第11話 他学年からのお悩み相談
俺達学級委員は決して、ハッピーエンドではないが無事1件目の悩みを解決することができた。
そんな最初の依頼から早2週間がたち、俺たちは・・・・・・
暇を持て余していた。
いや、全然悩み相談来ないじゃねぇか。
何が、「「生徒の悩みを解決してほしいのです」」だよ。
クラスの奴らは悩みなんてないと主張するかのように、清々しい顔をして楽しそうに生活している。
確かに悩みがないというのはいいことだが、こっちは放課後の時間を取られてるんだぞ・・・・
俺は心の中でそんなことをぼやいていた。
教室には俺しかいない。
というのも閑谷は部活に所属していた。
本人になんの部活に入っているが聞いたことはないが、正真が言うにはテニス部に所属しているらしい・・・・
言うまでもないが、俺は部活には入っていない。
理由はいつも通りだ。
人がいかに本音で話していないか、いかに嘘でできているか思い知らされる。
今頃1年生は仮入部期間か・・・・
どの部活に入るかわくわくしながら悩んでいるんだろうな・・・
窓の外を眺めると、部活動勧誘をしている人で溢れかえっていた。
俺には縁のない光景だな・・・・
コンコン
俺が物思いにふけっていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
「失礼します」
俺が声をかけると、男子生徒がドアを開けた先に立っていた。
こんな奴、このクラスにいたか?
そう疑問を抱いた俺は男子生徒の上履きに目線を向けた。
この学校は学年によって上履きの色が違う。
1年は赤、俺たち2年は青、3年は緑だ。
今回教室に来た男子生徒は赤色の上履きを履いていた。
いや、何しに来た。
多分悩み相談なんだろうけど、ここはクラスのお悩み相談室であって全生徒の悩み相談室ではないんだが・・・・
しかし、彼を送り返したとして、この先新たな相談者が来るとは思えない・・・・
まぁ専門外だけど別にいいか・・・・
「すいません、今って相談室やっていますか?」
「はい、やってますよ。もしこのまま相談したいことがあればこちらにお座りください」
「はい! ありがとうございます!!」
俺がそう声をかけると、その男子生徒はにこやかに笑い、椅子まで来て、俺と向かい合わせに座った。
見た感じ好青年っぽいな・・・・
髪も角刈りだし・・・・
これは俺の持論だ。
角刈りの奴に悪い奴はいない。
「では、学年と名前を教えてください」
俺がそういうと、少年は俺の目をまっすぐに見て、元気な声で答えた。
「1年A組、川内大樹です!」
(この人か・・・・なんか頼りないな・・・・地味だし・・・・)
前言撤回。
やっぱり角刈りは悪い奴しかいない。
俺の持論が崩れ去った瞬間だった。
そんなことはさておき、相談内容を聞こう。
「川内君か、ここに来たってことは何か相談したいことがあるんだよね?」
閑谷がいないため、俺が話さなければならないのが少しネックだ。
ただ、相手は1年。
そんなに会う機会もないと思うから、別に悪く思われようが平気だ。
この調子で進めて行くか。
「はい、そうなんです! 実は僕・・・・」
川内は悩みを打ち明けるのが恥ずかしいのか、顔を俯けてしまった。
もしかしたら、深刻な悩みかもしれないな。
悩みを解決して、赤柳のような結末にならないといいけど・・・・
俺がそんなことを考えていると、川内はようやく意を決したのか、顔を上げた。
「実は僕・・・・なんの部活に入るか迷っているんです!! だからおすすめの部活を教えて欲しいんです! お願いします!」
はい、お帰りくださーい。
そんなの別の奴に聞けよ・・・・
俺は部活に入っていないから、どの部活がいいかわからないぞ・・・・
「今朝、校門の前で色んな部活が勧誘していたんです。それで部活の紹介をしている紙をもらったんですけど・・・・なかなか決められなくて・・・・」
川内は本当に困っている顔をしていた。
相談室をやっている以上、極力協力したいけどな・・・・
よし、ここは素直に俺が役に立たないことを言おう。
そんな見栄を張って、嘘をつくのも嫌だしな。
俺は非常に惨めだが、正直に部活のことはわからないと明かすことした。
「川内君、本当に申し訳ないんだが俺は君の相談に乗ることができない」
「え? どうしてですか??」
「簡単に言うと、部活に入っていないんだ。だから、どの部活がいいのか俺にもわからない」
「そうなんですか・・・・」
俺がそう打ち明けると川内は少し落ち込んでいた・・・・
そんなに部活に入りたいのか・・・・
俺はどうにかこの悩みを解決できないかと考えた。
そして、俺は一つの考えにたどり着く
なんの部活がいいか、一緒に考えることぐらいならできるか・・・・
