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2-12 考えたらそうなるな

 今度行われる水泳の授業。


 何処で泳ぐのかという疑問なども含め、ガルバンゾー先生のところで質問をして、そのあたりの疑問を解消したのは良いだろう。


 蜘蛛のモンスターでもある彼女が泳げるかに関しては、蜘蛛の場合はお腹の方に呼吸器官があるそうだが、モンスターになるとその辺も解決済みで、口からも呼吸可能。


 さらに言えば、ハクロの場合は人の体のような部分があるので、溺れることはおそらくないだろうし、うまく泳げなくともやりようによっては水中歩行ぐらいならばできるかもしれないそうだ。


 でも、一つの問題が起きてしまった。


「流石に詳しく把握していないが、サイズが合う水着というか、体に合わせた物を貸し出せないだろう」

「やっぱりですか?」

「やっぱりも何も、普通は人が着る想定だけしかないからな」


 

 水泳の授業は、学園から配布される水着を着用して行う授業。


 だがしかし、ガルバンゾー先生いわく、サイズに合った水着が無い可能性が大きいそうだ。


 念のために先生はわざわざ他の教員にも連絡を取ってくれて、そこから得られた情報では案の定ハクロに合う水着が無かった。


 初等部用はもちろん、中間飛ばして高等部まではそろえてあったそうなのだが…‥‥女子用の学園指定水着で合うものが無かったらしい。まぁ、そもそもハクロの場合蜘蛛と人の接合部があるし、普通に使えるという訳もなかったのだが…‥‥


【キュルルゥ‥‥】


 ショボーンっと分かりやすく落ち込むハクロ。


 まぁ、無理もないというか、彼女のスタイルが良すぎるのもあるのだが、そもそも、蜘蛛と人部分でくっ付いている体の構造があるので、まともな指定水着は着れなさそうだ。


 でも、材料はあるそうなので、それを利用することにした。




【キュルル、キュルル‥‥‥キュルッ】

「それで本当に作れるの?」

【キュル】


 寮の自室に戻った後、僕の問いかけに対して、型紙を作りながらそう答えるハクロ。


 彼女の糸100%布で作る衣服とは違い、今回は水着用の布を貰い、それを使ってわざわざ自主制作を試みるようだ。


 何にしても、材料費に関しては学園側がちょうどいいサイズを出せないお詫びとして取らないようなので、ふんだんに使えるらしい。


 けれども、あるだけの材料で十分なようで、ハクロはチクチクと針を使わずに糸を操り、器用に作っていく。


 多くある足も利用してその関節部分に必要なサイズにカットした水着用の布を付けておき、糸を通してつなぎ合わせていく。


 そして作り始めて十分ほどで作業を終えたようだった。


【キュルル~♪】



 嬉しそうに作り上げた水着を掲げ上げるハクロ。


 一般的な女子用のスクール水着に似てはいるが、体の構造に合わせて改造されており、彼女が着ても大丈夫なようにしつつ、ちょっとオシャレにしたかったのかスカート状の布が追加で付けられている。


 ついでにちょっとサイズが大きい胸部に合わせてなのか、切れ目が存在しており、きつくなりすぎないように独特の改造が施されていた。


【キュルル!】

「っと!?ちょっと待って、今出るからね!!」


 作り上げたテンション故か、その場で一気に自分の衣服を脱ぎ始めたので、僕は慌てて外に出た。


 体の年齢的には問題ないかもしれないけど、流石に着替える場にいるのは気まずすぎる。


 なので、外に出て待ったのだが…‥‥扉の前でも中の音がちょっと聞こえて、ごそごそと音が聞こえてきたところで、妙な音が混ざった。



ガサゴソサ、びしっ!!

【キュルッ!?】

「ん?」


‥‥‥衣服が破れたとか、そう言う音ではないのだが、何か水着を着る音ではないような気がする。


 そして数分ほどで音がやんだが…‥‥


【‥‥‥キュ、キュルルルゥ‥】


 なにやら悲しそうな声が、部屋の中から聞こえてきた。


「えっと、入って大丈夫かなハクロ‥‥‥って、うわぁ‥‥‥」


 心配になり、注意深く確認しながら僕は改めて入ったのだが、何故ハクロが悲しそうな声を上げたのか、直ぐに理解した。



【キュルルゥ、キュルルゥ‥‥‥】

「あー…勢いあまって、脱皮も同時にやっちゃったのか」


 脱皮の際にちょっとしっとりするのか、髪や毛がしんなりとした感じにさせながら涙目になっているハクロと、脱ぎ捨てられた大きな抜け殻。


 どうやらテンション向上しすぎたせいなのか、どうなっているのかは不明だが服を脱ぐついでに脱皮してしまい‥‥‥直ぐに水着を着ることができなくなってしまったらしい。


 蜘蛛のモンスターは蛇みたいに脱皮して成長するそうだが、どうやら彼女はまだまだ成長過程にあり、脱皮を行うそうだ。


 けれどもタイミングが最悪過ぎたというか、せっかく試して着ようとしたところでまさかの水を差されるような形で、脱皮の時が来てしまったようなのであった。


 ちなみに、改めて着用したようだが‥‥‥どうもサイズが合わなくなったらしい。


 主な原因はそのたゆんと揺れる果実がやや成長したと言うべきか‥‥‥何にしても、せっかく作り上げたというのに作り直しが決定してしまうのであった。


【キュルル、キュルルルゥ、キュルル】

「うんうん、今すぐに着たかったのに着れなくなったのが悲しいんだね」


 そして僕は、ハクロが元気を出すまで頭を撫でつつ慰めることになるのであった。


 結構テンションを上げて着るのを楽しみにしていた分、それを一気に台無しにされたのが心に来たのだろう…‥‥まぁ、楽しみにしていたものが駄目になる悲しみは何か分かるような気がする。


