第9話 まがい物
・・・・・・は?
俺は頭が真っ白になった。
どういうことだ? 浮気? 浮気はしていないんじゃないのか!?
でも今確かに力が発動して、吉田の声が聞こえた・・・・
「田神、田神!」
「え! どうした!?」
俺はさっきのことに気をとられ過ぎて、吉田の呼びかけに気が付かなかった。
「大丈夫か? 顔色悪いぞ??」
「い、いや大丈夫。昨日ゲームのやりすぎで寝不足なんだ」
「そうか、何度も言うけどありがと・・・・お前も瑞奈のために俺を尾行してたんだってな・・・・迷惑かけてすまない」
「いや、別に仕事だし・・・・」
「そうか! でも本当にありがとう! 今度何かおごらせてくれ!」
吉田は俺の肩に手をポンと置くと、赤柳の元へ歩いて行った。
表ではいい奴なんだけどな・・・・
俺が動揺している中、教室は和やかな雰囲気に包まれていた。
「赤柳さん! 何が入っていたの!?」
「えぇ~~~!! 内緒だよ~~!」
閑谷は赤柳の肩にすがって懇願していた。
閑谷はもちろん、吉田は浮気していないと思っている。
もう少し力を使って吉田の心を探ってみるか。
でも、何を聞けばいいんだ・・・・
力を使っても、証拠らしいことが聞けるかわからない。
俺が苦心していると、赤柳が俺のところに近づいてきた。
「ねぇ! あんたとまだメッセージ交換してなかったよね!? せっかくだから交換しよ!」
「え!? いいけど・・・・」
メッセージ交換か・・・・
女子から頼まれるなんて久し・・・・ぶりじゃないか。
閑谷にもお願いされたわ。
ん? メッセージ? なにか思い出しそうな・・・・あ、そういえばあの時――――――
「「こいつ、彼女とずっとメッセージのやり取りしてるのよ。いつもニヤニヤしてて気持ち悪いの!」」
――――――と吉田の姉が言っていたな・・・・
でもこれおかしくないか? 赤柳が最初に来たときはメッセージの返信が遅いみたいなこと言ってたような・・・・
よし、これで探りを入れてみるか・・・・
俺に嘘をついたことを後悔させてやる・・・・
ただ、赤柳と閑谷がいると少し話が進めずらいな・・・・
連れ出すか。
「吉田、一緒にトイレに行かないか??」
「なんだ、連れションか? ちょうどしたいからいいけど」
「信人君、どこ行くの?」
「ちょっとトイレ」
俺は吉田を連れ出すことに難なく成功した。
「ふうーーー!」
吉田は我慢していたのか気持ちよさそうに用を足していた。
終わったら話を始めるか・・・・
「よし、戻るか!」
「ちょっと待ってくれ、話したいことがあるんだが・・・・」
俺は少しだけ緊張していた。
探偵というのはこういう気持ちなのだろうか。
「どうした! どうした! 俺は男と付き合う気はないぜ!」
「そういう話じゃない」
「なら、なんだよ・・・・」
吉田は困った顔をした。
そして、俺は深呼吸をし、吉田と目を合わせ、落ち着いて喋り出した。
「そんな大したことじゃない。ただ、土曜日に会ったときに吉田のお姉さんが言っていた事が気になったんだ」
「姉貴が言ってたこと?」
「あぁ、お姉さんは「「こいつ、彼女とずっとメッセージしてるのよ」」って言っていたけど、赤柳さんが相談に来たときは吉田のメッセージの返信が遅いって言ってたんだ。これって変じゃないか?」
「別に変なことはないだろ、姉貴はたまたま瑞奈とメッセージしているところを見たんだろ」
(姉貴、余計なこといいやがって・・・・なんとかごまかさないと穂乃花ちゃんとの浮気がバレる・・・・)
決定だな・・・・
ただ、穂乃花って誰だ?
