2-10 何はともあれ、やるべきことはやらないといけない
うっかり予約投稿し忘れて、書いてます。
‥‥‥まぁ、時間がずれても問題ないか、不定期投稿だし。
…‥‥謁見も終え、色々と説明を受けてから三日が経過した。
学園でハクロの事が公表されると周囲は驚いたが、彼女の容姿などに魅了されて何も言わなかった。
人って、見かけですぐに判断しやすい所もあるよな‥‥‥まだ、一部ではモンスターゆえに警戒していたりするけれど、大多数では好意的に受け止められており、本日も多くの人達があれやこれやと質問してきた対応に疲れたので、お昼の時間は寮の屋上へ避難して、昼食として食堂で受け取っておいたパンを二人でもしゃもしゃと食べていた。
この騒ぎも、物珍しさがあるせいだろうし、人の噂も七十五日というぐらいだからそのうち収まるのは目に見えている。
「‥‥‥でも、何というか、問題が山積みになったよねぇ」
【キュルルゥ】
そうつぶやき、ふわっとしたハクロの蜘蛛の背中に寝そべり、大空を見ながら思わずそうつぶやいてしまう。
ハクロの事が学園中で知れ渡りつつも、好意的に皆が接してくれたのは良かっただろう。
けれども、その接してきた人たちの中に‥‥‥兄たちの姿はなかった。
それもそうだろう。わざわざ男爵家の次期当主と言っていた彼らだが、本当はそんな資格はどこにもなかったのだから。
元凶の夫人たちによる教育のせいであり、まだ色々と情状酌量の余地はあったはずだが…‥‥残念ながら、それは無理だったらしい。
というか、僕も流石に知らなかったのだが、どうも兄たちは入学以降からずっと迷惑をかけまくっていたようで、既に人望も信頼も何もなかったようだ。
姿を見かけ、とやかく言ってきたあの時点で‥‥‥‥実はもう、手遅れに近かったようである。
いくら幼い子供と言える年齢で、ある程度の洗脳教育を受けたような形とは言え、もうすでに分別は付いているはずの子供。
それなのに、大人も顔負けするような傲慢さやその他諸々いらないものが付いているせいで、学園から退学する羽目になったのである。そもそも、父の子供でもないのに貴族であるとした、身分詐称自体が重い罪だが‥‥‥まぁ、退学という形に収まっただけでも、まだ情状酌量されたのかもしれない。
さらに言うのであれば、正当な後継ぎがいたのに、それを無視したうえに自分の子でもない相手を次期当主にして簒奪しようとした罪で、父の処分も決定済みなのだとか。
命を奪わなかったり、たぶらかされたところなども考慮されて死刑は免れるらしいが‥‥‥それでも、話としてはおかしいところがあり過ぎるのに、それを無視していた分の罪もあるのだとか。
おかしくされていた被害者でもあるけれども、考えて見ればわかるところもあるのにそうもしなかった加害者という立場にもなる父。
哀れむべきところがあるかもしれないが…‥‥母の命を奪ったという真実を聞くと、許す気もない。
ついでに夫人及びその他国の貴族に関しても現在調査中なところは多く…‥‥叩けばさらにほこりが出るようだ。
「まぁ、当分は泳がせるらしいけれどね…‥‥」
…‥‥兄たちを退学させたという動きがある時点で、相手は自分たちの立場の危うさを悟り、逃亡する可能性がある。
けれどもその動きを見せれば、逆に根こそぎ協力者などを捕縛する機会ともなり、もうしばらくすれば一気に罪人たちを一網打尽にできるようだ。
それで済めば、もう後は野となれ山となれと思っていたが‥‥‥‥世の中そんなに簡単に終わるわけがない。
兄たちに当主の権利が無いのであれば、正当な権利…‥‥いや、元々きちんとした後継ぎは、僕であった。
ゆえに、卒業後には独立を考えていたのに…‥‥貴族籍を放棄できずに、そのまま次期ヘルズ男爵当主になることが決定してしまった。
というのも、領地の放棄なども色々と手続きが必要らしく、今でこそ男爵家だが将来的に侯爵家として戻す土地も存在しており、それを与える相手を選定する作業自体が苦労するらしい。
なので、できればそのまま後を継いでもらいたいといわれ‥‥‥断れなかったのであった。
一応、まだ幼いので直ぐに継ぐことはなく、卒業までは代官を派遣するなどして、代理経営を国が行ってくれるらしいけれどね。
国の信頼がおける優秀な人がやってくれるそうで、卒業までは次期当主の身でありつつも何もしなくてもいいらしい。
その時までに、当主としての勉強などができる授業を取るように工作されたが…‥‥まぁ、別に良いか。
「平穏無事に暮らせるなら、それで良いもんね」
【キュルルゥ】
しいていうのであれば、薬屋としての将来を潰された気もしなくはないが‥‥‥当主として引き継いだら、薬の産地となるように動けばあまり変わることもあるまい。
そう考えると、収まるべきところに無事に収まったような気がするのであった。
「…‥‥午後の授業はどうせ終業近くまでないし、それまでちょっと昼寝しようか」
