第13話 悪意ある善意
「岸間さんがいいと思います!」
鏡は俺の予想通り、生徒総会の議長に岸間さんを推薦した。
俺が当てることができたのは今、力を使ったからというわけではない。
今まで力を使ってきたからだ。
こういう表ではいい奴ほど、いざという時に自分を優先する。
これはあくまで、俺が出会ってきた奴は全員そうだったから言っているだけであって、もちろん本当にいい奴もいるだろう。
けど、そいつらも俺が力を使っていないところで自分優先の考えがあるはずだ。
本当の善人なんかいない。
俺はそう思う。
ただ自分に嘘をついて自分が善人だと思い込んでいるだけだ。
「私、今日は閑谷さんの代理で来ているだけなので、それはできないと思うのですが・・・・」
確かにそうだ。
岸間さんは閑谷の代理で来ているだけであって、学級委員ではない。
岸間さんがそう言うと生徒会長らしき奴が今まで閉じていた口を開け、偉そうな口調で説明しだした。
「大丈夫ですよ。あくまで議長を全校生徒から選ぶのは手間がかかるため、学級委員から選出しているだけであって、学級委員以外が議長をやってはダメだという規則はありません。ですから、あなたがやっても何の問題ありません」
会長は説明し終わると、どこか誇らしげに足を組んだ。
「それと議長は同じクラスの人同士がやるので、決して1人ではありませんし、それに台本はこちらで用意するので何も心配いりませんよ」
会長の補足をするかのように、眼鏡をかけたもう1人の生徒会の女がそう付け加えた。
同じクラス同士ということは俺もやるということか・・・・
俺は議長をやることは嫌だが、今はそんなことどうでもよかった。
というのも、俺はこの空間に嫌気がさしていたのだ。
俺は今までのやり取りの中で生徒会の連中を含め、多くの人と目が合い、そのたび力が発動した。
そいつらの心の声は
(早くやれよ・・・・)
(さっさとやります宣言しろ)
(帰りてぇ・・・・)
(めんどくさいな・・・・早くやるって言えよ)
こんな感じだ・・・・
誰もが自分ではやらずに、他人任せ。
そのくせ思っていることは絶対に口に出さない。
その分対象にされている人間に対する目線は鋭く、陰湿なものになっていく。
誰でもそんな目で見られたらやるしかないだろ・・・・
岸間さんはきっとやりたくないのだろう。
もともと注目されるのが苦手そうだし、今も手が震えている。
なんだこの胸糞悪い場所は・・・・
ここはとりあえず受け入れて、閑谷に任せるのが適作だろう。
「とりあえず、2年C組がやるってことでいいので、今日休んだ閑谷とも相談して岸間さんがやるかやらないか決めてもいいですか? 今日は代理だけでいいって言われていたのにいきなりやれっていうのはあんまりじゃないですか?」
俺がそう言うと生徒会の連中は目配せをし、全員が同意したように頷きあうと進行役の眼鏡女が喋り出した。
「わかりました。ただ時間があまり残っていないので、明後日の放課後までに決めてもらっていいですか? 決まったら生徒会室に報告しに来てください」
「了解です」
俺は生徒会の承諾を得ると、岸間さんの肩に手を置いて、席に着くよう促した。
「では、他に何か連絡、または質問がある方はいますか?・・・・いないようですのでこれで第2回学級委員会議を終わりにします。皆さんお疲れさまでした」
こうして、ようやく会議は幕を閉じた。
岸間さんを推薦した鏡は終始ニコニコしていた。
そして会議が終わると、岸間さんには何も言わずにすぐに教室を後にした。
最後まで鏡と目が合わなかったな・・・・
1番どう思っているか知りたかったんだが。
岸間さんは疲れたのか、会議が終わっても下を向いて座っていた。
「岸間さん、大丈夫?」
「はい、大丈夫です。少し疲れちゃって・・・・それとすいません。ご迷惑おかけして・・・・」
俺が声をかけると岸間さんは申し訳なさそうに謝ってきた。
「いやいや、謝る必要なんてない。鏡が岸間さんを指名しなければこんなことにはなってないし、岸間さんのせいじゃないよ。それに俺は確かに議長やるのは嫌だけど、閑谷は快く受け入れてくれると思うし、あの場にいたら自分からやりたがったんじゃないかな。多分」
