3-32 一応、警戒はしているつもりでありつつも
‥‥‥ガタゴトと揺れる馬車の横を通り過ぎながら道を進んでいく。
普段はそうそう利用することは無いとはいえ、こういう移動手段も異世界ならではと言えるだろう。
まぁ、魔道具とか過去の転生者の存在によって、前世の世界にあった自動車モドキが存在しているらしいが‥‥‥その手のものはまだまだ普及はせずに、緊急時の超高速手段として取られているらしい。
道路の整備とか、交通マナー、操縦手段の教習などがあるので、前世のように簡単にはいかないようだ。
なので、基本的に行き交う移動手段としては馬車ばかりだが、牽引を務めるのは何も馬ばかりではない。
モンスターが存在するだけに、馬と同類、もしくはそれ以外で有ろうとも何とかつかえるものを利用した、それはもはや「馬」車なのかと言うツッコミどころがあるのも存在しており‥‥‥‥
【それだったら、私も馬車を引けるかも?】
「ハクロの場合、絵面がアウトになるよ」
蜘蛛のモンスターとは言え、そこから人の体が生えている以上、牽引させたら絵面的に良くない。
と言うか、そんな事をさせる気もないし、馬車に乗るほどでもないというか、彼女の背中に乗っているだけで良いというか…‥‥まぁ、馬車はいらないだろう。
そう思いつつも僕らは道を行くが、まだまだ先は長いらしい。この時期の暑い日差しを避けるために日傘をさして、彼女の背中に乗っているけど、数日ほどは野宿するべきかな。
「馬車の道案内の看板もあって、地図もあるから迷うことは無いけど…‥‥ダンジョン、ゲードルンのある都市まではまだ先かなぁ」
【んー、飛ばしていくのも良いけど‥‥‥暑くなる、キュル】
「まぁ、のんびりゆっくりと、行けばいいさ」
学園が夏季休暇となりいつもならば領地の様子を見つつ研究所の方へ向かう予定もあったのだが、今年はちょっと予定を変更して夏の旅行としゃれこんでいた。
旅行先は、ダンジョン都市が存在する国『グラーダ共和国』で、そのダンジョン都市を旅行先に選んだのである。位置関係としては、リリのいたアンドゥラ王国の道中の間にあるようだ。やや帝国よりの小国でもあるそうだ。
と言うのも、そのダンジョン都市にあるのはゲードルンと言う名のダンジョンであり、そのダンジョンがハクロのかつていた場所らしく、気になったので確認しに向かう目的がある。
ついでに、先日知り合った第1皇女アリスにも遊びに行くと連絡しており、そこで落ち合う予定があるのだ。
‥‥‥一国の皇女を友人にして良いのかと言う疑問があるが、一応学生同士というのもあり、転生者同士と言う縁。
友人としての関係を成り立たせつつも、そこで過ごしている彼女の様子を見に行くようにと、皇帝陛下からも実はそういう任務が出されていたりする。
色々と騒動があったせいで、処罰を受けているような形で有れども、それでお皇帝陛下にとっては大事な娘であり、その様子を知りたいのだろう。
国の間諜たちなどで知ることができるだろうけれども、友人から見たらどうなのかと言う話も聞きたいだろうし‥‥‥任務と言うか、親が心配しているから見てきてほしいというのもあるのだろう。
何にしても断る理由もないし、気軽に確認すればいいだけなので問題あるまい。
ダンジョン自体は、以前に何やらモンスターが急に溢れ出したことがあったそうだが、それでも今は警戒を引き上げ、グラーダ共和国からは冒険者なども雇って、定期的な狩りを増やしたそうだが‥‥‥うん、何もない事を祈りたい。
とにもかくにも、ちょっとした不安もあるが、それでも面倒事が起きないように祈りつつ、僕らは先を進んでいた。
「それにしても、ダンジョン都市にあるゲードルン‥‥‥ハクロの故郷らしいのはベイドゥからも聞いたとはいえ、本当にそうなのかなぁ?」
【キュルゥ‥‥‥私、あんまり外、気にしてなかったからね…‥‥】
ダンジョンのどの部分かは不明だが、そこにかつてハクロが所属していた群れが存在していたらしい。
ベイドゥからも証言は取れているし、ある程度の位置の目星は付けたのだが…‥‥それでも、わからないことはある。
ハクロやベイドゥの話だと、それなりに大きな蜘蛛のモンスターの群れだったらしいのに、全滅させたとか存在していたとか、そういう記録が無いそうだ。
やらかしたものたちが証拠隠滅のために燃やしたとか言っても、いくらかは無理があるだろうし、何かと不審な点が多い。
「そう考えると、あまり気を緩めずに、警戒したほうが良いかもね。いつぞやかのハクロを攫った集団のような、戦闘力の高い不審者が出てくる可能性もあるし…‥‥護身用の薬、所持しているよね?」
