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3-25 仲と言うのは何かとあって

「‥‥‥そう、ようやく、ようやくなのね」

「はい、お嬢様。様々な苦労がありましたが、ようやく‥‥‥‥我々は得たのです」


―――雷鳴が鳴り響き、嵐が吹き荒れる中。その室内にて彼女は従者の報告を聞き、ニヤリと口角を上げた。


「噂が届き、興味を持って調べて数年は経過し、距離もありましたが‥‥‥‥いよいよ、得られたのね?」

「はい、お嬢様のお父様が許してくれるまで(篭絡・懐柔されるまで)時間がかかりましたが、明日よりようやく、お嬢様は向かうことができるでしょう。到着までは多少時間がかかるでしょうが、それでも成果を得たのには変わりません」

「わかっているわ。それで良いのよ…‥‥ただ、あなた方にここまで負担をかけてしまったのは心苦しいわね」

「いえいえ、お嬢様!! お嬢様のためならば、我々は必死になって働きますもの!! ですから、お嬢様が気に病む必要はありません!!」


 彼女の言葉に対して従者の者は叫ぶ。


 それもそうだろう。彼らは彼らなりに、自分達の仕える主の幸せを思って動いたのだから。


 潜り込み、信用を得て、色々と工作するのに時間をかけたとはいえ、それでも成しとげた達成感を感じられるからだ。


「こちら、成果としての編入手続きに加え、お嬢様の存在を秘匿するための特別な魔道具の衣服も用意しております。後はただ、お嬢様がこれを着て向かうだけです」

「用意してくれて、ありがとう」

「ええ、お嬢様のためならば‥‥‥‥」


 従者の者がいったん彼女の着替えのために退出し、彼女はそれを着用しながら思う。


 あの日、偶然とはいえその情報を、絵姿を見て、彼女は出会う事を目的にして、過保護な両親を根気よく説き伏せていたが…‥‥これでようやく、己の目で見ることができる。



「ふふふふ…‥‥まだ、この絵姿でしか見てませんが、それでもようやく自分自身の目で見れますわね‥‥‥ああ、待ち遠しいけれども、楽しみはゆっくりと思いながら待ちましょう‥‥‥」


 怪しい笑みを浮かべつつも、この時が来ることを見越して特注のペンダントを用意しており、その中にその絵姿をそっと収納する。


 そして従者の者がくれた衣服に袖を通し、鏡の前でどのようになっているのかしっかりと確認する。


 お嬢様となる前の(・・・・・)事を思い出せば、この程度ならば大丈夫だとは思うのだが…‥‥それでも、念には念を入れておきたい。


 たとえ、自分の事を知られていなくとも、それで良い。こうやって姿を見る機会を得られたのだから。


 着替え終え、従者の者を呼び戻し、出かける用意をしっかりと行う。


 何事も抜かりなく準備することで、色々と対応できるからだ。


「それにしても、不思議ね‥‥‥数奇な運命と言うか、あなたは彼女に、私は彼に縁があるのはね‥‥‥ところで、あなたは良いのかしら?せっかく、再会する機会はあるのでしょう?」

「いえ、大丈夫でございますお嬢様。お嬢様のために働くのが、この体の(・・・・)思いなのですから。ああ、でも機会があれば話したいところですね」


 彼女に問われ、そう答える従者。


 そして、何もかも準備を終えて馬車に乗り込み、エルスタン帝国へ向けて進み始めるのであった…‥‥












‥‥‥エルスタン帝国の学園内。


 本日の授業は、貴族として受ける科目の内、ちょっと珍しいかもしれないと思えるような家庭科の授業である。


 普通であれば、使用人などを持つ家が多く、自分で料理する機会はそうないと思われがちだろう。


 けれども、貴族の自主的な義務の中には、自領内の害獣駆除などがあり、狩った害獣を調理して振舞ったり、はたまたはお茶会の場でのお菓子を出すなどがあるそうで、料理する機会は実はそれなりにあるらしい。


 つまり、料理する機会があるからこそ料理を身に付け、如何にしてその腕前をどうやって振舞っていくのかと考える事も必要となり、家庭科の授業が存在しているのだ。


 なお、平民でも受講可能でありつつ、料理だけなら調理科目という名称になるかもしれないのだが…‥‥日所で自分で気が付き、細かく直せるような部分の講義も存在しており、家庭全般で役に立つから家庭科とされているらしい。




 そんな事はさておき、本日の内容としてはお菓子作り。


 お茶会などに出される以外にも、自分でこっそり作れるつまみだとかそういうことも学べるそうで、この授業に関しては非常に人気が高いとも言えるだろう。


―――トントントン―――カタコトカタコト

―――ジュゥゥゥゥ―――ボッヘェェン!!


