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3-28 それは、忘れている事でもあり

‥‥突然出てきたハクロの弟たちに、何故かアルスの妹と名乗る令嬢。


 どういうことなのかと言う事で、突然の情報の嵐に混乱させられつつも数分後、ようやく落ち着いてきたところで、路地裏でもあるので周囲の警戒のためにハクロが糸を張っておきつつ、簡易的な椅子と机を用意し、話し合いの場を設ける。


「‥‥‥それで、どっちから話してもらおうかと思うけど…‥‥どっちからの方がいいかな?」

【キュル‥‥‥弟たちの方は聞きたいけど、まずはそちら。アルスの妹と、名乗る理由知りたい】

「ええ、良いですわ。ベイドゥ、お茶を用意して」

「了解です、お嬢様」


 令嬢、リリの言葉に対してすぐに帽子をかぶり直し、そそくさとお茶を用意するベイドゥ。


 そしてすぐに用意されたお茶を飲みつつも、僕らは彼女の話を聞くことにした。


「‥‥‥そうね、お兄様と言っても、今の関係でそうなるわけがないのよ。何しろ他人であり、血の繋がっていない状態‥‥‥けれども、お兄様には前世がありますわよね?実はわたくしも、そうですの」

「…‥‥と言う事は、転生者なのか?」

「そうよ。と言っても、転生前の人格よりも今の人格の方が出るのだけれども‥‥‥わたくしはね、前世のお兄様の妹だったのよ」





‥‥‥前世の知識などはあれども、僕自身についての記憶はあやふやであり、どの様なものだったのかは覚えていない。


 けれども、リリはその前世の僕の妹だったそうで、その記憶はあるそうなのだ。


「とはいえ、お兄様と一緒だった期間は短かったのですけれどものね…‥‥いえ、わたくしの方も自分自身がどの様なものだったのか、そんなに覚えていませんわ。精々、お兄様の後を一生懸命追いかけ、憑いていっただけの、カルガモの雛のような存在でしたもの」


 例えが可愛いような、わかりやすく、イメージが付きやすい。


「そう、お兄様のためならばたとえ火の中水の中、森の中に…‥‥何処へでもついていくような、そんなただの妹だったですの。けれどもある日…‥‥」


‥‥‥前世の彼女は幼かったそうで、何をするにも僕の後を一生懸命ついていったらしい。


 そして毎日追いかけて、楽しく過ごしていたそうなのだ。


 だがしかし、その日々は短かったようで、ある日突然終わりを告げたらしい。




「あの日、お花摘みで離れていた時に、突然大きな音がして…‥‥嫌な予感がして慌てて向かって見れば、そこにはお兄様が見知らぬ方に潰されて、動かなくなっていましたの。見れば、何か大きな石でもぶつけられたような様子であり、その潰した方の頭に刺さっており‥‥‥その現場を見て、何事なのかと一瞬理解できなかったのですわ」


 けれども、かなり不味い事態だという事で幼いながらでも慌てて近所の人たちに助けを請い、救急車を呼んでもらったらしい。


 だが、その場で既に僕の死亡が確定していたようで、それを告げられた時に大きなショックを受けたそうだ。



「…‥‥お兄様の死因は、頭部への外傷ではなく、圧死でしたわ。隕石とやらにぶつかっていたようですけれども、まだその時点では息がありつつも‥‥‥どこかの大馬鹿な方が、お兄様を潰して、その生命を絶ってしまったのです」

「‥‥‥そう言えば、そうだったなぁ」


 リリの言葉に対して、僕は転生前に出会った神とやらの説明を思いだす。


 僕の死因って、頭への隕石の直撃よりも、その現場を見た馬鹿が異世界転生を夢見て、自分もと思い立って再現し直したことで、潰されたことだったんだっけか。


 まぁ、その潰した馬鹿の方は転生することは叶わず、地獄へ落ちたらしいが…‥‥改めて前世の自分の死因を聞かされると‥‥‥


「‥‥‥細かい部分で知っているし、前世の関係者…‥‥僕の妹だったというのは分かったよ。でも、記憶になくて、ごめんね」

「かまわないですわ、お兄様。こうして今世で再会できたのですから」


 前世の僕の記憶はあやふやな部分があり、妹の存在がいたなんて思わなかった。


 でも、その妹に対してショッキングな出来事を負わせてしまったと考えると情けなくなったが‥‥‥彼女はふふっと笑って許してくれる。


「お兄様がいなくなって悲しむ日々は有りましたけれども、それでも何とか乗り切ったのですわ。亡きお兄様のために、せめてその人生の分をわたくしが精いっぱい幸せになってあげようと思ったのですわ」


