4-39 大空に羽ばたきつつ
「キュルルル、飛びながらでも見れるけど、皆居心地良さそうに過ごしているねー」
「一応、牧草の好みなんかもきちんと調べていたとはいえ、こうもうまくいくと嬉しいよね」
ばさぁっと翼を羽ばたかせて飛ぶハクロに抱きしめられつつ、大空から牧場をぐるりと見て回っているのだが、全体的に今のところ問題はない様子。
まぁ、あえて問題を言うのであれば…‥‥‥
「‥‥‥消費をどうするかが課題なんだよなぁ」
「たっぷり出るけど、余るの問題」
そう、出来る限り質の良いものを生産するための環境を整えたのは良いのだが、生産が過剰になっている事であろう。
活発に動き、遊び、時折ゆったりと昼寝し、日の出とともに起床して日の入りと共に眠りにつく健康的過ぎる生活のせいなのか、どんどん出てきてしまうのである。
牧場での主な生産品と言えば、卵にミルク、羊毛に肉‥‥‥どんどん出るとはいえ、消費が追い付かないのだ。
なお肉に関して言えば、ハクロが他のモンスターの声が聞こえる分、取る方法を嫌がるだろう思って試行錯誤した結果、分裂して肉だけを出してくれる「ミートスライム」を某皇子経由でこの牧場に置いているので得られないことは無い。味は良いけど、ほぼ水と変わらない栄養価なのでダイエット食としては需要はある。
とにもかくにもどんどん出てくるのは良いのだが、その消費が追い付かない。
需要よりも供給の方が多すぎるせいで、余る分がもったいないというか…‥‥いくつかは加工してバターやチーズ、オムライスにケーキなどと食への発展を担えたのだが、流石に領内での消費は厳しいものがある。
かと言って、他へ売りに出せばいいという案が出ても、まだこの牧場は試験段階であり完全に出すには安全面以外にも色々と気を付ける必要性があるので、完全に出し切れない。
「制限をかけて欲しくとも、皆どんどん出すもんなぁ…‥‥やる気はあるけど、追いつかない現状だよね」
「んー、たくさん食べても、食べきれないよね」
いっその事、大食い大会でも開催して見るべきか。でもその場合、商品や衛生面を色々と考えないといけないし、結構大変かもしれない。
「今のところ、凍らせて、全部保存」
「こういう時に、氷の魔法が使えたのは良かったよね。ハクロのおかげだよ」
「ふふふ、褒めて褒めて♪」
すりすりと後方から擦り寄って、そう口にするハクロ。
体が変わった分、魔法の腕前も上がったようで、夏場なのに氷室を完成させているのだ。
そのおかげで保存も容易くなり、万が一に備えることが出来るけれども、消費量の伸び悩みは問題のままである。
「いっその事、食べ物としてではない方に加工するのもありかもなぁ‥‥‥」
牛乳風呂にマッサージオイル、美容液、羊毛のぬいぐるみ‥‥‥‥食品に限らずとも様々な道はあるし、試行錯誤して模索していくしかないだろう。
簡単に行かない牧場経営の難しさを実感しつつも、解決策を手繰り寄せ始めるのであった…‥‥
「ぬいぐるみなら、私作れるよ!」
「でも、多く作ると結構負担になるよね?あ、でも多く作らず限定生産って形にして、あえて価値を高めて購買欲を刺激するという手段もあるのか‥‥‥」
「‥‥‥それは全力で、戦わなければいけないことになるだろう」
「ああ、暑い時期に熱い戦いをしなければいけないとは…‥‥なんてことだ」
…‥‥アルスたちが空中をのんびりと話し合いながら過ごしている丁度その頃。
空とは言え会話内容を拾える魔道具を使ってその様子を見守っていたファンクラブの者たちは嘆いていた。
何しろ、自分達でもめったに手に入れにくいハクロのお手製の品物が出回る情報は、非常に重要すぎるのだ。
色々とあって寄贈されていたりすることもあるけれども、彼女が創り上げた者は欲しいという者も多く存在しており、希少価値は非常に高い。
そんな中で、彼女が自ら作った製品が販売されるのであれば…‥‥それを手に入れるための水面下での非常に猛烈な争いが繰り広げられるのが目に見えてしまう。
「情報制限は?」
「ダメだ、既に伝わってしまい、資金稼ぎに出たやつが続出し始めた。経済が活性化されるかもしれないが、こりゃ市が荒れるぞ…‥‥!!」
ほんのちょっとした思い付きから出てしまった、夏場の暑さを凌駕してしまう熱い戦いの幕開け。
様々な手段を使用しつつ、ハクロに害が無いように気を使いつつ、水面下の大戦乱が起こってしまうのであった‥‥‥‥
アルスたちが知る由もない、熱き戦いの幕開け。
手に入れるためには動くことが多いが、それを悟られないようにしたい。
自分の行動がきっかけで、争いが起きてしまったことを知られないために…‥‥だったら争うなよとツッコミがあるだろうけれども、ソレはソレ、これはこれというやつなのである。
次回に続く!!
‥‥順調すぎるゆえに起きる問題もあった様だ。