4-42 物事を単純化すれば、解決策は案外見つかるものである
‥‥‥大食い大会も、微妙な解決方法にしかならない、消費の現状。
「たくさん食べて、腹が膨れていたしなぁ‥‥‥んー、何か違う手段を考えないといけないか」
「キュルゥ、たくさん用意して食べてくれるけど、風船になって動けなくなるのは危ないもんね」
むしろそこまで無理をして食べる精神力が何なのかと言いたくなるのだが、これ以上無駄な犠牲者は作るわけにはいかないだろう。
でも、ミルクや卵とかは日持ちが良いって訳でもないし‥‥‥
「いっそ、そうじゃなかったら楽かも」
「日持ちが悪い存在ってことじゃなかったらってこと?」
「うん、もっとこう、加工できないかな?焼いて、ちょっとでも保存食とか、お湯をかけてぼんっとすぐに戻るとか」
「いやいや、そう単純にできるわけが…‥‥あ、いや、ちょっと待てよ?」
ふと、今のハクロとの会話の中で、ヒントを見つけた。
「ハクロ、今なんていった?」
「えっと、加工できないかなって」
「それも手段だけど、その後」
「水をかけて、ぼんっと‥‥‥」
「それだよ!!」
お湯をかけるところでインスタントラーメンとかを思い出したのだが、そういう類であれば、保存食に向いているはずである。
賞味期限・消費期限というものが今度は出てくるけれども、お手軽にかつ大量に製造しやすいし、保存も可能でいざという時の非常食にもなるはずだ。
「あ、でもラーメンとかだと材料がもうちょっと増えるな…‥‥」
良い考えだと思ったが、よくよく考えるとその他の部分で問題があった。
発泡スチロールとかが容器に向いているけれども、似たようなものがあれども他から採ってくる必要性があるし、その他にも材料が必要である。
となると、使う食材を考えてもうちょっと工夫が必要か‥‥‥‥大体、この程度の考えなんぞ、過去の転生者たちが思いついていたりして、レシピ自体はいくつかあるしね。
でも、何もないところからスタートするのではなく、ある程度基礎が出来ているのだから、いい方法さえ見つければ、インスタント食がこの在庫たっぷりな状況を改善できるという希望の光は見いだせた。
「ありがとうハクロ、良いアイディアを浮かべるきっかけになったよ」
「そうなの?だったら褒めてー♪」
頭を差し出してきたので優しく撫でてあげつつ、考えをまとめていく。
また、大量に残る生産物の消費手段としてインスタントに目を付けつつ、今はハクロを褒め撫でまくることにも意識を向ける。
「キュルルゥ♪アルスの手、心地良い♪もっと、もっとちょうだい」
「本当に撫でられるのが好きというか、褒められるのが嬉しいんだね」
「うん!」
可愛い彼女であり、蜘蛛の身体は失ってもなんか猫っぽい所は変わらないなぁ…‥‥んー、ハクロの前世が実は猫でしたと言われても納得ができそうだ。
「ふふふふ、アルス、撫でて褒めてくれる♪私嬉しい、アルス好き好き!」
撫でているうちにテンションが上がって来たのか、ばっと体を起こして僕を抱きしめてそう告げるハクロ。
こうやって気軽に互いに好意を言いあえるのも、居心地がいいと思えるのであった…‥‥
「でも、まだ奥さんとして正式じゃないのが、残念。早くアルスと、夫婦となりたい」
「一応予定だと、卒業後辺りには挙式を挙げられそうだけどね…‥‥でもソレはソレで呼ぶ人をどうするのか、ドレスを選んだり、やり方も色々あるから時間かかるんだよ。この領内に教会を立てて、式を挙げるのもありかなぁ‥‥‥」
‥‥‥その事に関しても、ついでに考えていたりする。
いろいろな結婚式の形があるけれども、一番メジャーなイメージとして教会で挙げるようなものがあるからね。とは言え、教会といってもこの領地だとそうそうないし‥‥‥いっそ、挙式専用の建物を発注するべきかな?僕らが使用後も挙式と言えばここと言えるような良い領地のイメージも付きそうだからなぁ。
…‥‥アルスが希望の光と将来の式について考えている丁度その頃。
帝国から離れたアンドゥラ王国のヴル侯爵家の庭には惨状が広がっていた。
「‥‥‥ふぅ、お嬢様との婚約ができない事に、いら立って無理やり襲おうとは愚者でありつつ、なんでこの手段を使って来たのか、理解に苦しみますね」
「うっ、っぐっつ‥‥‥」
「き、きいていないぞ…‥‥ここの令嬢が、こんなんだって‥‥‥」
「ふむ、となると他国を介してわざわざ雇われた方々ですか。情報収集能力が残念です。国内の裏社会の方々であれば、分かっていたことなのですがねぇ」
「あら、それはどういう意味なのかしらベイドゥ?」
「お嬢様の強さは、国内ならだれもが分かっているということでございますよ」
