2-20 向かう道中、案外あっけない
…‥‥終業式も経て、学園が夏季休暇へと突入した。
生徒たちは各自休暇の過ごし方に思いをよせ、楽しそうにそれぞれの向かう先へ乗る馬車に乗り込んでいく中‥‥‥
【キュルル♪キュルルゥ♪キュル♪】
「まぁ、新しい都市へ向かうから楽しみなのは分かるけど‥‥‥ハクロ、疲れないよね?」
【キュルルゥ♪】
大丈夫だよと言うように、ぐっと指を立てて返答するハクロ。
僕らは今、ホームステイというか研究協力のためにというか、研究所がある都市アルバニアへ向けて進んでいた。
馬車に乗ってゆくこともできたのだが、ハクロが全速力で駆け抜けて行ってみたいと言ったので、一応途中で馬車の乗り合いができそうなところを確認してやることにした。
本当ならば、研究所まではガルバンゾー先生も共に向かいたかったそうだけど、あの人はあの人で教師としての仕事が休暇中にもあるらしく、生憎都合が合わない。
そのため、現在僕だけでハクロの背中に乗って駆け抜けてもらっているのだが…‥‥思いのほか速度が出ていた。
「というかそもそも、荷物自体が少ないからね。軽いのもあるんだろうけれど、これはこれで快適かも」
【キュルル♪】
荷物は精々夏休みの宿題といくつかの着替えを入れた旅行鞄一つ分ぐらいしかなく、身軽と言えば身軽。
いざとなれば衣服はハクロの糸で新しく作り直せるし、食料などに関しても狩りをしたりいざとなれば薬の生成で果実を即席栽培が可能。
ゆえに、かなり身軽な状態だからこそかなりの速度で駆け抜けているが‥‥‥馬よりも速いんじゃないかな、コレ。
確か、前世の知識だと馬の速度は時速70~80キロぐらいなはずだが、体感的にはそれ以上出ている気がする。
まぁ、この世界の馬の速度が同じとも限らないし、あくまでも体感的なものだから、正確な速度を測ることはできない。
「でも、一応安全に走行してね。安全紐を付けた上で、しがみついているけど、落ちたら大事故になるしね」
【キュル!】
そのあたりも大丈夫だよと言うように、ハクロは返答し、速度を落とすことなく駆け抜ける。
下半身が大きな蜘蛛の体なのに…‥‥本当に早いよなぁ。でもそう言えば、蜘蛛って結構速い虫だったはずだし、モンスターだからこそ常軌を逸脱した速度で駆け抜けることができるのかもしれない。
というか、この蜘蛛の足でシャカシャカと早い動きができるの凄いけどね。これあくまでも足を使って走るだけだけど、蜘蛛の真骨頂は糸を使っての移動だからなぁ…‥‥これでまだ本気の動きじゃないんだよね。
何にしても地図で道を確認しながら数時間後、ちょっと太陽が沈み始めた頃合いに、僕らは都市アルバニアへ到着した。
一応、ハクロのことに関しては国が既に公表しているので、姿を見せても問題ない。
また、モンスター研究所があるせいか見られても特に驚かれることはなく、美しさの方に目を惹かれる人がいるようだが、それでも物珍しいような目を向けられることはない。
「ついでに、途中で尋ねながら研究所までこれたのは良かったけど…‥‥全員、一つの事で注意してきたよね」
【キュル‥‥‥所長、良イ人、デモ、変人スギル‥‥‥何?】
「さぁ?」
道を聞きつつ研究所のところまでこれたのは良いのだが、どういう訳か聞いた人全員がその事ばかりを言ってきた。
まぁ、ガルバンゾー先生もアレな人とか言う位だし…‥‥警戒しておくに越したことはないのかな?
色々と考えつつも、どうにかこうにか研究所とやらへ僕らはたどり着いた。
都市アルバニアの一番端っこの方にある一件家であったが…‥‥話によればこれは氷山の一角に過ぎないらしい。
「ココが出入り口で、研究所自体は地下の方か‥‥‥なんか秘密基地っぽいなぁ」
【キュル?】
安全のために地下に設立されているらしいが、それでもそれなりに大きいらしい。
「で、入るためには鍵が必要で…‥‥同封されていたこれで良いのかな?」
研究所へ向かう事を確認した後、ガルバンゾー先生経由で送られてきた入館のための鍵。
扉の鍵穴に差し込んでみれば、ガチャリと音がして開錠される。
そして開けてみれば…‥‥扉の先には長い廊下があり、その奥には階段があった。
どうやらそこから入るらしく、お邪魔しますと一応小声で言いながらもそろりそろりと足を進め、階段を下る。
地下への階段のようだがそれなりに長く‥‥‥‥ある程度降りたところで、ようやく到着したようで、広い場所へ出た。
「…‥‥ここが、研究所の本体か‥‥‥いや、コレどっちかと言えば悪の研究所ぽくないかな?」
…‥‥モンスター研究所自体、それなりに歴史はあるらしい。
地下に設計したのは当時の研究所の設立を考えた所長らしいが、今物凄くその人が転生者じゃないのかという疑いを持ってしまった。
だって見るからに、某ロボットゲームの黒幕の住むところだもん。ワ〇リー研究所っぽいんだけど。
「大きな門があるし‥‥‥あそこまで行けばいいのかな?」
【キュル】
地下とはいえそれなりに広く作られているようでありつつ、明かりがともされているのか地上と大差ない明るさ。
なので、そのまま迷うことなく真っ直ぐと向かい、研究所前にある門の前に来たところで、看板がぶら下げられていた。
「『用がある方は門の鐘を鳴らせ』‥‥‥あれかな?ハクロ、叩いて」
【キュルルゥ】
ちょっと子供の身長では届きづらい所に、鐘が設置されていた。
ハクロが糸でちょいちょいっと棒切れを作り、それで思いっきり叩く。
ゴォォォォォォォン!!ゴォォォォォン!!ゴォォォォン!!
