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2-32 芸能人等には欲しい物かもしれない

「なぁ、聞いたか!皇子様が来ているようだぜ!」

「ああ、数日間の滞在しかないそうだが、それでもめったに見られる人ではない!」

「繋がりとか持てれば後々家のためになるかもしれねぇ!!」


 がやがやと騒ぐ生徒たちだが、その内容はどうやらあの第1皇子が数日間ほどの短い期間とはいえ、学園に通ってくるということに盛り上がっているようだ。


 普段他国へ留学しており、その姿を普段は見ることが出来ないので物珍しさもあるのだろうが、そんな事よりも権力者の子供であるというところに注目している人もいるようだ。



 何しろ、帝国の皇帝の子供であり、将来的な帝位継承はまだ確定していないのだが、それでも繋がりを持てば各々にとって利益が出るかもしれない可能性がある。


 貴族の者であれば繋がりをもって損はなく、平民でも見れないものを見る珍しさや、権力繋がりでどうにか持ちたい者もいるだろう。


 また、平民貴族にかかわらず、女子ならば玉の輿というのも考える人はいるようだ。




「…‥‥とは言え、それがすぐそばにいるというのに誰も気が付かないのは、それはそれで滑稽な光景かもしれないな」


 そう思いながら、その話題の本人である第1皇子のルガはつぶやいた。



 学園内で騒ぐ生徒たちを見ているが、誰一人として彼の存在に気が付いた様子はない。


 それもそうだろう。普段見ないという事は、姿をそこまで知られていないのだから。


 いや、知っていたとしても彼らがすぐにルガの存在に気が付かない。なぜならば、とある魔道具を使用しているからである。



「一応、共和国の方でのごたごたで、こちらのほうにも出てくる可能性があるという心配ゆえに持たされたが‥‥この様子なら持たされて良かったな。父上、感謝いたします」


 持たされている魔道具‥‥‥かつてはとある盗賊団の頭が使っていた魔道具であり、押収されて改造が施された認識阻害の効果を発揮する腕輪をしながら、皇帝への感謝をするのであった。


 

 何しろ、数日間の滞在なので長居する気はないのだが、その間に四六時中注目を浴びる気はない。


 そのため、認識阻害されていればそこにいると分かっていてもすぐに本人だとバレることはなく、気楽に過ごせるのだ。


「しかし、こうしてみると活気づいているな‥‥‥共和国の教育機関と比較すると、前よりも生徒たちのやる気が出ているようだな」



 授業の合間にある休み時間、彼は学園中を歩き回り、帝国と共和国での違いを確認しながらその様子を目にしていく。


 自分がここに通っていたのはそう長くもなく、ほとんどが他国で知見を広めるために留学していたのだが、それでも記憶力は鍛えられており、久しぶりの学園の様子を見て素直に驚きはした。


