5-6 そして裏では潜む者たちも
‥‥‥無茶なことだとしても、無理とは言い切れないものがある。
というのも、一応制限がある程度かかっているとはいえ、それなりに何とかできそうな薬が精製できそうな想像はできているのだ。
「‥‥‥まぁ、制限自体も最近緩められている気がするから、多分できるとは思うけれども‥‥‥実験のために、休日なのにここまで飛んでもらってゴメンね、ハクロ」
「ううん、大丈夫。私、アルスのために何でもできるもの!」
ふぅっと息を吐きつつも、その他にたっぷり持ってきた荷物を降ろすハクロ。
本日は休日であり、ゆっくりできる時間があるなかでアルスたちは今、雲の上に立っていた。
どこかの青猫ロボの道具そっくりなものを、最近精製できるようになったことが分かったので、ここで実験することにしたからね。流石に雲の上であれば、面倒事の原因になるような輩も簡単に立ち入ることができないはずである。
一応、地上と同様の環境のために、周囲の気温や空気の薄さの問題があったが‥‥‥こちらはこちらでハクロの魔法や僕の薬で解決できたので問題ないだろう。しいていうのであれば、流石に永遠に雲の上を固めることはできないので、数時間ぐらいで散ってしまうから雲の上に牧場を作るとかはできないんだけどね。
とはいえ、借りの実験場となっているこの場所で、今回の実験は行える。
国に押し付けたはずの輝く木の実こと寿命が思いっきり延びる木の実の、品種改良…‥‥いや、ある程度の効果を落としつつ大量生産可能な品種改悪というべきものがね。
「ハクロ、プランターの用意は?」
「ばっちり!しっかり土、入れてきた!」
「太陽の光は?」
「空の上!邪魔するもの、ないよ!」
「水は?」
「魔法でポポンっと、精製できるもん!」
準備内容を確認し合い、さっそく実験へ取り掛かることにする。
木の実の数は限りがあるので、実験に失敗は許されないだろう。‥‥‥まぁ、フックにハクロから頼みこめば大量に持ってくるような気がしなくもないけれども、流石にその手段で得るのは限りがあると思うからね。
今やりたいのはこの木の実の品種改悪というか改造であり、同じものを得続けるという事ではない。
「それじゃ、さっそく木の実を一つ、この中に埋めてっと」
サクッと掘って木の実を置き、土をかぶせる。
そしてその上からこぽこぽと精製した薬を注ぎ込み、様子を見守る。
効果としてはすぐに出るのではなく、5分程度たってから発揮されるように仕掛けてはいたが…‥‥ぴったり5分経過後、直ぐに見え始めた。
ゴゴゴゴゴッ、ゴッバボォン!!
プランターに一つ植えた場所から、地鳴りのような音が聞こえ始め、すぐさま急成長を始めた。
見る見るうちに出てきた芽が空高く昇り始め、細かった部分が太い幹へと変貌を遂げ始め、枝葉を生やし、花を咲かせていく。
そして薬でどうにかすると事もできたのだが、このわずかな開花時間の間に念のためにという事でハクロの糸で素早く受粉作業をしてもらうと、受粉完了後に花びらが落ち、木の実がポポポンッとなり始める。
一気に成長する様を早回しのビデオで見ている気分なのだが、実験は半分程度成功したらしい。
でも、半分なのは‥‥‥‥
「‥‥‥木の実が全部、輝いているな」
「キュル、植えたのと、ほとんど同じかも」
‥‥‥うん、数を増やすのに成功したけれども、どう見ても質が落ちていない。
念の為に全部収穫して、試しに一つを叩ききってもらうと、中身は元の木の実と全く同じだろう。
皇帝陛下の命令だと、出来れば劣化品かつ大量生産の方が好ましいのだが…‥‥大量生産をクリアできるとは言え、これでは劣化していない。
「うーん、やっぱりただ急成長させるだけだと、同じようなものが出来上がっちゃうか。まだ試行錯誤が必要かな?」
薬で変える事もできそうだが、無理にいじるとどうなるのかが分からない。
あとは、僕が仮に将来的に無くなった後でも、普通に生産できるような代物にしたいし、まだまだやるべきところが多そうである。
「とはいえ、実験材料が増えたのは幸先が良いというべきか…‥‥このまま条件を開けて試してみようか」
「キュル、何事も、諦めずにやればいいからね!」
今日今すぐに全部終えろと言うものでもなく、特に時間制限があるわけでもない。
僕らはただ、皇帝陛下の命令を忠実にこなせばいいだけであり、全力を注ぎきる必要性もないからね。
色々と気を楽にして作業が出来るので、午後からは一緒にデートも楽しみたく、太陽が天辺に来る頃合いに切り上げることにしたのであった…‥‥
「でもちょっと、増えすぎたな‥‥‥質が落ちても一つしかならなかったり、多くなっても腐った果実になったり‥‥‥難しいねぇ」
「大雑把なら簡単、でも細かいと、大変」
‥‥‥そしてアルスたちが実権を切り上げて雲の上から去った丁度その頃。
とある場所では、話し合う者たちの影があった。
「‥‥‥では、ねらっていた巨鳥はすでに逃走していたと?」
「ああ、間違いない。我々の主様の千里眼によれば帝都の方に逃げたようだ」
「厄介だな‥‥‥まだ狙うべき時期ではないのだが、そこに逃げ込まれるとはな」
はぁぁっと溜息を吐きつつも、居場所がはっきりしているのであればまだやりようはある。
だがしかし、場所が場所だけにかなり面倒だというべきか、攻める時を予定しているとはいえ早すぎる。
「実験から生産状態に移行しているのであれば、放出を行えば良いのではないか?陽動として兵士を減らせば、まだやりやすいはずだ」
「だが、いくらこちらが主様の手で隠されているとはいえ、下手に動けば目を付けられないか?」
「いや、大丈夫だろう。ずっと見ていることも流石にできないだろうし、場合によっては一気にこちらの計画上にある蜘蛛の‥いや、既に翼の生えた守護天使とやらにも手を出せるはずだ」
意見を言い合い、各々のやるべきことを確認しながら進め、彼らは動き始める。
多少計画にずれが出たとはいえ、まだ修正が可能だという結論を出して。
‥‥‥魔の手というのは、想いもがけない‥‥‥いや、少々考えればいてもおかしくないものからも、伸ばされるようであった…‥‥
尽きぬ者はいるだろう
隠さぬものもいるだろう
でも、企むのは本当にやめてほしい…‥‥
次回に続く!!
‥‥‥イメージとしては雲〇〇ガス。あったらいいなぁ、と思う道具である。




