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ウソでありふれた世界でお悩み相談室!  作者: ココロセ サトシ
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第16話 決着、疑問

 なんでここに閑谷がいるんだ!??

 俺は驚きのあまりポカンと口を開け、閑谷の事を凝視していた。


「ふふ、なんでここにいるんだって顔をしているね。まぁ、その説明は置いといて・・・・」


 閑谷は固まっている俺にそう言うと、生徒会の机の上にあった予備のマイクを勢いよく取った。


「あ、あ~マイクテスト、マイクテスト。よし、通ってる・・・・」


 閑谷は手に持ったマイクがちゃんとスピーカーから出力されるのを確認した。

 そんな閑谷を、前にいる生徒達、そして生徒会、先生は俺と同様に何が起こっているか分からない様子で注視する。

 閑谷はそんな俺達を気にも留めず、元気よく喋り出した。


「鏡さん! 質問ありがとうございます! 私は今居眠りや談笑をしている先生方の代理の回答者、閑谷と申します」


 閑谷は部外者を止めに来る先生たちに釘をさすように述べた。

 どうして、あいつが代理の回答者なんだよ・・・・

 絶対自分勝手な行動だろ・・・・

 後で怒られても知らんぞ・・・・

 俺の心配も知らず、閑谷は鏡と話し始めた。


「鏡さん。あなたの言うことはよーくわかります。私も1人の女としてもっと学園生活を華やかに送りたい!」


「そうでしょ! そうでしょ!」


 おいおい、同調してどうする・・・・

 閑谷は鏡に反論するわけでもなく、鏡の意見に賛同していた。


「スカートを短くしたい! 髪をもっといじりたい! お気に入りのコスメを使いたい! オシャレしたい! でも私は最近気づいたんです・・・・そんなことに意味はないって」


「え?」


 閑谷は急に手のひら返しをした。

 どうやら鏡を擁護するわけではなさそうだ。


「鏡さん、今スカート短いですよね?」


「う、うん・・・・」


「今、膝が隠れるように、私と同じくらいにしてもらえます?」


 鏡は閑谷にそう言われると、素直にスカートの丈を閑谷と同じようにした。


「お、おわったけど・・・・」


 閑谷はそっとマイクを持っていた手を下ろすと、息を大きく吸い込み


「かわらねぇぇぇぇぇえええええーーーーー!!!!」


 体育館に響き渡るほど大きく、そう叫んだ。


「何が違うんですか。スカートの丈が短かろうが長かろうが、大差はありません。確かに膝より下の丈だった場合変化はあるかもしれません。でもうちの校則は膝が隠れる長さ程度が原則です。それに少しぐらい膝が見えても先生方は何も言いません。ただ鏡さんの長さは短すぎます。膝が少し見えるぐらいの長さで十分じゃないですか? それでも鏡さん、かわいいですよ」


 確かにそうだ。俺もそう思う。

 というより、男だったらそう思うのでは?

 閑谷は意外と男よりな考え方なのだろうか?


「それに髪色ですが、私も赤髪とか興味ありますし、インナーカラーとかオシャレだなーやってみたいなって思います。でも、それは高校を卒業してからいつでもできます」


「私は今からやりたいの! 学園生活をもっと華やかに送りたいの!」


 鏡は閑谷の怒涛攻めに反論できなかったのか、ただそう叫んだ。

 閑谷はそんな鏡を見て、さらに語り続ける。


「鏡さんの学園生活は髪色1つでそんなに変わる安っぽいものなんですか? 毎日一緒にお弁当を食べてくれる友達がいて、一緒に笑ってくれる友達がいて、一緒に遊んでくれる友達がいて・・・・それがあれば十分華やかだと思うんですけど?」


 閑谷の口撃に鏡は苛立ちを露わにしていた。

 しかし、鏡は何かを思いついたのか、顔をハッとさせ、それから自信満々な顔をし、腕を組みながら喋り出した。


「校則は個性を奪うものじゃん! 高校生らしくしなさいとか、ただ先生達がお堅い老人ばっかで、今の若者が理解できないだけでしょ!? 個性を奪うなんて、極悪非道ね!」


 そう言い終わると、鏡はどうだと言わんばかりに口元を緩ませた。

 そんな言葉を聞き、閑谷は顔を俯かせ、そのまま語り出す。


「個性を1番否定している人がよく言うね・・・・!」


 落ち着いた口調でも憤怒しているのがよくわかった。


「は? なに言ってんの?」


「あなた、人をいじめたことあるでしょ? たかが暗い性格ってだけで・・・・」


「そんな、こと・・・・」


 もちろん、俺はそんなこと聞いたことない。

 鏡麗奈は誰にも優しいというのが、全校生徒の持つ彼女に対するイメージだろう。

 けど、鏡は思い当たる節があるようだ。


「もし髪色をなんでもありにしたら、君、髪色が気に入らないってだけでいじめるでしょ。私はそんなことをさせないために校則はあるんだと思う。個性を奪うためじゃなくて、個性を否定させないためにね」


「ぐっ・・・・」


 鏡は閑谷の言葉になにも反対論を提示できないのか、言葉を詰まらした。


「これは私の解釈に過ぎないけどまだ何かある?」


 鏡は視線を落とすと、チラッと岸間さんの方を見た。

 こいつ、まだ何かするつもりなのか・・・・?


