その23
「その子たちは、まだ大丈夫だと思うよ」
うろこを洗いにヨーコの家に行くと、信作は真っ先にみかんたちのことを聞きました。この間と同じ、うす汚れた巫女装束すがたのヨーコは、信作の話を難しい顔をして聞いていました。そして一通り聞き終わったあとに、そうつぶやいたのです。
「本当に大丈夫なんですか? ぼくがついていないと、二人とも危ないんじゃないですか?」
ヨーコは答えずに、ずるずるっとだしをすすりました。コンビニのきつねうどんが、いいにおいをたてています。信作たちが家を訪ねたときには、ヨーコは晩ごはんの準備中だったのです。とはいえおかまいなしに信作たちを家に上げたのですが、おいしそうなにおいに藍のおなかがグーッとなります。油揚げにがぶりとかみつくと、ヨーコは目を細めました。
「だいたい、虹蛇が龍次たちから先にうろこを回収しようって思ったら、どうするんですか? 『神殺しの剣』でしか守れないのに!」
「ちょっと待ってなって。ほら、どいたどいた」
ヨーコは台所へひょろひょろと歩いていきました。戸棚を開けて、細長いつぼを持ってきます。ぷわんとお酒のようなにおいがただよいます。
「あんた、本当に心配してるのかよ? そりゃあ、あんたには関係ない人間かもしれないけど、命に関わることだろ!」
怒り狂う信作を、ヨーコは面白そうに見ています。
「そんなにどならなくってもわかってるさ。だからいっただろう、大丈夫って。あたいも適当にいってるわけじゃないのさ。こう見えてあたいも、いろいろ考えてるんだよ」
花の蜜を水筒にそそぎながら、ヨーコが信作をさとしました。耳につくキンキン声に、信作は顔をしかめます。
「どうしてそんなことがわかるの? もしかしてヨーコさん、また虹蛇についてなにか見えたの?」
藍がけげんそうな顔をしています。ヨーコはだまって油揚げにかぶりつきました。むしゃむしゃと油揚げを食べ終わると、めんがたっぷり残った容器を、台所へ持っていきました。
「ああっ、もったいない」
中身を流しへ捨てるヨーコに、藍が抗議の声をあげます。ヨーコがひょいっとまゆをつりあげました。
「別にいいだろ、あたいのなんだから。それより、あんたさすがにするどいね。そうさ、前もいったけど、あたいには虹蛇のことが見える。あいつがどうしようとしてるのか、なにが狙いなのかがなんとなくわかるんだよ」
「じゃあ、どんなことが見えたんですか? それを教えてもらわないと、ぼくらは納得できません」
ヨーコはふうっと長いため息をつきました。窓がガタガタと音を立てます。三人とも、じっとヨーコを見つめています。ヨーコは頭をガジガジとかきました。
「虹蛇はその子たちには、あんまり執着していないみたいだった。あたいもはっきりヴィジョンが見えるわけじゃない。なにが見えたかってのは、正直説明しづらいのさ。とりあえずいえることは、虹蛇がもっとも執着しているのが、朱音、あんただってことさ」
「え、わたし?」
朱音は目を丸くしています。みんなからいっせいに顔を見られて、朱音は藍にしがみつくように身を寄せました。
「狙われるとしたらあんたらが先だね。信作、あんたは朱音をしっかり見守っておけばいいってことさ。だいたい守らないといけない人間が増えると、あんたも大変だろう。虹蛇の手下に囲まれたらどうするつもりだい?」
「それは、なんとかするさ」
強がる信作を、ヨーコはくっくと笑いながら見ました。からかうような口調で続けます。
「そりゃあずいぶんと頼もしいお言葉だね。だが、どっちにしても、大勢を守るのは難しいってことさ。だからその二人についても、今のところは様子見だね」
信作はまだ納得がいかない様子でしたが、なにもいいませんでした。朱音がおろおろと信作とヨーコを見ているので、藍がぽんっと肩をたたきました。
「大丈夫よ朱音。ちゃんとわたしと信作が守ってあげるから、ほら、そんな心配そうな顔しないで」
「藍ちゃん」
「そうそう、とにかくあんたらは、おとなしく信作に守られとけばいいのさ。足手まといにならないようにするんだね」
ヨーコがけらけらと笑いました。藍はムッと口をとがらせます。
「なによ、えらそうに。だいたいヨーコさん、花の蜜、ぜんぜん効果なかったわよ! 蛇の化け物がうじゃうじゃうじゃうじゃ、もう死ぬかと思ったんだから」
「それについてもいったはずだよ。花の蜜は虹蛇を寄せつけないってだけで、手下の蛇どもには効果がないって。あいつらは鼻が利くんだ」
けろっとした顔のヨーコを、藍はじろりとにらみつけます。
「それにあのお札、すぐにぼろぼろになっちゃったじゃないですか!」
「でも助かっただろ?」
「それは、助かったけど」
「じゃあよかったじゃないか。そんな怒るんじゃないよ」
あっけらかんというヨーコに、藍はカンカンになって食い下がりました。
「もう、こっちはホントに大変だったってのに」
「まだ虹蛇のうろこを封じ始めたばかりだからね。手下どもに見つかるのも無理はないさ。封印がなじむまでのしんぼうだよ。それにいいじゃないか。大好きな信作に守ってもらえるんだしね」
「なっ!」
藍の顔が真っ赤になります。信作は考えごとをしていたのか、自分のベルトのあたりをじっと見つめたままです。しかし朱音は、目をまんまるにして藍の顔を見つめています。
「別に、そんな気持ちじゃないんだから、ただ、ほら、朱音よ。朱音が危ないから、だからわたしもいるだけで、別に信作がどうとか、思ってないし」
早口でまくしたてる藍を、ヨーコはにやにやしながら見ています。
「ふーん、あんたってわかりやすいねえ」
「うるさい! もう、わたし帰るからね! ほら、朱音、行くよ」
朱音のうでをぐいっと引っぱり、藍は立ち上がりました。
「ほら、信作も行った行った」
ヨーコがせかすように両手をふります。信作もあわてて立ちます。朱音が急いで頭を下げました。
「それじゃあ、あとは若いもん同士、楽しくやるんだね」
「もうっ」




