第1話 読める少年と読めない少女
人は嘘でできている。
誰しも裏と表の顔があり、それを隠して生きている。
自分の本当の気持ちを言えることのできる他人なんて、ほとんどいないだろう。
家族にもなかなか本当の気持ちを言うことは難しい。
そう考えると、他人が自分のことを本当はどう思っているか知りたくならないか?
そう、例えば好きな子が自分をどう思っているか知りたくなるだろう?
もしかしたら、俺の事かっこいいって思ってくれているかも!って。
先に言っておこう。そんなことはない、断じてない・・・・!
好きな子はだいたい――――
(あいつ、私のことめちゃくちゃ見てきて、キモイんだけど・・・・)
――――そう思ってる・・・・え? そんなことない? どうしてそんなこと言えるのかって?
理由は簡単だ。俺は体験者、だからだ・・・・
俺は田神信人、16歳。
来月から高校2年になる都内の高校に通う普通の高校生・・・・と言いたいところだが、普通ではない。
「田神くーん。今日、日直の仕事任せていいかな?」
この俺に話しかけてきた人は同じクラスの中谷さん。
表ではいい人だ。そう、表では。
「今日、おばあちゃんのお見舞い行かないといけなくて~面会時間短いのよ~」
俺はそういう中谷さんの目をじっと見つめた。
これは別に彼女に見とれているとかそういうのではない。
これは確かめているのだ。
彼女の真意を・・・・
(早く中本君とカラオケ行きたいんだから、日直の仕事なんかやってられない!)
お分かりいただけただろうか。
この女、嘘をついている。
そう、俺は中学の頃から他人の目を見ると、その人の心が読める非日常的な高校生だ。
「それは大変だね。日直の仕事は俺がやっておくから、行って大丈夫だよ」
「本当に! ありがとう!」
(ふふっ、田神ってちょろいわね)
「じゃ、また明日!」
中谷さんはそう言うと、急いで教室を出ていった。
「嘘つきしかいないな・・・・」
俺はこの力のせいで人を信用できなくなっていた。
初めてこの力を手に入れた時は素直にうれしかった。
漫画をたくさん読んでいた俺は超能力というものに憧れていたのだ。
まぁ、俗に言う中二病だった・・・・いや、認めないでおこう。
ただ、この力は俺が憧れていたものとは遥かにかけ離れていた――――
俺は中学の時、友達がたくさんいると思っていた。
いや、正確にはそう勘違いしていたというべきだろう。
小学生の頃、わんぱく坊主だったためもあるがコミュニケーション能力は高い方だという自負があった。
だから、引っ越してきた後も友達作りに苦労はしなかった。
この力を手に入れた俺はさっそくこの力を使ってみることにした。
最初は友達の恥ずかしい考えをのぞいてやろうとわくわくしていた。
だが、実際はそんな可愛いものではなかった。
(こいつ、めっちゃ絡んでくるじゃん。うざいんだけど)
(ちょっと話しただけで友達面やめてほしいな)
――――そんなことを思われていた・・・・
俺はそれ以来、もともと明るいはずだった性格を表に出さないように押し込んだ。
力を使わなければいい話だが、目を合わせることがトリガーのため、使わないというのは不可能に近い。
話すときは眉間を見るようにしているが、気を抜くと自然と目を合わせてしまう。
まぁ、あと単純に自分がどう思われているか気になるから使っているというのもあるかもしれないが・・・・
「やっほー信人ー元気にしてるー?」
日直の仕事をしていると隣のクラスの野原正真が入ってきた。
こいつは唯一信頼している男だ。
正真は裏表が全くなく、自分に正直なやつだった。
だから友達になった。
正真の心を読み、好きなアイドルの写真をあげて。
「1人で日直の仕事やってんだよ。はぁ~もう終わりにするか・・・・」
「だめ、だめ! 俺も手伝うから、ちゃんとやるぜよ!」
「その語尾なんだよ・・・・」
「ふふっ、龍馬ぜよ!」