…‥‥だがしかし、そんな思いもある日奪われたらしい。


「わたくしの場合は、トラックに轢かれて死亡ですわ…‥‥朝に登校している最中に、深夜から徹夜で走っていた方の居眠り運転で…‥‥」


 とある難関大学に受かって、これから大学生活を行おうとしていたほどだったらしいが、それでもあっけなくその命は奪われてしまった。


 そしてこのまま終わりかと思っていたようだが…‥‥そこに、僕も出会ったことがある神と名乗る存在に出会い、この世界に転生できたそうだ。


 ただし、僕の時とは事情が異なって普通の事故ではあったそうだが…‥‥



「その神がこぼした血縁者と言う話、それを丁寧なお話(もぐ脅し)で詳しく聞いて、お兄様がこの世界に転生しているという話を聞いたので、この世界に転生させてくれるように懇願(脅迫)したのですわ。そのおかげで、転生できたのです」

「‥‥‥ん?あれ、なんかおかしいような副音声が聞こえたような」

【キュル、なんか聞こえたよ?】

「気のせいですわ」


…‥‥何はともあれ、これはこれで特例と言う形で、彼女は転生したそうだ。


 ただし、僕がいるこの世界に転生したと言っても、時間のズレや場所によって再会できる確率は限りなく低く、会わないまま生涯を終える可能性もあった。


 でも、できる限りどうにかしたいという事で、神に頼みこんだ(拳で)結果、とあるチート能力を授けてもらい、その力で出会える確率を上げたらしい。


「貰ったのは『縁がある魂同士を見る力』ですわ。とは言え、あくまでも魂を見るだけであり、何かができるという訳でもないのですけれども…‥‥それで、お兄様がお兄様である魂を捜したのですわ」


――――――――――――――

『縁がある魂同士を見る力』

魂同士が出くわす縁を見る力であり、わかりやすく言えば運命の赤い糸とかそういう類を可視化する力。

ただし、自由自在に操れるものでもなく、その縁を変えることはできない。その魂が誰と縁を持ち、そしてどのようにつながっているのかを見るだけの、覗き見をする程度の能力。

――――――――――――――


 チート能力にしては控えめな類のようで、単純に観察するだけの日々。


 けれども、僕に出会える確率を引き上げようと頑張り、ありとあらゆる魂を見つつどこかに縁が無いかと探しまくり、根気よく時間をかけたらしい。


 そしてある時、ついにその縁を見つけたようだ。



「…‥‥わたくしとしては、見たくもなかったのですけれども…‥‥ある日、とある孤児院に流れ着いていた方々に、お兄様と縁のある方がいましたのよ」

「孤児院?」

「ええ。でも、親を亡くした子供たちがいる場所ではなく…‥‥わかりやすく言えば、前世の少年院と言うべき様な、犯罪を起こした方々が収監される場所ですの。わたくしが産まれた家の家訓として、どの様な事をすればこのような目に遭うのかと言うのを学ぶことで、行ったのですけれども…‥‥」


 そこまで行ってくれたことで、僕はどうして縁がある奴がいたのか、理解した。


「もしかして…‥‥僕の兄たち、いや、元兄だった者たちに出会ったのか?」

「そうですわ。ただ、バラバラになっていたようで、片方だけ‥‥‥名前までは見ていませんでしたけれども、お兄様との縁を見つけ出しましたの」


 名前が不明なうえに、そこまで容姿を見ていなかったので、あの今は縁なき兄たちにどちらなのかはわからない。


 けれども、一時的とはいえ家族と言う関係があったせいなのか、どの様な縁を持っていたのかが見えたようで、僕の魂に関しての情報を発見し、彼女は歓喜したようだ。


 時期的には多分、断罪されて処分された後なのだろうが…‥‥数年前のこととはいえ、まさかの兄の情報には驚かされたな。


「けれども、わたくしのいる国とお兄様がいる国はそれなりに離れていて…‥‥そう容易く向かえませんし、そもそも今世では赤の他人。調べようにも調べ難くて困っていたのですけれども…‥‥そんなときに、出会いましたの」

