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3-17 漂う灰色な雲色

‥‥‥留学しているはずの第1皇女が、ある日急に帝国の学園内に戻って来たという噂がたちまち広がった。


 各国に分かれ、留学し合っている上の者たちが、ここに来るのは珍しいものであり、最近だと第1皇子のこともあったが…‥‥それでも、普段は見ないような人がいるというのは、物珍しさがあるのだろう。


 中等部の終わりの時期と言う事でそちらにいるという話ではあり、相手が皇女というのもあって、男子たちの方からの関心も高かったらしい。


 ただし、あくまでも男子たちからの関心が高いだけであり…‥‥興味を惹かれるとはまた別の話。


 と言うのも、この学園内には少年の側を離れないような白き蜘蛛の姫と言うような者がおり、そちらの方に惹かれている者が多いのである。



 ゆえに、そこまで大きな話にもならないだろうし、たいした問題にはならないかとも思われていたのだが‥‥‥そうはいかなかった。



【…‥‥‥】


「なんかハクロちゃん、機嫌悪そうにしていないか?」

「ああ、なんというかいつものへし折り顧問としての仕事をするなら、もうちょっと優しいはずなのだが」

「こう、力が強いというか‥‥‥何があった?」


 剣術の授業中、本日のやらかした人を成敗するためにハクロがへし折り顧問として出ているのだが、その様子がいつもと違う事に生徒たちは気が付いた。


 まぁ、中にはわざとへし折られるために騒ぎを起こしている人がいて、それなりに見ていたからこそ分かったのだが‥‥‥今日のハクロのやり方が、やや厳しめなのだ。


 ごぎぃっと音を鳴らさせているというか、魔法で仕留めまくっているというか、剣を素手でぶった切っているというか‥‥‥‥いつもよりも静かに、それでいて何かこう、言いようのない怒りと言うべきものを持っているように見えるのである。


「ああ、そう言えば聞いた話だが…‥‥何でも、第1皇女様が原因らしいぞ」

「なんだそりゃ?」


 その様子を見る中で、生徒の一人が口にして、何事かと全員耳を傾ける。


 第1皇女様が、なぜハクロの不機嫌な要因となるのか‥‥‥‥その謎は、直ぐに理解できた。


「何でも、第1皇女様がやけに彼女の相手…‥‥アルスと言うやつだったか?そいつにかまいまくっているそうだ」


 中等部とは言え学年としての学ぶことは通常異なるはずであり、そうそう関わるようなことは無いはず。


 けれども、それはあくまでも学ぶ場でのことであり…‥‥食事時に、第1皇女が良くかかわっているという話が出てきたのだ。


「んー?でもあいつ、男爵家の次期当主になるよな?数年前にいなくなった馬鹿兄共が消えたのを見るとそうなるはずだが、皇女様が関わるような相手か?」

「それならむしろ、ハクロちゃんの方にかまいそうなものなのだがなぁ…‥‥」


 何にしても、その第1皇女がよくアルスたちの食事時などに現れ、混ざって話し合うのは良い。


 この学園ではある程度の暗黙の了解があるとは言え、それなりに互いの身分は公平なように扱われており、平民・貴族を問わず仲良く話し合ったり、殴り合って友情を深めていたりするのである。


 だがしかし、そうはいかないこともあるようで…‥‥


「それがなぁ、第1皇女様、彼女とアルスの間によく座り込んじゃうようで、ハクロちゃんがくっつきにくい状態らしい。無理やり押しのけることもできないし、そもそも悪意が無いわけなのだが…‥‥」

「アルスとの仲に割り込まれているようで、嫉妬している感じか」


 アルスとハクロの中の睦まじさは誰もが知っていたが、その中に介入してきた第1皇女。


 特に嫌がらせなどもするわけもなく、それなりに談笑しているので関係が悪化しているとかはないはずなのだが…‥‥それでも、ハクロにとっては何かこう、嫉妬するというか、落ち着けないような状態になるらしい。


