閑話 何もただ見ているわけではなかった
「…‥‥っと、繋がったか?」
「ああ、問題ない。映像もほぼズレはない」
「音声も無事に通じているようだ」
「ならば始めよう、今宵の会議を」
‥‥‥深夜、誰もが眠りにつく頃、帝都内のとある室内では席に着く人々の映像が映し出されていた。
「しかし、定期的に利用していた建物が潰れたせいで、こうやって遠距離で魔道具を利用しての会議をすることになったが…‥‥これはこれで新鮮だ」
「普段出ることは無いが、コレだとより気軽に出ることが出来る」
「さらに言えば、これは帝国内でのいや、他国での情報伝達手段としては大きな革命になるが…‥‥まだまだ不完全ゆえに、ここで実験が出来るのは良いだろう」
各々がこの魔道具に関して感想を述べあいつつも、彼らは会議を行い始める。
「‥‥‥さて、感想はあとにしておくとして、今宵の会議は一味違う。何故か、皆わかるな?」
「あたりまえだ。ようやく掃除をし終え、新たにこのファンクラブが生まれ変わったのだからな」
「しかもさらに、ハクロちゃんが神々しい変化を遂げたという喜ばしい知らせ付きでだな」
そう、彼らはハクロのファンクラブの者達。
個人の特定はされないようにそれぞれ異なった変装を行っているが、志は同じ者たちであり、その中でも特に幹部としてふさわしいと会員たちに認められた者たちであった。
「蜘蛛の身体が失せたのは、それはそれで残念だが‥‥‥‥この姿を、無事に皆で目撃できたのは喜ばしい事だろう」
「いくつか削ぎ落して、生々しい作業もあったが‥‥‥そんな苦労の対価と思えば、おつりが来すぎるな」
「とはいえ、掃除をして風通しを良くしたとは言え、油断できない状況なのはわかるな?」
幹部の一人の言葉に対して、映像を通して全員が肯定し、深く頷き合う。
「…‥‥現在彼女は、アルスと共に彼の領地でゆったりと過ごしているだろう。だからこそ、その領地に届く前に迫って来るであろう問題を片付けなければならない」
「怪物を作り上げた者たちや、蜘蛛の身体が失せた彼女の絵姿などを確認して、狙うようなものたちだな?」
「ファンクラブとなってくれるのは良いが、そこから腐り果てる危険性も高いからな…‥‥情報の規制なども必要となるか」
互いに今後起きるかもしれない問題を口にしあい、確認していく幹部たち。
そう、新たに新生ハクロファンクラブとして一新したのは良いのだが、思いのほかやることが多くなっている現状を理解しているのだ。
例えば、先日の巨大な肉塊の怪物。
帝都内を蹂躙していたことに関しては、幸い現在使っている魔道具が出来上がった頃であり、事前に情報が伝わって迅速な避難が出来たのは喜ばしい事だ。
だがしかし、肝心の怪物に関しての情報が毒々しく黒いものが多いというのは最悪だろう。まだまだ出る可能性を考えると、今後も気が抜けない課題でもある。
また、ハクロの容姿の変化によって、新たに狙ってくる輩が出くることも問題である。
蜘蛛の身体があったころは、その部分が大きく占めていたことで忌避していたものもいたのだが‥‥‥人間とは単純なものだったのか、それが失せれば自然と近づきたくなる人が出てきているようだ。
それにアルスの爵位は現時点で男爵家次期当主…‥‥将来的には侯爵家になる予定の情報はあるのだが、それでも貴族の中では低い爵位。
ゆえに、帝国内では徹底した教育によって爵位の高さによって見下す者は少ないのだが他国ではそうもいかず、高い爵位を持つからこそ他国の男爵家なんぞおそるるものかと動こうとする輩がいる事も確認できているのだ。
「…‥‥とはいえ、そのあたりの問題は近々解決するだろう。特に爵位に関してはな」
「ほう?どういうことだ?」
っと、話し合っている中でふと一人の幹部が発した言葉に、他の者たちは問いかけた。
