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2-9 そこははっきりさせないとだめだった

…‥‥話によれば、ヘルズ男爵家は本来「男爵」ではなく「侯爵」の位を持っていた家だった。


 貴族の位を考えると、その間には、子爵に伯爵、辺境伯などがあるはずで、一気に3つほど位を飛ばして降格しているのはおかしい話ではある。


 でも、その理由はしっかりと有った。


「‥‥‥ヘルズ家は元々、帝国で多大な功績を上げていた家ではあった。けれども、代々跡取りに苦労していたようで‥‥‥記録によると最後には女性が当主に、つまり君の今は亡き母親が貴族家当主になっていたんだよ」


 次期当主を継ぐのは、本来男性が好ましいらしい。


 別に女性当主でも女傑だとか豪傑だとかそう言う類であれば問題なかったのかもしれないが、そう言う女性はあまりいない。


 学ぶことがあっても領地経営などに手を出す女性自体がそもそもあまりおらず、何かと能力不足だったりすることが多いせいだ。


 そしてアルスの今は亡き母も、なんとかしたかったそうだが…‥‥それでも力及ばず、一時的に女性当主として侯爵家を持ってしまったそうだ。


「とはいえ、帝国ではそのあたりの配慮はしているのだが…‥‥」


‥‥‥後を継げそうな人がいない場合、できるだけ存続させるための特別な措置があるそうで、亡き母にもその措置が取られた。


 それは、一時的に領地の一部を帝国の管理下において爵位を降格し、規模を縮小することによって負担を減らす方法。


 あくまでも一時的な応急処置に過ぎないのだが…‥‥それでも、新しい後継ぎを立てることができれば、徐々に爵位も領地も回復させ、元に戻すことができるのだというのだ。



 まぁ、後継ぎができなければそのまま断絶し。別の貴族家へ回すか、新しい貴族家を起こして管理させるかという話になるのだが…‥‥それでも、貴族としての負担や領地経営の負担は減るので、余裕をもって新しい後継ぎを作れるように保証しているらしい。


 そしてアルスの母も措置を取り、一時的に侯爵から男爵まで一気に下降させつつも、それがちょうどよかったようで時間が取れて、現在の父であるズラダを婿に迎え入れることによって、なんとか家の断絶の危機を免れられそうだった。


「ズラダは元は別の貴族家の余り物でな‥‥‥いや、この言い方をするのもあれだが、次期当主争いに敗れた男であり、その貴族家でも持て余していたらしい。なので、男爵家に落ちている相手とは言え、引き取ってくれるならという事で、その家も喜んだそうだ」


 厄介者であるならば、別のところへ引き取ってもらえば良い。


 一時的に男爵家の当主代理という立場になり、子供が育って後を継げばその代理が取れてしまうが‥‥‥それでもその子の父親としては認められ、そのままヘルズ家に居座ることが出来たはずであった。


「君の亡き母が本来の当主だが、ズラダを迎え入れて奴を当主代理にした。そして後は、君を身籠って産んで、将来的に後継ぎになってもらい、継いだ後は徐々に戻し、元のヘルズ侯爵家へとなるはずだったのだが‥‥‥」




‥‥‥何もなければ、家の断絶の危機を回避し、ズラダも家の厄介者ではなく家族として居座り、母も当主の地位から解放される。


「‥‥‥ズラダが君の母の元へ婿入りした当時は、まだ真面目な者だったらしい。次期当主争いに敗れたけれども、争うだけの資質はきちんと持っており、当主代理を立派に勤めて果たし終えれば、貴族としての生活は残されていたはずだったからね」

「しかも、男爵家から侯爵家へと戻るので、より順風満帆な人生が約束されていたはずだった」


 けれども、その中で狂ってしまったことがあった。



 というのも、ズラダは最初こそ男爵家の領地が侯爵家に戻ると分かっていても、戻る前よりもむしろいい経営状態にしてやって、子供に跡を継がせて当主代理という立場を降りても、一人の父親として堂々と自慢できるようにしようと、高い意欲を持っていたようだ。


 だが、その意欲に燃えている中で…‥‥ある日、ズラダは間違いを犯してしまった。


「流石に毎日の当主代理としての政務に対して、ストレスを抱かないのも無理はないだろう。理想はあれども、現実は厳しいし、そううまくはいかないものだ」

「それでも何とか乗り越えればよかったのだが…‥‥気分転換に、彼は間違いを犯してしまったんだ」


 その間違いとは、賭博に嵌ってしまったこと。


 最初は単純に、軽い賭け事をして損益もさほどなく、純粋に楽しんでいたようだが…‥‥当主代理として働く合間にどんどんそれが過激となってしまい、何時しか賭博狂いになっていたらしい。