「そうです、我々がお嬢様に出会ったのは、丁度その時でございました」


 っと、お茶を飲んでひと息をついたところで、ベイドゥが説明を変わった。


【キュル‥‥‥弟たち、どういうこと?】

「それはでございますね‥‥‥‥」




‥‥‥ハクロの弟たち、ベー‥‥‥いや、もうまとめてベイドゥと言うのだが、彼らは元々彼女がいた群れにいた幼き子蜘蛛たちだったらしい。


 けれどもある時、その群れで平和に暮らしていたなかで…‥‥突然、人間たちに襲われたそうだ。


「今でこそ、知識を得て知りましたがどうやら冒険者と言う方々のようでしてな…‥‥我々の群れがいたのはとあるダンジョンの中であり、襲撃してきたのです」


 冒険者たちは、国が騎士たちを定期的に派遣して狩る行為に参加しつつも、ダンジョン内でしか手に入らないような魔道具などを求めて入りこむ者たちである。


 そして、そんな者たちとぐうぜん出くわしたようで‥‥‥罠にはめられたらしい。


「…‥‥本来であれば、我々のような群れは襲撃する前に、ダンジョンを管理する都市や国へ届け出をしてから、騎士たちを引き連れてくるものでございます。ですが、その冒険者たちはそのダンジョン内でとある道具を‥‥‥我々、蜘蛛系のモンスターには効果がある魔道具を手に入れていたようでございまして、それを使用したのです」

「効果がある道具?」

「そうでございます。…‥‥姉君といるあなた様なら、何かわかるでしょうか?」

「‥‥‥んー、蜘蛛系のモンスターとなると‥‥ガスとか?」

「正解でございます」


 その冒険者たちが使用したのは、強力な麻痺性の毒ガスを吹き出す魔道具。


 ただし、その魔道具は本来ダンジョン内で使用するようなものでもないし、兵器的な機能の高さからも危険視され、国に出して厳重に管理してもらう類だったのだが…‥‥その場で使ったそうだ。


 蜘蛛のモンスターは匂いにそれなりに敏感らしいが、ガスもしかり。


 効果は抜群だったようで、例えるならばゴキブリをいぶす煙のごとく、次々とやられてひっくり返って動けなくなり…‥‥薄まった時には、全員やられていたらしい。


 そして、念には念を押すように、その冒険者たちは襲撃して絶命させたようだ。


 かろうじて動けた者もいたのだが、動きが鈍っており、あっけなくやられてしまう。


 ベイドゥたちはその時はまだ幼くて、体が小さな子蜘蛛だったがゆえに、偶然にも陰に隠れて見えずに助かったそうだが‥‥‥‥


「我々、蜘蛛系のモンスターの糸には価値があり、討伐して根こそぎとる気だったのでしょう。そして火も付けて、ガスの魔道具を使った形跡を無くそうとしていたようなのです」


 ガスと言えば火をつけると爆発するイメージがあるが、生憎その道具のガスは発火性はなかったようだ。


 証拠隠滅も兼ねた放火に対して、動けない現状。


 どうしたものかと必死になっている中で、ふと冒険者たちの方を見れば、変なことになっていたことに気が付いた。


「姉君‥‥‥それがちょうど、帰ってきたタイミングなのです」

【…‥‥】


‥‥‥ハクロはその時、偶然その場にいなかった。


 何か理由が合って離れており、ガスの餌食にもならずに戻ってきたようだが…‥‥それでも、家族がみなやられていた光景はショックだったに違いない。


 そして、更にその当時の彼女に追いうちをかけるがごとく、狙って襲い始めたようだ。


「何を言っていたのかは、当時の我々では聞き取れませんでした。けれども、姉君の珍しさから生け捕りにする気だったようですが‥‥‥何はともあれ、一時的に離れてくれたのです」