それから俺は川内となんの部活が川内にとっていいか考えることにした。
「川内君はなにかやりたいこととかないの? 例えば運動系だとか、文化系みたいな?」
「そうですね・・・・文化系です・・・・ね」
川内は顎に手を当ててしばらく考えると、何か意味ありげにそう答えた。
文化系か・・・・制服着ているからわかりずらいけどガタイもいいし、とても文化系に入りたいっていう奴には見えないんだよな・・・・偏見だけど。
よし、せっかく人の心がわかる力を持っているんだ。
この力を利用しよう。
俺はそう決心すると、吉田にやったように質問をして心の声を聞くことにした。
「文化系か・・・・運動系の方が川内君向いてるんじゃない? 結構いい体つきしてるし・・・・もしかして中学時代、なにか運動やってた??」
「まぁ、やってたはやってましたけど・・・・それにガタイがいいのは多分今も筋トレしてるからだと思います」
(この人僕の体そんな見てたの? なんか怖い・・・・)
誤解されてしまった・・・・
クソ、なにか手掛かりが出るかもしれないと思ったのに・・・・
だが、ここでめげたらダメだ。
俺は諦めずに川内の心の内をを探ることにした。
「なにやってたの?」
「さっ、サッカーです・・・・」
「そうなんだ、サッカー部には入らないの??」
「もう、運動部はいいかなって! 疲れるし、土日はほとんど休みないって言うじゃないですか。僕は土日は別の事をしたいんです」
川内は引きつったように笑みを浮かべた。
だが、実際は違った・・・・
(サッカーは好きだけど、お金もかかるしな・・・・)
お金・・・・なるほどそういうことか・・・・
よくある話だ、これは。
川内がなぜ好きなサッカー部に入らないか今なら誰にも予想がつくだろう
「川内君、あまりお節介を焼くのも良くないと思うんだけど、本当にサッカー部に入りたくないの?」
俺はもちろん力のことを言えないため、彼の深層心理を突くことにした。
「そ、そうですよ! あんな大変なのは2度とごめんですね・・・・!」
「運動が大変だと思う人は筋トレなんかやらないと思うけど?」
「もう、しつこいですね!! ただの自己満足ですよ! 筋トレなんて!」
なかなか本当の気持ちを出してくれないな・・・・
川内がサッカーをやらないのは家庭の金銭面を心配しての事だろう。
今よく見ると上履きも新入生だというのにどこか、黒ずんでいた。
おそらく、ネットなどで安く手に入れたのだろう。
「遅れて、ごめーん! ってあれお客さんがいる!!」
俺が何も解決策も思いつかず途方に途方に暮れていると閑谷がやってきた
「お前、部活はいいのか?」
「うん! 今日は早めに終わったんだ! ってあれ? 大樹君!?」
「お前、この子と知り合いなのか?」
まさかの偶然・・・・
「うん! ご近所さんなんだ! もしかして部活のことで悩んでる??」
こいつ、テレパシーでも使えんのか?
なぜ、わかる・・・・
「そうだけど・・・・」
「そうなんだ~君のお母さんが心配してたよ~大樹君は家のお金のことを気にして、サッカー部に入らないんじゃないかって」
やっぱり、そうか。
部活に入れば、交通費、スパイクとか結構金かかるもんな。
「川内君はサッカー部に入るつもりはないらしいぞ」
「え!? ホント!? どうしてよ、大樹君! お母さん、大樹君のサッカーしてるところまだ見たいって言ってたよ!」
「しょうがないだろ! うちは4人兄弟で父親はいないし、母さんに迷惑かけたくないんだよ!!」
川内は少し涙目になっていた。
多分、自分の中ですごい葛藤があるんだろうな。
しかし、こんな嘘もあるんだな・・・・
俺がそんなことに心を揺さぶられていると、閑谷は急に川内の元へ歩き出し、肩を掴んだ。
「大樹君・・・・お母さんはね、君がサッカーやることを迷惑だなんて全然思ってないよ! 私がスーパーで偶然あった時なんて、君がサッカーやってる時の話、30分ぐらい話してたんだよ! おかげで買ったアイス溶けちゃったよ!」
お前のアイスのことは知らないが・・・・
「だから、勝手な勘違いしてないで親に甘えな・・・・!」
閑谷は何かを訴えるようにそう言い終わると、飲み物を買いに教室を出ていった。
川内君はきょとんとしていた。
そして、しばらくして椅子から立つと俺に向かって
「ありがとうございました!」
そう感謝を伝え、教室から出ていった。
いや、俺は特に何もしていないんだが・・・
川内は晴々した表情をしていた。
翌日、俺は昨日と同じように1人で本を読んでいた。
そして、また窓から外を眺めると川内がサッカー部の勧誘を手伝っている様子が見えた。
俺が覗いている窓からは心地いい春風が吹き込み、カーテンを小刻みに揺らしていた。