1-2 そして巡り合う時が来る
‥‥‥記憶を思い出して数日後。
僕は今、自身の魔法薬について、ある程度把握していた。
まずはイメージが必要であり、魔法薬が入った瓶もある程度それに沿った形で現れるという事。
花の形をした瓶とか、ゼリーのように柔らかい瓶とかになるようで、きちんと物質として顕現しているので中身を使い切っても残るらしい。
なので、実験すればするほど空っぽの瓶の山が出来上がったが‥‥‥これは将来、形を統一して販売すれば問題ないし、今は捨て場所の確保のために、瓶のみを溶かす薬で解決済みである。
まぁ、作って早々に瓶そのものが自らの薬で融解してしまったので、ある程度用意は必要だが‥‥‥これは慣れればそんなに大きな問題にならないだろう。
次に、イメージができていてもほどほどという程度だけに、効果も強すぎるものは作れないという事。
チートと言えばチートな能力だが、やはり制限はあるようで、あの神が言っていたように不老不死の薬は作れない。制限時間も存在するようで、ある程度の設定ができるが、限界時間はまだ調査中。
容姿だけを若返らせる薬はあるので、定期的に飲み続ければ若い容姿のままでいることができるだろうし、それならば不老には近いが…‥まだ若い自分には意味がない。そもそも、薬を飲まなくなったら効き目が無くなるだろうし、ほとんど意味がない。
あ、でも薄めて化粧水として売り出せば、需要はありそうだ。…‥‥面倒ごとになりそうな気もするので、本当に困った時ぐらいにしか作らないようにしよう。
ついでに、父の禿が気になったので、育毛剤が出来ないかと思い、作れたので夜中に寝ている隙にこっそり振りかけたらボンバーヘッドになっていた。
‥‥‥なぜこうなったのかは不明だが、朝起きた父が気が付いて、嬉しい悲鳴を上げた。
でも翌日には、髪を借金の形にして賭博に出してしまい、帰ってきたころには不毛の大地と化していた。‥‥‥奇跡の毛として需要が出来たらしい。うん、特に何もしてくれない父親だけど、独立までのわずかな親孝行としてこっそりかけられそうであればしておこう。
母の方は…‥‥こちらは何もないし、やめておこう。記憶を思い出して整理したら、あれは兄たちの母らしいからな。
どうも僕の方の母とは違うようだが…‥‥まぁ、その詳しい部分はもう少し後で調べて見ようか。
そしてさらに、色々実験したが、薬というだけあって怪我も治す類を作れるようで、切り傷程度ならばしゅわッと一瞬で消え失せたけど、折れた枝とかは治らなかったし‥‥‥そのあたりは試したいが、流石に自分の体を傷つけて試すようなことはしたくはないので、機会があれば実験しよう。
そうこうしているうちに、本日も薬の実験としつつ、鳥に変身して領内を僕は飛び回っていた。
なお、いちばん最初に試した小鳥ではなく、猛禽類に当たるグレートイーグルと呼ばれるものになってます。
いや、本当に小鳥は小鳥で楽しかったんだけど…‥‥自然界の厳しさに見舞われたんだよね。襲われたもん。
だからこそ、そこから教訓を学んで、こうやって強い鳥にしたらある程度安全になった。ちなみに、衣服は変身と同時に体に着たままのようで、変身解除しても素っ裸になるようなことはなかった。
【ピョロロロロロ!!(たーのしーい!!)】
大空を自由に舞い、あちこちを高速で移動して飛び回るのは気分爽快痛快。
ちょっと調子に乗り過ぎて、領地から少し離れた森に着いた頃に、時間切れが来るそうだったので着陸した。
ポンッ!!