「彼の功績が積み重なっていてな…‥‥さらに言えば、先日のその怪物騒動にて討伐してみせた大きな功績がある。ゆえに、今度の表彰式の場で、その功績を考慮して皇帝陛下が動くようだ」
「そうか‥‥‥まぁ、考えたら普通は放置しないな」
「国につなぎ留めておくためにも関係性の構築は必要だからな」
「それと、怪物に関してもだが、こちらの諜報部門があちこちから探り当て始めたが…‥‥どうも手を下す前にやらかしたようだ」
「というと?」
「どういう訳か、まさに天罰が下っているというか…‥‥悲惨な状況になっているらしい。もちろん、他国には伝わらないようになっているが、ソレはソレは酷い惨状になっているそうだ」
「そう言えば、ちょっと前に天罰が落された国もあったな…‥‥噂では、ハクロちゃんは神に愛された愛し子であり、狙った馬鹿には強烈な天罰が落ちるというのもあったか」
「ソレはソレで凄い納得できる。いや、彼女こそ女神ではないかと言いたくもなるが…‥‥狙う輩が減るのは喜ばしい」
とはいえ、油断できない現状には変わりなく、夏季休暇でアルスと一緒に帝都から離れている今だからこそ、一気に守りを固めて、危害を加えられないように動くべきだろう。
「あとは、万が一の連絡手段も充実させるか」
「この遠距離投影魔道具があったからこそ、帝都内での避難も迅速にできたが‥‥‥出来れば普及させたいな。送させればさらに事前に危険事を感知し、より早い動きで押さえられるはずだ」
ああだこうだと意見を交わし、ファンクラブとしてやっていくべきことをまとめ上げていく。
「と、もうそろそろ本日の会議の終了予定時刻か…‥‥話し合っていると思いのほか、時間が短く感じてしまうだろう」
「そういえばそうか‥‥‥では、そろそろ通信を切るぞ。こちらの仕事があるからな」
「ええ、こちらもお嬢様の世話がありますからね」
「ついでに、今度の議題も色々と用意しておくわね」
口々に今宵の閉会を惜しみ合いつつ、会議が終わりを告げる。
「それでは終わりを告げるが…‥‥我々のハクロちゃんに対する想いに終わりがないということを忘れるな」
「終わりはない、だからこそ、まだまだふくらましようがある」
「ゆえに、彼女のためにという行動も、増やすことが出来る」
「とはいえ、それを曲げて悲しませるような真似をしないようにしよう」
「「「「そう、二度と輝く光を失わないために」」」」
「「「「そう、再び愚かな者たちを生み出さないために」」」」
「「「「我らファンクラブ幹部及び全会員一同、志を一つに!!」」」」
…‥‥清掃を経て、より強固になったハクロファンクラブ。
ある意味、一国をも凌駕するほどの力を持ってしまっている気がするが、国を興す気はない。
彼らにとって、ハクロが幸せであれば、それでいいのだから‥‥‥‥
「‥‥‥ところで、問題としてひとつ挙げ忘れていたのだが、今度開催予定のハクロファンクラブ市場に出す予定だった店の多くが、延期を求めて来たぞ」
「なんでだ?」
「新たな姿を得たハクロちゃんを再現しようとして、挫折しまくっているらしいからな…‥‥蜘蛛の身体はまだ良かったが、あの宝石のような翼を再現するために本物を使わざるを得ないという事態になってしまったやつもいるのだ」
「いわれてみればそうかもしれないな‥‥‥‥そもそもハクロちゃん、なんで宝石のような翼が生えたのか…‥」
「さぁ?それは分からないが‥‥‥‥あの輝くような純真、純粋、そして愛の想いがついに体に収まり切らなくなった説もあるらしい」
技術が飛躍的に向上している気がしなくもない。
最初は絵や文字ぐらいだったのに、今では映像もある。
…‥‥なんかすっごい、何処かで色々と繋がってしまった気がするのは気のせいか?
次回に続く!!
…‥‥そう言えば、予定通りだと同時に新作も投稿し始めました。そちらの更新ペースはゆっくりの予定ですが、興味があればついでにどうぞ。