 生徒たちが各自で研鑽に励む姿を見るのは当たり前だが、その励みようは以前よりも向上しているのだとすぐに理解したのである。


 それだけココの生徒たちがやる気を出しているということなのだろうが‥‥‥何が、そこまでのやる気を出させるのか。


 その理由はすぐに、目にすることができた。




【キュルル!混ぜて混ぜてー!】

「おーーーー!!ハクロちゃんが混ざって来たぞ!!お前ら情けない疲れた姿を見せるなぁぁぁ!!」

「「「分かっているぞぉぉぉぉ!!」」」


 学園の校庭を周回して鍛えている最中の、体育の授業と見られる光景。


 そこで走り込んでいる生徒たちの元へ、一体のモンスターが近づいただけで一気に活気づく。



「‥‥‥単純と言えばそうかもしれないが、それでもただその容姿だけで活気づかせているわけでもないのか‥‥‥」


 そのモンスターの名前はハクロ。蜘蛛に座ったような美女のモンスターだが、皇帝陛下のお墨付きということで公認されており、学園内でもそれとなく話題になっている。


 彼女の主であるアルスという少年が授業中、神出鬼没にあちこちへ出歩くようだが‥‥‥彼女のおかげで、生徒たちに活気づいていると言っても間違いないだろう。


 その美しい容姿ゆえに、男性陣(時たま女子)のやる気を出させるようだが、それだけで元気になっているわけではない。


 話によればあの姿になる前のホーリータラテクトというモンスターだった時の特性があるようで、近くにいるだけで癒され、疲労が回復して元気になるらしい。


 ゆえに、周回して頑張っている生徒たちにとっては、そこいらに溢れているような回復薬などよりもはるかに優れた活力剤となり、ますます励むようだ。


 また、彼女についての話を耳にして見れば、ただ美しく癒す力があるだけというだけで受け入れられているのではなく…‥‥


【キュル、あ、そろそろアルス、授業終える!それじゃ、じゃあね!!キュルル!!】


 ある程度混ざって走っていたところでそう口にするや否や、瞬時に彼女はそこから姿を消すほどの速度で離れていった。


「ああああ!!いっちまったぁぁぁ!!」

「もうちょっと、もうちょっとだけいてくれればよかったが‥‥‥」

「ああ、悲しいなぁ‥‥‥」


 見るからに走っていた生徒たちのやる気が削がれまくり、大幅に減退したようだが、恨むような声は出さない。


「まぁ、仕方がないもんなぁ。彼女はアルスの事が大事らしいからな」

「嫉妬の目も送ってしまうが、それでも一途に思うような様子が、本当に良いからなあ‥‥‥早くくっつけと言いたい」

「とはいえまだ無理だな。初等部だし、そこまではまだ時間もかかりそうだ」

「「「「でも、どうにかしてあげたいとは思ってしまうなぁ…‥‥」」」」



「‥‥‥平和な思考というか、何というか」


 ハクロは主のアルスに対して色々と思っているようで、その様子から全員色々と察しつつ、心の中で応援しているようだ。


 その美しい容姿などから、将来の妻にしたいと思うような人もいたようだが、その純粋さに心を貫かれて応援に回ってしまうらしい。


 これが他国ならば強引にでも奪うような真似をするような輩が出てもおかしくはないが‥‥‥そんな生徒がいないのは、この教育機関での教育のたまもの故か、あるいはその姿に影響されてか、汚い心を持つものがどんどん浄化されているようだ。


‥‥‥一説だと、癒すモンスターの力には、汚い心等も浄化する力があるそうで、それに当てられた結果とも言えるかもしれない。


「だが、それでも見守りたいという心が働いているのは変わりないか…‥‥」


 ハクロというモンスターが心を尽くすアルスという少年。


 学園に来て早めに彼の元へ向かい、改めて解呪してくれたことに対する礼を述べておいたが、10歳の身とはいえその歳以上のできた振る舞いを見せたのは驚くことだった。


 まだまだ幼いところが目立つが、それでも持つ力を見ると色々と目を見張るところがあり、将来が有望そうなのは間違いないだろう。


 特に、解呪できるほどの薬の精製や、手紙などで教えてもらっていたが皇帝たちによく効く胃薬なども作っているらしく、何もない場所からあらゆる薬を精製する能力の話などもあるようだ。


 また、ハクロの主となっているようだがそのハクロ自身の力もただ皆を癒すとかそれだけではないようで、先日、都市アルバニアに襲撃をしようとしていたらしい盗賊団を壊滅させたらしく、モンスターとしての力も高いそうだ。



「…‥‥不思議な薬を精製する少年に、それに付き添うモンスター。この二人は帝国にとって重要だろう」


 そう思うと、逃してはならない存在なのが良く分かる。


 他者とは一線を画すようであり、帝国の将来を担う若者としても有望すぎる存在。


 けれどもそれはまた、他国が存在を知れば、求めるのも目に見えている。



 