【大丈夫♪アルスのくれた、不審者撃退セット、しっかり装備!】
そう言いながら、ハクロが振り向き、どこからともなく僕が渡した薬の数々を見せる。
痺れ薬、超絶痒み引き起こし薬、こけおどし大爆発薬、粘着薬、ウルトラボンバーヘッド薬‥‥‥‥いざとなれば投げつけて効果を発揮する薬が多い。
それに、魔法や糸と言う攻撃手段もあるし、ある程度の自衛は可能でもあるが…‥‥それでも、慢心は出来ないだろう。
「気を引き締めて警戒するに越したことは無いらしいし、ダンジョンで何が起きるのかもわからない。用意周到にしないとね」
【キュル!私、アルス守るから、大丈夫!】
「そう言って、誘拐されていたのはどこの誰だっけ?」
【…‥‥キュルゥ】
…‥‥何も言えなくなったようだが、そうやすやすと襲ってくる馬鹿はいないとは思いたい。
いや、馬鹿だからこそ襲うとかってわけもないし…‥‥何かと注意するに越したことは無い。
旅行は楽しみにしつつ、警戒も怠らず、先へ進むのであった‥‥‥
「念には念を入れて、もうちょっとレパートリーを増やそうかな?人相手とも限らないし応用をきかせてもっと別のが作れそうだしね」
【数多い、念には念を入れる、それ大事】
「‥‥‥むぅ、今年の夏季休暇じゃと、かなり後の方になるのかのぅ」
アルスたちが念には念を入れて色々と考えていた丁度その頃、都市アルバニアのモンスター研究所では、ドマドン所長がそうつぶやいていた。
例年であれば今年もここで滞在するのかと思っていたが、まさかの後回し。
孫が遊びにくる気分だったので、楽しみにしていたのだが…‥‥それでも、彼らだって自由にやりたいこともあるだろうし、ずっと来ないわけではない。
むしろ、何か用事があればすぐに来るほどにはなっているので、長期滞在をする機会がなくともそれなりに会えるので良いだろう。
「んー、でも残念ですね、所長。今年も来てくれればよかったですねぇ」
「あとから来ても、時間がそこそこ経っているし‥‥‥あー、今回はちょっとつまらないなー」
「まぁまぁ、そう愚痴をこぼしてはいかんのじゃ。愚痴をこぼすのならのぅ、儂の最近産まれたひ孫の成長記録帳を一緒に見ぬかのぅ?これはこれで楽しいのじゃ」
「「すいません、仕事がありました」」
ドマドン所長の言葉に対して、即逃走を試みる職員たち。
職員たちもまた、アルスたちがここへ来るのをそれなりに楽しみにしていたりするのだが…‥‥それが無かったのは残念に思いつつも、そのドマドン所長の孫自慢話は逃げたくなるのだ。
いや、別にひ孫が嫌いとかそういう事ではないのだが…‥‥長くなるのはやめてほしい。
「そう遠慮することは無いのじゃ。ほれっ、仕事ならば今期は予定表を組んで見える化をして、効率化を向上させておるのじゃし、お主らはない方じゃろう」
「「ひえっ!?」」
逃亡は阻止され、見事に回りこまれ、一部の職員たちが捕まってしまう。
アイコンタクトで助けをこうも、逃げの手を取った者たちは既に逃亡しており‥‥‥‥もはや、助かるすべはなかった。
「それでは行くかのぅ、まずは第1章、ひ孫が産まれた日から詳細を…‥‥‥」
そして数日後、またドマドン所長のひ孫に関して詳しい職員が誕生してしまうのであった。
何も、ひ孫が産まれた時からじわりじわりと増えてはいるのだが‥‥‥その知識量がさらに増加した人が出たというべきだろうか。
「今ならおいら、ドマドン所長のひ孫の爪の先から骨の数まで、細かくいえるぞ‥‥‥」
「何を食べたのか、どの様な栄養を取ったのか、どのぐらいの成長予測があるのかまで、わかってしまうぞ‥‥‥」
「所長、なんかお婆ちゃんぶりがすごくなってないか?」
「いや、違う。あれは単純にひ孫馬鹿が強化されているだけだ」
哀れな職員は、こうやって数が増えるのである‥‥‥
のんびりと先を行きつつも、無警戒ではない。
それなりに考えて行動しているし、戦うよりも逃げの一手の方を選べるようにしているのだ。
まぁ、そんなに変なことは無いと良いなと思うが…‥‥どうなるのかなぁ?
次回に続く!!
‥‥‥ウルトラボンバー薬に関しては、以前の毛玉になったやつの亜種である。その他にも手段は色々と用意しているし、自衛はそれなりにできるはず。
ゴールデンウィークが近づいて来たけど、どうしようかなぁ…‥‥ペットを飼いたいので育てる期間にしたいけど、その金をPCの買い替えに貯蓄したい…‥‥あと、肝臓の結果は酷いことは無く、運動不足な部分があったので、運動面に費やすべきか‥‥?悩むことが多い。




