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3-33 ちょっとは進んでいたりもする

 のんびりと進みつつも、物凄く時間がかかるわけでもない。


 とは言え、都合よく宿がある村とかには当たらず、野宿になることもある。


「盗賊などの防止のためのツリーハウスを作れる薬があるから良いけど…‥‥もうちょっと、成長で工夫をさせたいな。まだまだ、改良の余地ありか」

【快適なのは、どれも変わらないよ?】


 ぱちぱちと焚火での明かりを取りつつ、あちこちを見てそうつぶやくと、ハクロが返答する。


 この木の上に生えるログハウスでの野宿も、年月を経て色々と改良はしてきた。


 大きさを変えたり、屋根の形を変化させて天候に対応したり、ガラス窓ができないのであれば薄い葉っぱで代用したりと、住み心地を徹底的に良くしている。


 一応、騒ぎにならないように、野宿を終えた翌日にはきちんとすぐになくなるようにしているので、一夜限りの幻の宿となるが、それでもいい物にはしたいのだ。


 なので、まだまだ改良点などをこまめに心の中でチェックを入れるけど…‥‥こういう時に、人って自身の欲望の果ての無さを見るのかもしれない。改良してもまだある感じがねぇ…‥‥



【っと、アルス、スープできた!】

「お、もう煮えたのか」


 ぐつぐつことことっと煮えていた鍋の火を止め、中身を皿にのせていく。


 これもこの薬の改良で、建物内に食器状になったものを自生させられるので、わざわざ食器の用意をしなくなったのだが…‥‥木製の食器だと、何となくだが温かみがあるようだ。


「うん、美味しい。良い感じにできたね」

【キュル♪家庭科で、学んだ料理、できる幅増えた♪】


 調理技術を学んだので、野宿の時の食事がより一層、手の込んだ美味しい物になっていく。


 まぁ、調味料として味付きの薬で多少ごまかすところがあれども、それでもいい出来である。


【アルス、口元、ついているよ】

「そういうハクロもついているじゃん。ほら、拭うよ」

【私も、拭ってあげる】


 互いに口元についたスープのあとを拭いあい、あははっと笑いあい、時間が流れてゆく。


 食べ終えた後は、虫歯の予防として歯を磨き、湯船にも浸かって、後は寝るだけ。



「今日はどうしようかな…‥‥ハクロ、枕になるかベッドになるか」

【今日はベッド!】

「それじゃ、そうさせてもらうよ」


 ハクロに小さくなる薬を飲ませないで、その蜘蛛の背中に寝そべらせてもらう。

 

