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5-7 対策にはなっていないような気がする

‥‥‥日常生活というのは、何も起きないわけではない。


 いつも通り過ごし、穏やかながゆったりと流れてゆくのは理想的ではある。


 だがしかし、時たま思いもがけないトラブルがあったりするせいで、そう簡単にいつも通りという定義というのは付けられないのである。そう、例えば今のように…‥‥



「アルス、アルス、好き好き~♪もっとぎゅーしたーい♪」

「‥‥‥まさか、ジュースと酒を間違って飲むとはなぁ」


 放課後、帝都内で買い物をしていたのだがそこでうっかりやらかしてしまった。


 ジュースを購入していたつもりだったのだが、まとめて買う中に一本だけよく似た酒瓶が混ざっていたようで、夏も過ぎて冷え行くと乾燥してくるので夜の水分補給のつもりで軽く飲んだ際に、よりもよってその酒が混ざっていたのである。


 幸い、僕の方は飲む前に匂いで違和感を感じたので酔うことは無かったのだが、あいにくとこういう時に限っては一番油断していたようで、ハクロが飲んでしまったのである。


 そして今、酒に酔ったせいで彼女の酒癖というか甘え癖が爆発しているようで、先ほどからずっとぎゅうぎゅう抱かれており、離してくれる気配が見えないのであった。


‥‥‥影から見守るファンクラブとかの話は聞いているのだが、こういう時ぐらいは酒を的確に除いてくれませんかね?いやまぁ、これはこれで可愛いんだけど、良いから醒めた後に羞恥で爆発するハクロの姿が目に見えているのだ。

 

 いつもの甘え具合と大差ない気がしなくもないのだが、どうやら枷が外れている状態であると酔いが醒めた後の理性では理解しているらしく、枷がない自分の姿が恥ずかしく想えてしまうらしい。


「アルス、アルス、ぎゅうう~~~♪温かい、私のアルス♪」

「滅茶苦茶抱きしめてほおずりされて、拘束されているんだよなぁ。いつもだったらちょっとは緩めてくれるのに、束縛したい願望でもあるのかなぁ?」


 拘束具合が強くなっているようで、抜け出しにくい。


 というか、大きめの柔らかいものが当たりまくるし、滅茶苦茶ペタペタぎゅうっと触って来るのでこちらの理性の方が辛いんだけど。成長具合は遅いけれども、こちとら精神的な年齢も成長しているのだが。



 とにもかくにも、酔っぱらってしまったハクロから逃れることは容易くはない。

 

 こうなってしまった以上は、酔いがさめるまで‥‥‥大体一晩寝て醒めるまでは自由にやってもらうしかないだろう。しかし今度はハムハムと頭をかじられているんだけど‥‥‥元は蜘蛛のモンスターだから捕食本能でも残って出ているのかな。


