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その15

「手下?」


 おびえた目で朱音がヨーコを見つめます。ヨーコは朱音に茶わんをすすめながら説明しました。


「ああ、いわゆる使い魔のようなもんさ。あいつらは鼻が利くんだ。それに数が多いからね」


 使い魔という言葉に、朱音が身をかたくしています。ヨーコがいじわるく笑いました。


「ほら、そっちのおじょうちゃんも早く飲んじゃわないと、使い魔に食われちまうよ」


 朱音はあわてて茶わんに口をつけました。


「全部飲むんじゃないよ。残りで自分のうろこを洗うんだ。ほら、あんたはあたいが洗ってやるよ。こっちにきな」


 飲み干された藍の茶わんに、ヨーコはつぼから蜜をそそぎました。信作は顔をしかめました。はなれたところだと、お酒のにおいにしか思えないのです。


「そこのぼうやも、飲んでみたいって顔してるよ。どうだい、ぼうやも味わってみるかい?」

「ぼうやじゃない、ぼくには信作って名前があるんだ」


 信作ににらまれ、ヨーコはにやっと笑いました。


「おやおや、きらわれちゃったみたいだね。ま、いいさ。それじゃ信作、それと、そういえばあんたたちの名前も聞いてなかったね」

「あっ、わたしは朱音です」

「わたしは藍よ」

「朱音に、藍ね。朱音、あんたちゃんと洗い終わったかい?」


 名前を呼ばれて、朱音はビクッとうなずきました。


「よし、それじゃ話に戻るとするかね。さっきもいったけど、あいつはあんたらのうろこを取り戻そうと考えてる。一応花の蜜で目くらましはしたけど、長くは持たない。そこでだ」


 ヨーコはさっき持ってきた、もう一つの包みを、おごそかな手つきで開けていきました。中から出てきたものを見て、三人は思わず声を上げました。


「えっ、なにこれ?」


 包みの中には、たくさんのお札がはられた、棒のようなものが入っていたのです。お札にはごちゃごちゃと難しい漢字が書かれていて、ところどころはがれかけています。


「これって、本当に大丈夫なの? なんだか、封印しているみたいなんだけど」


 藍が不安げに包みを見ています。ヨーコは気にせず、信作に向きなおりました。


「信作、あんた、そのお札をはいでごらん」

「えっ、ぼくが?」


 信作が目を丸くします。警戒するように、お札とヨーコさんの顔を交互に見ます。


「どうしたんだい、心配しなくっても大丈夫だよ、これは、()()()()()害はないからね」


 信作は疑うように、ヨーコの顔をのぞきこみました。ヨーコはニタニタ笑っていて、本当かどうかわかりません。


 ――くそっ、それなら――


 信作は覚悟を決めたように、ビリビリッと一気にお札を破りました。別になんともなかったので、信作は大量のお札を無造作にはがしていきます。すると、中から木でできた棒のようなものが現れたのです。


「なんだ、これ? なにか文字が書かれているけど」


 木の棒には、難しい漢字がびっしりと彫られています。かなり古い木のようで、ところどころ色あせています。


「なんだろう、古い漢字ね。信作君、わたしにも見せて」

「触るんじゃないっ!」


 ヨーコがぴしゃっと、朱音の手をたたきました。朱音がビクッと飛び上がったので、寝ぐせになった髪がぴょこんっとはねます。涙目になる朱音を、ヨーコは怖い顔でにらみつけました。


「虹蛇のうろこが出ている人間が触ったら、この世から消えちまうよ。そのうろこは呪いが具現化したものだからね。呪いが具現化した人間や、悪霊、それに神の眷属(けんぞく)なんかはそれに触れちゃいけないんだ」


 三人ともぽかんとした表情を浮かべています。ようやく信作が口を開きました。


「呪いが具現化って、どういうことですか?」

「言葉の通りさ。呪いがからだにわかる形で現れている状態のことだよ。このおじょうちゃんたちのうろこが、まさにそうだよ。虹蛇のうろこはのろいのうろこだ。呪われたうろこがからだに現れているやつが触れると、そいつは消えちまう。浄化されるのさ」


 ヨーコは、ふるえている朱音をちらりと見ました。朱音も藍も、青白い顔をしています。


「それにそいつは、木の棒なんかじゃない。小刀だよ。『神殺しの剣』と呼ばれている代物さ」

「『神殺しの剣』ですか」


 信作はもう一度木の棒へと目をやりました。いわれてみれば確かに、真ん中に線が入っています。半分がさやになっているのでしょう。ですがもちろん、その場で引き抜くようなことはしませんでした。ヨーコさんは信作の様子をうかがっていましたが、やがて話を再開させました。


「古くから、それこそ神話の時代から伝わってきた、伝説の刀さ。神を殺し、悪霊や呪いを消滅させるんだよ」

「これが、そんなすごいものなんですか? とてもそうは見えないですけど」


 難しい漢字が彫られているので、確かに不思議な小刀には見えますが、伝説の刀といわれると、なんだか頼りなく思えます。


「あんた、ゲームかなにかのやりすぎだよ。伝説の刀ってのは、たいそうな飾り物なんかがついたものじゃないのさ。特にその『神殺しの剣』は、何柱もの神を殺してきた、殺すための武器なんだから。扱いやすければ飾り立てなくてもいいのさ」

「でも、そんなものが、本当にあるなんて信じられないよ」

「あんたが信じようが信じまいが、あるもんはあるのさ。しかたがないよ。あたいもよくは知らないが、もともとは退魔師の一族が作り出したらしい。まあ、あたいにとっちゃ、いわれなんてどうでもいいんだけどね」


 うなじのところにある藍のうろこを洗って、ヨーコが顔をあげました。ポニーテールの髪をかきあげ、うろこをいじっていましたが、藍はぽつりとつぶやきました。


「なんだか、すずしくなった感じ。さっきまでチクチクして、ちょっと熱かったのに」


 残っていた花の蜜を、ヨーコはぐいっとあおります。お酒のにおいが部屋に充満しました。


「とりあえずうろこのほうは、これで十分だろう。ふぅ。じゃ、結論をいおうか。この『神殺しの剣』を使って、虹蛇を殺す。あんたたちが助かるためには、それしか方法がないね」


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