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2-19 色々とできるところはあるのだが

‥‥‥ゼルナイト学園にも、前世の学校にあるような夏休みと同じ夏季長期休暇というものがある。


 期間はひと月ほどでそこそこなのだが、生徒たちによっては学園との往復時間を換算する羽目になり、そうすると割と短いのだが‥‥‥それでも、それなりに休めるのは楽しみのようだ。


 それに、夏季休暇とはいえ寮にいても別に良く、生徒たちの大半が帰郷するので、精々静かになる程度だろう。


 まぁ、そもそも僕らの場合は屋敷が全焼しているので、再建されるまでは帰郷できないが…‥‥一応、現状は帝国からの代官に治められているので、無理に帰郷する必要はない。


 まだ子供という身分であり、治めるにはもうしばらく学ぶ必要性があるからだ。


 というか、そんなことができるならば将来的に代官に任せて僕は貴族籍を抜きたいとも思うのだが‥‥‥そうはいかないのは大人の都合らしい。もうちょっと成長してから、もう少しどうにかならないか調べたほうがいいかな?


 ゆえに、今年の夏季長期休暇に関しては学園の寮でのんびりと過ごすつもりではあったが‥‥‥



「‥‥‥国立モンスター研究所での、ホームステイの話ですか?」

「そうだ。本来であれば、あの謁見無しだった場合に許可を貰いに行く場所だったのだが‥‥‥そこからの話が来ているぞ。ホームステイというよりかは、研究の誘いだがな」


 夏季休暇前の終業式まであと数日ほどと言ったところで、ガルバンゾー先生に呼び出されたかと思えば、そんな話が舞い込んできた。



 以前ハクロの公表前の許可に皇帝との謁見があったが、あれは本来そうではない。


 皇帝が介入したからこその謁見となったが、元々はその研究所に出向き、そこで色々と調べてからという事だったのである。


 まぁ、皇帝陛下との謁見を経て実家の真相とかも知れたし、許可を貰えた今では向かう必要性も無かったのだが…‥‥夏季長期休暇という事で、出来れば寮で過ごすよりも、その研究所の方でハクロと一緒に過ごしてくれないかという誘いが来たらしい。



――――――――――――――――

『国立モンスター研究所』

帝都エルスタンから離れた都市『アルバニア』と呼ばれる場所に存在している研究所。略称は「モン研」。

日夜様々なモンスターについての生態系や素材の利用方法等を探る研究を行っている組織であり、モンスターの家畜化や品種改良などに手を出し、どうにかして帝国の役に立てないかと試行錯誤を重ねて得られたデータで、多くの功績をあげている。

例としてはコカトリスの家畜化による卵の安定生産、ヨロイムカデの脱皮した皮を使った軽い騎士鎧の開発などがあげられるらしい。

――――――――――――――――


 モンスター研究科目の授業を担当しているだけあって、ガルバンゾー先生はそことのつながりがあり、今回直接その話をしてくれないかと頼まれたそうだ。


「ハクロについて、色々と調べ上げたいというのでしょうか?」

「その可能性はあるだろう。ただ、強制するようなところではないし、出来ればそこで普段通り生活していて欲しいという事のようだ。蜘蛛のモンスターの生態系は、未だに謎のところが多く、どの様に過ごしているのかなど細かい部分で分からないこともあるらしいからな」


 プライバシーを研究にされそうなのだが‥‥‥一応、そこは配慮してくれるようで、執拗にやることは無い。


 ただ単純に、ハクロがどの様なモンスターであり、どの程度の力を持っているかなどを探りたいだけなのだとか。


 もちろん、そう言う研究を行う以上きちんと見返りもあるらしく、そこでの衣食住は完全無料で、色々と要望に応えてくれるようにしてくれるそうだ。寮で生活するのと大差が無いように見えるが、その他にいるモンスターとも触れ合う機会があるらしいし、刺激とかを考えるのであれば変わったものを得られるだろう。



「んー‥‥‥でも、それ結局はハクロを調べたいだけなんだろうけれど‥‥‥ハクロはどう思う?」

【キュル?キュ~…‥‥】


 ハクロの事を考えるのであれば、彼女の意思を尊重したほうがいい。


 そう思い、彼女に問いかけてみると腕を組み、考えこみ始める。


【‥‥‥キュル、キュル‥キュルゥ?キュキュ‥‥‥】


 ぶつぶつと色々と考えて口に出るのか、言葉がちょっと漏れている。


 そしてある程度考えこんだところで腕の組みを解き、結論を出した。


【キュル‥‥‥行ク。デモ、アルス、一緒ジャナイト、嫌】

「僕も一緒に行くし、大丈夫だと思うよ」

【キュル】


 僕を持ち上げて抱え込み、そう言葉にするハクロ。


 研究所で色々とされるのはまだ良いが、僕と離されるような目に遭いたくないらしい。


「ああ、大丈夫なはずだ。あの研究所の所長はちょっとアレな人でもあるが、問題は無いだろう」

「なんか今、さらっと面倒な人っぽい発言をしませんでしたか?」

【キュルルゥ?】

「…‥‥まぁ、アレだ。単純に研究熱心過ぎて、自分が捕食されかけているのに気が付かないほどだと思えば良い」


 本当に大丈夫なのか、その人。


 ガルバンゾー先生いわく、今の研究所所長は一応それなりに良識はあり、そうそうやらかすことは無い。


 ただし、研究熱心過ぎるがゆえに自身の身を顧みないことが多く、職員たちの胃を日夜削ろうとするのだとか。


 具体的な例を挙げるならば、巨大な蛇のモンスターの体内を探るためにわざと呑み込まれたり、ポイズントードの毒がどのぐらい人体に効くのか自らの身で確かめたり、挙句の果てにはダンジョンに乗り込んで奥の方にいる強力なモンスターたちの健康診断を勝手に行ったり…‥‥無茶苦茶な武勇伝とも無謀な馬鹿のしでかしともいえる事をやることがあるそうだ。


