その20
「うおおおぉっ!」
闇を切り裂くうなりとともに、青い閃光が空を照らしました。真っ暗なはずの闇夜が、一瞬だけ青い空に変わりました。突然のことに、朱音や藍はもちろんのこと、剣をふるったはずの信作さえもぽかんとしています。
「えっ、なにが起こったの?」
朱音の間の抜けた声に、藍がぼそっとつぶやきました。
「蛇が、消えてる」
青空は消え、あたりが再び闇に包まれました。藍がいった通り、羽の生えた蛇たちは、もうどこにもいませんでした。紫色のちりのようなものが、キラキラと輝いて消えていくだけでした。
「わたしたち、助かったの?」
朱音も藍も、へなへなとその場にすわりこんでしまいました。お札を見ると、真っ黒に色が変わって、ぼろぼろになっています。
「まさか、ホントにこんなことになるなんて。信作、ありがとう。信作?」
藍のとなりで、信作はぐったりと倒れていました。右手には、青白く光る『神殺しの剣』がにぎられています。『神殺しの剣』にふれているところが、赤くはれているように見えます。二人は『神殺しの剣』にさわらないように気をつけながら、信作の体をゆすりました。
「信作、大丈夫? しっかりして!」
「信作君、お願い、目をさまして!」
朱音と藍の呼びかけに、信作はようやく起き上がりました。青白く光っていた『神殺しの剣』が、すうっと光を失っていきます。
「あいつらは、虹蛇の手下は、逃げたのか?」
「そうよ、信作が守ってくれたの。信作、ありがとうっ!」
藍が信作にぎゅうっと飛びつきます。
「わっ、ちょっと待てよ、びっくりするだろ」
「だって」
信作にしがみついたまま、藍がすすり泣きます。朱音も目をうるませています。
「二人とも、ごめんな、怖い思いさせちゃって」
うめき声を上げながら、信作はゆっくり立ち上がりました。
「大丈夫? ちょっとふらついてるじゃない」
「ああ、少しめまいがするけど、早くここを離れないと、またあいつらがくるかもだろ」
信作の言葉に、朱音が泣きそうに顔をゆがめます。
「ひゃっ!」
「ちょっと信作、朱音を怖がらせるようなこといわないでよ」
藍がまゆをつりあげます。信作はぷっと笑いました。
「なによ、そんな笑って」
「いや、ごめんよ。ようやく藍らしくなったなって思ってさ。いきなり泣き出したから、びっくりしたよ」
「そんなこといわなくたっていいじゃない。わたしだって女の子なんだから、怖かったら泣いちゃうわよ」
藍は顔を真っ赤にして、信作の背中をたたきました。ポニーテールにした髪が、ふるふるとゆれます。
「いてて、ちょっと待てって、悪かったよ。ほら、とにかく早くここを離れようぜ。和歌月も大丈夫か?」
「うん」
えんりょがちに朱音がつぶやきました。藍がまゆをひそめます。
「朱音?」
「ううん、なんでもない」
あわてて首を振り、朱音は藍の手をにぎりました。三人は立ち上がり、もう一度空を見あげました。暗くて心細くなるような闇でしたが、もうあの蛇たちのすがたは見えませんでした。
「よかった、終わったみたいね。そうだ、信作、わたしお願いがあるんだけど」
「お願いって?」
『神殺しの剣』をさやにおさめながら、信作が聞きかえしました。
「今日さ、信作のうちに泊まってもいい?」
「えっ?」
くるりと振りかえり、信作は藍の顔を見ました。暗くなっていましたが、藍のほおが赤く染まっているのに、朱音は気がつき、胸を押さえました。
――信作君は、気づいているのかしら――
「だからさ、一緒にいれば、あいつらがまたきても大丈夫でしょ。このお札、すっごく不安なんだもん」
いつもより早口の藍に、信作はぽかんとしていました。少し考えこんでから、やがてうなずきました。
「別に、ぼくはいいけど、親が許してくれるかな? 幼なじみだけど、女の子が男の子の家に泊まるわけだろ」
「ちょっと、そんなこといってる場合じゃないでしょ。こっちは命がかかってるんだからね。大丈夫よ、お母さんたちはわたしがちゃんと説得するから。朱音もそれでいいでしょ?」
「え、わたしもいいの?」
朱音の言葉に、藍はあきれたように肩をすくめました。
「朱音だって狙われてるんだよ。あたりまえじゃん。それに三人一緒にいたほうが、信作だって守りやすいでしょ」
藍に肩をたたかれて、信作はまゆをひそめましたが、小さく首をたてにふりました。
「ほら、じゃあ決まりね。とりあえずまずは荷物取りに行きましょ。信作、ちゃんとついてきてよね」
「ああ、いいけど、急に元気になったな」
目をぱちくりさせる信作に、藍ははずんだ声で答えました。
「あら、泣いてるのが藍らしくないっていったのは、信作でしょ」
うっとたじろぐ信作を見て、藍はにやっと笑いました。細い目がさらに細くなっています。
「じゃあ早く行きましょ。まだ狙われてるかも知れないわ」
藍の言葉に、信作はため息まじりにうなずきました。藍が信作のうでに右手をからめ、左手で朱音の手をにぎります。朱音は開いている信作のうでをちらりと見ましたが、すぐに視線を落としました。藍に引っぱられたまま、三人は夜の街を歩いていきました。




