5-13 面倒事は気をいら立たせ
‥‥‥誰もが寝静まる静かな真夜中。
こういう時ぐらいは騒動の事も忘れ、ゆったりと眠りについて夢の中でのんびりできるだろうと思っていたのだが、そううまい事行くことは無いらしい。
「何をやっているんですか‥‥‥神様」
『趣味ではないことを言っておきたい。呼ぶ数秒ほど前に強襲され、このような目に合っているだけだ』
誰にも需要がなさそうな状態で、転生前に出会っていた神を名乗る存在に僕は久しぶりに出会っていた。
夢の中だとはっきりとわかるので、明晰夢の類だろうと思うのだが、はっきりしているのであればこんな姿は見たくなかった。
というか、こういうのは誰に需要があるのか…‥‥特殊な性癖の方々にしかないだろうなぁと思いつつも、ひとまず何か要件があって呼んでいたらしいので、話を進ませるためにも拘束を解くことにした。
『‥‥‥さてと、久しぶりに出会って話すもなんだが、先に言っておこう。今お前がいる世界は面倒なものが目を付けていることがわかったのだ』
「‥‥‥面倒なもの?」
解放した後に姿勢を正し、どこからともなく出された座布団に腰を掛けさせてもらったところで、目の前の神は話し始めた。
いわく、以前にも機械神とかの存在をほのめかしていたことからある程度の想像は付いていたが、神々というのは何も一人ではなく案外多く存在しているらしい。
そしてその存在している輩の中には、どうしようもないほどろくでもない類もいるそうで‥‥‥話によると、今回のあの化け物大量出現騒動もそのろくでもない輩が関係しているらしい。
「それで何故、神さまは僕を夢の中に呼んだのでしょうか?」
『簡単に言えば、その輩に対応できるのがお前ぐらい、いや、もっと言うのであればあの機械神の寵愛を受けた人ならざる者であるお前の番が対抗できるだけの力があるからな』
にやりと笑みを浮かべ、神はそう告げる。
まぁ、確かに言われてみるとハクロなら何でも撃退できそうな気がするのだが…‥‥それでも、この話に僕は乗る気はない。
というか、目の前の神、いや、何者かは知らないが分かっているのか?話し方がおかしい事に。
「…‥‥なるほど、でもそれだったら彼女の方を夢の中で呼べばよかったんじゃないでしょうか?僕から話すよりも、神様から話したほうが良いでしょうに」
『無理だろう。神同士としては機械神の方が上すぎて、寵愛を受けている者には声を届けられないのだ。だからこそ、お前の夢の中に語りか、』
「いや、もういいよ。夢の中でもこういうことぐらいは僕にもできるからね」
―――――そこまで聞けば、十分である。
「だから、これ以上神様の姿で話しかけずに正体を見せろ」
神様に、僕は感謝をしている。
けれども、目の前の相手はあの神ではないことをもう感じ取っていた。
なので思い切って、僕は夢の中でとある薬を精製して素早くかけた。このチート、夢の中でもつかえるかなと不安ではあったが、一応可能と言えば可能だったらしい。夢の中もある意味想像の類だし、条件としては大丈夫だったのかもしれない。
『おおぅ!?…‥‥いやはや、もうバレていたのかね』
いきなりなんだと驚愕した神ではあったが、僕の行動でもう理解したのだろう。
じゅわぁぁっと音がすると同時にその体が崩れおち、まったくの別人の姿が現れる。
「‥‥‥あの神様だったら、もっと穏やかな感じでかつ、もうちょっと威厳があるからね。何かこう、相手を見下しているかのような、より下に見るかのような話し方はしていなかったんだよ」
『なるほどそこでバレたか…‥‥ははは研究不足だった』
笑い声を上げて出てきたのは、人ならざる姿をした者。
人型ですらもないというか‥‥‥あちこちからグネグネとした蔓が飛び出し、ひしめき合い、薄気味悪い花を咲かせている巨大な化け物の花と言って良い姿だろう。
その中心は人の目玉のようなものがあり、同時に無数の口が存在しており、そこから声を発していたようだ。
気持ち悪いを越えている異物感というか、この世に存在して良いような者ではない気配も纏っており、少なくとも神ではないと言いたい。
『では、改めて名乗るとしようか。我が名はトゥール。信者どもから名付けられた名だが、それでも気に入っているのでな』
たばこのようなものを取り出して無数の口で吸いながら、目の前の化け物ことトゥールはそう告げて来た。
『ああ、一応安心したまえ。今晩の夢に出て来たのは信者どもが動く前に、一度見ておきたいと思い、どの程度の観察力やノリ具合があるのかと思って来ただけだからな』
「‥‥‥観察力はまだわかるけど、ノリ具合?」
『そうだ。正確に言うのであれば、我が姿を見て狂気を纏わぬか、周囲の雰囲気や空気に流されてしまうような意志の弱い者ではないかと確かめるためにな』
いやまぁ、確かに狂気というかその姿を見るとSAN値とかいうのが削られそうな気がするけれども‥‥‥流されることは無い。というか、この花の化け物に流されるとはどういうことか。
『そのあたりはおいおい話すとしよう‥‥‥っと、不味いな、そろそろ奴が気が付くか。隠ぺいをしているとはいえそれでも限度はあるし、今晩はここでさらばだ。次の晩に、また会おう』
「あ、待て!!」
色々とわからないところがあるというか、好きかっていうだけ言って逃げられた。
気が付けば夢から覚めており、日の光が窓から差し込んで朝を告げていた。
「…‥‥何だったんだ、あの夢は。それに、あの化け物は一体‥‥‥?」
ベッドから体を起こしつつ、今見ていた夢の中の出来事に僕は不安を抱く。
それに、何かこう、さらなる面倒事に関して言われていたような…‥‥何だったんだろうか、あれは。
そう思いつつも解決せず、また次の晩という言葉に、言いようのない気持ちを抱くのであった…‥‥
「…‥‥キュルル、アルス、どうしたの?」
「いや、何でもないよハクロ」
「本当?…‥‥んー、でも何か、うなされていたよ?変な言葉をつぶやいていたような…‥‥」
気さくっぽいけど何かかが違う気配がする。
見た姿だが、アレが全部ではないような気がする。
名前もあっているのかどうか…‥‥何だ、あれは。
次回に続く!!
‥‥‥考えたらアルスの精神って案外図太いのでは。