転がっていた不審者たちを縛り上げ、汚れを落とすように手をぱんぱんっと叩いて答える執事のベイドゥに対して、そうなのと興味無さそうにお茶を飲み直すリリ。
夏季休暇ということもあり、帝国の学園に編入していたリリではあったが里帰りをしに実家へ来ていたのだが、この度襲われたのである。
ただし、全員見事に隠し持っていた暗器で全滅させたが。
「まぁ、お嬢様以外も凄いですがね…‥‥この国内で、女性を襲おうと考えるのは、自殺志願者でございます」
アンドゥラ王国は腐敗もそれなりにあるのだが…‥‥女傑が多く、隠れた才能や実力を隠し持っている女性が多い国でもある。
特に、リリの場合は転生者であり、前世ではアルスの妹ではあったが、その前世の家の事情もあって今世の分も重ねると、かなり強者と言えるだろう。
「しかし、この感じは久しぶりですわね…‥‥帝国ですとそんな馬鹿をしでかす人もいなかったから、実家に帰って来たと思えるわねぇ」
「襲われているのに帰ってくる実感程度にならない人たちが、哀れでございますな…‥‥」
そうベイドゥは言いつつも、ごみを片付け終える。
「さてと、あとはしっかりと元凶の方々にお返しの品々を用意しつつ‥‥‥ああ、そう言えばお嬢様、ファンクラブ通信で最新の情報が届きましたよ」
「あら、お兄様とお義姉様の?なら、頂戴」
前世は妹という立場であり、今世では思いっきり血がつながらない立場とは言え、アルスを兄として見ており、ハクロはその妻の座に就く義姉として黙認したリリ。
こういう状況であれば、良い情報を聞きたいと思い、帝国の方で入会していたファンクラブの定期通信雑誌を受け取る。
「…‥‥ふーん、今のお兄様は領地経営で色々と大変そうね。新しく牧場を営んで、過ごしているようだけど‥‥‥写真を見ると、本当に毎日が楽しそう」
「姉君も映ってますが‥‥‥うん、もはやタラテクトの原型を留めぬとは、どこをどうしてこうなったというべきでございましょうか」
兄と姉の楽しそうに過ごす写真を見て、そう口にこぼすリリにベイドゥ。
ゆったりとした日常を過ごせているのはお互い喜ばしくも思え、先ほどまであった荒れた惨状を忘れさせてくれる。
「でも、コレって盗撮にならないかしらね?」
「あ、それは大丈夫でございます。今回のこの特集を見ると、どうやら正式に取材としてうかがった時に得たもののようでございますからな。大食い大会に関しての情報などがあります」
「それって不正なものもあるというけれども…‥‥まぁ、気にしたら負けよね」
ファンクラブの情報収集能力は侮れず、深く考えると這いあがれない沼になっていることをわきまえており、きちんと距離をとるリリ。
何にしても、楽しそうに過ごせているのであればそれはそれで良い事だ。
「ふふふ、でも兄様が元気なのはいいわ…‥‥前世では、こんな笑顔なんて本当に見られなかったものね」
「‥‥‥前世とやらがどのようなものなのか、まだわからないところがありますが、それほどまでに酷かったのでございましょうか?」
「んー、私が事情を知ったのは、兄様の死後辺りからですもの…‥‥だからこそ、それまでしっかりと守ってくれたお兄様の幸せを守ってあげたいのよね」
前世のアルスやリリが、どのような環境にいたのかベイドゥには分からない。
けれども、決して明るいものではなく、むしろドロドロとしたものだったというのがうかがえ‥‥‥だからこそ、今世を謳歌しているのは喜ばしい事なのだと思う。
「まぁ、前世のあの家族がロクデモナシというか、異常だったかもしれないけれども…‥うん、前世は前世で、今世は今世。気持ちを切り替えて、しっかりと今を見ないとね」
「そうでございます、過去は過去で変えようがないのならば、前を見るしかないのでございますから」
とりあえず今は、この通信雑誌を読みふけり、当分の話のネタにする方がいいと互に思うのであった‥‥‥
「それとお嬢様にもう一つお知らせが」
「あら、何かしら?」
「先日、特殊な変態が出国されましたが、帝国に到着したというお知らせも届きました。出会わないように、要請をしておくべきでしょうか?」
「あー、この国の学園に短期間留学をして各国を回っているという皇子だったかしら?そうね、休暇後に出くわしたくもないけれども、兄様たちに会わないでほしいわね‥‥‥害はないとは思うけれども、精神的にツッコミ気質な兄様が倒れそうですもの」
割と簡単な解決策。
けれども、全部を楽できるわけでもないし、試行錯誤をしていく必要がある。
その一方で、特殊な変態とやらがいるらしいが…‥‥
次回に続く!!
‥‥‥ところでこの前世の妹と蜘蛛の弟の存在、忘れていた人が多い気がする。でも蜘蛛の弟の方が、出番多いかな・・・?