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2-18 もっちりと穏やかに

「今日は疲れたねー、ハクロ」

【キュルルゥ】


 ようやく帰ってきた寮で、夕食も風呂も済ませて自室にて僕らはぐでっと体の力を抜く。


 王城へ行ってきた緊張感とか、正妃様がまさかの転生者であった驚きとか‥‥‥今日はもう、色々とあり過ぎたのだ。


「もうこのままさっさと寝たいけど‥‥‥んー、今日は何か目が冴えているしなぁ‥‥‥」


 疲れた時にはゆっくりと寝てしまうのが一番なのに、こういう時に限っては目が冴える。


 眠り薬で寝付くこともできるけど‥‥‥それはちょっとやめたいな。自然に寝付いた方が、朝の目覚めが気持ちが良いからね。


【キュルルゥ?キュル‥‥‥キュキュル】

「ん?‥‥‥ああ、そうだね。それじゃハクロのその背中を借りるよ」


 寝にくいことに対して考えてくれたのか、腰をひねって自分の蜘蛛の背中部分をぽんぽんと叩いて誘うハクロ。


 いつもならば小さくなる薬で枕代わりになってもらうけれど‥‥‥たまには彼女の背中に乗って眠るのも悪くはない。


 お言葉に甘えて乗りつつ、その背中に寝そべる。


 ふわふわもこもこしながらも、しっかりと芯はあるのか低反発で浮き上がり、柔らかい生きたベッドとなる。


 体が大きくなったらこうはいかないだろうけれども、10歳という年齢ゆえの体の小ささだからこそできる全身ベッドは非常に心地が良い。


【キュ~♪】


 そして僕が乗ると温かいのか、嬉しそうな声を出してそっと彼女は撫でてきてくれた。


 ついでに布団も忘れずに引っ張って来て、ふわっと被せてくれる。


「うん、中々具合が良いし‥‥‥ありがとう、ハクロ」

【キュル♪】


 彼女の体温も伝わって来るし、ふわふわもこもこしたこの感触が非常に心地いい。


 横になっているとそのぬくもりも相まって、目が冴えていたのに眠りへいざなわれてゆく。



「にしてもなぁ‥‥‥僕以外の転生者がいたとは、可能性はあったけどやっぱり目にすると、驚くな…‥」


 ゆっくりと眠りに就こうとする中で、ふと思うのは昼間に知ったその事実。


 まさかまさかの皇帝陛下の正妃様が、同じような転生者だとは思いもしなかった。


 でも、時代のずれとかそう言う部分が気になるけれども‥‥‥まぁ、それを決めるのは神だろうし、何かと推測しても分かることはないだろう。


 ただ一つ言えるとすれば、転生者がどこの時代にでもいた可能性があり、今の生活が出来上がっているというぐらいだろうか。


【キュル?‥‥キュ、テー、テンセーシャ、昼間、聞イタ。ソレ、ヨクワカンナイ】


 僕の言葉を聞いて、ちょっと気になっていたのか、少しずつ話せるようになりつつもまだ拙い言葉でハクロがそう問いかけてくる。


 そう言えば、正妃様と盛り上がっていたのは良いけど、詳しい説明をハクロにそんなにしていなかったっけ‥‥‥色々と省いているのもあって、よく理解していなかったのだろう。


「説明するなら‥‥‥生まれ変わりかな?今の僕じゃない僕がいて、それが命を落として、今の僕になっているような感じかもね」

【キュル?】


 いまいちピンとこないのか、首をかしげるハクロ。

 

 まぁ、転生者と言われてもその手の知識が無いと、どういうものなのか分かりにくいのだろう。


 彼女にもっとわかりやすく言うのであれば‥‥‥言い例えとしては、料理かな?


「例えば、料理でアッポーンの実を焼くだけのアッポーン焼きってあるよね?焼く前は『ただのアッポーン』で、焼いた後は『焼きアッポーン』‥‥‥同じようでも違うよね。そう言う感じだよ」

【キュルル…?オ、同ジ、ソンナ風ニ、シカ思エナイ】

「‥‥‥うん、まぁ、そうなるか」


 悲しいかな。良い例えが思いつかない。


 転生者であり、この世界でそれなりに過ごしている正妃様なら多分軽々と答えるのだろうけれども、生憎僕は知識不足故に答えようがない。


 良い例えが欲しいのに、その例えを出せないのはもどかしい。


「難しく考えなくても良いよ。転生者なのかどうなのかってこととかは、そんなに気にするようなことでもないだろうしね…‥‥まぁ、僕は僕であるってことだけは変わらないからね」