 ありとあらゆる薬を求める国々もいるだろうし、癒す力だけでも戦時中に役立つと考えるような輩がいてもおかしくはない。


 容姿が美しいのであれば人でなくとも求める者はいるだろうし、不思議な薬も利用できると考える者も当然現れるだろう。


「特に、ハクロの特徴などから聖国あたりが欲するかもしれないな。…‥‥帝国から情報が漏れないように細工をしたいが、おそらく既に伝わっている可能性もある。となると、できるだけ帝国の方で保護できるような、より強いつながりがある事を示したほうがいいな」


 聞いた話によれば、アルスはヘルズ男爵家の次期当主。


 将来的には侯爵家まで爵位を高める予定もあるが、まだ若い少年では後ろ盾が不足しており、そこをついてくる可能性が大きい。


…‥‥しいて言うのであれば、ハニートラップなどはおそらく通用しないというのは良い事だろう。

 

 というか、ハクロのような美女がいる時点で、仕掛けが通用すると考える愚か者はいるまい。よほど自身の容姿に自信があるようなナルシストでもない限り、彼らには確実に通用しないだろう。


 そしてハクロの方も他者にはそれなりに仲良くするが、アルスほどではない様子から、逆ハニートラップも通用しないと思えるだろう。


 金などの方はどうなのかとわからないが…‥‥皇帝から聞く限りでは、権力などには無欲な様子があるので大丈夫だとは思えた。


 

 とはいえ、権力に無欲であれどもそれに従う様子などは見られるので、できるだけ強い後ろ盾が必要そうには思えるのである。



 しかしながら、重要度がどれだけ高いと分かっていても、男爵家にいきなり皇族が後ろ盾になるわけにいかないので、そのあたりはまだ調整が難しい所だ。


「今のところ、伯爵~公爵家辺りが妥当だが‥‥‥‥そこで少しもめているらしいからな」


 帝国の下部の方で腐るような輩は出たりするのは頭が痛い話しだが、上層部の方はすっきりとして、まともな人が多い。


 頭のねじがぶっ飛んでいるような人も混ざっていたりはするが、それはそれで適材適所な場所へ回されているので、そこまで気にしなくていい。


 けれども、まともな人が多いのも良いのだが…‥‥まともだからこそ、悩みも深くなるようだ。


「見ているだけで、孫にしたいとかいう家もあるらしいからな…‥‥まぁ、ほのぼのと癒されるのは間違いあるまい」



 時間も進んだお昼時、昼食のための食堂にて、アルスとハクロの様子を見ればその気持ちは理解できるだろう。


 授業中は中々組めないが、こうやって空いた時間に甘えている様子は、子供と大人の女性という容姿の組み合わせではなく、飼い主と懐きすぎたペットとしか見えない。


 甘えるような様子はルガの心でもほのぼのと癒されてしまうのだ。


 懐き具合が凄まじいというか、既に番認定されているような…‥‥過去に帝国の歴史書で、とある偉人の残した「リア充爆発しろ」という言葉が、それに合うのではないかと思ってしまうほどである。


 何を思ってそんな言葉を残したのか、そもそもどうしてそのような言葉なのかという意味は分からないが、それが当てはまりそうだというのだけは理解させられる。



 とにもかくにも、こうやって仲のいい様子を見れば大人からすれば可愛がってあげたくなるというか、保護欲が掻き立てられるのは仕方がない事なのかもしれない。


 貴族の世界というのは、それだけ権謀術数であふれており、いかに帝国とはいえすべてが清廉潔白ではない。


 時として闇のような黒い部分に嵌る者もおり、そう言う類に対しての対応などもしなければいけないのだ。


 そう考えると、その中で純粋な輝きというのは眩しい星のようでもあり…‥‥温かさを求めてしまうのだろう。願わくば、その純粋さを失ってほしくはない。


‥‥‥なお、聞いた話ではすでに間諜の者たちは彼らの純粋な眩しさに当てられており、仕事をこなす力が向上しつつ、守るために動くファンクラブ成る物も創設したらしい。久しぶりに帰ってきた帝国なのに、知っていた間諜たちが個人に肩入れしまくる光景は流石に予想外ではあった。


