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2-30 休み明けだけど関係ないこともあり

‥‥‥長いようにも短いようにも感じた夏季休暇。


 全生徒が学園の寮へと戻り、再び学園に活気が戻ってくる。


 誰もいないと静かではあるが、人がいないとそれはそれで寂しさもありつつ…‥‥





「‥‥‥戻って早々に、何故か皇帝陛下に呼ばれているんだけど、何かしたっけ?」

【キュルゥ?】


 夏季休暇も終わって授業が再び開始されたから間もなく、僕らは何故か王城にいた。


 いや、何故かではなく帰って早々召喚状によって呼び出されたのだが、内容に関しては王城の方で伝えるとあるだけで、詳細は不明。


 

 あの親や元兄たちの処分関係で何かあったのかな‥‥‥?でも、この間確か決まって実行されたはずだしなぁ。


「しいて考えるのであれば、この間の盗賊団かな?」

【キュルゥ】


 研究所というか、都市アルバニアを襲おうとしていた盗賊制圧の話になるのだろうか。でも、あれはあれで何やらややこしいというか面倒事が判明したので所長が国へ完全に押し付けまくったとも言っていたはずだし、違うのかもしれない。




 とにもかくにも色々と疑問に思いつつも、何度も来たせいで慣れてしまった謁見室へ入室し、僕らは皇帝陛下の前に跪いた。


「夏季休暇明け早々だが、いきなり呼び出して済まないな、アルス・フォン・ヘルズに、ハクロよ」

「いえ、私達は皇帝陛下の臣下ですので、呼び出されたのであれば従うのは当然かと」

【キュルル】


 玉座に座りつつそう口にする皇帝陛下の言葉に、僕らはそう返答する。


 薬の契約やその他色々なことがあれども、この国では皇帝陛下が一番の権力者だからね‥‥‥迂闊な対応はしでかせないのだ。


 というか、やらかす気もないけどやらかしたらそれはそれで後が怖い。



「そう硬くならなくてもいいが‥‥‥まぁ、良い。やや重要な内容ゆえに人払いも済ませているが‥‥‥我が妃を通じて、そちらに様々な薬の精製能力を有る事を知っているからこそ問う。アルスよ、作り出せる薬の中に、呪いを解呪することが可能な薬は精製できるのか?」

「‥‥‥呪い、ですか?」

「ああ、そうだ。というのもな‥‥‥」



‥‥‥今回僕らを呼んだ要件に関して、皇帝陛下は説明してくれた。


 その内容を聞き、僕は目を丸くした。


「…‥‥殿下が、呪われたと?」

「そうだ。我が息子たちの一人で、長男の第1皇子が‥‥‥留学先でとある事件に巻き込まれて、目覚めなくなってしまったのだ」



 エルスタン帝国皇帝カイザリアと、正妃エリザベートの間には、3人の皇子と1人の皇女がいた。


 第1皇子ルガ・フォン・エルスタン17歳、第2皇子ダニエル・フォン・エルスタン16歳、第3皇子クロスト・フォン・エルスタン15歳、そして第1皇女アリス・フォン・エルスタン12歳。


 年齢的には第1皇女がやや離れているが、それでも大体はそろっており、全員帝国ではない別の国に留学しているそうだ。正妃様と仲が良いが、それでも一応将来的な争いなどを考え、ある程度自制しているらしい。


 それはそうとして、帝国ではない国に留学させているのは、皇族としての知見を広める目的と、帝国には無い各国の特徴や産業の活かし方を学ばせることによって多様性を増やし、より国の発展のためにというのを考えていたようで、それぞれの国の教育機関で頑張っていたようなのだが‥‥‥



「…‥我が子が全員、他国に留学しているが、大体の場合は問題ないと判断して預けていた。だがな、我が息子のルガの留学している国‥‥‥砂漠の中にあるデザイトリア共和国で不慮の事故が起きてしまった」


―――――――

「デザイトリア共和国」

エルスタン帝国のはるか西方に位置する砂漠の中にある国であり、砂漠内の各所にあるオアシスを都市として成り立っている国である。

水不足などに悩まされることがあった、他国との友好条約を結ぶことによって人工的な大河を作り出して解消されており、その大河を活かした運輸業で栄えている。

―――――――


「‥‥‥その国の者と親睦を深め、夏季休暇時には帝国への帰郷も視野に入れつつ、友人と遊ぶ計画を立てていたそうだ。だが、その計画の中で…‥‥」


 第1皇子ルガは、あちこちで友人を多く作る事を得意としており、その国でも友人をたくさん増やしていた。


 そして夏季休暇前に帰郷も兼ねて、その地での友人たちを招待して帝国の事もより深く学んでもらおうとしていたそうだが‥‥‥



「デザイトリア共和国は今でこそ共和制‥‥‥国民の投票によって支持された者たちによっての政治を行う国となっておる。だが、一昔前‥‥‥と言っても、我々の代よりもはるか昔、200年ほど前までは王国であった」


