4-43 煮詰まったらちょっと休憩をしつつ
‥‥‥インスタント食品を参考に、消費に関しての解決策は見つかった。
けれども、その分何を開発していくべきかという話と、試作品づくりを考えることになる。
「でも、考えを煮詰めてもどれがいいのかって迷うね」
「だから、こうやってお散歩、一緒にする。いい気分転換、楽しいよ♪」
ああだこうだと話し合っていても良いものが出ない時は出ない。
その為、話し合いが煮詰まったので気分転換も兼ねて、本日はハクロと一緒に散歩を楽しむことにしたのである。
「蜘蛛の身体ない、背中乗せられないけど、こうやって歩くのも良い」
「それもそうかも」
大きな蜘蛛の身体は無くなり、彼女の背中に乗ってのんびりと進むことはできない。
けれどもその代わりにこうやって手をつないで、一緒に並んで歩くことが出来るのだ。
…‥‥身長差があるせいで、ちょっとお姉さんに手を引かれている少年という絵面になるのは文句しかないが。まぁ、うん、気にしないでおこう。
とにもかくにも、こうやって一緒にのんびりと歩き、領内を見て回る。
視点を変えて見れば穏やかな風景が煮詰まった脳内を冷まして居心地がいい。
「あ、領主様たちだ!」
「相変わらず夫婦仲が良いなぁ」
「大食い大会、また今度開催してくれー!!」
すれ違う領民たちに声をかけられつつ、答えていくのだが‥‥‥なんか既に、夫婦認定されているな。
「ふふふ、私アルスの奥さんになるのだし、間違ってないよ」
「そうだけど、領民たちって本当に受け入れるのが早いよ」
普通はモンスターの奥さんをもつ領主を不気味に思いそうな気がしなくもないのだが‥‥‥こうやって仲睦まじい様子を見ると、そんな気を起こすことも無いようだ。
ハクロがほぼ人型になっているというのもあるだろうけれども、考えてみればあの父親であったやつの統治下にいてもまだいた人たちもいるし、当時と比較して今の生活が良いからこそ文句を言う事もないのだろう。
いや、そもそも文句を言えばどこからともなくファンクラブとやらが現れて色々としそうな気がするのだが、それは深く考えない方がいいのかもしれない。
「全員が笑顔で暮らせているのが、一番だしなぁ‥‥‥考えなくて良いかもね」
苦しむ領民たちはおらず、むしろあふれる資源を消費する方が大変であると笑って答えてくれる。
当時の悲惨さを思うとかなり変わっており、幸せそうに暮らせているのは領主冥利に尽きるだろう。
「っと、考えていると眠くなってきたかも…‥‥暑い季節なはずなのに、今日は過ごしやすいし、木蔭で昼寝でもしようか」
「うん、そうする。念のために、糸周囲に張るけど‥‥‥何もないはず、キュル」
蜘蛛の身体を失っても、どこからともなく糸を出せるのはすごいような気がする。
領内で悪行を働く愚者はいないだろうけれども、注意をしておくにこしたことはないので、ハクロの糸もしっかりと張って、安全性を確保したうえでのんびりと昼寝を楽しみ始めるのであった‥‥‥
「キュル、糸のハンモックできあがり!」
「大きいけど、これに二人一緒にか…‥‥あれ?ハクロ、背中の翼邪魔にならないかな?」
「大丈夫、小さくしているからね!」
ぐっと指を立てながら、背中を向けるハクロ。
見ればあの大きな宝石の翼を丸めて小さくしており、確かに邪魔にはならないだろうなぁ…‥‥
…‥‥一緒にハンモックに乗ってすやすやとアルスたちが寝息を立てはじめたころ。
帝国の王城内では、久しぶりの親子の対面が行われていた。
「ふふふ、久しぶりですね母上、お元気そうで何よりです」
「ええ、あなたも元気そうでよかったわね、ダニエル」
にっこりと正妃が微笑みを返す相手は、彼女の息子の一人である第2皇子ダニエル・フォン・エルスタン。
各国を巡って留学して過ごしている皇子ではあるが、年齢としてはすでに成人しており、本来はとっくの前にあちこちの学園では卒業可能なはずである。
それなのにいまだに学生の身として在籍しているのは、成績が悪くて留年しているとかそういう理由ではない。そもそもそんな理由だったらとっくの前に切り捨てられてもおかしくはない。
そう、彼はわざと未だに卒業していないだけなのだが…‥‥単純に学び足りないというような理由でもない。
「にしても、こうも世界を学生として見て回っているというのに…‥‥なぜ、理想の女性に出会えないのか、それが悔しいんですよねぇ」
「あなたのその特殊な性癖が原因だと思うのだけれども‥‥‥まだ治さないのかしら?」
「いえいえ、治りませんよ母上!!そう、この身は理想の女王様に捧げるからこそ、全てを見てもらいたくて、何もかも手を付けないようにしているのですから!!」
正妃の言葉に対して、声を荒げてそう叫ぶダニエル。
そう言いながらパチンと指を鳴らすと、どこからともなく鞭が現れ、彼の身体をシバいた。
ばっしぃぃぃん!!
「くっ、留学道中の最中に手に入れた自虐用の魔道具とは言え、やはり足りないのです!!こう、もっと冷酷で冷徹な、徹底的に嬲ってくれる相手を探さなければ終われないのです!!」
「それだったらもう、学生の身分から抜けても良いと思うのよねぇ」
「それでは意味がないのです!!学生という身分だからこそ、条件が成り立たなくて…‥!!」
熱烈に語り始めたダニエルに対して、正妃は途中から聞き流しまくる。
‥‥‥悲しいかな、どこでどうねじ曲がったのか、ダニエルはおかしくなっていた。
いや違う、曲がるというよりもそれが産まれ持って得ていた性癖だというような彼の様子に、内心頭を抱えたくなる。
そう、第2皇子事ダニエルは…‥‥こだわりのシチュエーションを望むドM皇子。
それも毎年流行の変わる皇子であり、理想に巡り合うまでは諦めない間違った不屈の心の持ち主。
「でも、学生の身分はそろそろもう無理よ。なんでそればかり、こだわるの?」
「それがこだわりというものなのです!!」
駄目だ、この息子。無理やり放逐してもどうにもならないやつだ。
思わず正妃はいつもの上品な言葉を投げ捨てて心の中でそうつぶやきつつ、頭を抱えたくなる。
一応、こんなダニエルではあるが、実力などはきちんとともなっており、下手に野に放てば進化するドMとなるのが目に見えているのでどうしようもない。
「‥‥‥育てるのって、本当に難しいわねぇ」
第1皇子や第1皇女はまともな方向に育っているのに、どうして第2皇子と第3皇子はこじれたのか。
他国の王族内にあるような生々しい争いなどは起こさないとはいえ、その代償が変態化とはどうしたものかと、解決しようのない悩みに天を仰ぎたくなるのであった…‥‥
まぁ、分かっていた気がする。
というか、こういう皇子たちがいたからこそ、反面教師にできたのではないのだろうか。
そう言う想いも抱きつつ、どうするべきか正妃様にしては珍しく、悩むのであった‥‥‥
次回に続く!!
‥‥‥濃度の濃い感じにしたかったけど、流石に制限にかかりそうなので加減させられた。
ぶっ飛び過ぎる変態は、別作品に登場させたいしなぁ‥‥‥