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4-40 大事な人には温かさを

‥‥‥暑くなってくる季節とは言え、朝はまだ涼しい方。


 だからこそ、用意をするのであれば早朝からがいいのかもしれない。



「キュル、小麦粉、砂糖、バターにミルク…‥‥うん、これだけあれば、作れる」


 満足げに用意した材料を見渡しつつ、お手製のエプロンを装着してハクロはそうつぶやく。


 いつもならばこの時間、アルスと一緒にまだ夢の中の時間。


 けれども今日は、ちょっとだけやる気を出して、有り余る物資の消費の手段を試みるのだ。


 後はまぁ、貴族家だからこそ使用人たちが朝食を用意してくれたりするのだが…‥‥本日はちょっと頼んで、アルスと自分のものを自らの腕で作るのである。


「糸良し、魔法加減良し、レシピばっちり!」


 蜘蛛の身体を失ったとはいえ空中に自在に出せる糸を操り、魔力消費量が格段に下がった火の魔法を軽く扱い、無知ではできないのでわざわざ用意してもらった調理レシピを確認して、ハクロはさっそく調理台へ立つのであった。








「…‥‥朝早くから作ってくれたのは良いけど…‥」

「キュル?何か、不味かった?」

「いや、全部美味しいよ。料理上手なのはすごい事だけど、出来上がるまで時間早すぎないかなと思ってね」


 起床したら珍しくハクロが寝床にいなかったので、探していると良い匂いがしてきたので見に向かってみれば、ハクロが朝食を作り終えていた今日この頃。


 もぐもぐと一つ一つ口にしつつ、頭を撫でてあげると笑うハクロの可愛さを実感しつつも、調理にかかった時間を聞いて僕は疑問に思っていた。


「ホットケーキやパンケーキ、ミルクセーキパンとかを量を考えてそれぞれ一口サイズで作るのはまだわかるけど、アップルパイとかって結構時間かかるよね?朝早く起きたと言っても、まだかかるような気がするんだよなぁ」


 転生者が存在している世界だからこそ、過去に職の探求に費やした者の手によって様々な前世と似たレシピが存在しているのは知っている。


 だけどその分、調理時間もほぼ同じぐらいかかるものも存在しており、アップルパイ‥‥‥この世界だと正確にはアッポウの実を使ったアッポウパイなんかも5~6時間、早くて3時間ほどかけてつくるもののはずだったはずだ。


 なのに、話を聞くと僕よりも30分ぐらい早く起床したハクロが、そんなに短い時間で作れるものなのだろうか?なんかシンプルに蘇なんてのもあるけど、こっちはもっと時間がかかるはずだよね?


「ドマドンおばあちゃんや、正妃様言っていた。料理は愛情が調味料になるって。だから私、アルスに食べてもらいたいって思いながら作ったら、なんか早く出来ていたの!」


 全然説明になっていない。


 なんかこう、進化したせいで何かおかしな力でも付いたのではないかと思うのだが‥‥‥うん、考えこんでも意味がなさそうな気がするので、これで納得するべきかな。


「まぁ、考えこまなくてもいいか…‥‥しかし愛情ねぇ、だからこんなにおいしいのかな?」

「アルスのために、たっぷり愛情込めたの!美味しくなぁれ、美味しくなあれって」


 ぐるぐると手を動かし、鍋をかき混ぜるかのようにジェスチャーをして伝えるハクロ。


 レシピを忠実に守ったのもあるのだろうけれども、それだけではないような美味しさもあるし‥‥‥うん、愛情ってすごいのかもしれない。


「ありがとう、ハクロ。朝から美味しいものを食べられて満足だよ」

「キュルル、アルス、喜んでくれた♪私、嬉しい♪」


 僕の言葉に対して満面の笑みを浮かべながら嬉しそうに口にするハクロ。


「アルス、これも食べて。あーん♪」

「じゃ、お言葉に甘えようかな。ハクロも作ったんだし、これを食べて」

「うん♪」


 やや甘めの朝食が多いけれども、互いに食べさせ合い、心地いい時間が流れゆく。


 愛情たっぷりのハクロの手料理は極上とも思えるのであった‥‥‥‥




‥‥‥でも何だろう、牧場経営で余る食材関連を彼女の手料理として販売することを考えたのは良いけど、こうやって実際に口にして見たら、まともに世間に出して良いのかが不安になって来たかもしれない。


 だって本当に美味しいんだよね。前々から料理の腕は結構よかったけど、さらに磨きがかかっているような気がするし、世の中に出して良い物なのかなこれ?