「んにゅ~~~♪アルス、大好き好き好き、一緒に寝る♪私ぎゅっと抱きしめる♪」


 そのままなすすべもなくベッドに連行され、一緒に横になる。


 部屋の明かりも暗くされつつ、寝る気はあるらしいのだが‥‥‥それでも眠気の到来はまだ無いらしく、すりすりと擦り寄っているようだ。


「アルス温かい♪私の大事な、大好きな人♪所長おばあちゃんから聞いたけど、旦那様とか言うのが正しいんだよね?」

「正しいけれども、もう暗いから寝ようよ。酔っている状態で起きていると、後が辛いよ(主に思い出す時間の長さで)」

「ふふふ、心配してくれているけれども、大丈夫。私、酔ってないもん♪アルスをこうやって抱きしめてすりすりと、後はこうやってキスもできるもん♪」


 それ、酔っぱらっている人が言う常套句だと思うんだけど。


 そう思いつつも、なすすべがないのでなされるままに流されるのであった‥‥‥‥









【スゴピィ‥‥‥ううむ、お母ちゃんそれベア肉じゃなくてたらこっちょ肉で‥‥‥】


‥‥‥深夜、寮の屋上にて巨大フクロウことフックは寝言をこぼしながら巣の中で寝っ転がってばくすいをしていた。


 普通のフクロウというか鳥であれば木に止まって寝ているものではあるが、フックは巨大なフクロウであり、この学園のある都市内には止まれるような大木が存在していない。


 ゆえに、巣の中に寝転がって思いっきり爆睡をしていた。


【ふげっぷ、だから、それめ‥‥】


―――ジッ

【おうっふわっつ!?今のは!?】


 寝ている中で、突然感じ取った不自然な視線の力。


 ねっとりとしつつ、それでいて執拗に見るかのような視線をすぐさま感じとり、意識が一気に覚醒して服は目覚めた。


【あ、あの不気味な視線…‥‥どこからでごぜぇやすかぁ!?】


 間違いない、自分が元々の住みかで感じたものと同質の視線だろう。


 この都市に来てからは感じていなかったはずなのだが、この瞬間確かに同様のものを感じ取った。



 どこかで見ている誰かがいるのかもしれないと思い、フックは慌ててきょろきょろと周囲を見渡していたのだが‥‥‥そこでふと、ある異常に気が付いた。


【どこにどこに‥‥‥ん?あれ、この都市、こんな霧が出ていたでやすけ?】


 いつもならば綺麗な月や星明かりが注ぐのだが、何やら周囲は深い霧のようなものに覆われ始めていた。


 とはいえ、そんな霧が出るような場所でもないような‥‥‥と思う中で、フックはもう一つの異変に気が付いた。


【むぅ、何か嫌な予感がしてきたれふぇ、ふえ!?】


 周囲の異常に対して嫌な予感を抱いていたところ、突然それは的中した。


 自身の呂律が回らなくなったことに気が付き、気が付けば体が倒れていた。


【こ、こへはちょうゆうこと(これはどういう事)てこせぇやすぅか(でごぜぇやすか)!?】


 うまく発音できず、体が痺れるような状態になって混乱しかけたが、これでも熊を狩るだけの実力はあるので、直ぐに原因を理解することが出来た。


もひや(もしや)こにょきりょかぁ(この霧が)!?】


 周囲を覆ってきている濃い霧が、自身の身体を痺れさせたのだろう。


 これはただの霧ではなく、麻痺毒のようなものを仕込んだものに違いない。


 どう考えても自然のものではなく、人為的なものだと思い当たったのだが、そうなると非常に不味い可能性が出て来た。


 自然ではなく人為的に起こされたのであれば、その目的は何なのか。


 そもそも自分のようなものにこんなものを使うという事は、相手の目的は明らかに自分にあるだろう。


 いや、もっと言うのであればこの都市全体を覆うほどの規模は無くてもいいはずで、それなのに行うという事は…‥‥



ザッ、ザッ、ザッ!!

【!!】


 思いついたところで、何か物音がしたかと思えば、自身の周囲に人影が立っていた。


 目立たないようにか、霧に仕込まれたものを吸い込まないためなのか何かを被っており、姿は識別できないけれども、ろくでもない者たちであることぐらいフックは理解した。



「シュコーッ…‥‥ふむ、新しい兵器の実験も兼ねていたが、成功のようだな」

「ああ、見事に麻痺をしたが‥‥‥これが猛毒ならば、一気にここを全滅させられたはずだぞ、シュコー」

「それもそうだが、我々の目的を忘れてはなるまい。ある程度動けなくなったところでの捕獲を行うが、何も殺害しては意味がないからな」


(‥‥‥これ、どう考えても絶対にヤヴァイ人達だよね?)


 今回ほど人里に近づくことは無いのだが、それでもある程度の野生の勘というべきか、関わってはいけない類のものを感じ取れるフック。


 そしてその野生の勘は今、目の前の者たちに対して警鐘を鳴らしていた。


「さて、この巨大怪鳥を縛り上げて輸送したいが‥‥‥なぜこんなところに巣を作ったと文句を言いたい、コシュー」

「まぁまぁ、ここからゆっくり地面へ降ろせばいいだけよ、シュコー」


 被っているモノがガスマスクのような役目を果たしているのか、空気を出し入れする音が混ざりあいながらも頑丈そうな鎖を彼らは取り出し、フックの身体へ巻き付ける。


「さてと、後はついでにこの寮にいるという蜘蛛‥‥‥いや、今では翼の生えたものというべきか、そちらも回収するべきか?シュコーッ」

「予定よりも早いが‥‥‥ここでこれだけのものをやった以上、次からは対策も取られるだろう。どうせ隅々までいきわたっているだろうし、後でやるよりも今のうちにやって、まとめておくか。シュコーッ‥‥‥いや本当に、効果的なのはいいけれども結構息苦しいな、コシューッ」

「文句を言うなら作ったやつに言え。フシュコーッ」


 明らかにハクロを狙うような発言をしているのだが、この場で彼らに襲い掛かるような影は見えない。


 普段であれば物陰からファンクラブが参上し、直ぐにでも戦闘を行いそうなのだが、この都市全体に広がっている麻痺性の霧のようなものの被害に遭っているのだろうか。



 とにもかくにも、このままでは絶対に不味い事になると思ったフックではあったが、体の自由が利かず、なすがまま縛られてしまう。

 

 こうなると、自身よりもはるかに強そうなハクロでもどうなるのか…‥‥と、思っていたその時だった。




「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「「【!?】」」


 突然聞えてきた悲鳴に、フックも含めその場にいた一同はびくっと驚かされる。


 何事かと思い、周囲を見て気が付いたが先ほどまでいた一人がいなかった。


 どうやら既に、ハクロの捕縛の方へ向かっていたようだが、この悲鳴を聞く限り何かがあったらしい。


「何だ、今の悲鳴は?」

「確か、直ぐに蜘蛛の方を捕縛に向かったやつだが、何かあったのか?」




‥‥‥ほんの少し前からちょっと酔いと眠りから目が冴えて悶えているハクロがいる場所へ、動けないだろうと高をくくっていた阿保が入ってきたら、どうなるのか?


 アルスが薬を作れるのでそもそも麻痺の効果もないだろうけれども、ハクロの耐性の高さも舐めてはいけない。


 だがしかし、そんな事もしらないやつが、堂々とやってきたら…‥‥しかも、アルスと一緒にいる時にどう考えても邪な目的の輩であれば…‥‥



 そんな想像もしきれなかったが、ひとまず不味い状態だろうと彼らは結論付け、早期徹底という事でフックを運ぶ手間も考えるとすぐに逃げきれないと思い、そのまま置き去りにして姿を消す。


 ソレはソレで正しい判断だったようで、ほんの1,2分後にはハクロがアルスを抱えた状態で屋上にやって来たのであった‥‥‥


「シュルルルルルル!!突撃してきた人のお仲間どこ!!私、恥ずかしい所だったんだけど!!」

「って、フック大丈夫か?すっごいぐるぐる巻きにされているようだけど…‥」

【大丈夫と言えば大丈夫でごぜぇやすが、何でハクロさんの全身が真っ赤になっているのでごぜぇやすか?】


 





 

恥ずかしがっている人の部屋に、不審者が来たらそりゃ激怒する。

でも羞恥は解けていないので、真っ赤なままである。

・・・・・結局何がしたかったんだと言いたいが、捕らえた人から聞けばいいか。

次回に続く!!



‥‥‥防犯体制の見直し必要かなぁ。

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