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5-19 実は地道に削れていたり

「…‥‥さてと、明晰夢なのは実感しているけど、今日はまたおどろおどろしい事になっているなこれ」


 自分の夢の中だという実感を僕は感じつつ、周囲を見渡してそうつぶやく。


 今まではなんとなくほやんほやんとした捉えようのない夢の中だったはずだが、本日の夢の中身は変化を起こしていた。


 あちこちがこう、真っ黒になっているというか、蠢いているのが分かるというか‥‥‥何と言うか、色々と腐食しているかのように見えなくもない。


 一応夢の中だから現実がこうなっているわけもないと思っていると、この夢の元凶となっているやつがやって来た。



『‥‥‥うわぁお、何だこれ、何だこれ!?約束通り3日後に来たのは良いのだが、お前の精神状態は大丈夫なのか?』

「え、これトゥールの仕業とかじゃないのか?」

『流石にこんな光景まで作らんわ!!我が意志としてはこういうのよりも、もっと地獄の炎が噴き出すような豪快さを求めているのだが、不気味さはいらぬのだ!!』


 


‥‥‥忠告された当日に何もなくて、そこから予定通り3日目の夢に、トゥールは現れた。


 律儀に約束を守ってきていると思いつつも、この明晰夢をやっている元凶なのにこの状態のことは知らぬというのだろうか?


「というか、精神状態はというけれども、僕はいつも通り普通に過ごしているんだけどな…‥‥んー、じゃぁ、これ何が原因なんだ?」

『わからん。我が信者どもが密かに呪いなどを試そうとしているようだが、それらは全て寵愛されしものの影響で弾き飛ばされているのだが…‥‥ううむ、単純に偶然だと思いたい』


 何にしても、分からぬ様子なのはさておき、いつも通り座布団をおきつつ互いに座って茶をすする。


 奇妙な夢の中での逢瀬のようなものといえなくもないが、目の前が不気味な怪植物なのは変わらず、出来ればまともなものが見たいとも思うのだが、そう都合よくはいかないらしい。



『‥‥‥さてと、ひと息をついて落ち着いたところで、今晩の目的を一つ言っておこう。今までは我が意志ではないことを信者どもがしでかすゆえに忠告をしていただけなのだが‥‥‥今回は、少し不味い事になった』

「不味い事?」

『先日、寵愛されし娘と離れぬようにしろと言っただろう?それはまだ良い方だ。ガッチガチに固めた防衛っぷりには、流石にやり過ぎだとは思ったが功を成していた。…‥‥まぁ、代償にやつらはさらにやり過ぎようとしているがな』



 トゥール曰く、信者がいるのは別に良いらしい。


 誰が何を信じようが勝手だし、そこまで気に留める事もない。人を集めようともそれは自身の意思でもなく、知る意味も無いようだ。


 だがしかし、そんな輩が自分の想いを全く理解せずに想定外のぶっ飛んだ行動をされるのは嫌すぎるそうである。


『いやまぁ、確かに我がつかさどるのは破壊に混沌、狂気に満ち溢れた世界こそは至高だとは思う。そう、邪神として一応は蠢いているのだが…‥‥狂った人の心というのは、その狂気すら凌駕するのだ』








‥‥‥事の起こりは数百年前。トゥールが邪神活動を行って信者を増やしていた時である。


 地道な邪神活動で生贄が捧げられていたり、狂気に満ち溢れる人々がいる光景は望ましいもので、満足げに頷きつつゆったりと過ごしていた。


 ソレはソレでかなり迷惑なので、あちこちの国から徹底的に潰すように手配され、その邪神教団はある時壊滅の危機を迎えてしまい、これは流石に不味いなと思って介入できないかと探った際に…‥‥悲劇が起きた。


『人の心へ入り込み、その欲望をゆれ動かし、狂気に落とすことが可能な我が力。見るものすべてに深淵の中を覗き込ませ、深淵そのものへ変え行く特性も持っており、その力を持ってすればどうにかできると思っていたのだが…‥‥邪神とは言え、慢心があったと、その時に思い知らされたのだ』



 いかなるものも自分には逆らうことはできず、唯一抵抗できるとすれば非常に強い精神力を持つ人物が、邪心のようなものを持たない聖女とかそう言う類ぐらい。


 なので、その時はそんな人物たちはその場におらず、どうにか全部を混沌へ引きずり込めばどうにかなると思っていたそうなのだが…‥‥抵抗とは異なる方法で、乗り切ったものが出てしまった。


 その人物は当時の邪神教団の中でもとんでもなく下っ端で、入っていた理由としてもなんか面白そうだからというふざけた理由しかなく、堕ちれば混沌へいざなわれるだけだった。




 だがしかし、そうはならなかった。


『…‥‥狂気の渦を呑み込み、ありとあらゆる地獄を思わせるようなも災いを喰らいつくし、そのものが出来上がってしまった。元はただの、力の持たぬ只人でしかなかったのに…‥‥それはいつの間にか、狂気すらも生ぬるいと呼べるような、我が意志で言うのもなんだが化け物すら可愛い存在になり果てたのだ』

「…‥‥つまり、自分の意のままに操れるような傀儡を作ってどうにかしようと思ったら、想定外の化け物以上の化け物が誕生したと?」

『ああ、そうだ。我が肉体を目にすることもでき、意志は持ち、ある程度の活動も不自由なく出来るのだが‥‥‥我が意志を知らぬのに、聞かぬのに、思わぬのに、なにをどうしてか我が意志の代弁者として蠢いているのだ』