 当時の王国は王国で栄えていたそうだが、ある時非常に最悪な愚王が出現し、下手すれば国家消滅の危機を迎えていたらしい。


 なので、その当時の他の国々が支援を行い、国を潰さないように革命軍となった者たちを支援して、共和国に変えた歴史があるそうだ。


‥‥‥国一つの大混乱時には、他国としては乗っ取って領土にしたかった。だがしかし、砂漠の国なら砂漠なりの利用方法もあるのだが、無理してまで奪う旨味もない。むしろ潰れたら潰れたで、大量に盗賊団などが結成される可能性もあったので、その予防策として各国で協力して革命を起こせたという話もあるらしい。


 それはまた別の話として、今でこそ共和国になっているのだが…‥‥どうやらその大昔に革命によって消されていたと思われていた愚王の一族がしぶとく生き残っていたらしく、近年になって再び王国に戻そうと活発な活動をし始めていたらしい。例えるのであればテロ行為と言うべきか。


 そしてその活動の最中で、共和国を担う生徒たちを狙おうとした大馬鹿者どもが出たようで‥‥‥それに、第1皇子様が巻き込まれてしまったようなのだ。


「あの子は正義感も強く、友達想いであった‥‥‥ゆえに、襲撃を受けた際に自らも一国の皇子であるにもかかわらず、実力もあったので果敢に撃退を行い、制圧をしたようだ」


 だがしかし、そこで問題が起きてしまった。


 どうやらその大馬鹿者どもの中に、どこで入手したのか魔道具であった武器を所持していた者がいたようで、よりによってその武器によって第1皇子に傷がつき‥‥‥そこからその武器に付与されていた効果なのか、呪われて昏睡状態に陥ってしまったらしい。


 魔法がある異世界だからこそ、呪いというものも存在しておかしくは無かったのだが、普通であれば軽い呪い程度ならば解呪できる人々もいるのだ。


 けれども、今回の呪いに関しては出回ることがほとんどないような、それこそ偶然でないと出くわさないような非常に強い物であったらしく完全にその手の専門家にはお手上げだったようで…‥‥共和国との距離があるせいでその知らせが届くのが遅れてしまい、先日知ったそうなのだ。


「それで今、夏季休暇明けにようやく昏睡状態であるルガをこちらの方に輸送してもらい、帝国内のありとあらゆる解呪方法を試したのだが…‥‥それでも無理だった。がめつい聖国にも頼みを出してみたが、金で何でもやるくせに今回ばかりは不可能と判断したようで、無理という返事が来たのだ」


‥‥‥帝国以外の他国に関しては置いておくとして、長い歴史を持つエルスタン帝国だけに、呪いに関しての情報もそこそこあり、共和国で解呪を試みるよりもこちらの方で試みたほうが良いという事で、第1皇子を輸送してもらった。


 そして、解呪を試みたのだがどれもこれも成功せず…‥‥手段の一つとして、僕らを呼んだそうだ。


 正妃様を通じて、転生者である僕の摩訶不思議な薬を生み出せる能力を皇帝陛下が知っており、なおかつハクロの方も元はホーリータラテクトで癒すことが専門であり、呪いに対してもどうにかできそうだという事で、藁にも縋る思いだったようだ。



「つまり、第1皇子様の解呪のためですか…‥‥やれるかどうかは分かりませんが、まずは診てみないと分かりません」


 僕の薬の精製能力は、大抵の場合は想像力通りに産みだすことが可能だ。


 とはいえ、想像力の範疇外などには難しく、ある程度の制限もかかっており、万能という訳でもない。


 なので、一概に解呪可能な薬を作ってほしいと言われても‥‥イメージ不足で不十分なのだ。




 そこで、まずは第1皇子の容態を診ることにした。できるかできないかではなく、まずはどうなっているのかしっかり調べないと考えることもできないからね。


 皇帝陛下が手を叩くと臣下の者がすっと現れ、皇帝陛下と共にその後をついていく。


 そして案内されたのは王城内の第1皇子の私室であり、そこに彼は寝かされていた。




 皇帝陛下と正妃様を足して割ってやや皇帝陛下寄りにしたかのような青年。


 ただし、砂漠の国にいたせいか日焼けしており、褐色肌の砂漠の皇子というような言い方が合っていそうな人であった。


 

