5-16 直談判ってそんなにしたことがないけれど
「…‥‥それで昨晩言っていたいたとおりに、今晩も来たのか」
『そりゃそうだ。言ったことはきちんと守らなければ、言う意味がないからな』
グネグネと控えめにしたらしい蔓を動かしつつ、無数にある口からそう声を発するのは、昨晩の夢で神に化けて訪れてきてたトゥールと名乗る化け物。
いや、こうやって夢の中に直接姿を出現させたり、信者などがいると言っているあたり、神格を得ている何かかもしれないだろう。
まぁ、油断する気もないのだが、幸い相手の方も事を荒立てる気がないようで、僕の夢の中のはずなのにしっかりと座布団を用意して準備を整えていたらしい。しかし、あの座布団改めて見ると滅茶苦茶詰まれているのだが…‥‥まぁ、座高を考えると差があり過ぎて、いちいち首を下に下げてこちらを見るのが辛いのだろう。崩れないようにさせもしっかり用意され、梯子もあるので座布団の上に登るのは苦労しない。
とにもかくにも互いに座りつつ、向かい合う。
得体のしれない相手との対峙の状況ではあるが、敵意はない。でも、色々と言いたいことはある。
『さてと、昨晩の方はまず会ってみたかったという目的があったので、今晩の目的も話すべきなのだろうが‥‥‥先に一つ、謝らせてもらおう』
「ん?」
話す内容を考えていたけれども、トゥールの方が先に口を開いた。
『昼間、明かに狙われるようなことがあっただろう?あれはほぼ我が信者の仕業でな、我が意志ではないのに勝手に動き、害を与えてしまったことは申し訳ない』
「‥‥‥先に言いたかった内容の一つを、言われてもな」
昼間のあの落とし穴だとかその他の地味な嫌がらせのような内容は、昨晩の去り際に言っていった注意するようにという言葉の通り、どうやらこのトゥールの信者たちとやらが引き起こしたようなものらしい。
質問したかったが、どうやら思いっ切り関係者のようだった。
『我が意志としては、人間どもは取るに足りぬ存在も足りる存在もいるが、生憎そいつらは足りぬ方でな…‥‥我が姿を認識しても、我が意志を認識できぬ愚か者たちの引き起こしたことだ。捕縛出来たのであれば、煮るなり焼くなり好きにしていい』
さらっと人を見下すような発言もしつつも、それでもまだ何か考えることがあるのか、そこまで酷い事は言っていない様子。
昨晩の神様のふりをしていた時の言動からも考えると、ある程度人とは違うという認識を持ち、人の愚かさを知っているようでもあるが、そうでない部分も知っているかのようにも見えるだろう。
というかさらっと、信者を見捨てる発言しているけど良いのか?
「ん?認識できるのに認識できていない?姿を見て、崇め称えて勝手に動いているような信者がいるってことなのか?」
『そうだ。‥‥‥お前が何故、我が姿を見ても狂わないのは疑問に思うが、普通の輩であれば、我が姿は人の精神に多大な影響を与える事を理解しているのだ。そしてその影響ゆえに、我が姿を認識しても曲解しまくり、勝手に崇めてくる輩がいるのだよ』
「そんなやばい姿なら、最初の時に魅せて来たのは結構危なかったのか?」
『そうだろう。出会って瞬間に狂わせてしまう可能性も考えていたのだが‥‥‥‥こうやって対峙して平然としているのは、正直言って驚かされている。人間の中にも、我が姿を直視できるものがいるとはな』
色々ヤヴァイ感じを持たせつつも、どうやらトゥールの倫理観は割とまともな様子を見せてくる。もしかするとあの神の姿に化けていたのは狂う危険性を考えていたり、見下しまくるような発言はこちらを試すような真似をしているのか…‥?
『とはいえ、迷惑をかけた信者どもの代わりに謝っておくのは、こちらの面子と体裁と命の保身がある理由なので、心からではない事を言っておこう』
「そこまで堂々と本音を隠さずに言うの?」
というか、命の保身って‥‥‥ああ、何となくわかったかもしれない。
『ついでに保身ついでにもう一つ言うのであれば、明日の太陽が最も高く上った時に、機械神に寵愛されている娘から絶対に離れるな。流石にそれをやらかされると、非常に不味いからな…‥‥』
「その詳しい内容までは教えてくれないのか」
『そうだ。どのようなものなのか伝えたいところではあるが、信者どものせいで干渉しにくい領域が出来上がっているからな‥‥‥まったく、我が意志はこの世界である程度の邪神としてふるまいたいのだが、存在自体に影響を及ぼすような真似をされたくないのだ』
「さらっととんでもない情報を混ぜてないか?」
自ら邪神と名乗る神がどこにいる。そもそも神なのか、この植物。
ツッコミどころが色々とあるけれども、短い時間だったが今日はこれで切り上げるらしい。
なんでも、この夢への干渉も色々と綱渡りなところがあるようで、長時間やり過ぎると目を付けられるのだとか‥‥‥なにに目を付けられるのかは気になるが、これ以降は普通の夢と同じになるらしい。
『さて、今晩はここで切り上げよう。何かがあれば明日、何もなく過ごせたら3日後にでも再び訪れよう。夢の中とは言え、人のもとにお邪魔する時は何か土産物があったほうが良いと言うが、今度は用意しておくので楽しみに待ってほしい』
そう言いながら出していたお茶などをそそくさと片付け、存在そのものが揺らいで消え失せた。
そしてはっきりした明晰夢だった状況も、トゥールの干渉が失せたせいなのか、意識がゆっくりと沈みゆく。
「結局、何がしたいのだろうかアレ‥‥‥‥」
疑問に思いつつも、注意を受けとっておいて、念のために備えておくかと思うのであった…‥‥
「キュルル‥‥‥ふみゅっ?アルス、どうしたの?」
「‥‥‥あ‥‥‥あ‥‥‥い‥‥‥」
「キュルゥ?昨晩と同じで、変な寝言‥‥?」
適応早いような気がするが、このトゥール自体に敵意はない。
だがしかし、その信者の方が暴走していると言って良いのだろうか?
何かこう、もっと違うような‥‥‥
次回に続く!!
‥‥‥ネタのために少々模索していたけれども、見た目的に他作品にちょっと出したくもなる。
でも、こいつは今回のこの話に必要だしなぁ‥‥‥