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2-25 悪意はひっそり忍び寄り

‥‥‥深夜、誰もが寝静まる中、研究所の所長室では明かりが灯されていた。


「ふむ、データとしては色々と集まっているのじゃが‥‥‥こうして見ると、やっぱり色々と妙なものになっているのじゃな」


 真面目そうな顔で報告書を読み、気になった点に印をつけて分類するドマドン所長。


 年齢的にもだいぶ歳であり、容姿的にもここまで遅く起きているのは問題であると言われそうだが、生憎ここでそんなことぐらいでとやかく言う者はおらず、夜更かしをしつつも真面目に分析を進めていた。


「ハクロ‥‥‥蜘蛛のモンスター『ホーリータラテクト』が元になって、今の姿になった可能性はほぼ確定じゃろう。癒しの能力の有無や、容姿の細かい分析結果などからしてもそうとしか思えぬし、特性などはそのままのようじゃな」


 所長が直接見るだけではなく、他の研究職員などがさりげなく質問したり見せてもらったりしている内容などをまとめつつ、彼女についての詳しい情報が見えてくる。


 過ごしている姿そのものは、所長自身とはちょっと違うというべきか、見た目こそは美しき大人の女性なのに中身がやや幼い少女。


 アルスに対してはかなり甘えていたり、彼に対してはとことん気を許しているというか、まだ恋愛感情が良く分かっていなさそうなのにそれを本能的に理解しているような様子があるようだが‥‥‥


「とはいえ、成長してないという訳でもなさそうじゃな。言語の学習能力も高いようじゃし、全体的な能力も向上してきているようじゃ」


 まだまだ片言に近いとはいえ、だんだん喋る内容もはっきりとして来た。


 キュルルっと鳴くのはそのままだが、それでも会話がまともに成り立ちやすくなっており、文字に対する学習意欲も向上したのか、書き取りの練習や書物への興味関心が見られてきたからだ。


 ただし、書物に興味を持っても主に絵本を読むようである。小説を読めばそれなりに様になるが、絵本だとちょっと気が抜ける。


 まぁ、それはそれで可愛らしいし、学んでいけばそのうち手を出すのが目に見えているので良いだろう。


「あとは、報告書になんか増えた‥‥‥あの行動が可愛かったとか、ちょっとうらやましいとか、自分もあんな友達や彼女が欲しいとか…‥‥職員、愛情に飢えておるのかのぅ?」


‥‥‥容姿は瓶底メガネ白衣幼女なドマドン所長だが、年齢は80歳で孫もいる。


 何気に職員の中では勝ち組と言うべきだろうが、それでもこうもハクロやアルスのやり取りに対して心をヒットされた職員たちの状態に思わず呆れてしまう。


 研究に夢中になる職員も多く、恋愛する機会が少ないのもあるだろうが…‥‥


「まぁ、養子としたくなるので、気持ちとしては分からなくもないがのぅ。孫のように、あの子たちは守ってあげたくなるような気もするのじゃ」


 研究が好きなので研究職に就いているとはいえ、行き詰ったりすると辛い時がある。


 そんなときに、彼らのほのぼのとするやり取りを見れば癒され、その光景を守りたくなるのは無理もない事であろう。


 子供を育て、孫も得たドマドン所長だからこそ職員たちの気持ちはよく理解できるので、そのあたりはどうにか解消しないといけないなと思い、所長は解決すべき内容として頭の中に入れておくのであった。


「とはいえ、ハクロのデータはまだまだ未知数な部分もあるようじゃな。体つきなどは人に近くなってきておるが、蜘蛛部分もあるのじゃし、脱皮などもあるようじゃから回数を重ねればどこがどうなっていくのか、見当がつきにくいしのぅ。解剖できれば手っ取り早いが、流石にやったら駄目なやつじゃろうしなぁ」


 分からないことがまだまだあるので、この先どうなるのかが予測が付かない。


 人に近くなっているような気もするのだが、それでもモンスターとしてのラインは引かれたままであり、切り離せるようなものではない。無理やり外科的にという手段も取れそうな気もするのだが、中身がどうなっているのかもわからないので迂闊にできない。


 人の体と蜘蛛の部分として分かれていても、やはりまとめて一つの存在ゆえに、やらかしたら命を落とす危険性が非常に大きいのだ。


 例に挙げるのならば、頭と翼がワシで体がライオンの『グリフォン』と呼ばれるモンスターを切り分けたら絶命するのと同じようなものだろうか。


 なお、この研究所でも過去に雛を育てていたことがあり、巣立っているが山岳地帯の方で今も元気に活動しているのが記録されていたりもする。


「ま、子を成したらどうなるのかも気になるし、あの二人をくっつければそれでいい感じになるかもしれぬが…‥‥とりあえず、今日はこれで済ませておいて、明日に備えるかのぅ」


 ふゎあぁぁっと欠伸を出し、明日の予定などを確認してドマドン所長は横になる。


「明日は夫の待つ家に戻るし、その時に話し合って、夫婦円満のコツの本でも作って、渡してやるべきかのぅ‥‥‥」


 研究所に寝泊まりしている身とは言え、一応所長は個人の家があり、そこに彼女の夫が住んでいる。


 仕事柄なかなか帰らないが、それでも理解し合っており、だいぶ歳をとったとはいえ離婚の危機はないままだ。


 何にしても明かりを消し、明日の帰宅時の際には何かあった時のために、副所長の方に渡す仕事などを考えながらドマドン所長は意識を夢の中へ飛ばすのであった…‥‥













「…‥‥厄介だな」

「ええ、分からないですからね」


 所長が夢の中に入った丁度その頃、都市アルバニア近くにある森の中では、盗賊団に潜入した諜報たちが集まっていた。


「烏合の衆ではなく頭が仕切っているようだが‥‥‥認識阻害の魔道具を使用しているようで、辿りつけないな」

「指示を出しているところからこっそり追ってみても、いつの間にか撒かれているというか‥‥‥こちらの動きに気が付かれているのでしょうか?」

「いや、それはないだろう。ただ単純に、相手の認識阻害の効力が強く、頭として認識ができる時もあれば、そう思わせないようにするといった切り替えもしているだけのようだからな」

