小話 密かに広がる支援の輪
‥‥‥平穏な帝国の学園内。
つい最近までは皇女様がいた話題もだったが、そんなものはすぐに廃れていく。
人と言うのは新しい話題が出ればそれに夢中になり、古い話題と言うのを忘れていくからだ。
けれども、根強い物に関しては廃れる事もなく、話し合う人たちがいるのだが…‥‥
「…‥‥何と言うか、最近俺は思うんだが」
「お?なんだなんだ?」
「何がだぁ?」
にぎやかな学園の食堂内で、むしゃむしゃと昼食を食べている中で、とある男子学生たちの一人が口にした。
「いや、こうやって普通に過ごして良いのだが…‥‥あの一角を見ると、羨ましく思うなぁって」
どれどれと指さした方向を見れば、そこには学園内で目立つ一組のペアがいた。
【キュルゥ♪美味しい、新作デザート、甘い!】
「美味しいよねぇ、こういうものぐらいにはお金を使うけど、これはこれで贅沢かも」
少年を背中に乗せつつ、滅茶苦茶幸せそうに食堂内の最新スイーツをほおばる、蜘蛛の少女。
様々な呼ばれ方が最初は出たのだが、今では白き蜘蛛の姫として定着したハクロと、彼女の主とされているアルスのペアである。
「主と言うか、恋人に見えなくもないのに…‥‥あれでまだ、子猫と飼い主のような関係なのが驚きだよ」
「それもそうなんだよなぁ。俺たちだって、可愛い彼女が欲しいのに、その贅沢をあいつは分かっているのか…‥‥!!」
人にも色々とあるとは言え、一部では血涙を流してそう口にする。
婚約者がいる貴族家の嫡男も混ざっているとはいえ、それでも美女が傍にいる環境は男としては羨ましいのだ。
まぁ、極一部は別方向に振り切ったのも出てきたので、そちらは問題にしていないが…‥‥それでも、こうやってあの二人の組み合わせがあるのは、何となくほっとしてしまう。
と言うのも、最近あった出来事だがどうやらハクロが攫われた事態が起きていたようで…‥‥全員その安否を心配していたのである。
それでも何とか無事に帰ってきたようで、ああやって一緒に過ごしている姿を見るとどことなく安心できるのであった。
男としては、ああやってハクロと一緒にいるアルスに羨ましい怨嗟の目を向けたくもなるが、それでもあのペアはああでなくてはと思う気持ちもあり、表立って問題にする気はない。
そもそも、問題にした瞬間に、最近広まりつつあるファンクラブの手によって、やらかされる前に粛清されかねないのだが…‥‥最近は粛清されるような輩はいないだろう。
と言うのも、既に制圧されているのだから。
「まぁ、ハクロちゃんファンクラブ会員としては、幸せを望みたいよねぇ」
「そうだよなぁ、綺麗な彼女は欲しいが、ハクロちゃんは自分で選んでほしいからなぁ」
うんうんと全員頷きつつ、こうやって彼女がいる光景に自然と慣れていることが不思議に思えてしまう。
普通は学園内にモンスターがいると、安全と公認されていても警戒してしまいがちなものなのだが‥‥‥いつの間にか、あの二人の組み合わせが自然な光景となり、ほっこりとした温かい気持ちで見てしまう。
やらかすのは、それこそ見たことが無いような、彼らの事も知らないようなもぐりのような者たちぐらいであり、面倒なことになる前に密かに対処しているのだ。
「それに、あの二人は一応、国のお気に入りっぽい話もあるからな」
「ああ、そう言えば先日皇女様がいたが、彼女も積極的に関わっていたしなぁ」
「ファンクラブ内会報だと、救助作戦時には全力を尽くすようにと言う指示も出たが、帝国内の兵士たちもやる気をフンガー!!っという勢いになっていたっけ」
着実にというか、彼らを守る包囲網は厚くなってきているだろう。
それだけ、ハクロの純粋な想いと言うのは眩しくもあり、美しくもあり、そして応援したくなる気持ちが皆に湧き上がるのだ。
それを、一心に受けることができるはずのアルス本人が、まだまだ鈍いというか、朴念仁と言うか、唐変木と言うべきか…‥‥そのもどかしさに関しては、無理やりでもいいからどうにかわかってほしいとは思う。
「けれども、今回の誘拐事件を経て、自覚してきた様子だよな。ほら、いつもなら食べさせ合いっこするぐらいにもなりそうなのに、ちょっと意識している様子だぞ」
「ああ、反応が少し初心と言うか、どちらかといえばハクロちゃんにして欲しいのだが…‥‥これはちょっと、関係が進み始めたな?」
それはそれでめでたい事だとは思うのだが、それでも羨ましい気持ちが無いというのは嘘になる。