 ふんわりとして柔らかく、彼女の体温をじかに感じられるぬくもりは、とても居心地がいい物だ。


 そしてハクロにとっても、僕がこうやってくっついているのは気持ちが良いようで、おだやかに眠気が互いにやってくる。


 でも、まだ寝るような感じでもないし、かといって遊ぶようなこととかもないような…‥‥


「‥‥‥そう言えばハクロ、聞いて良いかな?」

【どうしたの?】

「今さ、ダンジョンへ‥‥‥ハクロの故郷と考えられるところへ向かっているけど、考えたらハクロの故郷での話って、そんなに聞かないよね?」


 全滅した経緯から、心に深い傷はあるだろう。


 けれども、年々共に過ごしている間に癒えてきているのか、彼女の群れのモデルのぬいぐるみを作っていたりするし‥‥‥ちょっとは聞けるかもしれないと、ふと僕は思った。


 いや、下手に刺激をするのは不味いだろうが、そうしないように気を使う。


「ハクロのいた群れで、何か面白い事とか無かったのかなって思ったんだよね。個性的なのが多いようだし、何か笑い話の一つや二つ、合ってもいいかなと」

【‥‥‥話‥‥‥キュル、あることはあるけど‥‥‥んー、昔話なら、これかな?】


 トラウマになるような部分ではなく、きちんと大丈夫そうな部分を引けたらしいが、何故かハクロは首を傾げながらそうつぶやく。


 それでもある程度思い出しつつ、これなら良いかもと言う記憶を引き出せたようだ。


【…‥‥まだ私、卵から孵化したばかりの時だったけど…‥‥】









‥‥‥今のハクロの姿になる前。出会った時の大きな白い蜘蛛ではなく、本当に小さな子蜘蛛時代。


 その頃のハクロは今でもかなり甘えてきているところがあるが、当時はまだ幼いのも相まって、かなりの甘えん坊だったらしい。


 兄弟姉妹変わらず、母親である巨大な蜘蛛のモンスターに四六時中くっ付き、甘えていたそうだ。


【お母さん、と言うのかな?温かった。体メチャクチャ大きくて、毛の先にくっ付くぐらいだったけど…‥‥それでも、大きかったの】


 ぐいーっと手を広げながら、大きさを体現するハクロ。


 今の彼女のサイズよりもさらに大きいようで、どれだけの大きな母蜘蛛だったのだろうか。


 そんな母蜘蛛にくっ付いていた時があったが、群れの皆で狩りをしている時があったそうで、その狩りの獲物を運んできた時に、ちょっとした騒動が起きたそうだ。



【‥‥‥あの日、私、お母さんの上で、皆見てた。大きな獲物、咥えてばらし、分け合っていたけど‥‥‥喧嘩が起きたの】


 群れで暮らす以上、ある程度の決まり事と言うか秩序は存在していたようで、普段ならば争うことは無い。


 だがしかし、その時の獲物は非常においしかったようで、取り分で揉めたらしい。


【争い、結構激しかった。2匹の姉だったけど、手の内知っていたから、決着つきにくかった】


 蜘蛛のモンスター同士、いざ争うとなっても互いに似ている種族であれば、似たような能力しかない。


 そのため、互に細い蜘蛛脚で殴り合っていたらしく、その戦いぶりに他の兄弟姉妹も野次馬根性のように煽ったりして楽しんでいたらしい。


 

‥‥‥けれども、秩序のある群れでの争いを母蜘蛛は許さなかった。


【お母さん、私以外にもついていた子、器用に糸で釣って…‥‥自分で動いた。巨体、動かして、地面割った】

「‥‥‥地面を割った?」

【うん。せぇいや!!って勢いよくやって、滅茶苦茶揺れた】


 喧嘩の仲裁のつもりなのだろうが、凄まじい揺れと振動によって一旦喧嘩は収まった。


 けれども、互に気が収まらない部分もあったので、にらみ合っていたらしく、母蜘蛛は見かねてある行動を起こした。


【お母さん、極太の糸出して、姉たち縛りあげた。蜘蛛から、ミノムシになった】

「‥‥‥どういうこと?」

【姉たち、そろって巻かれちゃった】


 話によれば、母蜘蛛の出す糸は当時の兄弟姉妹たちの扱う糸よりも非常に優れていたようで、切る事もほどくこともできなかったらしい。


 なので、このまま束になって固められてしまえば、それこそ母蜘蛛の許しが無ければ永遠にそのままだったらしく、姉蜘蛛たちは慌てたそうだ。


 だがしかし、母蜘蛛はそう簡単に許さず、しばらくそのまま放置したらしい。



【普通だったら、そこで終わる。何もできずに、動かなくなる…‥‥はずだった】

「何かあったの?」

【姉たち、執念深く、諦め悪かった。だから、未知の生物になった】



…‥‥本来であれば、動けなくなった時点で待つのは餓死だった。


 けれども、当時のその姉蜘蛛たちは根性あったようで、自身の口の牙なども使って動き、協力しあったけっか‥‥‥まさかの共同生命体と言うべきものに昇華したようである。


【二人で一つ、宙を舞い、地を駆け抜け、生き延びた。その生き延び具合に憧れて、同じようになる兄や姉たち、たくさんいたよ…‥‥】


 喧嘩から始まったお仕置きだったはずなのに、まさかの流行になったらしい。


 当時のその奇妙な光景を思い出したようで、ハクロは遠い目になっていた。


【‥‥‥でも、しばらくたったら、見事に廃れた。しかもお母さん、それで生きているならそのままでいいんじゃと言う事で、ほどかなくて…‥‥ある日、その姉たち行方不明になっちゃった】 


 流行と言うものは廃れていくものである。


 そしてその廃れの波にも抗ったらしいハクロの姉蜘蛛たちではあったが、ある日を境に姿を消したそうだ。


 群れの中で出た理由に関しては、一人立ちをしたという話であったが…‥‥


【今なら、わかる。姉たち、恥ずかしくなって逃げた】

「そうなの?」

【うん。だって、いなくなる前に見たけど、真っ赤な顔で、涙を流してこそこそ逃亡、してたもん】


 人であろうともなかろうとも、羞恥心のような者はあったらしい。


 流行らなくなった今、完全な流行遅れとなったことが恥ずかしくなって、そのまま逃走したのではないかと言う事であった。


「‥‥‥それだと、何処かで生きている可能性が無きにしも非ずだよなぁ」

【そうかも。一人だちした、兄、姉なら、生きているかも…でも、あの姉たちは、どこでどうしているのかな?】


 ほどけなくなり、母蜘蛛もこの世からいなくなった今、姉蜘蛛たちが糸から解放される未来はなくなった。


 今のハクロの技量では、もしかすると可能かもしれないそうだが…‥‥会わなければ意味がない。


 でも、もしかするとハクロの血縁でまだ生きている蜘蛛がいるかもしれないという希望の星にはなっているようだ。


【‥‥‥他にもあるけど、今日はもう遅いかも。アルス、寝よ】

「そうするかな‥‥‥と言うか、ハクロのその姉蜘蛛たちのその後が結構気になるけど…‥‥ダンジョンの方で何か情報があると良いなぁ」


 行く楽しみが一つ増えたというか、ある意味見てみたいものが増えたというべきか。


 


