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2-22 割と真面目に調べてみまして

 都市アルバニアにあるモンスター研究所。


 初日は来るまでの疲れがあるからこそ、一晩ぐっすりと眠ったその翌日に、ハクロに関しての検査が行われることになった。


「とはいえ、内容は単純な物じゃ。『身体測定』、『知能測定』、『運動能力測定』、あとは糸の扱い方や元の種族からの特性と見られる癒し能力などを確かめるだけじゃからな」


 案内された研究所の広い一室でドマドン所長に、本日はどのような物が行われるのかという説明を聞く。


「ハクロ、受けても大丈夫だよね?」

【キュル!キュルルゥ!】


 ぐっとこぶしを握り締め、やる気満々という表情で返答するハクロ。


 一応、身体検査や運動能力の測定があるので、何時もよりも動きやすい衣服を着てもらっている。


 研究所の職員たちも健康診断を行うことがあり、その際に使用する衣服を貰ってハクロが自分に合わせてきちんと着れるように手直ししたものだ。


 まぁ、その健康診断に使用されるという衣服自体は、初代所長が用意した物を複製して利用しつづけているだけで変わって無いという話だが‥‥‥何故、前世のライトノベルとかにあるようなブルマタイプの体操服なのか、ツッコミを入れたい。男性だとハーフパンツの類なのに、何故女性用だけそれなのか。


 この研究所の形に体操服を見ると、何となく転生者じゃないかという疑いを抱かざるを得ない。


 あと、ハクロの場合蜘蛛部分までは流石に着れないから人の身体部分で着ているのは良いけど、大人の女性な見た目をしているせいでなんかアウトな気がする。あ、男性職員たちが目をそらしているな。


 ちなみに、学園の方も体育の時間に着る用の体操服はあるが、こちらは男女共通のズボン。‥‥‥そう考えると、ますますこの研究所の初代所長を疑いたくなる。


 とにもかくにも、まずはやって見ないと分からないというので、身体測定から始めることにした。


「とはいえのぅ、まずそこから問題が一つあるんじゃけどな」

「どこからですか?」

「バストはまだ良いとして、ウエストはどっちを基準に測ればいいのかのぅ?」


‥‥‥いきなり問題が発生した瞬間であった。


 言われてみれば、人の身体部分にも腰があるし、蜘蛛部分にも腰があるんだよね‥‥‥ウエスト2つあるのか。


「ハクロ、ちょっと腰をひねってみて」

【キュルゥ】

「…‥‥人間のような部分と、蜘蛛部分の腰を同時にひねられたのじゃが」

「どっちも腰という認識があるのかな‥‥?でも、部分的に曲げたりは出来るし、その認識はどうなんだろうか?」





 言い方が悪かったのもあるかもしれないが、色々と指示して動いてもらい、とにもかくにもなんとか細かい部分はこうであると定義して、彼女の各部位の大きさなどの測定は完了した。


 なお、サイズ測定で女性職員だけで見るところがあったが、何故か終了後には職員たちは落ち込んでいた。


「まぁ、無理もないじゃろうなぁ。儂は理由があってこの身体ゆえに思う事は無いのじゃが、研究所の職員でもそこは気にするのじゃろ」

「そんな問題でしょうかね?」

「そういうものじゃ。何しろその手の話題は男性女性問わずに出ることもあり、歴史上その問題のせいで滅んだ国もあったりするからのぅ」


 …‥‥前世とは違う世界とはいえ、そんな理由で滅ぶ国があるのはちょっと驚く。まぁ、魔法などがある世界ゆえにどうにかする手段もあるのだろうけれども、それを巡っての争いごともあるらしいからなぁ‥‥そう聞くと、前に作った毛生え薬もかなり取扱注意な代物だったんじゃ?


「研究職一本でも、気にすることがあるのよ‥‥‥」

「モンスターの研究に着目したのも、そこでどうにかならないかとおもうのもあったけれども、未だに見つからないわね」

「でも、あんなに腰が細いのに、その分の栄養が行くのか天然物できゅ‥‥‥しかも、まだ成長するって‥‥‥」


 うん、これは下手に口を出したらいけない話題だろう。


 そう思うと、男性職員たちと目が合い、同じ思いを抱いていたのか互いに言わないでおこうと同意してしまうのであった。




 気を取り直しつつ、次にやる検査は『知能検査』。


 簡単なテストに、難しいテストなどやる種類は多いけれども、ハクロはすらすらと回答していく。

 