そんな、名前1度も聞いたことないぞ・・・・
だが、そんなことはどうでもいい。
「さっき少しスマホのメッセージの画面見えちゃったんだけど穂乃花って誰?」
俺は吉田から情報を引き出すために、問い詰めることにした。
こういう奴はこういうことを聞くと動揺して、心の中でどんどんしゃべってくれる。
口ではボロを出さずとも、俺にとってはそれも十分ボロを出していることだ。
本当に滑稽だな・・・・
こういう調子に乗ってるやつの焦ってる姿は・・・・
「別に誰でもいいだろ! ただの友達だよ!」
(なんで? 知っているんだ? メッセージなんて開いたか? だがトーク画面は見えていないだろ・・・・見られたら1発アウトだ・・・・来週遊びに行くってのがバレたら言い逃れできない・・・・)
よし、これももらうとしよう。
さぁ、どんどん心の中で喋りやがれ・・・・!
まぁ、そうすれば自分の首を自分で絞めることになるけどな・・・・
吉田の焦り具合が愉快で、感じていた緊張はどこかに消えてしまった。
「来週、遊びに行くとか書いてあったけど・・・・」
「なっ! なんでそれを・・・・あ! いや、それは田神の」
「おせぇよバカ、あ・・・・」
あまりに醜い姿だったため、思わず声が出てしまった。
吉田はとうとう動揺を隠しきれず、口からもボロが出た。
心の声を聞くだけじゃ、決定的な証拠にはならない。
けれど、今のは十分な証拠だ。
さながら、俺は取り調べをしている刑事の気分になっていった。。
「もう諦めろ、俺に嘘は通じない」
「な、なんだよ・・・・!お前・・・・」
吉田は膝から崩れ落ちた。
よくこんな汚い床に膝つけるな・・・・
そんなことどうでもいいか・・・・
「で、相手は誰だ?」
俺は吉田に尋問を開始した。
「2年D組、三好穂乃花。瑞奈の親友だ」
「は? 赤柳の親友? そんな奴がどうして・・・・」
俺は予想をはるかに超えた浮気相手に動揺が抑えられなかった。
そして、俺は気づいた。気が付いてしまった。
可能性の1つだが――――――
「「それで友達に聞いてもらったの。康平に浮気してるかって。でも康平はしてないって言ってるらしくて」」
――――――この友達が三好 穂乃花じゃないだろうな・・・・
俺は1番最悪の想定をした。
そんなわけはないだろうと心のどこかで願っていたが、現実は残酷だった。
「そ、そんな・・・・穂乃花が康平と浮気って・・・・穂乃花に聞いてもらって、それを信じようとしたのに・・・・」
俺と吉田があまりに帰るのが遅かったのか、閑谷と赤柳が男子トイレの入り口に立っていた。
赤柳は放心状態だった。
泣くこともなく、ただ絶望に満ちた顔をしていた。
閑谷は顔を下に向けている。
そして、はらわたがぐつぐつと煮えくりかえっているのか、低い声色で喋り出した。
「とりあえず、教室に行きましょう。それと吉田君、三好さんも電話で呼んで・・・・」
「でも・・・・」
「いいから呼んで。君の意見は聞いてないよ・・・・!」
「わかった・・・・」
閑谷が今までの閑谷からは想像できないような、目つきで吉田を睨みながらそう言うと、俺達は重い足取りで教室へと戻った。
全く誰も喋らない空間。
外で野球部の練習する声が聞こえる。
しばらくすると電話で呼ばれた、三好穂乃花がやってきた。
「どうしたの? みんなお通夜みたいな顔をして?」
電話をかける際、浮気がバレたことを言わないように吉田に釘を刺した。
そうしないと、三好が来ない可能性があったからだ。
あっけらかんとした表情をしている三好に腹が立つ・・・・
俺はそんな気持ちを抑えて、三好を問い詰める。
「三好さん。ここに呼ばれたのはあなたに聞きたいことがあるからです。率直に聞きます。どうして浮気なんかしたんですか?」
「ん? なんのこと?」
「嘘ついても無駄。そこにいる吉田が全部吐いた」
俺が吉田を指差ししながら、そう言うと三好はすべてを悟ったのか、特に動揺することもなく語り出した。