【キュルル‥‥‥アルス、アルス。アルス、ソノママ、キュル♪】


 理解しなくとも、この世界で生を受けて過ごしている僕は僕のまま。


 例え前世の知識などがあろうとも、それはしょせん前世のものであり、今の僕にとっては関係ない。


 というか、よくある異世界転生物で前世の知識が役に立つ瞬間ってそんなにないからね‥‥‥そう考えると、ソレはソレで悲しいような。



 何にしても、僕は僕であり、それ以外の何者でもないという回答だけでも、ハクロにとっては満足なのか、嬉しそうに頷く。


【アルス、テンセーシャ、デモ、アルス、ハ、アルス。ソレ良イ事♪】

「うん、そう言う事かな」


 段々と眠りにいざなわれる分、ちょっと返事が適当になって来たが‥‥‥彼女が満足そうであれば良いと思う。


 難しい話しだとか、そう言うのはまた後で話せばいいだろうし…‥‥今はもう、ゆっくりと寝ればいいだろう。


「ふわぁ‥‥‥あ、もう欠伸が出てきたし‥‥‥お休み、ハクロ」

【キュルル、オヤスミ、アルス‥‥】


 部屋の明かりも消え、暗くなる室内。


 ふわもこなその体に包まれつつ、僕は意識を夢の中へ飛ばすのであった‥‥‥‥








【‥‥‥キュルル、アルス、ハ、アルス。ソレソノママ…ウン、良イカモ】


 すやすやとアルスが寝息を立てはじめたころには、ハクロもそろそろ眠気が来ていた。


 たまには元のサイズのまま寝るのも悪くないと思いつつ、アルスが寝相で転がり落ちないように気を使い、糸を使ってもう少しだけ安全な位置へアルスの体を移動させようと思ったところで‥‥‥ふと、自分の手の方へ持ち上げ、そっとその体を蜘蛛の方から自分の腕の方へ移した。


 きゅうっと起こさないように優しく抱き、彼女はアルスの体をそっと持つ。


【キュルル‥‥‥アルス、アルス、オヤスミ…‥‥大好キ‥‥‥】


 じわりじわりと少しずつ言葉を覚える中で、彼女が頑張って覚えた名前とその想いを告げる言葉。


 密かに練習しながらも、まだまだ拙いものであると自覚しているので、普段は使わずとも、こういう時には密かに使いたくなってしまう。


【大好キ、大好キ‥‥ソレ以上ノ、言葉。覚エタラ‥‥言ッテ、アゲルネ】


 優しく抱きながら、寝ているアルスには聞こえていないだろうけれども、その耳元に彼女はそっとささやき、改めて自分の蜘蛛の背中部分にアルスを載せて布団を敷く。


 今日は何かと有ったようだけど、その内容は彼女にはまだ理解できないことも多い。




…‥‥けれども、それでも分かることはある。


 アルスの家族が‥‥‥聞いている限りだと、到底家族とは思えないような者たちが、アルスに対して害しか与えていなかった事実を。


 かつて、群れにいた彼女とは違い、アルスが孤独な状況であろうとも過ごしていた日々の大変さを。



【‥‥‥大丈夫、大丈夫。私、アルス、大好キ。ソノ、酷イ人達、違ウ。私、アルス、ズット一緒…‥‥】


 そっと優しく撫で上げ、窓から差し込む月明かりに照らされながら彼女はそうアルスに告げる。


 聞いていなくとも、こうやってそっと告げることができるだけでも幸せであり、それはかつての群れの中にいたような安心感があるだろう。


 一応、その群れは事情があって無くなってしまい、その原因となった輩には恨みがあるが…‥‥でも、今は彼と出会えて幸せだからそれで良いと彼女は思う。


【キュルル…ダカラ、オヤスミ、大好キ、アルス‥‥‥‥】


 眠気に負け、すやぁっと彼女も眠った。


 その顔は穏やかであり、アルスが背中に乗って寝ている幸せに包まれているようであった。




 そしてついでに言うのであれば…‥‥


「おおおおぅ‥‥‥なんか、良い。あの純粋な行為の言葉に心遣い…‥‥羨ましいぞぉぉぉぉ!!」

「叫ぶなら静かに叫べ。起こしたら駄目だし、監視の役目を忘れるな」

「でもいいなぁ、あんな純真な想いの告げ方…‥‥物凄く微笑ましくもあり、羨ましくなるよ…‥」

「彼女の好意、絶対に遂げられるように尽くしたくなった…」


‥‥‥皇帝陛下の命令や、その他いろいろと調べるためにやってきた間諜たちが目撃しており、ハクロのアルスに対する思いの強さに心を打たれ、感動しまくっていた。


 間諜としては人選ミスのようだが、モンスターであろうとも人とは変わらぬ想いに対して応えたくなり、密かに一致団結してファンクラブを形成し、彼女のために動こうと全員が心に刻んだ瞬間でもあった……



ヒトの体を持とうとも、まだまだ成長途上なヒトの心。

だからどういうものなのか理解しても、その言葉が出るまでまだ時間はかかりそう。

それでも、その想いを告げるために彼女は学んでいくのである…‥‥

次回に続く!!



‥‥‥ほのぼののんびりしつつ、ちょっと甘さ追加。純粋な想いもまた、良い物である。

というか、まだ学んでいる途中なのでここまでしかできないのだろう。もっと学べばよりいい感じになるかもね。

言葉もちょっとずつ、話せるようになってきたし、キュルキュル鳴いていたのももうちょっとで変えれそう。


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[一言] 黒いものばかり見続けた人たちの心にクリーンヒット
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