 そしてその賭博に関しては亡き母には黙っていたようで‥‥‥そのうちに、その賭博の中でとある女性と関係を持ってしまったそうだ。


「その女性こそが、今のヘルズ男爵家の妻となった女であり、君の兄たちの母親だ」


…‥‥何度も何度も賭博をしているうちに知り合い、そこからあれよあれよと関係が深まってしまったそうだ。


 一応、貴族家にはそう言う間違いをするような輩も混ざっており、妾とかそう言う風にして何とか問題にならないようにしていたりするのだが‥‥‥そうはいかなかった。


「最初に言ったが、ヘルズ男爵家は元は侯爵家。後継ぎが出来て継がせることが出来れば、元に戻る」

「けれども、それに野心を持った家があったんだ」



 詳しい詳細は省くが、どうもその家はとある大物の貴族家。


 色々と黒い噂がある家であり、何もかも手に入れようと強欲に動くところであり…‥‥生憎、帝国の貴族家ではない他国の家なので、そう手出しは出来ない。


 そんな手出しができない中で、その家の者たちはヘルズ家の状況を聞き…‥‥野心を持った。


「‥‥‥それが、家の簒奪。正式な跡取りではなく、彼らの望むような傀儡を入れることによって、他国なのに帝国の貴族家の土地を所有する気だった」

「そして、ズラダに近づいたその女こそが、その家の中でも厄介者でありつつも、その手のことに長けていた奴だったんだ」



‥‥‥その女、現男爵夫人はズラダの賭博癖を聞き、そこで見事にめぐり逢って何度も何度も逢瀬を重ねた。


 その結果、見事に子供を身籠ってしまい‥‥‥ズラダの元へ、強引に入ったのだ。


「‥‥‥ただね、その子供を作った時期がおかしくてね。君が産まれる前にすでに産んでいたけれども、時期をいくら調べても整合性が合わないんだ」

「ズラダの方もそこはおかしく思えなければいけないはずだったのだが…‥‥既に手が回されていた」


 普通、浮気相手が子供を作っていたとしても、既に出産していたりしたらおかしい事ぐらい分かるだろう。


 どうも今の兄たちはその女の子供ではあるが、年齢に怪しいところがあるそうなのだ。


 調査したところ、現在夫人が持つ愛人の家であり…‥‥近親婚をしていた疑いがあるそうだ。しかも、現在もその関係は続いているらしい。


 けれども、その怪しさから偽りの子供たちであると疑うべきであったはずのズラダは…‥‥何とそれを普通に自分の子として受け入れた。


「出会う前は、確かにまだ能力はあっただろう。けれども、賭博に狂い続け、浸かりまくり、そんな女と関係を持っている間にも怪しい薬にも手を出したようで…‥‥その時点ですでに、正常な判断を失っていた疑いがあるだろう」

「さらに言えば、その賭博狂いになった原因の賭博の方にも調査が回ったが‥‥‥実はその賭博が開かれていた時点で、その企みは練られていたらしい」


 計画的な犯行に驚くが、そこに一つの誤算が生じた。


 それは、兄たちが家に来たところで…‥‥その時点で僕はこの世に生を受けたそうなのだ。


「流石に次期当主としての正式な後継ぎができてしまえば、せっかく入っても意味はない。ズラダの血が入っている(と偽った)子供たちがいても、正式な貴族の家系で言えば君の母親が生んだ、君の子が後継ぎになるからね」

「だからこそ、まだ幼いがゆえに手をかける事も考えられたが‥‥‥それは流石に不味いと思ったのだろう」


 次期当主になれることして僕が産まれた時、ズラダのその賭博狂いなどに疲れていた母は、無事に生まれたその喜びからか、変なハイテンションとなり、領内を僕を持って大喜びで駆けまわっていたらしい。


 その姿は目撃されており、迂闊に僕をそのまま亡き者にしてしまえば、不利益な噂が流れてしまうと判断されたようで、その時点では何もされなかった。


「テンション自体は、かなりおかしいほどだったようだがね‥‥‥‥何しろ、出産後は安静にするべき母親が、喜びの大きな奇声を上げて野山を駆けまわり、その奇行は隣接していた他の領地の貴族が目撃していたそうだ」


‥‥‥亡き母よ、貴女は何故そんな奇行をしたのだろうか。


 まぁ、そのおかげで生まれてすぐに命を奪われるようなことはされなかったが…‥‥男爵夫人及びその背後の家にとっては面白くない話。


 せっかく将来の帝国の侯爵家を簒奪できるかと思ったのに、これでは直ぐに奪えないと判断したようだ。


 そこで、計画を修正し…‥‥じわじわと、年月をかけてでも奪う方向へ変えたそうだ。


「‥‥‥君の命を奪う方が圧倒的に早いかもしれないが、その奇行のせいで迂闊に手が付けられない。であれば、どうするべきか」

「流石に賭博狂いになっていたりしたズラダも、自分の子であるからこそ命を奪うのはためらったようだしね‥‥そこで、手段を変えた」






‥‥‥僕が産まれて、一年も経たない頃に、母は命を落とした。


 話によると、表向きは出産後の容態があまり良くなく、静養させていたが…‥‥衰弱して死んでしまったという事らしい。


 でも、それはあくまでも表向きの話であり、真実は違う。


「直ぐに手を付けるのも不味いし、出来れば君が生きていたほうがまだ都合が良い。でも、母親の方は生きていると将来の後継ぎであると君に教え込むだろうし、それは都合が悪い」