 あちこちで教員から出されたレシピを見ながら、生徒たちは怪我が無いように慎重に調理を行う音がする。


 一部、奇妙な音が聞こえた気がしなくもないが、あちらは料理がまともにできない組のダークマター精製音なので誰も気にすることは無い。


 そんな事よりも、他の者が興味をもって見ているのは‥‥‥‥



スパスパァン!!

【キュル、果物、切れた!】


 包丁を扱わずに糸を巧みに操り、果物を切っているハクロの姿。


 へしおり顧問を任されている以上、料理に関しても妥協をしない意気込みのようだが、ここでは一生徒のように扱われ、レシピを見ながら一生懸命に料理をしているようだ。


 切り裂き、混ぜ込み、煮込んで冷やす。


 魔法も扱えるからこそ多彩な方法で手早く料理が出来上がっていく様は見ているのが面白いのだが、作業をする容姿も美しく、年々磨きをかけている気がする。


 何はともあれ、出来上がる本日の料理は…‥‥



【できたよー、フルーツゼリー!!】

「「「「おおおおお!!」」」」


 完成したのは、プルンプルンと揺れるゼリー。


 中には細切れになったフルーツが入っており、食べて飽きないようにこまめに味が変わるようにされており、美しく飾られている。


【アルス、食べてー!】


 そしてすぐに僕の元に来て、ゼリーの一つを渡してくれた。


 周囲の目が少し痛いような気がしつつも、口にして見れば‥‥‥うん、美味しい♪


「んー!!美味しいよハクロ!!」

【良かった、キュル♪】


 僕の素直な感想に対して、喜ぶハクロ。


 嬉しそうにすりすりと擦り寄ってきており、頭を撫でてあげると喜びの声を上げる。


‥‥‥頭一つ分小さくなった分、撫でやすくなったかもしれない。


 もしや、無くしたのってこれが理由なのではないかと疑いたいが‥‥‥うん、まぁそれだけではないと思う。


「ハクロも食べれば?ほら、あーん」

【あーん…‥‥キュルゥ♪】


 そして食べさせれば美味しそうに頬を緩める彼女に、周囲の気配も緩んだが…‥‥そこでふと、彼女が気が付いたような顔になった。


【あれ?でもこれ、私アルスのために作ったのに、私食べていいのかな?】

「良いんじゃないの?僕のためなら、僕がハクロに食べさせたいと思っているし、ためになっているよ」

【そういうものなの?‥‥‥それも良いかも♪】


 ちょっと考え込んだようだが、これはこれで良いと結論付けたらしい。


 とにもかくにも僕らは食べさせ合いつつも、他の生徒たちにもきちんと共有し、家庭科の授業を楽しむのであった‥‥‥‥




‥‥‥なお、家庭科の授業内で振舞われたハクロ製の料理に関してだが、あとでこっそりと一部がファンクラブの位置へ流れ込み、それはそれですさまじい争いが起きていたようであった。


 しかも、授業があるたびに料理が出るので、よりおいしく、より作りやすく、より感じられるような料理の探求が行われ、食文化の発展に貢献していたようだが…‥‥そんなことを、ハクロもアルスも知らないのであった。


「にしても、なんか最近レパートリーが増えたよね。肉じゃがにクッキーに、うどん…‥‥転生者とかが伝えたかもしれないけど、バラバラな気もするな」

【美味しいし、気にしなくても良いと思う、キュル】

「それもそうか」


変化がすれども、日々に変わりなし。

ほのぼののんびりと過ごしつつも、何かが迫りくる。

何事もなければいいのだが…‥‥そうは問屋が卸さない。

次回に続く!!



‥‥‥なお、頭一つ分下がったので、調理場で調理しやすくなっていたりする。まぁ、糸で解決できるけど、やれる範囲がちょっと増えているのだ。


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