 それなら辞めさせたほうが良いと思うような気がするのだが…‥‥能力のある人であり、その困る点を除けばできる人だから、やめさせるにはもったいない人らしい。


 奇行さえ目をつぶれば、別に誰かの命を奪うような真似をせずに、自らのみを犠牲にしてまで国に尽くすようにも見えなくはないそうだが‥‥‥なんとなくだが、皇帝陛下たちに提供している薬を、その職員の人達にも上げたほうが良いような気がしてきた。むしろ、今回研究のために来て欲しいというのは、その目的のために職員の人が要望した気がしてきたぞ。


 とにもかくにも、ホームステイというよりかは研究目的での滞在となるが、精々この夏季休暇の間だけ。


 ずっといるわけでもないし、機会があればそこそこでいいから向かう程度でも良さそうなので、悪くは無さそうだ。


 ちょっとその所長とやらに不安を抱かないわけでもないが…‥‥まぁ、これもひと夏の思い出になるかな。


「それに、ハクロについての詳しい事を知ることが出来ればいいかもしれないしね。向かう事にしようか」

【キュル!アルス、一緒、ソレ望ム!】


 ハクロの賛成も得られたことだし、夏季休暇に研究所で過ごすことが決定するのであった…‥‥



「それにしてもだ、ハクロの滑舌が良くなってきたな。思った以上に、良くしゃべれるようになってきたように思えるぞ」

「何かと話してますし、だんだん覚えてきたようです。それに、授業中に他の生徒と遊んだりして、そこで言葉を覚えているようですよ」


 言葉を増やすには、使う機会を増やすのが良いからね。アクティブに活動すると、その分話しかけてくれる人が増えるらしくて、言葉の練習になるようだ。


 この様子だと、近いうちによりしっかりと話せるようになるかもなぁ。


【ハクロ、覚エテキタ。アルス、褒メテー♪キュルルゥ♪】

「よしよし、偉い偉い」

「…‥‥微笑ましいが、何というか大きな人懐っこい子犬を甘やかす飼い主のようにしか見えないな」








 研究所へ行くことが決まり、ハクロを撫でている丁度その処。


 その件のモンスター研究所では今、職員たちの胃が悲鳴を上げていた。


「…‥‥なぁ聞いたか?所長が知り合いの伝手を頼み、また何かをここへ連れこんでくるらしい」

「またか‥‥‥所長が呼ぶのは大体は後々大当たりを引くのだが、その前に確実に自身の身を考えないことをするからな‥‥‥今から何をしでかすのか、考えるだけでも胃が痛い」

「この間は確か、ウチュウボカジュラの酸を薄めたもので、体の汚れだけを取り除く奇抜な発想をした結果、一応は成功したのに濃度を濃くしたらどうなるかを確かめたからな…‥‥下手をすれば骨が見えるほどまで溶かされるのにな…‥‥」

「あの人は怖いもの知らずかと言えるほどで、自らモンスターを求めてダンジョンへ突撃を仕掛けることがるからな。この間発生したダンジョンにもこっそり潜り込もうとして、にゃんこつまみされながら騎士たちに返品されたしな」


 はぁっと溜息を吐きながら、職員たちはそう話し合う。


 色々とやって、功績を残すのは良いのだが…‥‥下手をすれば所長を失いかけないことに苦労をするのだ。


 そんな人ならばいっそ所長を辞めてもらえばいいかもしれないが、それはそれで研究を辞めることはないだろうし、放すようにしても他国へ流れて同じような事をするのが目に見えている。


 だからこそ、ここで滞在してもらう方がまだマシなのだが…‥‥確実に、職員たちの胃を痛めつけるのだ。


「そして今度は、何を連れてくるのやら…‥‥一応まだ予定の話で、ずっと置かせるとかは無いそうだが‥‥‥うう、胃が痛くなりそうだ」

「何にしても、明日には結果が出るそうだし、それまで待つか‥‥‥万が一に備えて、所長には毎回遺書を残してもらいましょうか」

「それが一番良いよな…‥‥」


 苦労をすると分かっていても、その困った部分さえなければ普通にいい人であり、亡くすのは惜しい人でもある。


 なので、亡くなられないように気を使っているのに、いつの間にか行動されているのが非常に困る。


 取りあえずは、話の内容によっては何かをしでかす前に、今度は研究段階で出来上がった非常に頑丈なロープで首に縄でも付けたほうがいいのではないかと職員たちは思ず考えてしまうのであった‥‥‥


「でもそれはそれで、絵面がヤヴァイからな」

「あの年で、あの見た目だからな…‥‥部外者に見られれば、通報されかねない」

「そう言えば、この間所長とお出かけして、職員が一名衛兵の職質に遭ったとか言う話があったな」

「シャレにならない、本当の出来事なのが怖ろしい‥‥‥‥」


研究目的なのがちょっと悩むが、彼女の体で気を付けないといけないところとかが分かればそれはそれでいいかもしれない。

色々と健康状態とかも気になるし、人とは基準が違う点があるかもしれないからね。

その一方で、職員たちの方が胃を痛めているようだが…‥‥

次回に続く!!



‥‥‥所長と一緒で職質されるって、どういうことだ?その謎は、次回。

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