【キュル】
僕の提案に対して頷くハクロ。
何にしても、今は難しい事も考えたくないし、当分心の整理に励むしかないだろう。
でも、そこまで必死になる事も無いようなので、今はのんびりと心穏やかにするのであった‥‥‥
‥‥‥‥寮の屋上でアルスがのんびりとハクロと昼寝し始めたその頃。
ヘルズ男爵家の屋敷では…‥‥夫人が、愛人からその話を聞いていた。
「‥‥‥何ですって?ラダーとグエスが退学させられた?」
「ああ、間違いないだろう。こちらの密偵からの報告だが…‥‥おそらく、我々の企みが帝国にバレたようだ」
夫人の驚くような声に対して、…‥‥ショコラリア王国の貴族家の一人、ゲシュタリアは少し焦ったように返答した。
「とにもかくにも、わたしたちの息子たちが退学してヘルズ領地に戻って来るだろう。悲しみ叫んでいるようだが、帝国が動いたとあらばさっさと逃げねばならない」
「息子たちは置いていけないわ!全員一緒になって逃げましょう!!」
「いや、それはダメだ」
夫人の言葉に対して、ゲシュタリアははっきりと答える。
「というのもだ、この様子を見る限り、帝国が全部まとめて捕縛する可能性が高い。一緒に行動していたのであれば、全員捕まってしまうだろう」
「な、ならどうするのよ!!バラバラに逃げるにしてもすぐに捕まる可能性があるのよ!!せっかく、今は男爵でも将来の侯爵となる家に潜りこめたのに!!」
夫人は癇癪を起こしたかのように叫ぶが、自業自得である。
何にしても、このまま共にいては捕まるのは時間の問題だと二人は判断した。
「だからこそ、わたしたちが子供たちと一緒に逃げるためにも…‥‥囮が必要だ」
「囮ですって?でも、そんなものはどこに‥‥‥」
「いるじゃないか。君の魅力にひっかかって、盛大にやらかした当主が」
「…‥‥ああ、そうね!」
彼らは現ヘルズ男爵家当主‥‥‥いや、当主代理に過ぎないズラダを、自分達が逃げるための時間稼ぎに使うことを思いついた。
「ズラダを酔わせ、寝かせろ。そして寝付いた後に家に火を放つんだ」
「火事を起こして、そのどさくさに紛れて逃げるのね?でも、それだと余計に目立たないかしら?」
「大丈夫だ。ショコラリア王国に優秀な工作部隊がいてね、彼らに頼る伝手はある。何の変哲もなく、ただの大火事だということに仕立て上げてさせて、火事を捜査してもらっている間に‥」
「息子たちと逃げれば良いわね!!それで決まりよ!」
良い案だと思い、夫人はゲシュタリアからこれからどうすればいいのかという細かい案を聞き、それらを持って帰ることにした。
実行は息子たちが戻って来てからすぐを見計らい、この場は彼らは一旦離れ合うのであった。
「‥‥‥はははは、まぁ、もう間もなく帝国にバレるとは思っていたよ」
夫人がいなくなった後、ゲシュタリアは自身の家に戻る馬車に乗車し、その中でそうつぶやいた。
「そもそも、正当な後継ぎを残しておいたままなのが不味かったが‥‥‥それは問題ないだろう。奪ったところでその時点でバレていただろうし、遅いか早いかの違いだ」
遠くなっていくヘルズ男爵家の領地。
それを見ながらも、ゲシュタリアはニヤリと笑みを浮かべる。
「恐らくは、帝国は既に我が家との関係性も見つけているだろうし、国を超えても手は及ぶだろう。ならば、こちらはさらに逃亡するだけだ」
もともとは、帝国のこの領地を手に入れてから、そこを足掛かりにしてじわじわと食いつぶしてしまおうとしていた計画。
ゲシュタリアの縁者にたまたま夫人がいただけで、都合よく利用したに過ぎず…‥‥既に彼女は捨て駒にされていた。なお、息子たちの容姿が男爵と似ている点があるが…‥‥それは本当に偶然だ。
その偶然が無ければ、息子たちが男爵家の子息としてごまかせなかっただろうが…‥‥今はもう、無理だろう。
「さてと、監視の目もあるだろうがそれらをうまく潜り抜けて帰国しなければな。そして次は、こちらも逃亡を図ってしばらく身をひそめるとするか…‥‥幸いにも、まだ時間はあるからな」
…‥‥まだまだ、黒幕となっている人物はいるだろう。
けれども、大抵の場合はトカゲのしっぽ切りを行い、自分達を優先して逃げられるように保険をかけておく。
そして今、男爵家の夫人も、息子たち諸共見捨てられたのだが‥‥‥‥その事を彼らは知ることはない。
「時間をかけてしまったが、この程度は問題ない。次があるからねぇ…‥‥さぁ、気を取り直して次の計画を実行しておこうか」
不気味な笑みを浮かべつつ、ゲシュタリアの乗った馬車は消えるかのように、その場から去るのであった…‥‥
…‥‥平穏無事に、これで丸く収まるかと思っていた。
将来の軌道修正は必要だろうけれども、のんびり過ごせそうならそれでいい。
でも不安なのは、そこまでまだ時間がある事で‥‥‥‥
次回に続く!!
…‥‥正直、シリアスは疲れる。のほほんほのぼのをさっさと再開させたい。