違う奴にすればよかった。
正真には腹が立つが、どうやら力は消えていないみたいだ。
ということになると、やはりおかしいのは彼女のほうだ。
目が合っていなかったのか・・・・
いやしかし、確かに目は合っていたはずだ・・・・
向こうが逸らすはずもないし。
いや、彼女がよっぽどコミュ障という線もまだあるか・・・・
どうなっているんだ?
「こんにちはー」
俺が色々考えていると、担任と思われる眼鏡をかけた若い男が入ってきた。
「はい、じゃあ静かにしてくださーい」
男がそういうと皆は雑談をやめ、男に目を向けた。
「こんにちは。このクラスの担任をすることになった本間淳一です。どうぞよろしくお願いします!」
パチパチと自然と拍手が起こる。
いかにも生徒受けしそうな教師だな。
こういう奴ほど裏がきついんだよな。
これからこのクラスの嫌なところを見ていくとなると自然と気持ちが沈む。
「では、今日は残りの時間で自己紹介と役員決めをしていきます。まずは最初に自己紹介をしましょう! 1人ずつ前に出て、とりあえず名前と一言言ってくれれば大丈夫です。その後役員決めをして、今日は下校です。それでは、 出席番号1番の人からよろしくお願いします」
本間が手を教壇に向けながらそう言うと出席番号順に自己紹介が始まった。
「出席番号8番、植田日菜です。 部活は吹奏楽部に入っています。 よろしくお願いします」
日菜が自己紹介をするとクラスの男子がどよめいていた。
理由は簡単だ。可愛いからだ。
そんな可愛い日菜に飯を作ってもらっていることが知られたら、どんな風に思われることか・・・・
だから、日菜とは同じクラスにはなりたくなかった。
そしてどんどん順番は進み、ついにあの心の声が聞こえない少女の番になった。
彼女は自分の番になるとサッと席を立ち、スタスタと前に歩いて行った。
クラスの男子たちはもちろん、俺もその容姿端麗な姿に見とれていた。
彼女は深呼吸すると、はっきりと大きな声で話し始めた。
「閑谷一唯です! 好きな食べ物は羊羹です! よろしくお願いします!!」
閑谷一唯・・・・俺が心を読めない少女・・・・
この性格からして、コミュ障ということは絶対にありえないな・・・・
この時点で俺は彼女がとても気になっていた。
確かに綺麗だというのもあるが、それ以上に力を使えないことが気になっていた。
これは恋心ではない。
もし一目惚れだとしても、彼女の心の中さえ見れば、そんな気持ちは消え失せるだろう。
とりあえず、なぜ力が使えないのか確かめないと。
「田神君、田神君。次は君の番だよ」
「あっはい!」
考えすぎてて気づかなかった・・・・
俺は重い足取りで教室の前へと歩いた。
そして俺は俯きながら、誰にも聞こえないぐらいのか細い声で、自己紹介をした。
「田神信人です。よろしくお願いします・・・・」
俺がそう言うと少しの間、この教室に沈黙が訪れた。
俺はどう思われているか気になって前にいた人たちと目を合わせてしまった。
(なんて言った? 声ちっさ・・・・)
(この人ホントに正真君と友達なの?)
(友達になりたくはないかなぁ~~)
いつもこうだ。
俺が何かするたびに悪口を言われている。
実際には思われているだが。
そして実際に話すときは何も思ってないように話してくる。
みんな嘘、嘘嘘嘘嘘嘘ばっっっっっかりだ・・・・!
これだからクラス替えは嫌いだ。
自己紹介が全員終わると本間が立ち上がって話し始めた。
「では、ひと通り終わりましたので、次に役員決めをしたいと思います。この役員決めは学級委員に勤めてもらおうと思いますので、まず学級委員から決めたいと思います。やってくれる人はいますか?」
・・・・もちろん誰もいない。
学級委員は会議やら文化祭などで忙しいからだ。
会議がある分、文化祭実行委員会だけがやりたいやつもなかなかやりたいと言わない。
このまま誰も出ないで、本間が勝手に決めるのだろう。
「はい!」
そう思っていた矢先、閑谷が立候補した。
「私、やります!」
「ホントですか? ありがとうございます。このまま誰もいなかったら僕が勝手に決めちゃうところでしたよ。皆さん、閑谷さんでいいと思うなら拍手を!」
本間がそういうとパチパチとみんな拍手をした。
閑谷はまたスタスタと前に行き、
「不慣れな点も多くあると思いますが、よろしくお願いします!!」
と深く頭を下げた。
「1人は決まりました。あと1人、男子でやってくれる人いませんか?」
さっきとは裏腹に今まで我、関せずだった男子達がそわそわし始めた。
当然だ。こんな絶世の美女と2人っきりで作業ができるのだ。
これでそわそわしない男子はいないだろう。
だが、誰も手を上げない。
みんな、学級委員としての仕事が面倒くさいのだろう。
「・・・・閑谷さん、誰か指名したい人いますか?」
本間は誰も立候補する人がいないと察したのか閑谷にそう問いかけた。
いやいや、指名するのは恥ずかしいだろ。
そんなのその子と一緒にお仕事した~いって言ってるのと同じじゃないか。
俺はそう思っていた。
「う~ん、そうですね~じゃあ、田神君で!」
おぉ、まさかの指名。
閑谷は大胆なんだな。
ん? 誰だって?
「では、田神君、よろしくお願いします!」
って俺かよ・・・・