「岸間さん、あなたはどうだと思うの? やっぱり校則は変えるべきよね?」


 鏡は1年前と同じようなことをやろうとした。

 岸間さんを校外学習の時、劣等感に追い込んだように・・・・

 どこまで外道なんだ。


「私は・・・・」


 岸間さんは特にうろたえることもなく、冷静に語り出した。


「鏡さんの言うこともわかりますし、閑谷さんの言うこともわかります。私だけでは判断できません。ですので、これは生徒総会。生徒の皆さんで決めましょう。皆さん顔を伏せてください」


 岸間さんが芯の通った声でそう言うと、生徒達は素直に従い顔を伏せた。


「では、校則は今のままでいいと思う人は挙手を」


 岸間さんがそう言うと生徒の大半は手を上げた。


「な!? なんでよ! おかしいじゃん! だいたい・・・・」


 もう、誰にでも優しい鏡麗奈像はそこにはなかった。

 ただ、この結果に納得できずただ醜く喚き散らす、鏡麗奈がそこにいた。

 そして、俺はふとあることを思い出し、おもむろに喋り出した。


「もう1つ質問です。いいかげん、なげぇよ。早く帰らせろと思う方は手をお上げください」


 俺がそう問うとほぼ全員の生徒が手を上げた。


「な・・・・」


 さっきまで見苦しくがなり立てていた鏡は動揺し絶句していた。

 俺がさっき力で聞こえた中に「帰りたい」って思った奴がいたため利用させてもらった。


「では、校則は先生と相談する必要がないということでよろしいですね? 鏡さん?」


「な・・・く、くそ!!!」


 綺麗な顔をしているのにも関わらず、汚い言葉を吐いて鏡は自分の席に戻っていった。


「じゃあ、私も席に戻るね!」


「お、おう。ありがとう」


「ありがとうございます・・・・」


 閑谷はそう言うと早歩きで自分の席に戻っていった。

 そんな閑谷を岸間さんはどこか浮かない表情で見ていた。

 どうしたんだ・・・・?

 鏡の後の質問者への回答は時間が押しているため、後日紙にまとめて配布することになった。

 こうして波乱万丈な生徒総会は幕を閉じたのだった・・・・


 放課後。

 打ち上げということで、俺と岸間さんと閑谷はC組の教室に集まっていた。

 閑谷が持ってきた飲み物で、乾杯をするとすぐに鏡の件の話になった。


「いや~鏡さんにはびっくりしたね~予定にない質問してくるとは~」


 閑谷はそう言うと自分の飲み物を一気に飲み干した。


「お前、大会じゃなかったのか?? なんであの時いたんだよ?」


「大会は延期になったんだよ。2回戦までやったんだけどその後また雨が強くなってきちゃってさ~3回戦以降は後日またやるんだ~~~~~」


「それでその後生徒総会に途中から参加したと・・・」


「そういうこと!」


 閑谷は俺に向かって指を指し、また飲み物をグビッと飲み干した。


「だからってあそこで乱入してこなくてもよかっただろ」


「だって、信人君は頼りないし・・・・」


 閑谷はそう言うとチラッと俺の事をジッと見てきた。


「ぬ、なにも言い返せない・・・・」


「それに岸間さんが可哀想だった・・・・」


 閑谷はそう言うと少し悲しそうな顔をしながらコップの中身に目線を落とした。


「岸間さん、ごめんね・・・・私が出れていればあんなことにはならなかったのに・・・・」


「い、いえ・・・・」


 岸間さんはさっきからへこんだ面持ちをしている。


「どうしたの、岸間さん??」


 閑谷はなんの躊躇もなく聞いた。

 そして、岸間さんは内に秘めた自分の思いを打ち明け始めた。


「私、生徒総会で内向的な性格な自分を変えるんだってそう思ってたんです。でも・・・・鏡さんに予定のない質問をされたときに頭が真っ白になっちゃって・・・・それで結局閑谷さんに助けてもらって・・・・自分が情けなくてしょうがないです・・・・」


 岸間さんは目に涙を浮かべた。

 岸間さんは本気で自分を変えたいと思っていたんだ・・・・

 それに比べて俺はなにも変わっていない・・・・

 力が発動するとすぐにダメになる。

 岸間さんがひどく落胆をしている様子を見ると、閑谷は岸間さんの肩に両手を添えた。


「誰だって失敗することはあるし、失敗は成功の元っていうじゃん! それに私は別に今の岸間さんでいいと思うよ! 最後、あのままだったら鏡さんに私、押し切られてたと思うし、岸間さんが全校生徒に多数決取ってくれたから、あの場を収めることができたんだよ! 自分で内向的って言ってるけど全然そんなことないと思うよ!」


 閑谷は目を輝かせながら、熱く岸間さんを慰めていた。


「そう言ってもらえて嬉しいです・・・・」


 岸間さんは閑谷にそう言われると、ほんの少しだけ表情を明るくさせた。


「ねぇ! 岸間さん! 私たち友達になれないかな?」


「え?」


 閑谷は突拍子もないことを岸間さんに告げた。


「私、一緒にご飯食べてくれる人いなくてさ・・・・いつも1人で食べているんだよね・・・・だから岸間さんと一緒にご飯食べたい!! だめ、かな・・・・?」


 岸間さんは少し頬を紅潮させてにこやかに


「はい! お願いします! えへへ」


 そう言った。

 そんな2人は俺から見ても微笑ましかった。

 ただ、俺には少し罪悪感がある。

 それは鏡に対してだ。

 最後の多数決。

 あれは集団で1人に対する攻撃だった。

 あれは本当によかったことなのか?

 確かに鏡はクソ野郎だった。

 でも、もっと違う解決策があったんじゃないか?

 俺は微笑ましく笑いあう2人を眺めながら、心に疑問を抱いていた・・・・


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