そう多分・・・・閑谷はそういう奴だ。
けど、それは表面上であって本性はわからない・・・・
「そう言ってもらえるとありがたいです・・・・」
「とりあえず、今日は帰ろう。明日の放課後、教室に残ってくれる? またその時議長の件を閑谷に話そう」
「わかりました。それじゃあ、今日はこれで・・・・」
岸間さんはカバンを手に取り、教室を出ていった。
「俺も帰るか・・・・」
翌日。
昨日約束した通り放課後に俺と閑谷、岸間さんは教室に集まっていた。
「閑谷さん、本当にごめんなさい!!」
集合するとすぐに岸間さんは閑谷に謝罪した。
岸間さんと目が合ったことがないので確証はないが、本当に申し訳なく思っているっぽい。
「いや、全然謝ることなんてないよ!! 私は元々やろうと思っていたし!」
「本当ですか??」
「ホント! ホント! だからむしろ感謝したいくらい!」
閑谷はそう言うと岸間さんの手を両手でギュッと握った。
「というかその鏡さん、だっけ? なんで岸間さんを指名したの? 特に理由も述べてないんでしょ?」
閑谷は疑問そうに腕を組み、首を傾げた。
「どうせ、自分に回ってこないように、あるいは早く終わらせたかったんだろ」
「それは違います!! 鏡さんは優しい人、ですから・・・・」
俺がそう言うと岸間さんは食い気味でそれを否定してきた。
「でも、前に何かあったんでしょ?」
「え? それは・・・・」
「岸間さん、教えてくれる?」
「はい・・・・わかりました」
閑谷がそう言うと、岸間さんは渋々それを承諾した。
別に無理に話させる必要もないけどな。
「1年の校外学習の時に、私の班と鏡さんの班の行きたい場所が被ったんです」
「場所って被っちゃダメなんだっけ?」
「人数制限があるところもあった気がする」
「そうなんです。たまたま被ったところが人数制限あるところだったので・・・・」
「それでどうやって決めたの? やっぱりじゃんけん?」
閑谷はそう言いながら、手でカタツムリを作っていた。
それじゃんけん関係ないじゃん・・・・
「私もそうだと思ったんですけど、じゃんけんは実力差が出るということで・・・・」
そんなのないだろ・・・・
まぁ、俺の場合目さえ合えば勝てるけど。
「じゃあ、結局どう決めたの?」
閑谷がそう聞くと、岸間さんは浮かない顔をした。
「それは・・・・鏡さんが全部決めました・・・・」
ん? どういうことだ?
「どういうこと?」
閑谷も今の発言が理解できなかったようだ。
「えっと・・・・簡単に言うと鏡さんがお願いしてきたんですよ。「「今度被った時は譲るから今回は私たちに譲って」」と・・・・」
なんだそれ、不公平にもほどがあるだろ
「でも、それで譲ることにはならないよね? だってみんなでどこかに出かけることなんて片手で数えられる程度だし、絶対にまた今度被るとは限らないよね??」
閑谷の言うとおりだ。
「そうなんですけど、鏡さんのいるグループはクラスでもカースト上位に君臨するものだったので、その後の報復が怖かったのもあって承諾しました・・・・ただ鏡さんはそんなグループにいても私のような暗い人にも気さくに話してくれるんです。」
これは非常にたちが悪いものだ。
おそらく鏡は岸間さん達のそう言った心理を読んで、そうお願いしたのだろう。
もし、仮に鏡が本当に岸間さんの言う通りの善人だとしたら、自分の悪意が善意だと勘違いしているアホだ。
根っからの善人などいてたまるか。
「そうなんだ~そんなことがあったのか~でも大丈夫! 議長は私達がやるし、なんの心配もないよ! にっ!」
閑谷はそう言うと腰に手を当てて、歯をみせて笑った。
俺はやりたくないんだけどね・・・・
「そう言っていただけてありがたいです・・・・」
岸間さんはまだ申し訳ない気持ちがあるのか俯きながら微笑んだ。
「で、生徒総会はいつなんだっけ?」
「5月15日だよ。お前も寝てたのか?」
「信人君と一緒にしないでよ! 15ねー・・・・5月15日!?」
閑谷は大きい声を出して驚き、先ほどまで明るかった顔がどんどん青ざめていった。
「ど、どうした?」
「私・・・・議長できない・・・・」
「え・・・・・」