2-46 のんびりと過ごせるのも良い所
‥‥‥領地内での滞在は数日間程度。
そこまで長くいるわけでもなく、雪が降る前にモンスター研究所のある都市アルバニアへ向かう予定がある。
とはいえ、何もしないわけもなく、領内を見まわったり、薬を配布して怪我人などがいたら治療してあげたり、休耕中の畑に冬明けの豊作を願って肥料となる薬を少し流し込んだりなど、領民たちと交流をしていた中で‥‥‥‥
ボン!!
「っと、変身時間切れっと…‥‥まぁ、予定通りかな?」
【キュル、久しぶりに、ここに来たかも】
鳥になる変身薬の効果が予定通りに切れ、小さくなる薬の効果も無くなり、僕とハクロは元の姿でその森に降り立っていた。
「ここで、ハクロと出会った森だからなぁ…‥‥念のために、見て回りたかったんだよね」
正確に言えば、侯爵家としての領地に戻せば範囲にある場所らしいが…‥‥かつて、ハクロと出会った森へ、僕らは訪れていた。
来た理由としては、せっかく近くまで来たんだし、久しぶりに行ってみたいと思ったことと、ハクロがこの森の中大怪我を負っていたことは覚えているが、彼女のようなものが他にもいた可能性があり、調査をするために訪れたのである。
まぁ、可能性としてはそう高くもないし、流石に時間が経ちすぎているので他にいたとしても既に死亡している可能性もあるが…‥‥念には念を入れて、色々と捜したいのだ。
なお、わざわざ変身薬を飲んでこなくとも、堂々とハクロの背中に乗って向かうことができたが‥‥‥こういう場所だと、慣れた方法で向かった方が迷わないからね。なんとなくでやってしまったんだよ。
「ついでに、森の中も中々資源豊富だからね。薬で増やさずとも、実っている木の実が残っているかもしれないし、収穫しておこうか」
【キュル!】
森林内の、気ままな探索。
そこまで重要そうなものは無いだろうけれども、探検したくなる心はあるものだ。
‥‥そう考えると、ここに訪れたのも正解かなと思うのであった。
「…‥‥っと、ここか。ここでハクロが大怪我をしていたんだっけな」
草木をかき分け、先へ進んだ場所。
今はもう、雪が降る時が近づいてきているゆえか、周囲の木々の落ち葉が積もっていたりする場所だが…‥‥初めてハクロに出会った場所に僕らはついた。
【キュル、ここで怪我だらけ、そこに、アルス来たもんね】
よいしょっとかつて倒れていた場所にハクロが体を寄せ、何となくで再現する。
まぁ、今だと人の体が蜘蛛頭に腰かけている状態のように見えるけれども…‥‥だいたいこういう感じだったよなぁ。
ああ、血濡れとかではなく健康体なのも違う点か。
【あの時怪我だらけ、そこにアルス来た。…‥‥威嚇したら、アルス、自分を傷つけて、薬の効果見せてくれたけど‥‥‥今だと、ちょっとやめてほしかった】
「そうかな?」
ハクロは当初、威嚇音を鳴らしていたからなぁ‥‥‥‥治療しようと決めても、威嚇していたし、薬の効果を見せるために自分で傷つけて、見せたんだっけか。
それをしっかりとハクロは覚えているようだが‥‥‥当時の事を思い出して、ちょっとぷくっと頬を膨らませてそう口にした。
【アルス、薬で治るけど、血でる。傷治っても、すぐに戻るわけじゃないし、流れた血、モンスターによっては飢えていたら、危ないもん。キュル】
‥‥‥ハクロは人を喰わないようだが、喰らうようなモンスターの場合、人の血を見ただけでも嗅いだだけでも凶暴化して襲うような類がいるらしい。
それも、かなり体が弱っている時ほど強く出るらしく、あの時のハクロの衰弱状態はかなりのものであり、場合によっては危なかったもしれないそうだ。
「でも、やらなかったらハクロ絶対に治療させてくれなかったよね?」
【キュル‥‥キュルゥ】
指摘すると、顔をそらした。
【今なら、ちゃんと受ける。アルス、治せるから。でも…‥‥やっぱり、無理に傷つけて欲しくない】
ごまかすようでありつつも、そっと僕背後に回り、抱きしめてくるハクロ。
優しくきゅっと持ち上げ、蜘蛛の体の上に乗せる。
【‥アルス、その体、むやみに傷つけないで。私、アルス大事。むやみに傷つくと悲しむ】
「ハクロ‥‥」
【また自分で傷つけようとしたら、かぷっといく、キュル】
「なんかさらっと変なの混ざらなかった?」
良い雰囲気っぽかったのに、なんでそんな言葉を出すんだよ。
というか、かぷっといくって、何?何をする気なの?