【キュル‥‥‥お母さんに、会いたいなぁ‥‥‥】

「…‥‥僕も、会いたいなぁ‥‥‥」


 話し終えたところで、ふとその気持ちが出て来たのかそうつぶやいたハクロに、僕は同意する。


 けれども、考えて見ればハクロの方は亡くなっているだろうし、僕の方もいないし‥‥‥ああ、たがいに母を亡くした身でもあるのか。


「‥‥‥もうちょっと、くっ付こうか」

【‥‥‥うん♪】


 体を回して、背中合わせから、うつ伏せになる。


 よりもっふぅっと顔から沈み込むような感じだが、これはこれで巣極癒されるというか、安心感はあるだろう。


 人型部分に抱き着く形とはまた違う抱き着き方でもあるが…‥‥互いに、安心できる。


【アルス、お休み…‥‥キュル♪】

「お休み、ハクロ…‥」


 なんとなく感じた寂しさも失せ、互いの温かみをより感じとり、眠気が襲い掛かってくる。


 穏やかな心で、ゆっくりと夢の中へ向かうのであった‥‥‥‥






‥‥‥そしてアルスが寝て、すやすやと寝息を立てはじめた頃合いに、ハクロはそっと彼を起こさないようにてでもって、優しく抱きしめる。


【‥‥‥お母さん、もういないけど‥‥‥昔話で、お母さんから聞いたよ】


 薄い葉の窓をめくり、夜空を見上げるハクロ。


 そこにあるのは、光る月に瞬き合う星々の光景。


【お母さんのお母さん、そのまたずっとお母さん…‥‥まだまだ先の、お母さん…‥‥その頃のもっと違うお母さんは口にしていた。星の明かりは、モンスターの命の火。輝く火は地上に落ち、そしてまた空へ帰るって…‥‥もしかすると、お母さんも空にいる星のどれかかもしれないよね】


 それは昔、まだ小さな子蜘蛛だった時に、母蜘蛛から聞いた話。


 それも何代も続けて語られていたらしい昔話のようで、足りない部分もあるそうだが受け継がれてきたものらしい。


 そうつぶやきながら、優しくアルスを抱きつつ、星々を見上げる。


【ねぇ、お母さん…‥‥私、大事な人、できたよ。お母さんに、紹介するけど…‥‥聞こえていたら良いなぁ…‥‥】






‥‥‥彼女は気が付いていないだろう。


 ダンジョン内で過ごしていたのであれば、そこは星の無い(・・・・)場所だということに。


 けれども、こうやって星々を受け入れているのは、アルスとの出会いから空を見て、意識しているからだ。


 空を見たことがない物が、どうやって始めて見た空を認識するのか。


 星々の明かりを見たことがないものは、どうやって星と認識するのか。



 あまりにも自然に過ごしていたがゆえに、本来は見ることがない光景に気が付いていない。


 そしてその発言から考えると、その母の母の、そのまた母の…‥‥何度も繰り返した先にいるものは、ダンジョンではなく外にいた(・・・・)ということになるのだが、その事にも気が付かない。


 今はただ、綺麗に輝き合う星々のどれかが母かもしれないと思えることから、アルスの事を紹介することに気を取られるのであった…‥‥


【ドマドンおばあちゃん、言っていたもん。大事な人は、親に紹介したほうが良いって…‥‥ねぇ、お母さん、この人、私の大事な人で、大好きな人で‥‥‥‥愛している人だよ】

 

 そして紹介を軽くし終え、再び自分の背中にアルスをのせ、彼女も眠りにつく。


 その言葉を聞いていた夜空の星々は輝きつつ、一つの星の明かりが優しく光ったような気がするのであった…‥‥



 

ほんの少しだけ聞くことができた、彼女の群れの話。

それは喜劇だったというべきか、流行の残酷さを表していただろう。

けれども、たしかにその時には群れは存在し、今もなお、彼女の心には残っているのである…‥‥

次回に続く!!



‥‥‥親(?)に紹介しているし、徐々に外堀が埋まってないか、これ?妹だった者にも受け入れられているようだし、何かと支援の輪も広がっているし…‥‥あれ?アルス、ハクロの蜘蛛の巣にじわりじわりとからめとられていないだろうか?

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[気になる点] 変異・変貌が流行る ハクロの変化は薬の所為ではなく 血統性固有生体の所為だったのか ・・・・・好き勝手に進化できる生態(◎_◎;) 本当にあるべき種族は蜘蛛なんだろうか
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