「だが、その分指示内容は的確に伝わっていたが‥‥‥単なる襲撃をするという訳でもないな」


 頭についての情報が集めにくかったが、一応潜入して得られたことはある。


「都市の襲撃だが、ただ単純に全体的に襲うのではなく‥‥‥一点集中で狙っているようだ」

「ああ、間違いなく頭の狙いとしてはモンスター研究所があるようだが、そこを何故狙うのかが疑問だ」

「どうも頭の情報に関しては阻害されるようで詳細は不明だったが‥‥‥何やら、狙う目的自体は存在しているようだな。その目的が分かればいいのだが、そううまくはいかぬか」


 盗賊団の団員たちにそれとなく聞き込むのだが、認識阻害のせいなのか頭に関する情報が入りづらい。


 けれども、頭を頭として団の中で伝えられるようにしているようで、そのわずかな穴から情報をなんとか引っ張り出すことぐらいは出来たのだ。


「問題は、その狙う目的だが‥‥‥都市全体ではなく、研究所のみを狙うのであれば、その目的は色々と考えられるな」

「飼育しているモンスター、研究データ、研究所の仕組みなど‥‥‥そして、今の研究所の最新の情報を知っているのであれば、ハクロちゃんか?」

「その可能性はあるとは思うが‥‥‥狙ってどうにかなるものか?」


 諜報として過ごしているからこそ、ハクロがどういう者なのか、ある程度ならば彼らも把握できている。


 人懐っこい彼女ではあるが、それでも悪者に惹かれるようなことは絶対に無いだろうし、絶世の美女と言える容姿を持つがモンスターとしての能力が高く、やろうと思えばかなり強い反撃もできるはず。


 そもそもアルスに一番くっついている彼女を狙ったところで、そう簡単に引きはがせないと分かるのだ。


 彼女本人はまだわかってないようだが、その懐き具合にほんわかとさせられつつ、もどかしい気にもなるのでどうにかしたいなぁ、っとファンクラブの者たちは思っていたりもする。


「‥‥‥とは言え、認識阻害の魔道具を持つ以上、他に妙なものを持っている可能性がある」

「盗賊団の荷物には大したものがないが、頭が肌身離さず隠し持っている可能性もあるからな。確か、前に別の盗賊団ではモンスター寄せの香を焚いて、騒ぎを起こしたどさくさにやらかそうとした奴がいたことがあったし、同じような手段をやらかされてもおかしくは無いだろう」

「何にしても、到達する予定日は明日の昼過ぎぐらいか…‥‥衛兵たちの方に情報を伝えて警備もしかりし始めた頃合いだろうが、より警戒を強めるようにしないとな」


 盗賊団に潜入できたのであれば、そのまま動けなくする工作も可能と言えば可能だ。


 だがしかし、それでは頭を取り逃す可能性があり、再び動かれては元も子もないし、その工作に対策を練られても困る。


 なので今は、ことが起きるまでは静観するしかないが‥‥‥それでも、できるだけ被害を少なくしようと諜報たちは動く。


「これも、彼女の笑顔を守るため」

「闇深き世界に舞い込んだ、一筋の輝きを失わぬため」

「愛する者を愛せる世界を、与えるために」

「その事が出来ねば、何がファンクラブだ」

「「「「そう、己の心が人であるならばやらねばならぬ、何事も!!」」」」


 雇い主がそれぞれ異なっても、その心を一致団結させる諜報たち。


 ハクロファンクラブとしては初めてのものすごく大きな仕事になりそうで、腕を鳴らしつつも、全員一致で盗賊たちに対しての出方をうかがい、如何にして被害を極力減らすか作戦を練り始めるのであった。





 そしてその頃、熟睡しているアルスの枕もとでハクロは小さくなる薬で枕になっていた。


 モフモフした蜘蛛のお腹にアルスの頭を乗せつつ、しっかりと枕としての役目に満足し、彼が傍にいることに安心しながら、満足そうな笑みで熟睡しているのであった…‥‥


【キュルルゥ‥‥‥スヤァ‥‥‥アルス、イル、嬉シイ‥‥‥】


すやすやと穏やかに眠る中で、動いているものたち。

それがどの様なものなのかは、僕らは知らない。

とりあえず今は、共に夢の中にいるのだ‥‥‥

次回に続く!!



‥‥‥公表されて堂々と過ごせていても、枕の座は譲れないらしい。元の大きさに戻って寝かせることもあるが、枕が一番気に入っていたりする。

そして忘れそうにもなるが、ドマドン所長既婚者。孫も持つ子育て経験者だからこそ、職員たちの気持ちがよく分かっているのだ。

‥‥‥容姿の理由についてはもうちょっと後で出す予定なのだが、ふと気が付いたがこの姿の所長と暮らしている夫は夫でどういう人なのか気になる。最初からこうだったのか、そうではなかったのか、そしてこの姿の妻に対してどう思っているのか…‥‥円満らしいけれど、こっちも早く出したい。

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