「‥‥‥ふむ、単純な数学的思考や、文章からの状況把握に、構造理解などは非常に優れているようじゃな。ある程度独自の回答式を持っているところを見ると人間よりも上回っていそうなのじゃが、その反面‥‥‥うっかりした誤答などがあるところを見ると、抜けておるな」

【キュ?】

「あー‥‥‥正答率は非常に高いのに、うっかりミスをしているのか」


 回答自体は、どれもこれも非常に高い正答率を出しており、知能の高さに関しては人よりも優れているようだ。


 でも、その分うっかりしているのか‥‥‥軽い凡ミスなどがちょっと見つかるのである。


【デモ、正答多イ!ハクロ頑張ッタ!ホメテホメテ―!】

「うん、ハクロよく頑張っているよ。偉い偉い」

【キュルルゥ♪】


「…‥‥精神面だけ見ると、子供っぽい部分があるし、そのせいなのかのぅ?なんか人懐っこい子犬を甘やかす光景にしか見えないのじゃが」


 その例え話は、前にもあった気がする。ハクロって見た目こそ大人の女性なのに、なんでこうも見た目とそぐわないようなそぶりを‥‥‥あ、いや。


「でも、所長も見た目と年齢が合わない人ですよね?」

「まぁ、儂は常に心は18歳のままであるとしているからのぅ。いつまでも若い気持ちでいるのじゃよ!」


 容姿が幼女なんですが…‥‥実年齢と思っている年齢と、容姿の年齢がどれもこれも合っていないよね?


 職員の人たちはその回答に慣れているのかスルーしているが‥‥‥多分、全員僕と同じような事を考えているなと思うのであった。



 そしていよいよ、検査も後半に入り、やるのは身体測定。


 モンスターの身体能力は人を凌駕するものが多く、ハクロもそうだと言える。


 なぜならば、ここまでくる道中もかなり速く走れていたし、糸であちこち自由に移動できているけど、考えたら自分の体重を引っ張ったりするだけの力も必要なので、腕力に関しても目を見張るものがあるかもしれない。


 そのため、ある程度の結果は予想できたが‥‥‥‥やってみれば、想定外なほどだった。


【キュルルルゥ!!】

「短距離でも余裕をもって残像作ったり、体が思いのほか柔らかくて隙間をかいくぐったり‥‥‥」

「糸などの検査も兼ねれば、操って瞬時に衣服を作ったり、遠隔操作で弄ったり…‥」

「体術などは流石に甘い部分もあるようだが、それでも力ずくで組み伏せたり、思いのほか蜘蛛の足部分で鋭く突くなどの攻撃手段とか……」


「ハクロって思っていた以上に、強くもあるんだね」

【キュル!ハクロ、コレデモ弱イヨ?…‥‥家族、モット強カッタモン】


 ハクロの身体能力の高さに感想を述べると、彼女は返答しつつ‥‥‥少し顔を曇らせた。


「む?家族?聞いた話では、アルスが飼う前のホーリータラテクトとしての足跡が不明だったが‥‥‥誰かいたのかのぅ?」


 その言葉を聞き、ふとドマドン所長がそう彼女に問いかけた。



【‥‥イタ。デモ、モウイナイ。‥‥ウン、デモソノ話無シ!!今、私、アルスノ家族ダモン!!】

「っと!?」


 僕と出会う前の話をするかと思ったが、首を横に振って話を切り替え、突然僕を抱えて思いっ切り抱きしめてきた。


【今シタクナイ!!話辛イ!!言イタクナイ!!】

「落ち着いてハクロ!!無理に話さなくてもいいから!あとちょっと強く抱きしめすぎなんだけど!!」

【ア。‥‥‥ゴ、ゴメンナサイ、アルス】


 軽いパニックを起こしていたというか、泣き叫び始めたハクロに対して体がギリギリときしみかけていたのでなだめれば、直ぐに彼女は我を取り戻した。


「何があったのかは聞かないけど‥‥‥落ち着いてハクロ」

【キュルルゥ‥‥‥】


 そっとハクロの頭に手を伸ばして撫でれば、彼女はちょっと強く抱きしめすぎた自覚があった罪悪感からか、しょぼんとした顔になった。


 言われてみれば、彼女が僕と出会う前の話は聞いたことが無かったけど‥‥‥何やら、重いトラウマのような物があるようだ。


「ふむ‥‥‥何か事情があるようじゃな。心に強い傷を負っているようじゃが‥‥‥今の生活で癒えつつも、癒え切っておらず、刺激してしまったのかのぅ。何やら無理につらい思い出を語らせようとしてしまったのは、配慮が足りんかったのじゃ。すまぬな‥‥‥」