強くたたいた分、かなりな大きな音を響かせ、地下全体が震える。
これで良いのかと思っていたら…‥‥奥の方にあった研究所の扉が開かれ、誰かが門へ向かって走って来た。
「おおおおおおお!!思ったよりも早く到着したようじゃなぁぁぁぁぁぁ!!ついでに助けてくれぇぇぇぇ!!」
「へ?」
【キュ?】
走って来たのは、僕と大差がない年齢ぐらいの瓶底メガネに白い頭巾をかぶり、白衣を着た女の子。
ここの職員のお子さんによる出迎えかなと一瞬思ったが、口ぶりが違うし、何やら様子がおかしい。
門が開かれ、よく見れば‥‥‥‥その背後には大量の牛らしきものたちがその子を追うように走っていた。
【【【ブモォォォォォォォ!!】】】
団体さんというか、目がいっぱいあるし普通の牛ではないだろう。
というか、なんか全身真っ赤になって興奮して追いかけているようだが…‥‥なんかお怒りっぽい。
「なにそれ!?」
「すまんすまんすまん!! 研究所の呼び鐘にこの間、こいつらを怒らせるだけの仕掛けを付けたまま放置していたのを忘れていたのでな!! 詳しい話は後でするとして、とりあえずなんとか収めてくれぇぇぇ!!」
思わずそう叫べば、その白衣の少女は走りながら返答し、こちらへ牛たちを引き連れて迫って来る。
「とりあえずハクロ!!なんか粘々する糸とかで止めて!」
【キュルゥ!!】
わかった!!と言うように鳴き、素早くハクロガ跳躍して牛の前に立った。
そしてすぐに粘着性のある糸で大きな蜘蛛の巣を張り巡らせる。
ベチャべチチャベチャァァァ!!
【【【ブモォォォォゥ!?】】】
大きな蜘蛛の巣にかかり、突撃していた牛たちがからめとられ、動けなくなる。
これで、どうにか収まったようだが‥‥‥何だろうかアレ。
「ぜぇ、はぁ…‥‥な、なんとか収めてくれてよかったのぅ。これは流石にわざとではないのじゃが、ひとまずは助かったのじゃ」
息を切らしながらも白衣を着た少女は何とかそう口にして、なんとか息を整えて改めて僕らの方へ向き直った。
「うむ、お主らが今回来てくれた客…‥‥アルス・フォン・ヘルズにハクロで間違いないかのぅ?」
【キュルルゥ】
「はい、そうですが…‥‥貴女は?」
「ああ、儂かのぅ?儂はこのモンスター研究所第15代所長、ドマドンじゃ!!4児の母でもあるが、お見知りおきをするのじゃ!」
「そっか、所長…‥‥ん?アレ、今なんかおかしな言葉が聞こえたような…‥‥」
僕と大差ないような見た目なんですが、今何と?
「見た目と合わない言葉じゃと?無理もないのぅ、儂にも色々と事情があるのじゃが…‥‥今年で80歳、孫もいるおばあちゃんゆえに、普通にドマドンおばあちゃんと呼んでもいいのじゃ」
「80歳‥‥‥‥え?えええええええええええええええええええ!?」
【キュルルルル!?】
その見た目と合わない年齢の曝露に、思わず僕らは驚愕の声をあげるのであった…‥‥‥
異世界物であれば見た目と合わない年齢の人が出てもおかしくはない。
けれども、実際に目にするとかなり驚愕である。
若作りでもしているのか、あるいは転生者でその手のチートなのか、はたまたは普通にそんな体質なのか…‥‥
次回に続く!!
‥‥‥何気にのじゃロリと言えるような人は、初めて出した気がする。今まではのじゃがついても年齢とかはそれ相応だったりしているしね。
テンプレのようなものなのに‥‥‥‥