 彼らにとっての姉がどうなったのかは不安だが、このままでは生きたまま焼かれかねない。


 だからこそ必死になってあらゆる手を尽くした結果、自分達の糸を飛ばしては巻き取って、根性で火の元から離れるようにして動き、どうにか助かったそうだ。


 けれども、ダンジョン内を親の庇護もないような子蜘蛛が生きるのは難しく、途方にくれかけていたが‥‥‥それでも生きる事を諦めはしなかった。


 小さな子蜘蛛ではあるが、糸を扱えるのであればそれを利用すればいい。


 そして都合のいい事に、ダンジョン内には死亡した冒険者の遺体なども残されており、それを操り人形のように動かすことによって、攻撃と防御、内部に入りこむことで家としても活用し、生き延びたそうだ。



「すべては、我々の群れを襲った冒険者を討伐し返すため…‥‥その復讐のために動いている中で、お嬢様に出くわしたのです」







‥‥‥ダンジョン内を体を操って狩りをして生き延びてきたのはいいのだが、それでも肉体の限界はある。


 腐りかけている状態の人肉はむしろモンスターをおびき寄せない状況で、廃棄するしかないかと思っていたところに、リリに出会ったようだ。


 何故、侯爵家の令嬢がダンジョンにいたのかと言えば、僕との縁を見つけて気になったはいいが、どうやって調べればいいのかがわからない。


 ならば、調べるほどの力を持った人物を傍においてどうにかすればいいと考え、ダンジョンに潜り込む冒険者たちであればそういうのに長けていると考え、護衛も用意してもらいつつ捜していた中で…‥‥偶然にも出くわせたようだ。


「わたくしの目で見れば、明かにモンスターなのはわかりましたわ。わたくしは情報を探れるような人物を求め、彼らは肉体を求めていた存在」

「我々としては肉体を求めつつ、これでも子蜘蛛であり、あちこちへ入りこんで情報を得られる存在‥‥‥互いに利益はありましたな」


 その場でどうにかコミュニケーションが取れないかと試行錯誤し、前世の弦楽器や笛の理屈で音を火との声に真似させる手法を得て、なんとか会話。


 そしてリリの方は彼らに都合のいい肉体を用意する代わりに、リリのために情報を探る手助けをするということで、たがいに手を結んだそうだ。


‥‥‥まぁ、情報を得た後も何かと互いに気が合ったそうで、主従関係に至ったそうだが…‥‥ベイドゥがハクロ以上にやけに流ちょうに人の言葉をしゃべっているなと思ったが、内部で弦楽器や笛の理屈を利用した声帯モドキを作っているそうで、それによって言語化しているらしい。


 なので先ほど、正体を明かした際に鳴き声を出していたが、本体は人語を喋れないようである。






 とにもかくにも、そんな出会いも経て、僕らの事を調べ上げ、まさかの縁のある者同士としてここへ向かうことにしたそうだ。


 もちろん、他国の者なので留学と言う手段が取れなくもなかったのだが‥‥‥‥


「でも、留学生の審査は厳しいものが多く‥‥‥だからこそ、編入生になったのですわ」


 留学する者は、その留学してきた国を表す鏡のような者である。


 だからこそ審査もそれなりに厳しくされており、ちょっと都合が悪いところがあったので、編入手続きをとったようだ。


 一応、彼女の両親には転生だとかは喋っておらず、その蜘蛛たちの肉体は、趣味の人形作りと使用して材料を集めて作り上げたものであり、今のところ見破られていない模様。


 そして、ようやくここに到着し…‥‥僕らと話す機会をうかがいつつ、作り上げたそうだ。


 それが今の状態なのである。




「‥‥‥なるほどなぁ。そんないきさつがあったのか」

「ええ、それでも大変でしたわ‥‥‥絵姿を入手し、どの様な人物なのか何重にも確認し直し、そして帝国の学園へ編入するための手続きも多くて…非常に苦労しましたわ‥‥‥」

「何しろ、編入手続きとは言え、他国の学園。特に、帝国の学業のレベルは非常に高く、試験も難題でございましたからな」


 ここに来るまでの苦労を思い出したのか、二人ともそろって遠い目をするのであった‥‥‥‥


前世からの妹は、縁を捜して辿り着いた。

彼女の弟は、利益を得ようとしつつ、気が合ってそのまま主従になった。

何かと面白いことになっているようだが、それでも狙う者としては似ていたのか‥‥‥

次回に続く!!



‥‥‥なんか思ったよりも長くなったので、ちょっと区切った。

もっと詳しくしたいけど…‥‥ハクロの様子から見ると、何か思うことがあるようだしね‥‥‥

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