第17話 月隠れ
生徒総会が終わり2日経った。
あの日以来、閑谷と岸間さんは、すっかり仲良しになり、 一方で鏡は後ろ指を指されるようになっていた。
やっぱりこうなるか・・・・
「信人~今日、一緒に勉強しない??」
俺がそんなことを気にしていると正真が突然声をかけてきた。
そう、生徒総会が終わってホッとしているのも束の間。
1週間後には中間テストが迫っていた。
俺は別に頭が悪いわけではない。
ただ全然勉強しないだけだ。
やればできる。きっと・・・・
力を使えればカンニング出来るので、勉強しないで済むのだが、何せ目が合わないと発動しないため全く役に立たない。
せいぜい、教科担任がテストの訂正をしに来たときに、まぐれで目が合うぐらいだ。
そんなわけで勉強は必須だ。
「いいけど、どこでやるんだ? お前の家??」
「いや、信人の家!」
こいつ自分が誘っておいて、人の家を使うのか・・・・
俺の家がいつでも人を上げていいと思っていやがるな。
まぁ、別にいいけど。
「はぁ~いいよ。直で来るの?」
「おう、一緒に帰ろう!」
俺が少し不機嫌気味に承諾すると、ちっとも悪いと思ってないような満面の笑みでそう答えた。
しかも、本心もそのまんまなんだよな・・・・
しょうがない奴だ。
「じゃあ、何か買っていくか」
「オッケー、日菜ちゃんの夕飯楽しみだなー」
正真はそう言いながらカバンを自分の肩にかけた。
「え、お前飯まで食べていくつもりなの・・・・?」
なんて図々しい奴だ。
「もちろん! 日菜ちゃんにはもう言ってあるし!」
いつの間に・・・・
その後、俺と正真は俺の家の近くにあるコンビニで飲み物と菓子をテキトーに買って家に向かった。
「おじゃましまーす!!」
正真は意外かもしれないがきっちり脱いだ靴をそろえ、邪魔にならないように端に置く。
当たり前といえばそうだが、そんなこともできない奴は世の中にはたくさんいる。
正真はその辺の礼儀はちゃんとしていた。
だから、あまり敵を作らないのかもしれない。
空気は読まないことは多々あるが・・・・
「あ、正真君、いらっしゃい・・・・!」
俺の家にはすでに日菜がエプロン姿で夕飯の準備をしていた。
「あ、日菜ちゃん、こんにちは! 悪いねー! 2人っきりの時間に邪魔して!」
正真は手のひらを合わせ、嘲笑しながら謝った。
ほら、空気を読まないというか、なんというか・・・・
「べ、別に私とノブはそんな関係じゃ・・・・」
あなたも顔を赤くして恥ずかしがるんじゃない。
こっちまでなんか気まずくなるだろうが
「ほら、からかってないでとっととやるぞー」
「はいはい~日菜ちゃんも一緒にやろうよ! 教えて欲しいし!」
「うん、もう少しで準備終わるから待ってて・・・・」
そして、俺達3人は試験勉強に取り掛かった。
「ここの問題は・・・・」
基本的に正真と俺はバカだから・・・・いや、俺は日頃の怠惰が原因で日菜が俺達に教えてくれていた。
「あーー! なるほど!! 日菜ちゃん教え方上手いねー!」
日菜は学年上位に常にいる。
頭がいいというか、努力している。
中学の時は、俺の方が順位ははるかに上だった。
高校受験の時も、10月の時点で俺たちが今通っている高校に受かるのは無理だと言われていた。
ただ、日菜はそんな言葉には耳を向けず、俺が塾に行くといつも先にいて、遅くまで勉強していた。
今の日菜は努力の賜物だろう。
「そ、そうかな。正真君も飲み込み早いよ! 本当は頭いいんじゃないの?」
日菜がそう言うと正真は目を丸くし、固まっていた。
「いや、そんなことないよ・・・・それより少し休憩にしない? もう7時だよ~疲れちゃった~」
正真は脱力して背もたれにもたれかかった。
「そうだな、日菜、ご飯にしよう」
「わかった。もうできるから、机の上片付けて」
「りょーかい、ほれ、正真も手伝え」
「は~い」
今日は客人もいるということでいつもより豪華だった。