‥‥‥邪神に化け物と例えられるような、そんな存在。


 そしてその存在は何をどう解釈したのか、トゥールの意思すらも考えると事もなく、おぞましい活動をしているそうだ。


 それが起きたのは数百年前というのに‥‥‥今もなお(・・・・)、蠢いていると。


「ちょっと待って、それ思いっきり人じゃなくなっているよね?」

『人に有らず、モンスターでもあらず、神にもあらず。いや、もはや全生物とは同じようで根本から確実に異なる禍々しいものを生み出してしまったのだろう』


 そんな存在が、普通に過ごしているのは普通はあり得ないそうだ。


 それこそ世界そのものを崩壊へ導きかねないようなものが出れば、神々が総動員して止めにかかることもあるらしい。


 けれども、それは捉えられなかった。神々の眼すらもかいくぐるような、特殊な次元のはざまへ身を置いているのだから。


 人の身体を持つように見せつつも、その本体や概念そのものが変質して纏わせることができるようになっており、捉えようがないのだから。



『本当は我が意志はそこまで求めていないのだが、捧げるための血肉を用意するために人々が争う場を用意しようとしていたり、あえて我とはまた違うものを信仰させ、比較させて威光を示すなどの活動をしつつも、それらの根拠にいるそいつは、結局捉えることはできないだろう』


‥‥‥何だろう、そのやり方に関しては、色々と当てはまるようなことがあったような気がする。


 そう、例えば戦争を引き起こそうとしてきたり、狂信者を作り上げたり、化け物を生み出して犠牲を出そうとしたり‥‥‥あれ、もしかして全部そいつに起源があったのか?



 ふと思いあたった数々のことに、僕は嫌な予感を抱く。


「‥‥‥まさかとは思うけれども、その活動の中で、今度は僕らを狙っていると」

『大正解だ。お前の方は我が体を見て堕ちぬがそれでもただの人間。だがしかし、機械神に寵愛されし娘を従えることが可能であり‥‥‥ならばそろって堕とすことで、より世界を狂気の世界へ引きずり込む手助けをさせようとしているらしいのだ』


 なんというはた迷惑な思考であろう。


 というか、何をどうしたらそんなことにたどり着くのかが分からない…‥‥いや、やりようによってはできなくもないかもと思ってしまったけれども、そんな事もしたくもない。


『だが、既に奴の計画は次の段階へ入った。先日の時点で得られなかったからこそ、次の手段を使うとしてな』

「次の手段?」

『‥‥‥堕ちぬのであれば、同様のものを得ればいい。とは言え、普通のものたちでは当然生み出すことはできぬと思え‥‥‥だったら自分が手に負えぬ化け物へと変質を遂げてしまえば良いとなったそうだ』

「それって普通は、もっと違う方法にならないか?化け物を自分以外のもので作るとか、そもそも作り上げる技術とかがあるならば、それを応用して何かを元にして新しく作り上げるとかあるだろ。自身の肉体を変える方向にもっていくって、どういうことなの?」

『それが分かれば、ようこそあなたもこの狂気の世界へ‥‥‥といえるがな。残念ながら、我が意志たちはまったくその世界に入り込めなかったらしい。邪神なのに、邪神すら入り込めぬ邪悪なる領域とはこれいかに』


 シャレにならないような、破滅願望ともいえるような滅茶苦茶な思考の相手に相当苦労しているように伺えて来た。


 まぁ、元をただすとこの邪神が真の元凶なのだが…‥‥今はそんな事を言えるほどでもないそうだ。


『邪神ゆえに、力はあるのだが振るう事は今はできない。信者の思う心が強すぎて『そうあるべき』という概念によって動かされる。‥‥‥だが、多少は抵抗せねば、我が意志に望まぬ世界が出来上がってしまう』

「だからこそ、僕らに助けを求めている‥‥‥とでも?」

『‥そうだ。こうやって数回に分けてきているのは、そのものに対抗する者になりうるのかと試すためにな。忠告をしているだけのようだが、密かにある程度の耐性を確認し‥‥‥今宵、あやふやな部分があるが、おそらくどうにかできるだろうと判断した』


 ちなみに、拒否権はないらしい。


 というか、拒否しようがしまいがその狂信者を超えるような輩が動くのは近いそうで、放置しておけば全世界がそいつによって狂気以上の狂気へ落とされるらしい。


「何か、良い手段とかは?」

『ない…‥‥残念ながら、我が意志では無理だろう。より高位の者でなければ、いや、高位の者では難しい概念そのものの相手だからだ。だが、それであれば、そちらが対応できるはずだ』


 そう言いながらトゥールはいくつもある口の中に自身の触手を突っ込み、何かを取り出してきた。


 それはどう見ても禍々しい魔剣と呼べるような、おぞましい武器。


『…‥‥理屈は良いが、この武器をせめてもの護身として持つが良い。我が体の一部ゆえに、ある程度は対応できるだろう』

「渡されてもすごく困るんだけど。というか、夢の中で意味があるのか…‥‥ってもういないだと!?」


 問いかけようとした瞬間、すでにトゥールの姿は失せていた。


 言いたいこと全部を言うだけ言って、全部押し付けていきやがったあの邪神。


「…‥‥本当にどうするんだよ。というか、この魔剣のようなものって起きたらどうなっているんだ…?」


 ひとのことも考えずに、勝手に動く様は、ある意味邪神らしい‥‥‥のかもしれない?


 そう思いつつも、夢自体が揺らぎ始め、朝が来ることを感じるのであった‥‥‥‥


無自覚だけど、変化は起きている

自覚はあるけれども、それは大したものではない

さてさて、面倒事がこうやって投げつけられるのは、もはや恒例行事…‥‥いやなってほしくないなこんな行事!!

次回に続く!!



‥‥‥邪神が邪神らしからぬ気がする

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