3-10 ちょっとした可能性
「‥‥襲撃情報に関してのお知らせ?」
【なんか、物騒かも】
寮の掲示板前に張り出されていた、とある大きな見出しのお知らせ。
そこに書かれていたのは、帝国内のとある農村部で起きた襲撃事件の情報であった。
「ギュリギュリ鳴く、謎のモンスター出現か‥‥‥」
「色々と被害が出ているようだけど、肉だけを狙われているようだな」
「農作物よりも、保存食で肉だけ…‥‥どれだけ肉に飢えているんだ?」
他の生徒たちもその内容を見て口々に口にするが、確かにどれだけ飢えているんだというような、被害についての内容が書かれている。
そのどれもこれもが、鹿肉熊肉鶏肉豚肉モンスター肉‥‥肉だけを徹底して狙っているかのような被害はある意味珍しい。
というか、こうも見事に肉だけを狙っていると、何か狙いがあるのではないかと疑いたくもなる。
「肉だけを執拗に狙うのも、なんか怖いな…‥‥」
【キュルゥ、お肉、確かに美味しい。けれども、偏るのはあまり良くない】
栄養バランスの悪さの方にツッコミか…‥‥何かと学んでいるからこそ、そこにツッコミを入れてしまうのだろう。
【でも、ここまで肉、狙われていると、食べれなくなるの?】
「そうなる可能性もあるか」
内容を見れば、襲撃情報は商人の馬車などにもあるようで、荷馬車に積んでいた肉関連の品々が次々に奪われているらしい。
不思議なことに肉は肉でも人肉は避けているようで、気絶させられたり大怪我を負ったなどはあれども、何故か人の肉には手を付けていない。
それでも、肉の供給が不安定化されるのは困りもの。
焼肉、ハンバーグ、餃子、ステーキ、肉まん、肉豆腐、‥‥‥‥転生者が伝えたらしい料理の中には肉料理もあり、その数もそれなりにあるのだが、それらへの肉が絶たれてしまう。
そこまで肉食って訳でもないのだが…‥‥それでも、喰いにくくなるのは嫌である。
【お肉、美味しいのに…‥‥食べれなくなるの、嫌】
その情報から考えられる可能性に対して、ショボーンとした顔になるハクロ。
彼女は果実の方が好みではあるが、肉も好きである。
そのため、肉の供給が不安定になるのは嫌なようであり…‥‥少し考える表情になった。
【‥‥‥ねぇ、アルス。この肉奪う犯人、討伐しちゃだめ?】
「ハクロが?でも、一応帝国には騎士団がいるからな…」
ファンタジーな異世界物であれば、大抵こういうモンスターの討伐には冒険者と呼ばれるような人が出るだろう。
けれどもこの帝国では、国内の情勢を安定させるために騎士や衛兵たちが派遣されており、モンスターの討伐を請け負っていたりする、
なので、ここまで被害情報が出ているような相手であれば、とっくの前に討伐隊を派遣していそうであり、このまま任せてしまう方が良いだろう。
というかそもそも、ハクロに戦わせたくはない‥‥‥なんか生臭そうな相手のような気もするからね。
【キュルゥ‥でも、お肉、無くなるのも嫌だもの…‥‥】
「んー‥‥‥なら、ちょっと相談してみてからにしようか」
こういう時に、薬の売買での繋がりが役に立つ。
騎士たちの動きに関しては帝国の上層部が決定しているのであり、その上層部に繋がりがある人物とは僕らもそれなりに関わりがあり、尋ねてみることができるだろう。
だったらこの際、その人に…‥‥正妃様へ手紙を出してみて、ハクロが自ら討伐しに向かう事に関しての意見を貰うというのもできるはずである。
わざわざその事で訪ねるのだから、手土産として美容品の類になる薬を持っていこうかなと考えつつ、話し合いをするための手紙を用意するのであった‥‥‥‥
「というかそもそも、ハクロに討伐できるの?」
【できる!魔法覚えた、糸の扱いも範囲増えた。いざとなれば、アルス守るための、予行演習の練習台にしたい目的もある】