「でも、それはそれでチャンスじゃねぇか?普段ハクロちゃんと話す機会がなかなかできないし、こういう時ぐらいしか、仲良くする機会はないよな?」

「それがうまくいけばいいんだけどなぁ…‥‥でも、そんな光景って俺たちは望む者なのか?」

「‥‥うーん、確かに望まないなぁ」


 美しい美女がやや中に入りこみにくい状態であれば、手助けをしつつ仲良くなるのも悪くはない。


 けれども、この学園で過ごす中で、仲睦まじい様子を見ていたせいなのか、不仲になっているような光景を見たくはないと生徒たちは思う。


「なら、第1皇女様に直接言えば良いとは思うが…‥‥それもやりにくいんだよなぁ」

「ああ、既に女子生徒たちの心は掴んでいるようだし、何かとあの人はあの人で優しいし、苦言を言いたくとも言えるようなものでもないのだが‥‥‥‥」


 皇女と言う身分は元々手が届くような者でもないし、話しかけにくいもの。


 それなのにあちらから何かとやってくれることが多く、関わり合いもそれなりにできてしまうのだが‥‥‥それ故に、何かと言うのも難しい物なのだ。


 何とかしてあげたいと思うのだが、行動を起こせるようなきっかけがない。


 もやもやするというか、何とも言えないというか…‥‥どうしようもないのだ。



「まぁ、何にしても俺たちができるのは、このまま様子を見るしかないか…‥‥」

「男爵家の次期当主と話すのも見ると、俺たちの方にも何かと機会がありそうだというのは分かるし」

「無理に離そうってこともないからな…‥‥むぅ、だがスッキリしないなぁ」


 どうにかしたいけどできない心情に、生徒たちの顔もスッキリしないものとなる。


 第1皇女のこの学園にいる期間は、元の留学先からの迎えが来るまでらしいが、期限付きとはいえその間このような状態になるのだろうかと疑問に持ってしまう。


「いっそのこと、ハクロちゃんがもうちょっと押せるよな根性があれば、この状況でもどうにか出来そうなんだけどねぇ」

「あと一歩、その一歩を踏み出しにくいというか‥‥‥‥んー、すっきりしねぇなぁ!!」


 言いようのない気持ちに、生徒たちは口々にそうつぶやくのであった‥‥‥‥







‥‥‥そして、その噂に関しては、学園の外にも漏れ出ていた。


 一応、情報関係に関しては、諜報の者たちがファンクラブの一員として彼女を守るという名目である程度の制限をかけていたはずだが…‥‥それでも、全てが所属するわけでもない。


 そう、一部のものたちが集めており、そしてその中には、悪意のある主をもつ者たちもいるのだ。



「‥‥それで、不仲に近い、か‥‥‥‥まぁ、これはこれで面白そうか。皇女様がいなくなったときにはどうしたものかと焦ったが、これはこれで良い情報を聞けたなぁ」


 帝都から離れたところにある、とある貴族家の屋敷。


 帝都から伝わってきたその情報を聞き、邸の主は口角を上げる。


「‥‥本来は皇女を狙っていたが…‥‥これはこれで、少々予定を変更しよう。どちらも手に入れたいが、慎重にな…‥‥くくくくっ」


 グラスに注いだワインを飲み、その人物は笑い声を漏らす。


 狙いがあったが、その対象が増えただけであり、やるのであれば今が良い機会だろう。


 そう思い、その人物は自身の欲望のために、ゆっくりと慎重に動き出すのであった‥‥‥‥







【キュルゥ‥‥‥アルス、皇女様と仲いい?】

「ん?話としては、時代が違うしそもそも転生しても色々と違うけど…‥‥やっぱり話が通じると、何かと盛り上がるしね。悪くはないけど、それがどうしたの?」

【キュル‥‥そう】



―――アルスの家族は、私だけ。


 けれども、それは今のだけであり、てんせーしゃ?っていうので何か繋がりがあるらしい。


 それで仲良く話すアルスの笑う顔は、良いのだけれども…‥‥話に入れない私は、何かこう、もやッとしてしまう。


 アルスと一緒なのが良いのに、その時間を取りにくいし、でも皇女様は話して良い人なのは分かっているのに…‥‥何なのかな、この気持ち。





 そう思いながら、ハクロはなんとなく痛んだ自身の胸元に手を当て、気持ちの整理を行う。


 まだ大丈夫、けれどもこう、このままにしたくはないというか…‥‥嫉妬、っていうのだろうか。


 こんな気持ちは初めてであり、それだけアルスの事を思っているのだけれども…‥‥思えば思うほど、なんかこういいようのない気持ちがある。


【…‥‥うん、でもそれはあくまでも話が合うだけ。私、アルス大好きなのは変わらない。‥そうだ!話が合うだけで仲いいなら、私も何か、アルスと合う話題、探せばいいかも!】


 持ち前の明るい性格で、嫉妬に駆られるような真似は、彼女はしない。


 その黒い気持ちが、どのようなものになるのか理解しており…‥‥だからこそ、その気持ちを消すために、良い方向へと考える。


【んー、でも、それなら皇女様にはわからないようにした方が良いし…‥‥それなら、もふもふ、探すべき?】


 どういうものが良いのかを考え、一つ思いついたのはアルスへプレゼントを贈る事。


 それも、アルスにとっては喜ぶ様なものであり、話せるような代物が良いだろう。


 だったら、モフモフした何かで用意して、そのモフモフを手に入れるまでの話とかもできると思い、彼女は密かに用意をし始める。


 そして、そのためにちょっとアルスの側を離れる時ができてしまい‥‥‥‥それが、どの様な結果を産むのかは、その時はまだわからなかったのであった‥‥‥‥


嫉妬は抱けども、心が優しいので悪くはいかない。

むしろ、その気持ちを押さえるために、良い方へ動こうとする。

けれどもそれが…‥‥

次回に続く!!



‥‥‥基本ほのぼののんびり、時々シリアス。

でも、作者はこういう重そうな雰囲気になるのは苦手なので、シリアスは数話ほどで終わらせたい。


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― 新着の感想 ―
[一言] 「二次元より三次元で触れるハクロが好きだ」と 正妃ぐらいなら通じるネタで訴えればいい 元が扶助(腐女)AIなら二番目でも構わないと宣言しそうだし
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