【キュルル‥‥‥ウン、大丈夫。話無理ナダケ】


 ハクロの反応から掘り下げるのは無理と判断し、嫌な刺激を与えたと思ってドマドン所長が謝るが、ハクロのほうも気遣わなくていいというそぶりを見せる。


 無理に話させようとしなければそれで良いような感じだが…‥‥どことなく、彼女の瞳に悲しい想いが見えたような気がした。


「とりあえず、今日の検査は一旦これで終了じゃ。あとは当分の間、この結果から色々と分析したり、お主たちの普段の生活を送ってもらうだけで良いじゃろう。何か異常があれば行うが、それ以外は基本的に自由に過ごしていいのじゃ」

「分かりました」


 ひとまずこれで検査を終え、後は普段通り生活していて構わないらしい。


 なので、この研究所で与えられた部屋に僕らは戻り‥‥‥ハクロも普段着に着替え直す。


【キュルルゥ‥‥‥キュルゥ】

「‥‥‥ハクロ、大丈夫?」

【‥大丈夫、寝レバ、モウ平気】


 まだちょっと、先ほどのことを引きずっているのかハクロの元気が少しない。


 トラウマのようなものに触れかけたようで、心が落ち着くまで時間が少しかかりそうだ。


‥‥‥人には事情が色々とあり、ハクロにも何かあるのだろう。


 触れられたくないことがあれば、そりゃあんなそぶりも見せるだろうけれども‥‥どうにか早く、いつも通りのハクロになってほしい。


「うん、寝れば元気になるなら…‥‥まだ昼間だけど、ちょっと昼寝しようか。僕もハクロと一緒に寝るから、その背中に寝かせて欲しい」

【キュルルゥ】


 良いよと言うように、そっと僕の体を持ち上げ、自分の蜘蛛の背中に乗せるハクロ。


 ふわふわモコモコしているのには変わらないが、彼女の体であるのは変わりない。


「ハクロ、僕は一緒にいるし、こうやって寝ているし‥‥‥心を落ち着かせて、この夏を楽しく過ごせるように、気持ちを切り替えよう」

【キュ‥‥‥キュルルゥ】


 僕の言葉にこくりと頷き、ハクロは目をつむって昼寝をし始める。


 でも、何処かで落ち着かないところがあるのか、手が少し背後の僕の方に回され‥‥‥そっと僕はその手を握り返す。


 僕がこうやって背中にいる事を確認できて安心したのか、ハクロはすやすやと寝息を立てはじめる。


 そして昼寝から目が覚めた後は、いつものハクロに戻っていたのであった…‥‥









「‥‥‥ふむ、身体能力などが分かったのは良いのじゃが、結局わからない部分も多く出来たのぅ」


 アルスがハクロと一緒に昼寝をして、彼女の心を癒していた丁度その頃。


 一旦入手できたデータの分析をするために綺麗に整頓しながら、ドマドン所長はそうつぶやいた。


「何がわからないのでしょうか、所長」

「ん?ハクロの能力の凄さなどは驚いたのじゃが、結局元がホーリータラテクトからどうやって人の身を得たのかという部分と、彼と過ごす前の足跡じゃな。人の体部分に関しては、アルスとのつながりを本能的に求め、進化する際に影響が出たと思えるのじゃが…‥‥」


 先ほどのハクロの、軽いパニックのような状態。


 明るい性格などは事前に調査済みであり、ここに来てから検査を受けている間の様子などを見ても、ちょっとやそっとで深く傷つくような性格ではないのが理解できる。


 それなのに、家族に関しての言葉や、事前調査などをしてある程度把握していた出会う前に重傷であった情報などを当てはめていくと‥‥‥


「‥‥‥あの辛がる様子、思い出すのがただ辛いのではなく、何かを押しとどめているようにも思えたのぅ」

「と言いますと?」

「それを思い起こすことで、何か行動をしてしまい‥それが今の生活を壊しかねないという恐怖を持ったような状態じゃった。人懐っこい様子に見えるのじゃが‥‥‥もしかすると、彼女はその話したくない部分の影響で、人を恨んでいるのかもしれぬ」