「だからこそ、食事に微量だが毒物を混ぜ込み、徐々に弱らせたようだ。そして、結果としては命が失われたんだ‥‥‥」


 衰弱死ではなく、計画的な殺害。


 僕自身が生きていたほうが、当主代理としての名目が成り立つのだが、その生きている中に母が余計な事をしそうだという事で殺されたらしい。


「そのついでに、少しずつだが周囲への認識を変えさせて、君の兄たちを次期当主として偽ることにしたようだ」

「何しろ、君が正当な後継ぎだというのはその母は知っているが…‥‥その母を亡き者にすれば、その事実は闇に葬れると考えたようだからね」


 僕の命も奪えばよかったが、流石にまだズラダの方には良心が辛うじて残っており、追い出す方向性に変えたようだが…‥‥それでも、下手をすれば何処かで殺害されていたのは間違いないようだ。









 そしその結果が現在に至るようで‥‥‥‥下手をすれば、僕の命は危機的状況にあったらしい。


 説明が終わり、その場は静まり返っていたが…‥‥僕は口を開いた。


「…‥‥その馬鹿な企みのせいで‥‥‥母さんが、殺されたのか」


…‥‥でも、自分の命よりも、今の説明で一番僕の心に来たのは、その事実。


 記憶を思い出す前でもあり、その時でもまだ赤子ゆえに母の顔はほとんど覚えていないのだが…‥‥それなのに、どういう訳か今の説明を聞き、何故か思い出した。


 ぐずっている赤子なのに、そこまで覚えているのは転生した影響なのか。


 亡き母が、僕に対して嬉しそうに毎日語っていた光景が何故か、ぼんやりと思い出され…‥‥涙が零れた。



「‥‥‥う、うう、あっ‥‥‥」

 


 記憶に残る、今世の母の像はほとんど無い。


 けれども、何故だかそのぬくもりや感情は与えられていたことを思い出させられ…‥‥言いようのない感情が僕の中に渦巻く。


 悲しい、悔しい、怒りたい、言いどころのない感情。


 けれどもひとつ、はっきりしているのは…‥‥僕にとって、血の繋がっていた母が、消されたという事実。


 そんな馬鹿げた企みのせいで、産みの親を亡き者にされて…‥‥子供が、悲しまないわけがない。


 でも、泣きようがないというか、分からない感情で呆然とするしかなかったのだが‥‥‥そこで、ふと僕を抱きしめたのがいた。


【‥‥‥キュルルゥ、キュルゥ】


 それは、僕をいつの間にかそっと持ち上げていたハクロ。


 モンスターとは言え、賢い彼女は何が起きたのか説明を聞いて理解したようで…‥‥僕が母を失ったその事実もわかったようだ。


「ハクロ…‥‥」

【キュ、キュル】


 言いようがない感情で、動けない僕に対して彼女はそっと抱きしめる。


 その顔は、悲しげでありつつ…‥‥僕が今、どうするべきなのか理解させた。


「う、ううっ、うわ、うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」



 彼女に抱かれながら、胸元に頭をうずめ、僕は思いっきり泣いた。


 転生前の記憶もあるのに、今の自分の姿は幼子のようだ。


 いや、違う。今の自分は本当にこの世界でのたった一人の小さな子供であり…‥‥母親を奪われた悲しみを実感してしまったのだ。


 その悲しみの大きさに動けなかったが…‥‥ハクロのおかげで決壊し、ようやく大声で泣くことが出来た。


 人前であろうとも、それが見られていようとも、みっともないとは思わない。


 ただ、本当に失った悲しみに対して、泣くしかできないからだ。





…‥‥涙が溢れまくり、せっかく作ったハクロの衣服が濡れてしまう。


 けれども、ハクロはそんなことを気にせずに僕を優しく抱き寄せ、泣き止むまでそっとそのままにしてくれるのであった…‥‥‥




調査によって発覚した企み。

その事実を聞いて驚愕しつつ‥‥‥深い悲しみも知ってしまった。

ああ、それでも彼女は慰めてくれるが…‥‥許せないのは変わりない。

次回に続く!!




‥‥‥なお、真実に関してちょっと迷っていた。

というのも、下手にやり過ぎるとR15~18Gになりかねないし、そんなのは見たくなかった。

なのでこれで落ち着いたのだが…‥‥こんなの考えてしまった作者の心がすごい痛い。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 2-9 侯爵家から男爵家に家格を下げるというのはせいぜい十数年前の出来事のように思います。それが人々の記憶から失せてしまうほどに、侯爵家というのはありふれた存在なのでしょうか。 天領…
[一言] ‥‥‥がうざかった
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