「ふぅ~ん。理由はね~瑞奈がウザかったか、ら! あははははははは!!!」
三好はそう言うと腹を抱えて笑いだした。
「どうして、ウザいと思ったんだ? お前らは親友じゃなかったのか?」
「はは!は、は~親友ね~最初は私もそう思っていたよ? でもね~瑞奈が彼氏ができてからわね~とにかく惚気ばっかりでね~あんなことがあった、こんなことがあったって目をキラキラさせながら喋ってくるのがね~腹立たしかったのよ!」
三好は最初落ち着いているかと思ったがついに大きな声で怒鳴り、怒りを露わにした。
「まぁ、そんなこと言えるわけもなくずっとそんな気持ちを抱えていたんだけど、そしたら吉田君が最近、瑞奈に対する気持ちが冷めてきたっていうから、浮気することにしたの」
三好はまったく自分のことを悪いと思っていない様子だった。
それどころか、どこか勝ち誇ったような顔をしていた。
「ぐすっ、ぐすっ、そんなのひどいよ・・・・私、別に穂乃花に自慢しているつもりなんて・・・・」
赤柳は泣いていた。
無理もない。
親友だと思っていた相手に裏切られているのだから・・・・
これは本当の涙だろう。
「自慢のつもりはない・・・・? あはは! 笑わせないでよ! だったら何? あなたは善意で私に彼氏との話をしていたっていうの? それで私が喜んでいると? あんたバカじゃないの? そんなので喜ぶわけないでしょ! 大体・・・・ 」
三好の怒りは次第にエスカレートしていった。
しばらく赤柳への口撃が続いた。
「ねぇ! 今どんな感じ!? 親友だと思ってた奴にに騙される気持ちは? ホント! みじめでかわいそう! きゃははは!!!」
俺は我慢の限界に達した。
三好の方に早歩きで向かい、胸ぐらをつかもうとした。だが・・・・
バチーーーーーーン!!
・・・・俺より先に閑谷が三好に平手打ちを食らわした。
「な、なにするのよ! 顔にあざができたらどうするのよ」
三好は激昂していた。
そんな、三好を見て閑谷は口元をにやりとさせ、見下すような目で、
「あなたみたいな元々ブスの顔に痣ができたって、な~にも変わらないよ」
と言った。
・・・・え、エグイ。
俺だったら心肺停止してるかも・・・・
というか、閑谷キャラ変わってね?
怒りでおかしくなっちゃった?
「あなたが気持ちよさそうに、本音をべらべら喋っているから私もそうさせてもらっちゃった 別にいいよね? あなたもそうしてるし!」
閑谷は目を見開いて、三好をじっと見つめると、まるで悪役のようにニヤーッと笑った。
「な、なによ、あんた・・・・もういいわ。私帰る! ふぅん!」
三好は閑谷にビビったのか、そんな捨て台詞を吐くと教室から出ていった。
「さてと・・・・おい、吉田。なんか言うことないのか?」
俺は三好よりもこいつに腹が立っている。
何も言わず、第3者面をしているこいつに・・・・・・
「申し訳なく思っているし、できればもう1度やり直したい・・・・」
(謝ればいいんだろ・・・・)
「おい、お前。また嘘をついたな・・・・いい加減にしろよ・・・・謝罪の念なんて抱いてないだろ・・・・」
俺は手が出そうになるのをグッとこらえた。
「もう、ここで別れろ」
「俺は、まだ・・・・!」
「本音も言い合えないなら別れた方がましだ。そんな恋人は・・・・まがい物だ。それとこんなことしてやり直せるわけないだろ。お前頭にウジ虫でも湧いてんのか?」
「・・・・」
吉田は何も喋らなくなった。
気づけば日が暮れてきており、今日の活動の終わりをカラスが悠々と告げている。
赤柳は意気消沈しており、心配だというので閑谷が家まで送るそうだ。
吉田は1人でそのまま何も言わず、教室から出ていった。
俺も1人で帰途に就いた。
なぜ人はこんなにも嘘をつく、本音で語り合えない。
2人は親友だというのに・・・・
親友とはなんだ?
友達とはなんだ?
俺はそんなことをずっと考えながら、家までの道を歩いた。