「恨む?あの様子ですと、そう見えないのですが」

「むしろ、アルスという子に懐きまくっていて、モンスターなのに子猫とか子犬に見える程ですよね?」


 ドマドン所長の言葉に対して、信じられないというように、職員たちは口にする。


 というか、彼に懐いて甘えている光景はほのぼのとしており、可愛らしくも見えるので、恨みとかそう言った言葉が似合わないように思えるのだ。


「……それにじゃ、そもそも出会いの現場も知ったのじゃが、ヘルズ男爵領近辺の森じゃ。モンスターの生息域なども前々から調査はしているのじゃが……考えてみれば、その周辺に蜘蛛のモンスターは住みつかぬはずなのじゃよ」

「どういう事でしょうか?」

「お主、ここの職員なのにまだ勉強不足じゃな‥‥‥」


 職員の一人が問いかけた言葉に、呆れたような声を出しつつもドマドン所長はこの際だから説明をし始める。


「ハクロの元がホーリータラテクトだとするとじゃ、癒しの能力などに他の蜘蛛のモンスターが注目し、大事にするじゃろう。ただ、蜘蛛のモンスターは普通の虫の方の蜘蛛とは違ってのぅ、大抵の場合集団で行動するのじゃ」


 時たま共食いなどが起きたりもするが、それでもモンスターの中で蜘蛛のモンスターは色々と不明な事はあれども分かっていることもある。


 その中で、ホーリータラテクトがいた場合の蜘蛛のモンスターは、大きな集団を形成することがほぼ確実にあるそうだ。


「巣を張って獲物を待ち伏せる以外にも、蜘蛛のモンスターはモンスター界隈でも虫系の中では優れた狩人じゃ。集団で獲物狩ることなどに長けておるし‥‥‥多産なものも多いがゆえに、自然と大家族をなしていくのじゃよ」


 とはいえ、群れの数が多くなっても怪我や病気をする可能性はある。


 しかも、一体を看病すれば他の数体が手を取られることもあり、それは何かと不都合な事でもある。


 ゆえに、ホーリータラテクトという周囲を癒すようなモンスターがいれば、それこそ家宝のごとく、非常に大事にして扱うことは考えられる。


「それに、ホーリータラテクト自身も本能的に自分で戦うよりも、周囲を癒していることが無自覚でも、集団でいたほうが身の安全になると分かっているはずじゃ。だからこそ、大怪我をするような目に遭う前には、大事にしている蜘蛛たちの方が身を挺して守るじゃろう」


 だがしかし、アルスと出会った時のハクロのことを聞くと、そんな群れが周囲にある状況でもないし、大怪我を負っていたというところに不自然さを感じたのだ。


「そう考えるとのぅ‥‥‥もしかすると、ハクロは何処かのダンジョン出身のものかもしれぬ。ダンジョンのモンスターは大抵ダンジョンから出ることは無いのじゃが、極稀にダンジョン内の仕掛けによって外部に強制的に出されることがあるからのぅ」

「それだと、他の者が付いてきていてもおかしくは無いような‥‥‥」

「そこが奇妙なんじゃ。じゃけど、そうなると色々な状況証拠を組み立てて仮説を立てるのであれば‥‥‥もしかすると、群れにいたけれども、壊滅した可能性があるのじゃ」


 蜘蛛のモンスターの群れは、それこそ人やモンスターにとっても脅威になりうる存在であり、自然淘汰や討伐があってもおかしくはない。


 そして、あのパニックになりかけていた様子を考えると…‥‥


「‥‥‥もしかするとのぅ。どこかのダンジョンの群れにいたが、討伐されたのかもしれぬな。それも、モンスターにではなく人間相手であり‥‥‥そう考えると、重傷を負って命を奪われていなかった部分にも説明が付くのかもしれぬ」

「え?仕留め切れなかったから重傷とかではないのですか?」

「それもあるのじゃが、仮定じゃと生け捕りの方が可能性が高いのぅ。ホーリータラテクトの周囲を癒す効果は、モンスターや人間などを問わないという研究例もある。しかし、その仕組みまでは解明されておらず、死んでしまうとその効果が消えうせるという話もあるようじゃし‥‥‥瀕死状態にしてでも生け捕りにして、色々と知らべようとしたのかもしれぬ。癒す力があるモンスターは、何かと狙う輩は多いのじゃ」