「っと、予想通りかな」
天空で戻って落下死はしたくないし、ある程度時間の把握も必要だったので、こうやって効果時間を把握できるようになってきたのは良いだろう。
「せっかくだし、何か木の実でも食べようかな‥‥?」
魔法薬を生み出せるだけに、植物に何らかの変化を起こす薬を作れることは実証済み。
リンゴに桃、オレンジ、スイカと前世のフルーツを実らせることには成功しているのだ。
‥‥‥でもスイカって木にならないよね?まだ検証するべきところがあるな。
それに、前世とほぼ同様だが、この世界に存在する類似のフルーツにはなるようで、それぞれ地球のとは少々の違いがある。
まぁ、問題も特にないようだし、出来れば植物図鑑とかがあればより詳しく調べられるかなと思いながら、実らせるのに都合のいい木が無いかと歩く中で‥‥‥ふと、僕は気が付いた。
「…ん?」
この森に来るのは数度目だが、何となく空気が違う。
いや、何かこう生臭いというか、怪我した時にちょっと臭う血の香りというか‥‥‥
何事かと思い、万が一の時には素早く逃げられるように、あらかじめ変身薬を出してもちつつ、その発生源へ僕は向かって見た。
そして、その場所にたどり着いて見れば…‥‥
「…‥‥何、コレ?」
そこにいたのは、巨大な蜘蛛。
手のひらに乗るような小さなものではなく、巨大で真っ白な個体である。
全身に産毛のような毛が生えており、蜘蛛の大きなおなかは羊のようにもこもこしている。
けれども、その全身に痛々しいほどの切り傷がついており…‥‥もこもこなお腹にふさわしくないような大穴も空いていて、そこから血が流れ出ている。
昆虫の血液の色は人とは違うはずだが、真っ赤な血だまりが生まれていた。
「モンスター…‥‥の何かかな?」
この世界、人には魔法の力があるようだが、その分モンスターと呼ばれるような危険な獣が存在している。
通常の野生動物とは異なり、体内に魔石と呼ばれるものがあり、そこから力を得て蠢く存在。
人々に危害を加えるようなものから、家畜のように飼いならされるものもいると聞いたことはあったけれども‥‥‥このサイズの蜘蛛はどう考えてもモンスターだろう。
だがしかし、よくある異世界転生のような鑑定とかは持ってないので、詳細は不明。
そしてさらに、蜘蛛は肉食なので、この目の前の物もその類に洩れず、危険性がある。
【ブシュ…シュルルルルルル!!】
っと、僕に気が付いたのか、ボロボロな体をこちらに向け、威嚇するようにその蜘蛛は前足を上げて唸り声も上げた。
どうやらまだ抵抗する気力があるようだが…‥‥この様子だと、もう長くは無さそうだ。
それに、これだけのモンスターだと放置すると危険性が高そうだが…‥‥何故か、僕は恐怖が湧かなかった。
むしろ、何となく放置できない気分というか、助けたい気持ちになる。
魔法薬がどこまで効くのかは不明だが…‥‥ここで使わないという手もないかもしれない。
「‥‥‥なら、助けたほうが良いのかな?」
ぶしゅううっと威嚇されつつも、何となく気になり、僕は助けたくなる。
けれども、あの様子だとそう簡単に近寄らせてくれなさそうだし…‥‥どうしたものかと考える。
そして僕は、ある方法を思いついた。
「‥‥‥簡単なポーションを出してっと」
威嚇を続ける蜘蛛の前で、僕はぼそりとそうつぶやき、薬瓶を生み出した。
その行為に、目の前の巨大蜘蛛は何をする気なのか見ていたが…‥‥その前で、僕は近くにあった石を持った。
「ちょっと見て」
そう語りかけるように口にして、軽く自身を傷つける。
その行為に驚いたのか、唸り声を蜘蛛は止め、ぎょっとしたようなしぐさを取る。
「これをかけると…‥‥ほら、治っていくだろう?」
見ていることを実感しながら、傷口に薬を垂らし、治していく様を見せ付けた。
そして新たに、今度はより効果の高い薬を生み出し、それを蜘蛛の前に掲げる。
「大人しくしてくれたら、これで治してあげる。だから今、ちょっと警戒を緩めてくれないかな…‥?」
【シュルルル…‥‥キュウ】
しばし考えこむようなそぶりを見せた後、蜘蛛はおとなしくなり、許可してくれたかのような声を出した。
そして恐る恐る近づいてみれば、襲うようなそぶりも見せず…‥‥どうやら僕を信じてくれるらしい。
「まぁ、どこまで効果があるのかはわからないけど‥‥‥やってみるか」
量がちょっと足りないようなので、追加の薬を生み出しつつ、僕は治療を始めた。
そして、薬が垂らされて傷が癒えていくたびに、蜘蛛は少しずつ警戒を緩めて、完全に身を任せ始めたのであった…‥‥
ここで出会うのも何かの縁。
責任は生じるだろうけれども、決めたのであれば、最後までやり切るのみ。
ついでにちょっと、気になるというか‥‥‥
次回に続く!!
あ、本日もう1話投稿なので、続けてどうぞ。