‥‥‥練習台というか、実験台なのでは?そう思ったが、彼女がやる気を出して意気込んでいるのだから、野暮なツッコミはやめておこう。
「‥‥‥あらら、このような問いかけを、わざわざしてくれるとはねぇ」
アルスが手紙をしたためようと考えてから1時間後、エルスタン帝国の王城内の中庭にて、のんびりと過ごしていた正妃は今、個人的に持っている間諜たちからその報告を受けていた。
報告内容はとある手紙の届く予定と、その内容に関して。
その情報がどの様なものなのか耳にして‥‥‥正妃は少し考える。
「あの子が自分の意思で討伐しに向かうのであれば、止めはしないけれども…‥‥可愛らしい顔に、傷が付く可能性も考えると、ちょっと用意周到にしたほうが良いのかもしれないわ」
送られてくるであろう内容は、モンスター討伐に関する相談。
普通であれば騎士たちを派遣すればことはすぐに収まるかもしれないが、相手の力がまだ未知数な事から、こうやって事前に討伐しようと考える人が出てくれた方が、何かと楽なのもあるが…‥‥その討伐しようとしている人が、ちょっと問題であった。
「ハクロちゃん…‥‥強いのは分かるけど、怪我して欲しくはないわねぇ」
アルスの側にいるモンスター、ハクロ。
最近聞いた情報では、魔法も扱えるようになったそうであり、一時期形から入っていた姿なども可愛らしく、自分の娘のように可愛がりたくなる。
一応、正妃にも娘はいるが、生憎留学中でこの場にはおらず…‥‥近況報告で何かと楽しく過ごせているのは分かるのだが、それでも娘が手元にいて欲しいような気持もあるのだ。
ゆえに、ハクロが自ら、先日でてきたモンスターの討伐を考えることは、実力を考慮すると可能だろうが…‥‥それでも、場合によっては相手が先に動き、傷をつける可能性があるだろう。
アルスの薬の精製能力なども知っているので、どの様な傷でも治せるかもしれないが、それでも綺麗なその肌や顔に傷を付けられる光景は想像したくないのだ。
「そう考えると、先に騎士たちを派遣したいけれども…‥‥こっちはこっちで、気になるのよねぇ」
情報によれば討伐予定のものは、肉を狙うモンスター。
鳴く様子なども報告されており、まだ詳しくは分かっていないのだが…‥‥どうも、種族的には気になる点があるのだ。
「肉だけを狙うのは分からないけれども…‥‥主な拘束手段に糸や毒液‥蜘蛛のモンスターの攻撃手段でもあるし、何か関係がある可能性も出てくるのよねぇ」
色々と気になる情報があれども、実際にそうなって見ないと分からないことも多い。
だからこそ、どうしたものかと考え…‥‥アルスからの手紙が届き、事前に間諜でその内容を知ったとはいえ、彼らを呼んでこの場でその意思を聞いて尊重することに決めた。
「とはいえ、いざという時に守ってあげるのも必要ですわね。念のために、守るための人員も派遣するようにしてちょうだいね」
「はっ」
正妃の言葉に、仕えていた者たちは返答し、命令に従って動き出す。
‥‥‥まぁ、そもそも正妃様に命じられずとも、それこそ皇帝陛下にも命じられたとしても、彼らはハクロを守る意思があった。
なぜならば既に、ファンクラブが侵食していたのだから。
悪い方向へ向かわないとはいえ、その規模は拡大しているのだ。
「ふふふ、でも命令しなくてもそうするわよねぇ。ファンクラブというのも、面白いし、わたくしも加わっておきましょう」
‥‥‥そしてついでのように、支援する人に正妃が加わり、より勢いが増したのは言うまでもない。
意気込むハクロだけど、できれば戦ってほしくはない。
でも、やる気があるのならばやってもらう方が良いのか‥‥‥日帰りで済めば楽なんだけどなぁ。
何にしても、ハクロが怪我しないように、守るための薬を作っておこう。
次回に続く!!
‥‥‥ファンクラブ拡大の要因には、理解してくれる支援者が増えたのもあるかもしれない。