 例えるならば、遠足前に雨が降って延期になったり、大好物のおやつを食べようとしたらすでに他者の手によって食べられていたとか、そう言うのに近いようだけどね。


「ところでハクロ、慰めるけどまず服を着て欲しい…‥‥」

【キュルゥ?】








 ハクロがアルスにくっつきながら慰められている丁度その頃。


 学園の水泳の授業の予定地とされる場所‥‥帝都を囲む防壁の側にある建物の中では清掃作業が行われていた。


 ここはこの暑くなってくる夏季限定で開業される帝都民用のプールでもあるが、学園の所有物でもあり、授業を行うために利用される時期のみに出番がある。


 だが、季節を過ぎ、閉鎖されて人が出入りしない間も、しっかりと汚れは蓄積しており、その汚れをすべて綺麗に洗い流すための清掃作業に追われていた。



「そっち、ほこりがあったぞー!水に入らないように、しっかりと洗い流せー!」

「一部補修の必要があるぞー!誰か施設閉鎖中に潜り込んでいた可能性があるぞー!」


 あちこちの点検作業も同時に並行しつつ、この施設を楽しむ人たちのために働く作業員たち。


 夏場の楽しめる施設だからこそ、異常が無いのか隅々まで調べていく。


「にしても、今年も水泳の授業が開講されて使われるようだが、噂によれば例年以上に人数が増えるらしいぞ」

「うわぁ、増えた分来年の作業とかが大変そうだなぁ‥‥‥でも、何で増えたんだ?」

「あ、それ聞いたことがあるぞ。なんでも学園の方に絶世の美女が出ただからとか」

「美女?」


 作業している合間にちょっと休憩としていると、ふとそんな話題が彼らの中に出てきた。


「ああ、何でもモンスターらしいが、国が安全と保障したやつのようでな。蜘蛛の体も持つらしいが、その体の上に絶世の美女と言うべきものがあるのだとか」

「へぇ、見てみたいなぁ。ここに来るのだろうか?」

「そうじゃなきゃ、増加の理由もないだろう。来たらそれはそれで拝んでみたいなぁ」


 普段学園からその噂の人物は出ないそうで、どういう容姿なのか彼らは気になる。


 なので、せっかくの機会とあらば、その姿をどこかで見てやろうと思うのであった。


「しかし、蜘蛛のモンスターなぁ…‥‥そんなものが帝国のこの帝都内に入っていれば、直ぐに気がつきそうだけどな」

「隠れていたとも言うらしいがな。そもそも、凶暴かもしれない疑いがあれば、即討伐ってこともあり得るからな」

「ああ、そう言えば帝都外にあるダンジョンから、一度騒ぎが起きたって話もあるし…‥‥その話を聞いていて姿を見せないようにしていたとか?」

「その可能性はありそうだよなぁ。でも、ダンジョン以外の場所から自然に生まれているってこともあるし、一概にそうは言えないだろ。まぁ、そもそも今はそのダンジョン自体が封鎖されているじゃん」


 もぐもぐと、休憩のおやつとして持って来た菓子パンをほおばりながら、その作業員はそう口にする。


「ああ、一獲千金を夢見ることができる場所だが、馬鹿が勝手に入りこもうとしていたりするからな‥‥‥だからこそ、より正確な詳細を知るまでは封鎖されて、一般人自体が立ち入り禁止のようだ」

「ふーん。まぁ、一攫千金を夢見ても、その分凶悪なものもあるだろし、怖い物には近寄りたくは無いな。今はそんな事よりも、その美女の方が気になるけどなぁ」

「「それが一番気になるよなぁ」」


 あはははっと笑いあいながら、作業員たちはここを利用する者に新しく噂の美女が加わるのならば、その姿がどの様なものなのか期待を抱く。


 取りあえず休憩も取り終え、彼らは再び作業に戻るのであった。


「あ、そう言えば更衣室の方もしっかり調べたか?魔道具とかそう言うので盗撮を企んでいた馬鹿がいた話が去年あっただろ」

「ああ、そう言えばそうだった。そこも念入りにしないとな」

「男子・女子分け隔てなく念入りにチェックしておけよー。さらに前には女子更衣室だけじゃなくて男子更衣室も被害に遭ってたからなー」




…‥‥なお、盗撮を試みる者は毎年いるらしく、その手段は多様化しているらしい。


 アルスの前世にあった科学技術は、この世界ではそこまで発達していないとはいえ、魔法がある世界だからこそ魔道具と呼ばれるような代物がある。


 そしてそれを利用してカメラに似たような代物を発明するような輩もおり‥‥‥ゆえに、その犯人を捕まえても次々出る問題に頭を悩ませる者たちもいるのであった‥‥‥


 

流石に脱皮を見越して作れなかった模様。

でもそう考えると、また来年やるときには新しく作り直す必要があるような…‥‥

何にしても、水泳は楽しみであった。

次回に続く!!




‥‥‥体の構造的に、そもそもまともに泳げるのかという話もある。

でも、楽しめそうならそれで良いかと思うようだ。

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[気になる点] 2-12 >何処で泳ぐのかという疑問なども含め、ガルバンゾー先生のところで質問をして、そのあたりの疑問を解消したのは良いだろう。 モンスター研究科目の先生が水泳の授業に詳しいのはな…
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