 人であろうとモンスターであろうと、癒す力というのは何かと用が多い。


 戦争時に兵士たちを癒せれば薬などがいらなくなるだろうし、毒や病気などに効くのであれば、それこそ貴族やどこかの王族が求めて報奨金を出していてもおかしくはない。


「幸い、彼女の種族の詳細についてはまだ不明な事も多いからこそ、公表はされどもその正確な能力までは出されておらぬようじゃ。ゆえに、目を付けられるのであればその容姿程度で済んでいるのかもしれぬが‥‥‥まぁ、もしものことなども考えられてしまうし、憂鬱になりそうなのでそれ以上は考えたくないのぅ」

「そうですよね、強欲な人であれば狙うだろうけれども、その手の話は酷いのが多いですからね」

「ココでの研究データは、あくまでも研究所内に留め、外部に漏れださないようにした方が良いかもしれないでしょう。まぁ、皇帝陛下やその他上層部には伝えないといけないでしょうが…‥」

「そこも考えているかもしれぬからこそ、あやふやな部分しか出していないのじゃろうな。まぁ、この国の皇帝陛下は‥‥‥いや、どちらかと言えばそう言う案を出すのは正妃様じゃろうけれども、当分の間はデータの扱いは慎重にするのじゃ」


 所長の言葉に対して、職員たちも同意して頷く。


 研究職に就く身とは言え、初日からこうも仲のいい様子や笑顔を見れば、それが曇ることは避けたいという気持ちになるのだ。


「討伐されかけていたのであれば、それなりの理由もあるのじゃろう。傷だらけで一人で森におったのも、もしかすると逃げる際にダンジョンの仕掛けに触れてという偶然かもしれぬが‥‥‥そうであれば、彼女にとっては人が憎い対象になるのかもしれぬ。だが、アルスとの生活でそれが薄れ、人と暮らす道を選んだのじゃろうけれども、無理に思い出させられるとその憎さが表面に出てしまうのかもしれぬ」


 でも、そんな恨みのような感情を、彼女は出すのを嫌がっていた。


 おそらくは、アルスと共に過ごすことで…‥‥その恨み自体が晴らしようがないものであり、どうにもできないものだと心の中で理解したのだろう。


 そして、あの甘えた様子から見ると、その感情に振り回されることによってアルスとの生活を失くすのを、非常に恐れているようにも思える。


 また、それを見ると…‥‥もしかすると、人の姿を持ったのはその生活を手放さないように、本能的に身体を自ら作り変えたと推測できるのだ。


 人と共に生活するからこそ、人ならざる存在だけれども、彼と一緒に過ごしても大丈夫なように…‥‥


「人を憎みかけつつも、それでも憎まぬ道を選ぼうとしているのであれば、儂らはそれを支援せなばいけないじゃろうな」

「そうしたほうが良いかも入れませんね」

「ええ、色々と人以上な部分に驚愕しましたが‥‥‥それでも一人の女の子のようですしね」


 人を恨みかけているのに、その恨むというのを自ら捨てようとしている。


 今ある生活を守るために、そして何よりも共に過ごしているアルスとずっと一緒にいたい‥‥‥そんな思いが見えてくるのだ。


 そう考えると、ハクロのその行動が非常に応援したくなり…‥‥どうにかして、笑顔を守っていきたいと思えてしまう。


 ゆえに、この瞬間モンスター研究所内でも密かにハクロファンクラブが出来上がったのであった。


「何にしても、これは憶測じゃし、真偽を問う必要はない。せっかくの夏季休暇を、楽しんでもらわねばいけないようじゃな」

「なら、起きた後は研究所の食堂で、おすすめのメニューなどもおごりましょうか」

「うむ。アルスとハクロには、この研究所を楽しんでもらい、しっかりと普段の生活などを記録させてもらわねばいけぬからな。…‥‥そう言えば、一つ忘れてたのぅ」

「なんですか?」

「糸の強度やその使い道についての研究もしたかったがそれは放棄するとして、食事関連の話じゃ。何が好みで何が嫌いなのか、そのあたりもしっかり調べぬと、バランスのいい食事をとらせることができぬ可能性があるのじゃよ。偏食は体に悪いからのぅ」


 とりあえず今は、好き嫌いなどもしっかりと調べておく必要がありそうだった…‥‥





ハクロが自ら思うのであれば、その思いを応援したくなる。

なにかと困ったこともあるだろうけれど、この研究所での生活の間に改善できるのならばしてあげたい。

研究目的もありつつも、力になってあげたい気持ちになる職員一同であった。

次回に続く!!



‥‥‥ふざけているような所長ですが、きちんとこういう所では大人として話せるようである。

とは言え、流石に真面目なシリアスな会話は非常に疲れるので反動が来ます。

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