尋ねてみると話さないし、とりあえず僕自身が自らを傷つけて効果を証明する方法を彼女は禁止したいらしい。
何をされるのかはわからないけど、むやみに傷つけないほうが良いというのはわかった。
そもそも、力ずくで止める事も…‥‥あ、確実に負ける。どう考えてもハクロの方が圧倒的に強い。
「まぁ、わかったよハクロ。僕自身を、むやみに傷つけて試さなくていいんだよね?」
【キュル♪それでいいよ♪】
そう言うと、ハクロは嬉しそうに返答するのであった。
傷ついて欲しくないのかなぁ‥‥‥僕を守るとか言っているしね。でもそもそも、僕の方が彼女を守りたいのだが‥‥‥うん、成長したら授業で剣の授業とかを取って、ちょっとは鍛えたほうが良いのかもしれない。
薬でどうにかする手段もあるけど、それはいざという時の手段にしたいかな。
とにもかくにも、そんな事がありつつ森の探索を行ったが、かつてのハクロのように大怪我を負ったモンスターの姿とかは無いようだし…‥‥特に異常が無いようだ。
あ、でも多少畑の害獣となり得る猪とかが出てきたので、狩りはしたけどね。持ちかえって料理してもらうのもいいかもしれない。
ハクロの怪我を負っていた理由などもこの機会に聞けそうな気がしたが‥‥‥研究所での一件もあるし、まだ聞かないほうが良いかもしれない。何かとそこに、理由がありそうだけど時期早々かもしれないという勘が働くからね。
「んー、特に異常なしか…‥‥なら、そろそろ帰ろうかな?」
特に何もないのであれば、これ以上いる意味もなさそうだ。
ハクロとの思い出をここで振り返るのも良いけど、それは過去のことであり、今のことをもっと積み重ねたい。
「ハクロ、行きと同じ方法で帰る?それとも、ハクロが走ってくれる?」
【んー‥‥‥走る。ココからダッシュしても、平気♪】
そう言いながらハクロの背中に乗せられ、糸で落ちないように固定される。
念には念を押して彼女にしっかりとしがみつき、狩った獣は袋に詰めて後方に背負われている状態。
【それじゃ、行くよ!キュルルルル!!】
だっと駆け抜け始めるやいなや、あっと言う間に森が視界から遠ざかっていくのであった…‥‥
「ん?にしても空の方がちょっと曇ってきたような‥‥‥こりゃ、もうそろそろ研究所に向かった方が良いかもね」
【キュル?そうなの?】
「なんとなくだけど、あと数日以内に雪が降りそうだし…‥‥積もったら動きにくくなるからね」
【雪積もるの?どういう風になるのか、楽しみ♪】
‥‥‥走りにくくなるのは目に見えるので、できれば研究所に到着した頃合いで降ってほしいなぁ。移動中に積もってきたら、それはそれでどう対応するべきか…‥‥計画はしっかり立てているけど、一応邸に戻ったらもう一度確認しておこう。
いよいよ降り始める雪。
それを見てハクロはどう反応するのか、ちょっと楽しみだったりする。
遊べることに喜ぶのか、寒さに震えるのか、冷たさに驚くのか‥‥‥‥
次回に続く!!
‥‥‥威嚇していた時は思わなかったけど、今だとそんな真似はされて欲しくないハクロ。
大事になったからこそ、自傷されるようなことは嫌なのである。
もしも効果を誰かに見せるのであれば、彼女自身にやってと言うかもしれないが、それはそれでアルスにとって傷つけたくない。
互に大事だと、そう言う時はどうするべきか‥‥‥‥まぁ、状況と場合によるかな。良い解決方法を探るべきだろう。




