3-1 春風と共に経過はしており
ちょっと時間を経過させて新章スタート!
‥‥‥初等部での月日も過ぎ、14歳となった。
雪解けもすっかり終わり、学園の初等部寮では今年度中等部になった生徒たちが引っ越し作業をしていた。
学年も上がり、何かと手狭になってきている寮の自室。
年月を経たからこそ積み重なったものも多くなり、引っ越しによって新しい寮室へ移ることで大掛かりな整理整頓を行うのだが…‥‥これがまた大変であった。
「おいいい!!なんかタンスが邪魔しているのだが!!」
「こっちに捨てる予定の本があれば、早めに集めろー!」
「部屋の掃除もしっかり終わらせろよー!!」。
貴族である生徒の中には、家から呼んで来た使用人たちに任せる者もいるが、平民であればそうはいかずに重い物は協力して運び合う。
それでも荷物が多少は残り、あちこちに置かれて邪魔になりやすい。
まぁ、そんな状況でも場所によっては…‥‥
【キュルル!壁上れば、何も邪魔されないし、楽に移動できるね♪】
「これ、ハクロしか使えない手じゃないかな?」
中等部寮の壁を糸で伝いつつ、荷物を運ぶハクロに僕はそうツッコミを入れる。
一応、蜘蛛のモンスターである面をここぞとばかりに活かしてくれるのは良いし、特に困る事もないのでツッコまなくていいのかもしれない。
「おーい!!ハクロちゃん、こっちも手伝ってほしい!!」
「終わったらでいいから、できるだけ頼むー!!」
【キュル!アルスのが先ー!!】
荷物の輸送状況を見て同級生たちがそう叫ぶが、順番的には後になるだろう。
今は僕らの引っ越しの方が優先されるからね。
「にしても、中等部になっても別に別れさせられることはない、か‥‥‥‥ハクロ、一応先生たちに聞いたけど、女子寮に移っても良いようだよ?」
【んー‥‥‥でも、アルスは移れない。それ嫌。私、アルスの側にいたい!】
本をシュルシュルと糸で器用に並べつつ、僕の問いかけに対してハクロはそう答える。
中等部となった今‥‥‥14歳となり、年齢的には前世の中学生~高校生の境目あたりになるだろう。
だからこそ、不純異性交遊などが無いように男子女子の寮がよりはっきりと分かれ、ハクロの方も移動できるはずだが‥‥‥彼女はそれを拒否し、僕と一緒の寮で過ごすことを選んだ。
今さら互いに離れて暮らす気もないし、一緒にいて何も問題が無いのであれば、それで良いはずだ。
そもそも、起こす起さない以前に、彼女の僕の部屋での動きは大抵枕だからね‥‥とは言え、成長したせいで小さくなるサイズも変化させることになったけどね。
何にしても、それなりに荷物の移動などで時間をかけ、ようやく終わったのは夕暮時。
あさって辺りには今年度の新しい新入生たちが入るので、できるだけ早く移動しようと思っていたが、この様子だとギリギリまでいなくても良かったかもしれない。
「というか、中等部用の新しい寮室って、初等部の時より広いなぁ」
【キュル♪もの、新しく置けるね】
生徒たちが過ごしやすいようにか、年齢に合わせてできる限り部屋の広さも変えているらしい学園の寮。
授業内容も増加し、対応する教材を置くスペースなども必要になって来るとは言え、一人一人に子の広さはちょっとした贅沢なようにも思えてしまう。
まぁ、僕らの場合は二人で利用することになるのだが…‥‥小さくなる薬もあるし、初等部寮の広さでも特に困った事もなかった。
しいて言うのであれば、高等部になったらまた引っ越しがあるだろうが、その時にどれだけ荷物が増えているのかという部分が不安にはなる。まだ当分先のことだし、そこまで気にしなくても良いのかもしれないが‥‥‥増えるんだろうなぁ。
一生懸命作業して疲れ、出た汗も風呂に入って落としてきたが、のんびりと部屋の広さを体感するよりも疲れからか眠気が華麗に襲い掛かってくる。
ハクロの方も体力は人よりも多いはずだけど、こういう作業は精神的に疲れてくるのか、うつらうつらとしている様子。
いつもであれば枕になってもらうけれど…‥‥今日は普通に、元のサイズのまま一緒に寝たほうが良いかもね。
「というか、ハクロの背中もちょっと小さくなったというか‥‥‥いや、僕の方が大きくなってきたせいかな?」
【キュルゥ、アルス、身長伸びてきた。でも、まだ小さいよ?】
