表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/44

その30

「ヨーコさん、おじゃましますよ。あれ?」


 ごちゃごちゃと捨てられていた空きびんの山が、玄関からなくなっていました。くつ箱の上には、小さな花びんが置いてあり、たんぽぽの花がかざってあります。


 ――しまった――


 くつ置き場のすみに、小さな赤いくつがあるのを見て、信作は急いでうしろをふりかえりました。みかんと龍次が、けげんな顔で信作を見ています。


「ヨーコさん、お客さん出るね。あっ、信作君」


 奥の部屋から、エプロンをつけた朱音が出てきました。信作がなにかいう前に、とげとげしい声がうしろから飛んできました。


「わたしの信作君に、なれなれしく話しかけないでよ!」


 突然ののしられて、朱音の顔が引きつりました。目が大きく見開かれ、恐怖で口をおおっています。朱音はやっとの思いで、ふるえた声を出しました。


「伊集院、さん」

「ひさしぶりね、和歌月さん。それにしても、ずいぶんひどいことするのね、昔の友達に。あれほどかわいがってあげたのに、見捨てようとするなんて、いい度胸じゃないの!」


 ぱっちりした目が、意地悪く細められます。朱音はヒッと泣きそうに顔をゆがめました。


「なんだ、忘れちゃったわけじゃないみたいね。あんなにかわいがってあげたんだもの、忘れられるわけないわよね」


 みかんがにたっと笑いかけました。朱音はおびえて、声が出せないようです。その様子を、龍次も楽しそうにながめています。


「どうした、朱音。誰か客だろ? 訪問販売なら、どなって追い返しちまえよ」


 奥の部屋から、ヨーコの声が聞こえてきました。朱音はおどおどしたまま、声を出すことができませんでした。


「ん? ああ、なるほど、そういうことか」


 ひょろりとヨーコが顔をみせました。あいかわらず髪をぼさぼさにして、お酒のようなにおいがします。みかんが思わず鼻をふさぎました。


「この人が、信作君のいってたヨーコさんなの?」


 信じられないといった表情で、みかんが信作を見ます。信作はほっとしたようにヨーコに二人を紹介しました。


「ああ、そうだ。ヨーコさん、この二人は伊集院みかんと、緑川龍次。一緒にかくれんぼしていた最後の二人です。それと、じつは伊集院に」

「うろこが現れた、だろ?」


 信作を見もせずに、ヨーコはみかんに近づきました。みかんの顔がこわばっています。龍次がヨーコを、いかくするようにきつい目でにらみました。


「ふうん、まだ新しいね。虹蛇の呪力もつよい。こりゃ骨が折れそうだね」

「ひっ、目が、目の色が」


 みかんが信作の腕にしがみつきました。


「ああ、あたいの目のことかい? あんまり気にしないことだね」


 みかんのひとみは、ヨーコの赤い目にくぎづけになっています。ヨーコは龍次のことも、じろじろと観察し始めました。


「あんたは、うん、まだ呪いが具現化していないみたいだね。でも、気をつけておかないと、すぐに具現化するけどね。虹蛇の幻術は……ああ、もうとけているのか。まあいいさ。ほら、あがんな。すぐに清めるからね」


 ヨーコが手招きしました。けれどもみかんも龍次も、かたまってしまっています。信作も二人に声をかけました。


「ほら、入ろう。大丈夫、ヨーコさんは悪い人じゃないよ」


 信作にうながされて、二人はやっとで靴を脱ぎ始めました。朱音が逃げるように、ヨーコのそばへかけよりました。信作はばつが悪そうに、朱音の顔を見ています。


「さて、それじゃさっそく始めようか。そこらへんに適当にすわっときな」


 部屋に上がった信作は、思わず声をあげました。


「部屋が、きれいになってる」


 ついこの間まで、小屋の中はお菓子やおつまみの袋で、足の踏み場もありませんでした。そのゴミがきれいにまとめられて、ちり一つないくらいにそうじされていたのです。部屋のすみに倒れそうなくらい積み重なっていた、きつねうどんのカップ容器も、きれいさっぱりなくなっています。たたみにすわってうつむいている朱音を、信作はまじまじと見ました。


「ほらほら、そんなとこでつっ立ってないで、早くすわりなって。今準備するからさ」


 ヨーコが台所を、がさごそとあさっている間に、信作は朱音のとなりにすわりました。向かい合ってみかんと龍次がすわります。蛇がかえるをにらみつけるように、みかんは朱音を見おろしていましたが、プイッと顔をそむけました。


「ねえ信作君、そっちにいたら、ヨーコさんが戻ってきたとき、せまくなっちゃうでしょ。ほら、こっちにおいでよ」

「えっ」


 みかんにいわれて、信作がけげんそうな顔をします。みかんは朱音をけん制するようににらみました。


「あんたもそのほうがいいわよね?」


 低い声で、おどすように朱音にいいます。朱音は小さく、ヒッと声をもらしました。ぎゅっと信作の腕に身をよせます。


「なにくっついてんのよ! さっさと離れなさい、信作君が嫌がってるじゃないの!」

「ひゃっ! ごめんなさい」


 あやまる朱音に、みかんはまくしたてるようにどなりつけます。


「なにがごめんなさいよ、そんなことで許されると思ってるの? あんた、わたしたちを見殺しにしようとしたのよ、わかってんの?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