 下手すりゃこのハクロの料理を巡って、大戦が起きる…‥‥まだは流石に言い過ぎかもしれないけど、もうちょっとこう、大勢にいきわたりやすい方がいいかもしれない。


「それはそれで需要があり過ぎて、今度は生産が追い付かなくなる気がしてきたかも…‥‥ハクロ、聞くけど作るのに一番楽だったのってどれ?」

「コレ、ミルクセーキ。卵とミルク、あとちょっとお砂糖を混ぜるだけで、色々使えるの。焼けば甘いオムレツ、パンを浸してバターで焼くとミルクセーキパン、小麦粉などで生地も作れて、結構凄かったよ!」


 んー、そう考えると世の中に出して良さそうなのは、それかも。色々と使える幅が広いけれど、用意も簡単で負担もそんなに無さそうだからね。


 大量に作りやすいし、何かと向いているかも。あ、でも卵なんかを扱う訳だから鮮度や安全性に余計に気を使うか…‥‥そのあたりも考え、要相談してみるべきかな?





‥‥‥アルスがミルクセーキを消費のきっかけにするべきかどうかと悩んでいる丁度その頃。


 帝都の方の王城内では、正妃が報告を受けていた。


「ふふふ、朝早くから手作りの料理ねぇ‥‥‥ソレはソレで良いわね、わたくしもやるべきかしら」

「正妃様が自ら調理を?」

「ええ、元々お菓子作りなどは趣味ですもの」


 貴族間での情報収集手段などとしてお茶会を良く開く正妃だが、その茶会のすべてを何も使用人全員に任せているわけではない。


 自ら手作りのお茶菓子を作れるだけに、きちんとした料理も作れるのだ。


「それに、最近夫が忙しそうだし…‥‥わたくしの手で、癒してあげたいのよね」


 様々な思惑が最近絡み合いやすく、帝国内での大きな面倒事が起きないように皇帝も頑張っている。


 だからこそ、その妻の座にいる自分が、夫である皇帝を支える役目も担うのだ。


「‥‥‥あとは、久しぶりに息子の一人、ダニエルが帰ってくる話もあるのよね。滅多に来ない息子を迎えるのに、美味しいお茶菓子もあったほうが良いでしょう?」

「それもそうでございますか。ただ確か、ダニエル様は辛党でしたが‥‥‥」

「そう言えばそうね。確か昔、デスソースというのを笑顔で飲んでいた子でしたし‥‥‥辛いお菓子を作ってあげる方がいいかもしれないわねぇ」


 各地に散らばりつつ、中々そろうことは無いけれども、親子間の関係は良好な皇帝一家。


 どうやらこの夏は第2皇子であるダニエルが帰ってくるようだが、その帰りを正妃は待ち遠しく思う。

 

「まぁ、あの子はあの子で問題児だけれども‥‥‥多少は落ち着いていると良いのだけれどもねぇ‥‥‥」


 とはいえ、第3皇子(スライム馬鹿)クロスト(変態其の1)に引けず劣らずの問題児である第2皇子の事を考え、少しばかり溜息を吐いてしまうのであった‥‥‥‥

朝食に負けず劣らずの甘い朝。

彼女の料理に舌鼓をならしつつ、穏やかな日を過ごしていく。

その一方で、穏やかさとは縁もゆかりもないようなものが聞こえてくるのだが‥‥‥

次回に続く!!



‥‥‥あれ、第1皇子、第3皇子、第1皇女は出したけど、第2皇子ってもしかして次回辺りで初めて出すことにならないか、これ?しっかり設定はあったのに、なんかすっごい後になっているかも。

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