「あ、そう」
チャラついた見かけにもよらず、真面目でとてもいい奴なのだが・・・・とにかくバカだ。
見かけ通りのバカだ。
正真が手伝ってくれたおかげで日直の仕事も終わり、2人で帰り道を歩いていた。
「明日終業式で、来月にはもう2年生か~早いね~高校生も」
「そうだな。正真と同じクラスになれればいいけど」
「なんだ、なんだ~そんなに俺の事を愛しく思ってくれているのかぁ~だが、すまない! 俺は根っからの女好き!」
「わかってるし、俺も女好きだから」
正真とそんな中身のないやり取りをして家路に就いた。
家に帰ると隣に住む、植田日菜が晩飯を作っていた。
こいつは同じ高校に通う同級生で、俺がこっちに越してきてからの仲だ。
俺は父親と2人暮らしをしている。
だが、暮らしてはいるが父は忙しい人でほぼ家に帰ってこない。
そこで隣人の日菜の家族が俺の面倒を見てくれている。
家族同然の関係だ。
・・・・勘違いしないでもらいたいが、決して日菜に恋心を抱いてはいない。
ましては日菜も俺に恋心を抱いてはいない。
中学の時にもしかしたら、こいつ俺のこと意識してんじゃね? と思って力を使ってみたが、その時の日菜の心の声は
(ノブ、鼻毛でてる・・・・)
・・・・だった。
いや、別に悲しくないけど・・・・別に期待もしてないけど・・・・ でももうちょっと意識してくれても・・・・
まぁ、というわけで日菜とは何にもない。
「ノブ、次のクラスの担任、誰先生がいい?」
「・・・・誰でもいいかな」
「そう、一緒のクラスになれるといいね・・・・」
「嫌だよ。毎日のように顔見てるのに学校でも見たくない」
「そんなひどいこと言わなくてもいいじゃん・・・・」
「す、すまん・・・・」
俺は日菜の家族や父親には力を絶対に使わないようにしている。というより使いたくない。
家族も信用できなくなってしまったら嫌だからだ。
まぁ、日菜には1回使ってしまったが・・・・
「私、もう帰る。食べ終わったら自分で片付けて」
ガタン!! と大きな音を立てて勢いよく立ちあがり、日菜は自分の家に帰っていった。
どうやら怒らせてしまったようだ。
日菜は俺が冷たいことを言うといつもこうだ。
けど、明日になればいつもけろっとしている。
正直何を考えているかわからない。力を使えばわかるが、嫌いになりたくない。
日菜に言われたとおりに食器を片付け、就寝した。
春休みは特に何もすることもなく、俺は高校2年になった。
日菜と一緒に朝飯を食べ、日菜は部活の朝練があると言って先に家を出ていった。
「さてと、俺もそろそろ行くか。」
はっきり言ってクラス替えは嫌いだ。
新しい出会いがあるたびに力が発動し、また人を嫌いになる。
そんなことをうだうだ考えているうちに学校に着いた。
うちの学校は始業式の後に元クラスの担任から新しいクラスが発表される。
「田神はC組だ」
(C組か・・・・正真いるといいな・・・・)
階段を上るとそこには正真がいた
「正真何組? 俺、Cだったんだけど」
「ふふっ、ふぁあはっはっはーーー! 同じだぜ・・・・」
「おぉ、やったな」
「しかと喜べ! この俺と同じクラスになれることを誇りに思うがよい!」
「はい、はい」
そんな中身のない会話をしながら新しい教室へと向かった。
教室に着くともうすでに何人かが座っていた。
(俺の席はっと・・・・真ん中の列か・・・・)
俺の席の隣にはすでに女子が座っていた。
明るい栗色の髪に、大きな瞳。
そのきれいな横顔に俺は立ったまま見とれてしまった。
すると、その女子も俺の目線に気が付いたのか、俺の方をバッと向いた。
あまりに突然だったため、目が合ってしまった。
(はぁ、さっそく目があったな・・・・またキモイとか思われてんだろうな・・・・って、ん? どういうことだ・・・・?)
ここでおかしなことが起きた。
(この子の心の声が聞こえない・・・・)