プロローグ 遠い日の記憶
俺にはなぜか鮮明に覚えている思い出がある。
それは小学生になる前の思い出。
親の家系の問題で、住んでいる町の中でも1番大きな神社に来ていた。
わんぱく小僧だった俺は、母親から外で待っていろと言われたため、外で特に何もすることもなく神社に上ってくるための階段に腰を掛け、ぼぉーっと空を眺めていた。
「ぐすっ、ぐすっ」
どこからか誰かの泣き声が聞こえる。
俺は「「泣いている子をほっとけないぜ!」」っていう、いかにも正義のヒーローっぽい奴ではなかったが、その時はなぜか自然と泣いている子を探していた。
少し辺りを探してみると、木の根っこに座っている子供を見つけた。
俺はそんな少年の事がなぜだか気になって声をかけることにした。
「みんな怖いよ~どうしてそんなひどいことを言うんだよ~」
その木のそばまで行くと俺と同い年ぐらいの少年が泣いていた。
泣いている少年はどこかはかなげで、なぜだかきれいだと思った。ここで一応訂正しておこう。
決して俺は、人間は泣いている姿が1番美しい・・・・などと思うサイコパス野郎ではないので以後お見知りおきを。
そう思ったのは単に少年が男とは思えないほど、きれいな顔をしていたからだ。
そう、ただそれだけのことだ・・・・
「どうして、泣いているんだ?」
「みんな、嘘つきなんだ!! 最初はみんな僕のことを「「君とはずっと友達だよ!!」」って言ってくれるのに、そのあと「「ふん、そんなわけないじゃん」」って・・・・うっうっ・・・・」
俺ははっきり言って訳がわからなかった。バカだった俺は、仲が良い者同士のじゃれあいだと思った。
たとえば・・・・そう! 付き合いたてのカップルが――――
「君とはずっと一緒にいれる気がする!」
「私はそうは思わないけどねぇ~」
「そんなこと言わないでよぉ~」
「うそ、うそ! ずっと一緒だよ」
――――的なやつ・・・・
うん、腹立つな。失せろ。
という感じで、俺はその少年がただ勘違いしていると思った。
「それはお前の・・・・えーっと、勘違いってやつだ!」
「勘違い・・・・」
「そう! だから友達はお前とずっと友達って思ってるはずだ!」
俺はなんの根拠もなかったが、自信満々にそう言った。
「そうなのかな、勘違いなのかな、でも怖いな・・・・」
「じゃ、今から聞きに行こう! そしたら友達の本当の気持ち、きっとわかる!」
「そんなのできないよ~」
「大丈夫! 俺も近くで見てるから!」
「ほんと? ・・・・じゃあ、聞いてみるよ」
少年は俺の強引な提案に渋々承諾した。
俺と少年は少年の友達のところに行った。
少年の友達と思われる子供達が公園でサッカーをして遊んでいた。
俺はその様子を近くの藪の中に隠れて見ることにした。
「ねぇ!」
「ん? おぉ! 君か! どうしたの?」
「僕のこと、本当はどう思っている?」
まだ幼いこともあってか、あまりにド直球すぎる質問だった。
「どういうこと?」
「僕達はずっと友達だよね?」
またこれも素直すぎる質問で答えてくれないだろうと俺は思っていた。
だが、その友達は少年に対してはっきりと、見下すように
「そんなわけないじゃん」
・・・・そう答えた。
そこからは早かった。
1人の友達が少年の悪口を言い出すと、次々と周りにいる少年たちもそうし始めた。
「ずっと友達って言ったのは、お母さんがお前とは仲良くしとけってうるさいからだ! 本当に友達とは思ってねぇよ!」
「「僕も・・・・」」と周りにいた子供達も少年を見放してく。
少年への悪口を言い終わると少年が友達だと思っていた子供達はグランドから去っていった。
「ごめん、俺・・・・」
俺はなんと声をかけてあげればいいか分からなかった。
「嘘じゃん・・・・嘘だったじゃん!!! うっ、うぁ~~~~ん!!」
少年は俯きながら俺にそういうと大声で泣いてしまった。
俺は少年に何も言えず、ただ罪悪感で押しつぶされそうになっていた。
どうすればよかったのか、あの時止めに入っていれば・・・・そんなことをごちゃごちゃと考えていた。
ようやく涙も収まってくると少年は、俺に怒号を浴びせた。
「どうせ、君も僕に嘘ついてバカにしてたんだろ!!」
「そんなことない! ただ、俺はお前が勘違いしていると・・・・」
沈黙が二人を包み込む。
だんだんと太陽が山に隠れはじめ、辺りは暗くなり始めていた。
俺と少年は最初に出会った神社に戻り、何も喋らず、お互い顔を背けていた。
「僕はただ友達が欲しかっただけなのに・・・・」
少年がそんなことを呟いた。
もうすでに日は沈み、太陽の残光だけが辺りをかすかに照らしている。
俺は少年のあまりにも悲しい呟きに、感化されたのか
「じゃあ、俺がお前の唯一の友達になってやるよ」
気が付いたら、そんなことを口にし、少年に握手を求めていた。
「何を言ってるの」
少年の顔は見えないが、俺の言葉に憤怒していることは分かった。
「そんなの嘘に決まっているだろ・・・・」
「嘘じゃない本当だ! 俺の目を見てくれ!」
俺がそういうと少年はようやく俺と顔を合わせた。
(この子と友達になりたいっていうのは・・・・なんていうかごめんと思っているからかもしれないけど、でも俺はこの子と友達になりたい・・・・!)
俺は心の中でそんなことを思っていた。
少年はしばらく俺の目をじっと見ると、すべてわかったかのように
「本当だね、君からはもう1つの声が聞こえない」
また少年は意味の分からないことを言ってきた。まるで俺の心の中が見えているかのように・・・・
「君は僕に自分の本当の気持ち、ちゃんと言ってくれる?」
「もちろん」
根拠のない自信だった。でも、俺はそうすると心に誓った。
「そうか。嘘は・・・・ついてないみたいだね」
「じゃあ、友達になってくれんのか?」
「うん、いいよ」
少年はそう言うと、俺の差し出した手を取った。
今、考えてみても友達に裏切られ、人を信用できなくなっているときに、そんなあっさりと見ず知らずのわんぱく小僧と友達になってくれるものか?
そんなことも考えず、バカだった俺は
「や、やった・・・・」
普通に喜びに浸っていた・・・・
そこから少年とは色んな話をした。
家族の話とか・・・・まぁ、色んな話だ。
「あ! そういえば、名前聞いてなかったね。」
「ふふふっ、そういえばそうだね。」
その時少年の笑顔を始めて見た気がする。
「俺の名前は田神信人! 人に信じてもらえるような、信頼してもらえるような人になってほしいって父ちゃんと母ちゃんがつけてくれた!」
「たがみのぶひと・・・・いい名前だね」
「おう! お前の名前は?」
「僕の名前は――――」
ここからは思い出すことができない。
ただ、わかるのはこの日以来少年とは会えていない。
確か、その日の次の日に遊ぶ約束をした気がするが、少年は現れなかったはずだ。
その1年後、俺は親の離婚が原因で引っ越した。
少年は元気にしているだろうか。
俺は少年にまた会えたら言いたいことがある。
それは・・・・
「人は嘘でできている・・・・」