ハクロには幸せになってほしいのだが、その相手にアルスになっているのはどことなく嫉妬してしまうというか、もどかしく思うというか‥‥‥‥それでも、結局後押しをしたくなる人達になったのは変わりない。
「でも、問題もあるよな?」
「ああ、それがあるよなぁ…‥‥」
できればこのまま、ハクロの想いが成就し、幸せになってほしい。
けれども、その道がまだまだ穏やかなものではないことを分かる者もいるのだ。
「男爵家次期当主とはいえ、皇帝陛下や皇女・皇子様との付き合いもあるようだし」
「能力としても自分で言って悲しいが、あれは出世できる類だ」
「そう考えると、女性陣からは優良物件として見られそうなんだよなぁ…‥‥」
男爵家と言うところが惜しいような気がするが、それでも出世できそうなのであれば良いだろう。
そもそもアルス自身の容姿が、まだ若干幼めだがそれなりに整ってはいるし、成長すれば好青年になるだろう。
そう考えると、容姿や能力などで狙うような類が出てもおかしくはなく…‥‥そしてそこで、ハクロの事を邪魔に思うような輩が出てもおかしくはない。
「そもそも彼女はモンスターであり、人間にあらず。付き合えたとしても問題が出るだろう」
「そしてそこに付け込むかのような輩も出るだろうし…‥‥場合に寄っては排除を狙うものが出てもおかしくはない」
一応、学園内の大半の女子生徒たちからは、ハクロに関して害する気はないという回答があったりする。
と言うのも、彼女自身があちこち出没したりしつつも、一緒にいて楽しくもあり、仲の良い友人という認識も持ち、親しくなれているのだ。
密かに女子会などにも呼ばれていたりして、そこでも楽しく談笑ができているようだが…‥‥あくまでも「大半は」と言う事であり、一部ではまだ拒絶・排除の手を取ろうと考える者もいる。
そして学園内に限らず、ここは留学生などもあり、他国からも流れ着く者もおり、だからこそ外部からの手が迫る可能性だってないわけがない。
「とにもかくにも、ハクロちゃんの幸せのためには、面倒なことが降りかからないようにするしかないか」
「幸いと言うか、ファンクラブに対して正妃様が支援をし始めたという話もあるし‥‥‥着実に増えているからな」
「ああ、だが、先日の襲撃も合った以上、油断はできない。会員たるもの、いざという時には守るために戦えねばな」
…‥‥誘拐事件もあり、ファンクラブ会員たちは事の詳細を知り、自分達はまだまだ力不足であることを痛感していた。
そのため、自己研鑽により一層励むようになり、なおかつ今まで戦闘面はなぁなぁで済ませていたような者たちも本気で鍛え上げるようになり、二度と守れない事態を引き起こさないように努力を積み重ね始めている。
「とにもかくにも、活動は潜めつつ、バレないように」
「表立っては動かず、裏から動き、その幸せを守るために」
「彼女の笑顔を見守りつつ」
「「「「絶対に、幸せをつかませてあげようぜ!!」」」」
がしぃっと互に拳を握り締め合い、誓い合う男子たち。
そして同時に天井裏などでも同調するかのようにファンクラブの者たちも誓い合う。
表立たずとも、裏から手を回して支援するだけで良い。彼女に気が付かれず、そしてその幸せを祈るために。
笑顔を失わせずに、二度と泣かせることが無いように、間諜たち以外にも、その支援の輪は広がっていく。
…‥‥ある意味、これはこれで美しい光景と言うべきか、人々はこれほどまでに団結できるのかと驚かされるだろう。
そんな事も知らないハクロとアルスではあったが、彼らの周囲は着実に成長し合い、一致団結の心を強め、少しづつ堀を埋めているかのようであった…‥‥‥
【キュル?なんか視線、あったような?】
「どうしたのハクロ?」
【んー‥‥‥何でもなーい。多分、気のせいかも。これも美味しい~♪】
そして、スイーツに笑顔になっているハクロを見て、ほっこりする者たちは多くなっていたのであった…‥‥
間諜だけではなく、生徒たちの間にも広がっているらしい。
皆が協力しているけれども、その恋は実るのか。
色々と問題も多いけど、一つずつ、攻略したいところではある…‥‥‥
次回に続く!!
‥‥‥皆に応援されるのも、これはこれで珍しいような気がする。普通はモンスターとはいえ、美女と同室なのは許さない人も出るだろうけれども、皆が応援しているんだよなぁ。平和な世界と言うか、優しい世界と言うべきか…‥‥