たまには俺も作らないとな。
「すごーい! 全部美味! やっぱり日菜ちゃんは将来いいお嫁さんになるね~信人は羨ましいな~」
「だ、だから、違うって・・・!」
日菜は着ていたエプロンをギュッと握り、顔を赤らめていた。
このやり取り飽きたな・・・・
ガチャ
俺が2人のやり取りを冷めた目で見ていると、玄関が開いた音がした。
父さんが帰ってきたか・・・・
「ただいま、日菜ちゃん、いつもありがとう・・・・それに・・・・」
案の定、父さんが久しぶりに帰ってきた。
日菜に感謝を伝えると、正真に目を移した。
「お邪魔してます!」
父さんと正真は意外にも会ったことがない。
名前は知っているが・・・・
「正真君か、いつも信人と仲良くしてもらってありがとう・・・・」
父さんはなんだか申し訳なさそうにしていた。
それを言われた正真も、顔をしかめていた。
「父さんはご飯食べてきたから、ゆっくりしてくれ・・・・」
父さんはそう言うと階段をスタスタと上がっていった。
というか、よく正真ってわかったな。
顔、知らないのに・・・・
あ、俺に正真しか友達いないって知ってたわ。
なんだか、悲し。
そのあとご飯を食べ終わると、また2時間ほど勉強し、勉強会は終了した。
「ふぅ~今日はたくさん勉強したぞ~」
正真はそう言いながら伸びをした。
「別に明日も来てもいいんだぞ」
俺は3人いるとはかどらないと思っていたが、意外にも1人でやるより集中してできた。
普段からちゃんと勉強している日菜はもちろんだが、正真も無駄話することなく集中していた。
多分2人に影響されて、こちらも集中できたのだろう。
「う~ん、そこまで迷惑になるわけには・・・・」
正真は意外にも渋った。
すぐ来ると言いそうだったが・・・・
「父さんは明日からまたいなくなるから、好きに使っていいぞ」
すると、急に風呂から上がった父さんがドアの前に立っていた。
そしてそれだけ言い残すと、コンビニでも行くのか玄関に向かって歩いて行った。
「だってさ」
「・・・・じゃあ、明日もこよ! というか、テスト終わるまで行こっと!」
まさかの1週間毎日来るつもりかよ・・・・
「だめっすか?」
俺がなんとも言えない顔をしていると正真は残念そうな顔をしながらそう問いかけてきた。
まぁ、いいっか。
1人でやるよりよさそうだし。
「いや、別にいいよ」
「やったー!」
こうして、勉強会がテストまで毎日開催されることが決定されたのだった。
「じゃあ、今日は帰りますわ! また明日お願いします! それと明日からは俺が夕飯作るよ!」
「お、おう」
正真はそう言い残すと、勢いよく玄関に向かっていった。
「俺、正真を途中まで送ってくるわ」
「うん、いってらっしゃい」
日菜にそう言うと、俺は急いで玄関に向かった。
玄関に着くと、ドアのガラスの部分から、外で正真と父さんが話しているのが見えた。
その2人の顔はなんだか・・・・真剣だった。
「・・・・見つかりましたか??」
「いや・・・・」
ここからだあまりよく聞こえないな・・・・
俺はそう思い、ドアを開けた。
「そうですか・・・・あ、信人。どうした?」
俺が来ると正真は何事もなかったように微笑んだ。
そして、やはり力は発動しない。
「いや、送っていこうと思って・・・・」
「あー大丈夫、大丈夫! そんな遠くないし、これでも男ぞ?」
正真はそう言うと、対して筋肉ないのにマッスルポーズをした。
「それならいいんだけど」
「おう! じゃあ、また明日な!」
「あ、ちょっと」
正真はそう言うと走っていってしまった。
何の話してたんだよ・・・・
「先に中に入ってるぞ」
俺が玄関の前に突っ立っていると父さんも素知らぬふりで俺の横を通り、家の中に入っていった。
俺に何か隠しているのか・・・・
半月でも闇夜を明るく照らす月が雲に隠れていくのを眺めながら、俺は物思いにふけた。