「…‥‥本当に呪いなのかどうかって部分で疑問に思ったけど…‥‥こうやって見ると、まさに呪われているとしか見えないよね」

【キュルルゥ‥‥黒い靄、みたいなの、嫌な感じで絡みついている】


 ベッドで寝かされている姿は、普通に眠っている様にしか見えない。


 だが、その周囲には見るからに怪しすぎるもやもやが漂っており、どう見ても何かしらの呪いにかかったようにしか見えなかった。


 ここまで堂々と呪いっぽい姿を見せる呪いも珍しいような気がするが…‥‥診察した医師たちによれば、これは呪いの力が強すぎるからこそ起きる現象だそうで、弱い呪いであればそれこそ呪われていることも気が付かないそうな。


「はっきり見えるほどの、力が強い呪い‥‥‥でも、その効果は眠るだけなのでしょうか?」

「いや、そうではないようだ。昏睡状態に落とししれつつも、どうやら精神的にも攻めているようであり‥‥‥今はまだ、ルガの精神力が強いからこそ衰弱した様子を見せないのだが、このままでは時間の問題でもあるようだ」


 皇帝陛下曰く、子供たちには帝国の皇族として精神を徹底的に鍛えているそうで、それが今回功を奏したようで、ただ昏睡状態に陥っているだけになっているようだ。


 昏睡状態が長いと筋力なども落ちていくと思うが、ちょっとやそっとでは堕ちないような鍛え方もしているようで、今のところはただ眠るだけの状態。


 とはいえ、人間は無敵でもないので限界はいずれ来ることが分かっており、その時になれば呪いが一気に進行して、そのまま皇子を帰らぬ人にしてしまうようだった。


「そうなると、早く呪いを解呪することが求められるか‥‥‥‥んー、衰弱死を狙うような呪いへの解呪させる薬か…‥‥」


 単純なようで、中々想像しにくい薬である。


 呪いを消し去りたいとは思うけど、大雑把過ぎても効果が出るのかが分からないし、そもそも薬を作れるのかも不明だ。


 どうしたものかとか考えていると‥‥‥ふと、ハクロがパタパタと手で扇ぎ始めた。


【キュル、もや、風で飛ぶ。けど、湧き出て意味ない…‥‥】


 どうやら皇子の身に纏う靄を払いのければ良いかもと考えたようだが、生憎ながらそんな単純なものではなかった。


 手で扇げば確かに多少は流されるが…‥‥それでも、纏わりついた靄は離れずに、むしろ体から噴出するかのごとくしつこく張り付く。


 そう、例えるならば頑固な臭いが染みついているようで‥‥‥‥


「…‥‥待てよ?臭い、か‥‥‥それなら、脱臭剤みたいな薬でどうにかなるんじゃ?」


 靄が呪いの大本だとしたら、それを消すことで解呪できるかもしれない。


 そして今のイメージによって、何となく単純に悪臭が纏わりついているだけのようにしか見えなくなったのか‥‥‥案外あっけなくぽんっと薬が生成された。


「脱臭剤のイメージのせいで、スプレータイプか‥‥‥」

【キュルゥ、スプレー、ちょっと嫌】


 モンスター研究所で暴れた際にかけた音を聞こえなくする薬の時を思い出したのか、ハクロがちょっと距離をとる。


 とはいえ、これならこれで効くかもしれないので、その場にいた国王陛下や医師に説明をして、試すことにした。




…‥‥何処の世界に、脱臭剤のような解呪薬を噴射する人がいるだろうか。いや、ここに僕がいたか。


 そう自分で自分にツッコミを入れつつも、スプレーの先を皇子に向けて引き金を引く。



ぶしゅううううううううううう!!


 かなりの勢いで薬が噴射され、皇子の身にくまなく降りかかる。


 そして少々全身がスプレーからの薬による煙で包まれ‥‥‥そして、晴れた時にはその効果をしっかりと見せつけていた。


 あれだけ纏わりついていたしつこい黒い靄は消え失せ、霧散している。


 皇子の体から出てもおらず、どうやら呪いが解けたらしい。


「ん…‥‥あ、アレ、ここは‥‥‥」


 皇子がぱちりと眼を開け、そう口にして‥‥‥‥解呪が成功したことを決定づけたのであった。




あっさりと解決したように見えるのだが…‥‥案外、その後の方が大変だったりする。

楽があれば苦労もあり、苦労もあれば楽がある‥‥‥何事にもバランスがとられてしまう。

そして今回も、それがあるようで…‥‥

次回に続く!!




‥‥‥なお、脱臭剤のような解呪薬ではあるが、あくまでも解呪目的の効果しかないので、脱臭剤そのものになるという訳でもない。

そう考えると、某5歳児の親の足クササラリーマンのあれとかには全く効果を発揮しない。‥‥‥というか、あれはあれで通用するのか?

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