‥‥それは効く言葉なので、やめてほしかったかもしれない。前世の知識だとこの年齢の男子は165ぐらいあるのに、僕はまだ150ちょっと…‥‥まだまだ伸びる可能性はあるけど、他よりちょっと小さいからね。
高等部までに爆発的に伸びて欲しいのだが…‥‥果たしてその希望は叶うのか?それは神のみぞ知ることだろう。
「まぁ、これはこれでハクロの背中にまだ寝れるのは良いけどね…‥‥ふわぁあ……欠伸が出てきた」
【キュル、ふわぁぁ‥‥‥私も、眠くなってきたかも】
欠伸は移るとも言うが、大体同時に出てしまった。
眠気がじわりじわりと攻めてきており、そろそろ敗北するだろう。
そうなる前に、さっさと寝たほうが良いので、ハクロの背中に寝かせてもらいつつ、布団をかぶる。
「でも、ここから中等部か…‥‥初等部とは違う授業があるのを考えると、ワクワクして寝にくくもあるな」
そう、中等部になると、授業内容もまた初等部とは変わってくる。
社会的責任能力も求められてくるし、ある程度の嗜みなども身につけなければいけないようで、同じようなものでも変わってゆく。
数学はより複雑な数式へ、歴史はさらに細かい偉人の家族構成を覚え、運動系の授業は分かれて行く。
剣技を極めたいもの、体術を極めたいもの、単純に体力を付けたいものなどニーズにこたえるがのごとく、多く存在しているのである。
また、貴族家の次期当主にもなれば政務に関する学問や、貴族としてのマナーも初等部以上の者が求められるようになり、あちこちの家の情勢なども入りやすくなってくる。
「色々と楽しみだけど…‥‥一番やりたいのは、やっぱり護身術系かなぁ」
前にあった聖国の一件以来、僕らを狙うような動きは特になくなったように思えるだろう。
けれども、密かに進められているような気もするし…‥‥また面倒ごとに巻き込まれる可能性がないとは言えない。
ハクロが僕のことを守ってくれるらしいけれど、やっぱり僕は僕なりに彼女を守りたい。
だからこそ、剣術の授業などを選択して、自分自身を成長させていきたい。
守られるだけじゃなく、いざという時には僕の方から彼女を守りたい。
ずっと一緒にいてくれた、大事な家族に狂刃が向けられないように、その前に立ちふさがりたい。
「受けてみるまで分からないけど……中等部、ここからの授業内容をしっかりと聞いて過ごしていこう……ってあれ?」
【すやぁ‥‥‥すぅ‥‥‥】
中等部の授業に向けての意気込みを語ろうとしていたが、既にハクロは先に夢の中に行ってしまったらしい。
柔らかい身体で僕の方に向いていたようだけど、その分しっかりと寝顔が見える。
「‥‥‥まぁ、良いか。気合いを入れるのは明日にもできるし、今はもうゆっくり寝れば良いか」
幸せそうに寝息を立てているハクロに対して、起こさないように僕の方も眠りにつく。
「それじゃ、お休みハクロ‥‥‥‥中等部からの生活も、一緒に頑張ろうね」
【すやぁ‥‥キュキュル‥‥‥】
ほとんど寝ているにもかかわらず、返事するかのように鳴くハクロ。
そんな彼女に愛おしさを感じつつも、僕も夢の中へと向かうのであった‥‥‥‥
「‥‥‥ああ、そう言えばハクロの方も、中等部から動きを変えるんだっけ‥‥‥教員の方々が提案したあれか‥‥‥」
……ふと、完全に寝付く前に思い出したが、初等部の時期に、ちょっとハクロに教員になってみないかという打診があったが、僕との時間が減ると言って彼女はそれを断っていた。
そもそもモンスターである彼女が教壇に立っていいのかというツッコミもあるが…‥‥頭の良さとかを考えると、教師になろうと思えばなれるかもしれない。
でも、そんな道は選ばなかったが…‥‥その代わりに、中等部になってから彼女は彼女なりに、ちょっと動くことに決めたようである。
教員にならずとも、学びに貢献できるらしいが…‥‥まぁ、それはそれでみるのが楽しみかなぁ…‥‥
こうやって寝れるのは良いけど、身長がまだ低いのは残念である
出来れば後半で爆発的に伸びたいと思うのだが、その望みは叶うのか。
叶わなければ薬を使う手もあるが…‥‥なんかやったら負けな気がする。
次回に続く!!
‥‥‥さてと、中等部からハクロも学園内で何かと動き始める模様。
前からメチャクチャ動いていなかったっけ?いや、それはまだ、気ままにやっていただけで、彼女は彼女で授業をまともに受けたいと思うような気持もある‥‥‥はず?