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その10

 藍と信作が同時に朱音に注目します。朱音は顔をゆがめたまま、左手のそでの部分を、するするとまくっていきました。


「ああっ、うろこ、うろこがある! わたしと同じだわ。色は赤い」


 藍が口をおおってうめきました。信作も顔をこわばらせ、朱音のうろこを見つめます。藍と同じようにひし形で、ざらざらしたうろこを、朱音はかくすようにそでを元に戻しました。信作たちと目を合わせないようにして、朱音は説明し始めました。


「桃子ちゃんにも、右手の甲に同じようなうろこがあったわ。でも、昨日わたしたちが見たときには、桃子ちゃんのうろこは消えていたの。それに、桃子ちゃん意識がなくって、気絶してて」

「えっ? それって、どういうこと? 桃子、風邪で休みじゃなかったの?」


 藍が不安げな顔で、朱音を見ました。朱音は首をふって答えました。


「ううん、きっと桃子ちゃんはつれていかれたんだと思う。わたしね、春休みに入ってすぐに、桃子ちゃんから相談されたの。ずっと同じ夢を見るって、とても恐ろしい悪夢をって。でも、それは桃子ちゃんだけじゃなかった。わたしもなの。わたしもずっと悪夢を見てたの。蛇の化け物に、『ウロコハ、我ノ色ハ返シテモラウ』っていわれて、どれだけ逃げても追いつかれて……」


 朱音はそれ以上、言葉を出すことができませんでした。かわりにしゃくりあげ、すすり泣き始めます。あわてて藍が朱音を抱き寄せ、頭をなでます。


「そうだったの、だからあんなにおびえていたんだ。朱音、怖かったでしょう」


 藍にはげまされて、安心したのでしょうか。朱音は泣きやみ、ゆっくりと顔をあげました。


「じゃあ、和歌月がいっている蛇の」

「ちょっと、信作!」


 警告するように藍が信作に視線を送ります。信作はあわてていいなおしました。


「あっ、ごめんよ。えっと、和歌月がいっていたやつが、うろこを取り返しにやってくるってことか?」


 藍は冷静な口調で同意しました。


「そうみたいね。桃子もきっと、そいつにうろこを取り返されたから、意識がなくなったんじゃないかしら?」


 言葉とはうらはらに、藍の声はわずかにふるえています。再び部屋の中に負のオーラが充満していきます。けれども誰も言葉を発することはできませんでした。


 ――それじゃあやっぱり、あおいの日記に書かれていたことも真実なのか? その蛇の化け物が、あおいを連れていったってことか? 連れていかれたから、それであおいが死んでしまったのか。けど、あおいは自殺したはずだ。別に連れていかれたとかじゃないはずだ――


 朱音と藍がなにか話しているようでしたが、信作の耳にはもうなにも聞こえませんでした。自分の思考の中に落ちていきます。


 ――でも、自殺自体があやつられて無理やりさせられたとしたら……。あおいの日記には、そいつは人間を変えてしまえるって書いてあった。だから、あおいをあやつることもできるんじゃ? じゃあ、いじめられて死んだんじゃなくて、化け物に殺されたってことなのか。でも、なんのために――


「……さく? 信作!」

「えっ、あ、ごめん」


 信作はあいまいに笑って、二人にうなずきました。朱音はまだ心配そうな顔をしていますが、藍は強気な表情でした。


「でね、朱音にもいったんだけど、わたしたちこのまま待ってても、その蛇、じゃなかった、あいつに襲われちゃうだけだわ。だから、こっちからしかけることにしたのよ」


 信作はぽかんと口を開けたまま、藍の顔をながめました。言葉に頭が追いついていません。


「しかけるって、え、どういうことだ?」

「言葉通りよ。わたしたちでそのへ……、あいつをなんとかしようってことよ」

「なんとかするって、相手はわけがわからない化け物じゃないか。第一、和歌月のいっていることが本当だって決まったわけじゃないだろ」


 藍がくるりとうしろを向いて、自分のうろこを信作に見せつけました。信作は口をつぐんでしまいます。ふりかえると藍はじろりと信作を見ました。


「のんきなこといってる場合じゃないのよ、信作。こんなうろこまでつけられたのに、まだそんなこといってたら、わたしたち本当にとり殺されちゃうわ。信じようが信じまいが、本当だろうが本当じゃなかろうが、こんな不気味なうろこが二人、ううん、桃子も入れたら三人にも出てるのよ。もう本気でその蛇と戦わないとどうにもならないじゃない!」


 藍のものすごい剣幕に、信作は思わずたじろいでしまいました。藍はふうっとため息をつきました。


「まあいいわ。信作が信じようがどうしようが、それは信作に任せるから」

「いや、そこまでいわれたら信じるよ。でも、戦うっていったって、いったいどうやって戦うんだよ。ぼくたちは小学生だぜ。それに、仮に大人だったとしても、化け物相手にどう戦えば」

「こういうときは相場が決まっているのよ。わたしたち、お払いに行こうかなって思ってるの」

「お払い?」


 信作はきょとんとした顔で、朱音と藍を交互に見ました。


「信作、ホントに危機感がないわねえ。だって、現にわたしたちには変なうろこができているのよ。しかも、そのうろこがあった桃子が、意識を失ってる。もうこれは、すぐにでもお払いしてもらわないといけないレベルでしょ!」

「いやいや、そういうことじゃなくて、なんでお払いになるんだよ? 相場が決まってるって、わけがわからないんだけど」


 藍は首をかしげました。不思議そうな目で信作を見ています。


「なんだよ、どうしてそんな目で見るんだよ?」

「いや、信作知らないの? こういうおばけとか化け物とかが出たときは、神社に行ってお払いしてもらう。これって『お姉ちゃんはユーレイ』でお決まりのパターンでしょ」


 信作は開いた口がふさがらないといった様子で、藍を見つめました。


「お前なぁ……。いったいなにかと思ったら、アニメの話かよ。そんな都合よくお払いなんてできるはずないだろ。そんなことより、もっと現実的に考えろよ」

「じゃあ信作は、なにか他にいい案があるの? わたしたちのうろこを取り除いて、その蛇の化け物を退治するようないい案が」


 信作はうっと口をつぐみました。藍が勝ち誇ったように笑いました。


「ほら、ないでしょ。わたしたちにはもうそれしか方法がないのよ」

「うーん……。まあいいよ、でもさ、ホントに神社に行ってもお払いなんてしてくれるのか? うちの近所の神社で、そんなことやってるなんて聞いたことないぞ。だいたいお払いって、お金かかるんじゃないのか?」

「大丈夫よ、とりあえずどこか近くの神社に行って、なににとりつかれているかだけでも教えてもらいましょうよ。神主さんなら、きっと助けてくれるわ。それに、こう見えてわたし、けっこうおこづかい持ってるんだから」


 藍が自信満々の笑顔で、ビッと親指を立てました。信作はまだ不安そうでしたが、二人とも、とくに藍がノリノリだったので、しかたなくついていくことにしました。


 ――もしかしたら、あおいの日記で書かれていたやつの正体が、なにかわかるかもしれないからな。そうすれば、あおいも――


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