表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/44

その23

「その子たちは、まだ大丈夫だと思うよ」


 うろこを洗いにヨーコの家に行くと、信作は真っ先にみかんたちのことを聞きました。この間と同じ、うす汚れた巫女装束すがたのヨーコは、信作の話を難しい顔をして聞いていました。そして一通り聞き終わったあとに、そうつぶやいたのです。


「本当に大丈夫なんですか? ぼくがついていないと、二人とも危ないんじゃないですか?」


 ヨーコは答えずに、ずるずるっとだしをすすりました。コンビニのきつねうどんが、いいにおいをたてています。信作たちが家を訪ねたときには、ヨーコは晩ごはんの準備中だったのです。とはいえおかまいなしに信作たちを家に上げたのですが、おいしそうなにおいに藍のおなかがグーッとなります。油揚げにがぶりとかみつくと、ヨーコは目を細めました。


「だいたい、虹蛇が龍次たちから先にうろこを回収しようって思ったら、どうするんですか? 『神殺しの剣』でしか守れないのに!」

「ちょっと待ってなって。ほら、どいたどいた」


 ヨーコは台所へひょろひょろと歩いていきました。戸棚を開けて、細長いつぼを持ってきます。ぷわんとお酒のようなにおいがただよいます。


「あんた、本当に心配してるのかよ? そりゃあ、あんたには関係ない人間かもしれないけど、命に関わることだろ!」


 怒り狂う信作を、ヨーコは面白そうに見ています。


「そんなにどならなくってもわかってるさ。だからいっただろう、大丈夫って。あたいも適当にいってるわけじゃないのさ。こう見えてあたいも、いろいろ考えてるんだよ」


 花の蜜を水筒にそそぎながら、ヨーコが信作をさとしました。耳につくキンキン声に、信作は顔をしかめます。


「どうしてそんなことがわかるの? もしかしてヨーコさん、また虹蛇についてなにか見えたの?」


 藍がけげんそうな顔をしています。ヨーコはだまって油揚げにかぶりつきました。むしゃむしゃと油揚げを食べ終わると、めんがたっぷり残った容器を、台所へ持っていきました。


「ああっ、もったいない」


 中身を流しへ捨てるヨーコに、藍が抗議の声をあげます。ヨーコがひょいっとまゆをつりあげました。


「別にいいだろ、あたいのなんだから。それより、あんたさすがにするどいね。そうさ、前もいったけど、あたいには虹蛇のことが見える。あいつがどうしようとしてるのか、なにが狙いなのかがなんとなくわかるんだよ」

「じゃあ、どんなことが見えたんですか? それを教えてもらわないと、ぼくらは納得できません」


 ヨーコはふうっと長いため息をつきました。窓がガタガタと音を立てます。三人とも、じっとヨーコを見つめています。ヨーコは頭をガジガジとかきました。


「虹蛇はその子たちには、あんまり執着していないみたいだった。あたいもはっきりヴィジョンが見えるわけじゃない。なにが見えたかってのは、正直説明しづらいのさ。とりあえずいえることは、虹蛇がもっとも執着しているのが、朱音、あんただってことさ」

「え、わたし?」


 朱音は目を丸くしています。みんなからいっせいに顔を見られて、朱音は藍にしがみつくように身を寄せました。


「狙われるとしたらあんたらが先だね。信作、あんたは朱音をしっかり見守っておけばいいってことさ。だいたい守らないといけない人間が増えると、あんたも大変だろう。虹蛇の手下に囲まれたらどうするつもりだい?」

「それは、なんとかするさ」


 強がる信作を、ヨーコはくっくと笑いながら見ました。からかうような口調で続けます。


「そりゃあずいぶんと頼もしいお言葉だね。だが、どっちにしても、大勢を守るのは難しいってことさ。だからその二人についても、今のところは様子見だね」


 信作はまだ納得がいかない様子でしたが、なにもいいませんでした。朱音がおろおろと信作とヨーコを見ているので、藍がぽんっと肩をたたきました。


「大丈夫よ朱音。ちゃんとわたしと信作が守ってあげるから、ほら、そんな心配そうな顔しないで」

「藍ちゃん」

「そうそう、とにかくあんたらは、おとなしく信作に守られとけばいいのさ。足手まといにならないようにするんだね」


 ヨーコがけらけらと笑いました。藍はムッと口をとがらせます。


「なによ、えらそうに。だいたいヨーコさん、花の蜜、ぜんぜん効果なかったわよ! 蛇の化け物がうじゃうじゃうじゃうじゃ、もう死ぬかと思ったんだから」

「それについてもいったはずだよ。花の蜜は虹蛇を寄せつけないってだけで、手下の蛇どもには効果がないって。あいつらは鼻が利くんだ」


 けろっとした顔のヨーコを、藍はじろりとにらみつけます。


「それにあのお札、すぐにぼろぼろになっちゃったじゃないですか!」

「でも助かっただろ?」

「それは、助かったけど」

「じゃあよかったじゃないか。そんな怒るんじゃないよ」


 あっけらかんというヨーコに、藍はカンカンになって食い下がりました。


「もう、こっちはホントに大変だったってのに」

「まだ虹蛇のうろこを封じ始めたばかりだからね。手下どもに見つかるのも無理はないさ。封印がなじむまでのしんぼうだよ。それにいいじゃないか。大好きな信作に守ってもらえるんだしね」

「なっ!」


 藍の顔が真っ赤になります。信作は考えごとをしていたのか、自分のベルトのあたりをじっと見つめたままです。しかし朱音は、目をまんまるにして藍の顔を見つめています。


「別に、そんな気持ちじゃないんだから、ただ、ほら、朱音よ。朱音が危ないから、だからわたしもいるだけで、別に信作がどうとか、思ってないし」


 早口でまくしたてる藍を、ヨーコはにやにやしながら見ています。


「ふーん、あんたってわかりやすいねえ」

「うるさい! もう、わたし帰るからね! ほら、朱音、行くよ」


 朱音のうでをぐいっと引っぱり、藍は立ち上がりました。


「ほら、信作も行った行った」


 ヨーコがせかすように両手をふります。信作もあわてて立ちます。朱音が急いで頭を下げました。


「それじゃあ、あとは若いもん同士、楽しくやるんだね」

「もうっ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