 まぁ、それはそれで他国とか他の貴族の間諜たちも見事にあてられて一致団結しているので、万が一が起こり得る前に動いてくれるそうなのでありがたいが…うまく利用すれば、世界統一とかもできそうな気がするのは気のせいだと思いたい。



「そもそも、ヘルズ家の次期当主となるから、他の家の養子などは出来ないな…‥‥母上が密かにハクロの方を娘と呼びたくなっていたとつぶやいてもいたが‥‥難しく考えてもまだ出ないだろうし、今は、この学園での生活も楽しむか」


 共和国内の教育機関も楽しいのだが、帝国と比べて学べるところに差があり、それぞれのいいところを将来的にどう活かすべきか考える時間は良い物である。


 そう思いつつ、ルガは数日間の短い期間の学園生活にも身を入れるのであった…‥‥


「ああ、それと後でまたアルスとハクロの元へ、行ってみるか。解呪できた薬などについて色々と知りたいし、場合に依っては数本ほど今後の事も考えて作ってもらえないか、尋ねたほうが良さそうだしな」


‥‥‥この後、第1皇子が来ることによって、アルスにプレッシャーがかかり、ハクロにくっ付いて精神的な癒しを取っていたのは言うまでもない。



「…‥‥解呪すればそう関わらないかなと思っていたのに、なんで律義にお礼を述べるためとか、その他の質問のためにとかで、一男爵家の子供に過ぎない僕のところへ、一国の皇子が来ちゃうのかなぁ…‥‥」

【キュルルゥ…‥‥アルス、大丈夫。ルガ皇子、悪い人ではない感じする】

「帝国の皇子だからそうなんだろうけれどね‥‥‥権力者との対面はそれだけでも、疲れるんだよ」

【んー、よくわかんない、キュル】


 大好きなアルスが自らくっ付いてくれるのは、ハクロにとっては良い事なので、むしろ歓迎すべきことだと彼女は思うのであった。


【アルス、私いるから、大丈夫。いくらでも、くっ付いて良いよ♪】










‥‥‥そして、アルスがハクロに癒されている丁度その頃。


 ルガ皇子の心配していたことに関しての一つが当たっていた。


「…‥‥共和国の方に潜むあいつからの調査依頼か…‥‥だが、これは既にこちらでも把握しているし、その内容を送るだけで良い」


 とある国にて、その人物は送られてきたその手紙を読みつつそうつぶやいた。


 前から少しだけ流れていた情報ゆえに、その情報を調査し‥‥‥そして、帝国の方で洩らさないようにしていたところがあったようだが、人の口には戸が立てられないと言ったもので、完全ではない。


 ゆえに、ある程度の情報不足はあるのだが、それでも手に入れた部分だけでも彼らにとっては非常に利益があった。


 そして彼らは動き出す。自分たちの欲望のために、何もかも奪うつもりで。


「とはいえ、直ぐに動いてはバレるだろう。手始めに他国を利用して…‥‥」



 穏やかな暮らしに今、黒い影が迫り始めるのであった…‥‥‥






連続して主人公たちではない視点だったけど、次回はきちんと主人公視点。

それなのに、せっかくのほのぼののいい機会なのになんかやらかすところが見えている。

なぜ人はこうも、自ら地獄への道へ踏み入れるのか‥‥‥誰か教えて欲しい。

次回に続く!!



‥‥‥だんだんと受け入れられつつ、穏やかに過ごせている様子。羨ましがったり、嫉妬の目を向ける人はいるだろうけれども、何かとなじんでいるようである。

いや、それはそれで生徒たちの心が広いような気がするな…‥‥この学園、いじめとか無いだろうなぁ。

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